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第三章

イナバの不思議なダンジョン:魔物部屋

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 ダンジョン最下層を目指すので行っていない場所があっても今回は無視していい。

 ウィザー〇リィとかこういうダンジョンを進むんだよな。

 骸骨とか蝙蝠とかリザードマンとかビビリながら進んだのがいい思い出だ。

 あれから何度かウサギと遭遇し問題なく退治できた。

 単体での戦闘はもう怖くは無い。

 やはり初陣が成功するって大事なんだな。

 失敗した記憶は成功した記憶よりも心に残りやすいのでなかなか払拭できない。

 そのうえ初陣というキーポイントで失敗すればそれこそ一生のトラウマになるかもしれない。

 それが無事クリアできた事は非常に大きい。

「そういえば未だに罠と遭遇してませんね。」

 ダンジョン定番の罠に今だ出会っていない。

 石ころに始まって弓罠毒罠落とし罠。

 これぞ罠と言う定番は数多くあるが、どれひとつとしてみかけていない。

 ないのかな。

「自然発生タイプですと罠はほとんどありません。魔物はたくさん沸きますが技術的な罠はやはり人の手が無いと難しいですから。あるとすれば落とし罠のような穴や毒ガスが出るような穴でしょうか。」

 それもそうだな。

 自然にできるのに弓罠とかどうやったの!ってなるもんな。

 落とし罠って言っても見た目にわかりそうな穴が開いてるぐらいだろうし。

 天然モノではあまり気にしなくてもいいかもしれない。

 一応気をつけはするけどさ。

 TRPGだと角を曲がるたびに罠チェックをしていた記憶があるからついつい気になるんだよね。

 2d6で罠チェックします。

 どうぞ。

 ファンブルしました。

 罠がわからないどころか罠が増えましたね。

 とか。

 GM鬼畜過ぎる。

 おっと話がそれた。

 平穏無事に進んでいた時だった。

「そろそろ下層への入り口があってもいいものだが・・・。」

 先を進むシルビア様の足が止まった。

 今迄で一番広い部屋に出たようだ。

 天井が今までよりも少し高い。

 明らかに何かいるとわかる部屋だ。

「フロアマスターの部屋のようですね。」

 フロアマスター?

 階層の主か。

 まさか下層に下りるには毎回中ボスと戦うパターンのあれですか。

「そのようだな、中に3体ほどいる。」

「フロアマスターという事はここにいる敵を倒せば下に降りれるわけですね。」

「その通りです。各階層の中で一番強い魔物が陣取っていまして魔物を倒せる者だけが下層に進めるようになっています。管理しているダンジョンであればよく見る仕掛けですが自然発生のダンジョンでは珍しいですね。」

 確かにそうだ。

 人工ダンジョンであればレベルチェックのように強いモンスターを配置して、この先に進めるかどうかの指針にすることが多い。

 しかし、自然にできたとするならばそういうカラクリを作る理由や意味が見出せない。

 仕組みとしてはわかりやすくていいんだけどね。

 降り口がここってわかるし。

「暗くてよく見えんな。エミリア明かりを頼めるか。」

「わかりました。こちらに向かってくると思いますので対処を願いします。」

「そろそろ体を動かさねば固まってしまいそうなので丁度いい。」

 シルビア様が剣を抜き中に進んでいく。

 エミリアが杖を構え何かを唱え始めた。

明かりよ!フローリア

 エミリアの杖から白い丸い玉が放たれ、部屋の上部で破裂する。

 光が部屋中を包み中の様子が見えるようになった。

「スケルトンか。」

 剣を持った骸骨が3体。

 人型だが背格好がちぐはぐなのを見ると種族が違うのだろう。

 中央の少し大きい骸骨は頭蓋骨に角が見える。

「そちらに行った場合はエミリアに任せる。シュウイチ殿は無理に戦おうとせずエミリアの詠唱の時間を稼いでくれればいい。逃がすつもりは無いが念のためだ。」

「よろしくお願いします。」

 エミリアが再び杖を構えて詠唱を始める。

 明かりのときもそうだったが魔法を使うには詠唱が必要らしい。

 無詠唱で魔法乱射とかはゲームの世界だけのようだ。

 骸骨がシルビア様に気付きカタカタと歯を鳴らしながら襲い掛かる。

 左手にいた一番近い骸骨がボロボロの剣で切りつけるも、シルビア様が軽く払うように剣を振るうだけであっけなく倒されてしまった。

 骸骨よわ!

「スケルトンは魔核という結晶を分離させなければまた襲い掛かってきます。シュウイチさんはシルビア様が倒したスケルトンの魔核をはずしてください。」

「わかりました。」

 右側のスケルトンがシルビア様に向かうのを見つつ先ほどの骸骨の側まで走る。

 原形をとどめていないほど骨がバラバラだ。

 これが大腿骨、これが肋骨か。

 あ、虫歯がある。

 歯磨きをあまりしていなかったんだろうな。

 バラバラに散らばった骨を確認していくと胸骨の辺りに黒く光る欠片がはまっている。

 これが魔核だろう。

 ラピスラズリの宝石のように黒く光る結晶だ。

 軽く力を入れて引っ張ると簡単に外れた。

 そして外れた瞬間骨が風化するようにサラサラと崩れてしまった。

 なるほど、この魔核から魔力をもらって形を維持していたのか。

 ということは遠距離から魔核のみを打ち抜くことができれば近づかなくても撃破できるのかもしれない。

 ノ〇タ君ならできると思うけど残念ながら自分にそんな芸当は無理だ。

 魔核を回収していると右側の骸骨も倒され残るは中央の角付骸骨のみとなっていた。

 え、今度は向こうの骸骨ですか。

 人使いが荒いんだから。

「先ほどの二体はそうでもなかったがこいつは少し骨がありそうだな。」

 骸骨だけに骨がある。

 うまい。

 山田君座布団一つ持ってきて。

「シルビア様気を抜かないでくださいね。」

「骸骨如きに遅れをとることはないぞ。」

 さすがシルビア様。

 今はおとなしく魔核回収をして応援しておこう。

 あの骸骨に勝てる気がしない。

 だって刃物持ってるんだよ。

 怖いじゃない。

 こそこそと二体目の骸骨に向かっていたときだった。

 いきなり足元の感覚が無くなり、エレベーターで急速降下したときと同じ感触が来る。

「やばっ!」

 叫び声を上げるまもなく落下していく。

 落とし罠だ。

 罠は少ないとさっき話していたけどまさかフラグを立ててるなんて。

 これは死んだなと上から聞こえるエミリアの叫び声を聞きながら思った。



 ドシンという音をたてながら上の穴から転がり落ちる。

 よかった。

 下が剣山みたいだったら今頃見るも悲惨な状態になっているところだった。

 眼の前がふらふらするも擦り傷ぐらいで特に大きな怪我はない。

 武器も持ってる。

 ただ、エミリアたちからはぐれてしまった。

 これは非常にまずい。

 初心者でいきなりダンジョンに一人きりとか自殺行為もいい所だ。

 1つ下の階層という事は敵も強くなっている可能性がある。

 つまりは生き残れる可能性が低くなっているという事だ。

 どうする。

 どうすればいい。

 遭難したときのセオリーはその場を動くなだ。

 山であれば山頂を目指せばいいがダンジョンの場合はそうも行かない。

 かの有名な梅〇ダンジョン有段者の俺でも見知らぬダンジョンは戦力外だ。

 人に聞こうにも人はおらず案内板も無い。

 だが、見知らぬダンジョンで動かずじっとしていられるほど度胸は無い。

 この無音の状況に耐えれない。

 上に戻るのはどう考えても無理だ。

 今頃シルビア様とエミリアが大慌てをしているんだろうな。

 強そうな骸骨なんて一瞬で片付けて下へ向かってきてくれるだろう。

 どうするべきだ。

 悩んでいるそのときだった、奥の通路からカサカサとした音が聞こえてくる。

 なんていうかGを思い出させる効果音だ。

 お願いだから大型のGとかは勘弁してください。

 虫はちょっと、虫はちょっとダメです。

 なんて事を考えていても音はどんどん大きくなってきている。

 明らかに近づいてきている。

 下がるか。

 でも下がって後ろから来たら挟み撃ちだ。

 前後で襲われたら間違いなく死ぬ。

 逃げ道は無い。

 前に進むしかない。

 戦うしかない。

 なけなしの勇気を振り絞り剣を構える。

 俺にはこのダマスカスの剣がある。

 こいつならそうそう切り負けることは無い。

 いける。

 自分に言い聞かせ、ゆっくりと音のほうに前進する。

 だんだんと音が大きくなりうっすらとその姿を確認できるようになってきた。

 虫だ。

 なんていうかポケ〇ンでみた芋虫みたいな奴だ。蝶になるはずが設定ミスで蛾になっちゃった彼だ。

 大きさはこの前のアリぐらいある。

 正直気持ち悪い。

 向こうもこちらに気付いたようで一瞬動きが止まる。

 しかしそれも一瞬だけ、今度は先ほどの倍速ほどでこちらへ突き進んでくる。

 倍速でも遅いようだ。

 芋虫を正面に見据え、こちらからも近づいていく。

 すると芋虫は体を上に持ち上げ叩き潰すように攻撃をしてきた。

 余裕を持って避け、すれ違いざまに剣を胴体に突き刺す。

 剣をさしたまま走り出そうとするも、痛みでのた打ち回ったように動くので剣を抜くのが精一杯だった。

 うわ、紫色の体液だ。

 だから虫は苦手なんだよ。

 体液をたらしながら芋虫が再びこちらへ突進してくる。

 怒りで我を忘れてる、殺さなきゃ!

 突進してくる度に攻撃を避けつつ剣を突き立てる。

 何度か繰り返すとだんだん動きが少なくなり、最後は動かなくなった。

 倒したのか。

 足でつつくも反応は無い。

 ウサギと違って剥ぎ取りとかできそうもないしこのまま置いておくか。

 落ちてきた場所に進んだ方向の矢印を書き、芋虫がやってきた通路を進む。

 進むしかない。

 単体ならいける。

 それから右の法則にのっとり分かれ道を常に右を選択して進む。

 何度か部屋を通過し、ウサギや芋虫との戦闘を続けるも動きが単調なおかげでノーミスで勝利を続けている。

 しかし、そんな幸運も長くは続かなかった。

 最後の通路を右に曲がったとき、聞いたことのある音がした。

 カタカタと聞こえるその音。

 どう考えてもさっきの骸骨じゃないでしょうか。

 いやあれはさすがに無理でしょ。

 芋虫やウサギとは明らかに違う。

 武器持ってるし、切られたら痛いじゃすまない。

 通路の奥は部屋になっているようでその中から骸骨の音がする。

 いや、それだけじゃない。

 耳をすませると別の音も何種類か聞こえる。

 これはかの有名なあれでしょうか。

 不思議のダンジョンでおなじみの魔物部屋モンスターハウスじゃないでしょうか。

 もどろう。

 別の道を進むしかない。

 音を立てないようにゆっくりと後退し、いっていない別の道を進む。

 しかし、どの道も行き止まりで最初に落ちてきた場所も反対に進むもすぐ行き止まりにぶつかった。

 つまりはだ。

 あの部屋を越えなければ先には進めない。

 穴から落ちてどのぐらいの時間が経ったんだ。

 待っていればエミリアたちが来てくれるかもしれない。

 しかし、ここが隠し部屋だった場合はどうだ。

 よほどのことがないと見つかる可能性は無い。

 このままここにいるといずれは餓死してしまう。

 それか沸いてくる魔物にやられる。

 逃げ道は無い。

 進む道は地獄しかない。

 俺にできるのか。

 とりあえず部屋の中の状況を確かめる為に、持って来た松明に火をつける。

 ヒカリゴケのおかげで視界は確保できていたがやはり松明の光を見ると安心するな。

 部屋は幸いにも通路を曲がってすぐのところだ。

 中に松明を投げ入れて逃げればバレずに済むかもしれない。

 それに通路であれば複数での戦闘は避けられる。

 念のために火をつけた松明を後ろの通路においておき逃げ道を間違えないようにしておく。

 行き止まりに逃げ込めばおしまいだ。

 後ろは最終的には行き止まりだが大分距離はある。

 やるしかないよな。

 ビビッててもおわらないもんな。

 松明を持ちゆっくりと通路を進む。

 音が大きくなる。

 角に立ち深呼吸をする。

 中に向かって投げ、まずは全力で逃げる。

 しばらく様子を見てこっちに来なければ再び状況を確認する。

 これでいこう。

 松明を振り上げ、部屋の中に投げ込んだ。

 そして全力で逃げる。

 ゆっくり100まで数えてみたが魔物がこっちに来る音はしない。

 よし、第一関門突破。

 続いて元来た道を戻り角から中を確認する。

 松明に照らされて部屋の中が良く見える。

 中には骸骨と芋虫の姿が見える。

 しばらく覗いているとウサギの姿も確認できた。

 やっぱりモンスターハウスだったか。

 不用意に飛び込んだら即お陀仏だった。

 複数匹との戦闘はまだできないし、骸骨とも戦ったことは無い。

 次はおびき寄せだ。

 幸い足元には手ごろな石がたくさんある。

 中にいる魔物に当てて注意を引き一匹ずつ倒していけば骸骨以外は勝てる。

 それしか方法はない。

 左手に剣を持ち右手に石を構える。

 当てる必要は無い。

 おびき寄せればいいのだから。

 通路付近を通った芋虫に向かって石を投げる。

 お、気付いた。

 こっちに近づいてくる。

 他はこっちにこないみたいだな。

 よし、やれる。

 通路の奥までおびき寄せ先ほどの要領で撃破。

 次にウサギをおびき出し、同様にさくっと倒してしまう。

 剥ぎ取りはこの際後回しでもいい。

 邪魔にならないように芋虫の死骸を通路の隅にずらしていよいよ本丸だ。

 骸骨以外に音は聞こえない、動く姿も確認できない。

 ここさえ乗り切ればとりあえずは何とかなる。

 あの二人が探してくれているはずだから合流できる場所まで行けばいい。

 その為にもこの骸骨と一戦交える必要がある。

 武器を持っているのだから通路におびき寄せてもいいだろうが、逃げる場所が少ないのは危険だ。

 ここは部屋の中まで戦いに行くべきだろう。

 意を決して部屋の中まで進む。

 広い部屋の壁のほうを骸骨はじっと見ていた。

 動かない。

 あれ、寝てるのかこいつ。

 このままゆっくり移動すればばれな・・・いわけないか。

 ゆっくりと部屋を進むと壁のほうを向いていたはずの骸骨の首が180度回りこちらと目が合う。

 いや、目は無いんだけど。

 カタカタカタと激しく歯を鳴らしながら骸骨が剣を振りかぶって襲い掛かってきた。

 大降りだが刃物だ。

 受け止めるのは無理なので部屋の広さを有効に使いながら逃げ回る。

 なんとか隙を突いて魔核を攻撃できればいいのだがそう上手くいかない。

 と思っていたその時、先ほど投げた松明に足を滑らせ盛大に骸骨がこけた。

 ドリフもビックリといわんばかりにこけた。

 だって首がこっちまで転がってきてるし。

 首は無くても動けるらしく剣を杖にして骸骨が立ち上がろうとしている。

 もう漫画の世界だ。

 放課後ミッドナイ〇ーズの世界だ。

 今しかない。

 笑いの神様ありがとう!

 このタイミング逃すわけには行かない。

 首無しで立ち上がった骸骨に類人猿最強のタックルもどきを炸裂させ、倒れたところで魔核を柄の部分で叩き割る。

 魔核を失った骸骨が音も無く崩れ去った。

 なんていうか実力で勝ったわけではないので喜んでいいのかわからない。

 ただ、生き残れたのならもうそれでいい。

 安心して思わず座り込んでしまった。

 骸骨は風化してしまったがどうやら武器は消えないようだ。

 歯がぼろぼろになった剣はいらないけれど、木の盾はありがたい。

 これで攻撃を防いだり流したりする手段が増える。

 盾って飾りみたいに思っていたけど以外に重要な装備だったんだな。

 スパルタ兵の映画でも盾が重要だったしバイキングも使うし盾ってすごい。

 盾と松明を拾い先に進むことにしよう。

 松明を拾い上げたそのときだった。

「シュウイチさん!シルビア様いました!」

 向かいの通路からエミリアが走ってくるのが見えた。

 脱力して座り込みそうになるのをぐっと耐え、エミリアに向かって手を振る。

 助かった。

 一人でダンジョンに潜るのはもっと強くなってからにしよう。

 そう心に決めた。
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