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第四章

変装脱出大作戦

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 聞いた話をざっくりと言うと、聞いちゃいけない話を聞いてしまった。

 ということらしい。

 普通であれば一度部屋に入れば夜までしっぽりコースなので途中で人が出てくるはずなど無いのだが、今回は俺が夕方で出てきてしまった為それを知らずに話し込んでいた連中のいけない会話をニケさんが聞いてしまったと。

 部屋に戻ってやり過ごそうとしたところ物音を立ててしまい、話し込んでいた連中に追われてしまった。

 まぁよくある展開ですよね。

 見た目が明らかに悪そうだったし、猫目館が守ってくれるとも思えず逃げ出してしまった。

 確かに部屋に怒鳴り込んできたのはいかにもっていう顔してたしなぁ。

「聞いたのはそれが全てか?」

「はい。『魔石鉱山の採掘現場で横流しが起きている、でかい商売になるからかませて貰え』と言っていました。」

「隠れようとしたけど見つかってしまい、それでここまで逃げてきたと。」

「逃げたことが支配人にバレたら何をされるか・・・。」

 まぁ無断で逃げ出しているわけだし、おそらくもうバレているだろう。

 ここで問題になるのが彼女が戻ったときの安全性についてだな。

 間違いないのは戻ったら殺されるという事。

 すぐ殺されないまでも、彼女を追っていた連中に差し出されたら結果は同じだ。

 どういう理由で猫目館に所属しているかにもよるけど大方売られてきたっていうのが普通だよな。

「猫目館でどうして働いているのか聞いてもいいですか?」

「元は王都で商売をしていた家に生まれたんですが、経営が思うように行かず借金のかたに売られました。その後奴隷商人に連れられて猫目館に引き取られたんです。働いて金を稼げば自由になれる、猫目館の方はそう言っていました。でも3年経っても自分を買えるだけのお金はたまりませんし、むしろ借金が増えるばかりです。」

「そんな事が・・・。」

 俺だって他人事ではない。

 商店が失敗すれば明日は我が身だ。

 借金のかたに売られて身売りされた先では別の借金を作らされる。

 猫目館も囲っている奴隷を逃がさないためにいろいろと手段を講じているわけだ。

「ちなみにニケさんを買い上げるためにはいくら必要なんでしょうか。」

「金貨20枚必要だと聞いています。」

 二千万か。

 正直今の俺では無理だ。

 ひと一人を二千万で買えると思えば安いかもしれないが、収入の少ない俺に彼女を買い上げる力はない。

 しかし買い上げなければ彼女が殺されるのは間違いない。

 さてどうすればいい。

 考えろ。

 一番簡単なのは金を準備して彼女を買い上げる事。

 もしくは、彼女を狙っている輩を排除してしまえばいい。

 命の危険がないのであればそのまま猫目館にいても問題はないわけだ。

 もちろん一生そのままという可能性はあるが、今すぐ命を取られる心配はない。

 彼女を救いたいという気持ちはもちろんある。

 しかしそれを実行するだけの手段が今の俺にはない。

 悔しいがそれが今の俺の現実だ。

 彼女を狙っている集団の規模もどういう組織かすらもわからない。

 闇雲に行動するよりもまずは情報収集をするのが賢明だろう。

 その為には彼女を安全な場所に避難させなければならない。

 情報が集まり、対応を考え、実行に移す。

 それまでの間に彼女が捕まって消されては何の意味もない。

 何故なら彼女が生きている限り、奴らは表だった動きはできないからだ。

 彼女が生きている間は秘密が漏れる可能性があるわけで、そんなリスクを抱えたまま悪事を働くとも思えない。

 ある意味彼女が抑止力になるというわけだな。

 となると、どこに彼女を逃がすのが安全か。

 騎士団がいいかもしれないが、奴らの手のものが紛れている可能性もある。

 俺の所でもいいが守り切る自信は全くない。

 外部との接触がほぼないか、中立の立場でいられる場所。

 この条件にあてはまる場所を探し出さないといけない。

 どこだよ。

 そんな場所思いつかないし。

「・・・イチ、シュウイチ。」

 シルビア様に肩をゆすられて我に返る。

「すみません考え事をしていました。」

「また一人で考え込んでいたのだろう、随分と悪い顔をしていたぞ。」

「悪い顔だなんて、これが普段の顔です。」

 そんなに悪い顔をしていただろうか。

 おかしいなぁ。

「シュウイチさんがそんな顔をしているとニケさんが困ってしまいますよ。」

「私の為にそんなに思いつめないでください。所詮ただの娼婦なんですから。」

 ほら、そうやって悲しい顔をする。

「周りが見えないのは私の悪い癖ですね、もう大丈夫です。」

「御主人様は人を見捨てるようなことはしません。きっと何か妙案を考え付くはずです。」

 また考え込ませるようなことを言う。

 それがすぐ浮かべば俺も苦労しないっていうのに。

「とりあえず場所を移すのはどうだろう、いつまでもここに居るわけにもいくまい。」

「お店の方に迷惑をかけるわけにはいきませんしね。」

 確かにその通りだ。

 このままここに居てまた奴らが来ても困る。

 この店の人は全くの無関係なんだから。

 だがどうする。

 このまま出ていけば間違いなく彼女を探している連中と出くわすだろう。

 彼女をつれてあちこち動き回るわけにもいかない。

「このまま外に出ては彼女を探している奴に出くわしてしまいます。せっかく奴らの目から外れたんですから上手くニケさんを連れて出なければ意味がありません。」

「確かにそうだがどうするつもりだ。」

 そこが問題なんだよな。

 どうにかしてここを脱出して白鷺亭へ行くのが一番だろう。

 彼女を隠すのに何かいい方法はないだろうか。

 布でくるむ。

 大きな樽の中に入れる。

 変装させる。

 変装か、それがいいかもしれない。

「ユーリ、お店の人に書くものを借りてきてください。」

「承知しました。」

 ユーリが部屋から出ていく。

「シルビアは今から書く手紙を持って騎士団へ向かってください。」

「手紙を持っていくんだな。」

「私はどうすればいいでしょうか。」

「エミリアとニケさんにはちょっと大変な事をお願いします。」

 お二人には重要な任務があるんです。

「御主人様書くものを借りてきました。」

「ありがとうございます。」

 シルビア様が騎士団に行った後に準備するものとやることを書いておく。

「なるほど考えたな。」

「樹を隠すには森という言葉がありまして、今回はそれに倣ってみようと思います。」

「御主人様、次はどうすればよろしいでしょうか。」

「ユーリはシルビア様と共に店を出て白鷺亭に向かってください。事情を説明して彼女の受け入れ態勢を整えててもらいます。」

 支配人であれば人目につかず彼女を部屋に連れていくこともできるだろう。

 だって忍者だもの。

「シア奥様行きましょう。」

「先に行っているぞ。」

 そして次だ。

「エミリアとニケさんにはお互いの服を交換してもらいます。」

「「服をですか!?」」

 まぁ驚くよね。

「そうです。エミリアがニケさんに、ニケさんがエミリアに変装して彼らの目を欺きます。正確にはニケさんにはシルビア様がここに来るまで待機してもらって、後はシルビア様のいう事に従ってもらいます。そして私たちは囮となって先にこの店を出ます。」

「よくわかりませんが着替えれば上手くいくんですね。」

「上手くいくかはやってみないとわかりません。特にエミリアは危険な目に合うかもしれませんがやってくれますか?」

 やってくれますかと聞きながら半ば強制なわけだけど。

「私の代わりに危険な目に合うなんて、そんなことできません。」

「今はニケさんの意見を聞いている暇はありません。助けてくれと頼まれた以上私の指示に従ってください。大丈夫、何とかなります。」

「シュウイチさんが一緒なら大丈夫です。だって、信じていますから。」

 エミリアならそう言ってくれると思ってた。

 危険なことに巻き込んでしまうふがいない旦那を許してほしい。

「エミリアさん・・・。」

「シュウイチさんの計画が失敗したことはありませんから。だから安心してシルビア様を待っていてくださいね。」

「・・・わかりました。よろしくおねがいします。」

 ニケさんの覚悟も決まったようだ。

 向こうはニケさんを探している。

 ならばそれを逆手に取ってやればいい。

 作戦に引っかかった時のやつらの驚いた顔が楽しみだな。

「シュウイチさんお願いがあるんですが。」

 エミリアが申し訳なさそうに頼んでくる。

「どうかしましたか?」

「着替えるので席をはずしてくださるとありがたいのですが・・・。」

「おっと、ごめん。」

 これは大変失礼しました。

 急いで部屋の外に出る。

 そうだ、お店の人にも事情を説明しておかなければ。

「今日はおいしい料理をありがとうございました。」

「気に入っていただいて大変光栄です。」

「少しお願いがあるのですがよろしいでしょうか。」

「当方でできる事であれば何なりとどうぞ。」

「妻が寝てしまいまして、先に出たシルビア様が帰って来るまで部屋の中に人を入れないでほしいんです。」

 正確には妻じゃなくてニケさんだけど。

「そんなことでしたら構いませんよ。すぐお戻りになりますか?」

「すぐに帰ってくると思います。ちょっと大所帯になるかもしれませんが。」

「はぁ、左様ですか。」

「先にお会計だけしておきますね。」

「お代はハスラー様からいただいておりますので大丈夫ですよ。」

 さすが支配人仕事が早い。

 あとでこっそり返しておこう。

「そうでしたか。ではちょっと様子を見てきますので失礼します。」

 そろそろ着替えも終わっただろう。

 部屋の前に戻り扉をノックする。

「も、もうちょっとだけ待ってください。」

 少し焦ったような声が聞こえる。

「これはこんなふうに着たらいいんでしょうか。」

「それで大丈夫です。」

「ですがこれでは下が見えてしまうような・・・。」

「ごめんなさい、少し見えるように作られた服なので・・・。」

 何がどう見えるのだろうか。

 たしかにニケさんの服はなんていうか露出たっぷりで目のやり場に困る。

 それをエミリアが着るとどうなるか。

 背格好は同じだから大丈夫だと思うんだけど・・・。

「シュウイチさんどうぞ。」

 おや、もう大丈夫なのか。

 ドアを開けて中に入る。

 そっと扉を閉めて振り返ると、そこには素晴らしい光景が広がっていた。

 ニケさんの服を着たエミリア。

 肩がむき出しになったワンピース風の衣装は胸元が大きく開き、双丘がこぼれんばかりとなっていた。

 ワンピースの裾は膝の大分上にあり、少しでも風が吹けばエミリアの下着が見えてしまいそうなほどだ。

 ここは天国か。

 なんてけしからん格好だ。

 いいぞもっとやれ。

「シュウイチさん、あまり見ないでください。」

「そういう衣装も素敵ですよ。」

「そう言われましても恥ずかしいです。」

「エミリアさん本当に申し訳ありません。」

 ニケさんはシャツとズボンでおとなしい感じだ。

 普段着ているブラウスに余裕があるという事は、胸の大きさはエミリアに軍配が上がるらしい。

 や、ニケさんも十分大きいとは思いますよ。

 でもエミリアのこのけしからん胸には敵わなかったようです。

 いかんいかん。

 ついつい視線が丘のすそ野に広がる谷間にくぎ付けになってしまう。

 見ちゃいけないけど見たい。

 だってこのけしからん体はすべて俺の物なわけで。

 他のやつにくれてなどやるものか。

 見ることも許さん。

 が、今回に限ってはそうはいかないんだよな。

「では後はシルビア様の指示に従ってください。部屋には誰も入ってこないように言ってありますから。」

「わかりました。」

「大丈夫ですからね。」

 エミリアの励ましに大きくうなずくニケさん。

「じゃあエミリアいきましょうか。」

「・・・恥ずかしいですが頑張ります。」

「できるだけ裏通りを通りますから、ちょっとの間だけ我慢してください。」

 他のやつにこんなエミリアをみせてやるものか。

「急いで歩くと、その見えてしまうのでゆっくりでお願いします。」

「なにがあっても守りますから信じてください。」

「信じていますシュウイチさん。」

 ギュッと腕に抱きつくエミリア。

 エミリアさん、たわわなマシュマロが腕に食い込んでしまっています。

 危険ですエマージェンシーです。

 主に下の部分が大変な事になります。

 落ち着け俺。

 頑張れ俺。

 今はそれどころじゃない。

「それじゃあごちそうさまでした。」

「またのご来店をお待ちしています。」

 寝ている妻を放っておき、娼婦の格好をした女性を連れて出ていく夫。

 世間体最悪だな。

 絶対帰った後噂される。

 いいんだいいんだ。

 これも人助けのためなんだ。

 店を出るとすぐに裏通りへと向かう。

 すれ違う男たちの視線がエミリアに注がれる。

 ええい見るでない。

 この体を見ていいのは俺だけだ。

 俺だけなんだ。

「大丈夫、エミリア。」

「うぅぅ、恥ずかしいです。見えてないですよね。」

 何がとは聞かない。

 おそらく俺が見たくて仕方ないものは見えてると思う。

 残念ながらぴったりくっついているので見ることはできない。

 いいんだ、この腕の感触だけでお腹いっぱいだ。

 ちょうど黄昏時も終わりを迎え夜の帳が降りてきた。

 このままいけばエミリアの姿もあまり見えなくなる。

 ここを進めば猫目館のある歓楽街だ。

 わざと猫目館の前を通り過ぎ、白鷺亭へと向かう。

 普通に考えて娼館から逃げ出した娼婦が帰る場所は娼館しかない。

 つまり奴らは猫目館のあたりで見張っているはずだ。

 探している女の格好をした女が出てきたらどうなるか。

 答えは簡単だ。

「おい、そこのお前。」

 ほらきた。

 声をかけられた瞬間にエミリアの手に力が入る。

「何でしょうか。」

 ゆっくりと振り返ると、先ほど部屋に入ってきた男とは違う別の男が立っていた。

「そこの女に用がある。今すぐ渡せば悪いようにしはしない。」

「私の女に何か用でしょうか。これから朝まで楽しむ予定なんですが・・・。」

「お前の都合何てきいてないんだよ!」

 男は俺の肩を掴むと、無理やりエミリアを引きはがす。

「イヤ!」

 エミリアが恐怖で叫び声を上げかけた。

 だが、俺と目が合った瞬間にぐっと我慢する。

 ごめんエミリアもうちょっとの辛抱だ。

 男がエミリアの顔を覗き込む。

 恐怖と怒りの混ざった顔でエミリアが男をにらんでいた。

「クソ、人違いか。」

「なんですか貴方は、いくら私の女が素敵だからって無理やりとは失礼だな。」

 エミリアをぎゅっと抱きしめ、男から引きはがす。

 エミリアの体は少し震えていた。

「もう大丈夫だよ。」

 耳元でそう囁くと震えが少し止まった。

「その女とはどういう関係だ。その服、どこで手に入れた。」

「この子は私が買い上げた最高の女ですよ。顔も体もどこをとっても一級品だ。」

 男に見せつけるようにエミリアの顔をなで、胸からお尻までをなぞるように触る。

 悔しそうに男は舌打ちをした。

「服はそこの娼館で見た服が素敵だったのでね、王都の職人に作らせたものだ。彼女の絹のような体に良く似合っているだろう?」

「うるせぇ、さっさと行っちまえ。」

「そうさせてもらうよ、さぁいこうかリア。」

「はい御主人様。」

 エミリアがしなだれかかってくる。

 少し演技に熱が入りすぎただろうか、変なスイッチが入ってしまったようだ。

 不自然にならないようにゆっくりとその場を後にする。

 そして猫目館から離れた路地に入った瞬間。

 貪るように、エミリアと口づけを交わす。

 腰に手を回し肩を抱き寄せ荒々しくエミリアの口を貪る。

 舌を入れるとエミリアの熱い舌がうねる様に迎えてくれた。

 唾液を流し込み、舌に甘くかみつく。

 俺の髪をクシャクシャにしながら、エミリアの手が俺の口を離すまいと頭を押し付ける。

 獣のようなキスだった。

 恐怖が興奮に切り替わりお互いに理性を無くしていた。

 柔らかな胸に指を食い込ませるとエミリアが甘い吐息をはいた。

 このまま貪ってしまいたい。

 このままこの子を食べてしまいたい。

 そんな感情が体中を支配していた。

「シュウ・・・イチさん。」

「エミリア。」

「大好きです。」

「俺もだよ。」

 おでこをぶつけ、お互いの目を見つめる。

 涙で潤んだ瞳でまっすぐ俺を見ていた。

 あぁ、俺はエミリアが好きだ。

 離したくないほどに、好きだ。

 もう一度唇が重なろうかという時だった。

 物音がして思わず振り返る。

 しかし振り返った先には誰もいなかった。

 いたのは一匹の猫。

 猫は不思議そうな顔をしながら俺たちの横を通り過ぎ、大通りを歩いて行ってしまった。

「なんだろう、よそでやれって言われた気がしたんだけど。」

「私もです。」

 一気に冷静になり抱きしめていたエミリアの腰を離す。

 エミリアも慌ててはだけた服を直し始めた。

 何とも言えない空気が二人の間に流れる。

「急にごめんね。」

「謝らないでください。その、嬉しかったです。」

「そう言ってもらえると安心しました。」

 賢者タイムよろしく一気に思考がクールダウンする。

 勢いとはいえすごいことをしてしまった。

 夫婦だから別にいいんだけどさ。

「行きましょうか。」

「そうですね遅いと心配しますから。」

 何をしていたのかなんて言えるはずない。

 お互いの恥ずかしさを隠すように触れるか触れないかの絶妙な距離で白鷺亭へと戻るのだった。

 あえて言わせてもらおう。

 非常に柔らかかったです。

 以上!

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