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第三章

添乗員エミリアと行く商店住居ツアー

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 村を離れて歩くことは半刻程。

 街道は終わりをつげ遠くにぽっかりと口を開けた洞窟が目に入る。

 手前には真新しい木造の建物。

 二か月ほど前ここに来た時にはとても立派な廃屋だったのに。

 なんということでしょう。

 匠の手にかかればごらんの通り。

 木造二階建て、中に入る為の大きな扉と外で直接売買するカウンターは最初の設計のままか。

 屋根を突き破って生えていた樹はそのままだが建てる場所を変えたようで建物の横に大きくそびえている。

 確かにど真ん中に樹があると邪魔だもんね。

 立派な木だし守り神とか目印とかそんな感じになるだろう。

 しめ縄は、似合わないか。

 商店の裏に住居があると聞いていたが街道を歩くと見えないように作ってあるようだ。

 防犯上非常によろしい。

「あそこがシュウイチ殿の商店か。」

「そのようですね、思っていたよりもずいぶんと立派に出来上がったようです。」

 最初は平屋でも構わなかったんだけど、宿としての機能を持たせようと思うとどうしても二階建てになってしまう。

 もちろん白鷺亭のように立派な建物ではないので宿泊できる人数は限られているが、最初はこれぐらいでいいだろう。

 メインは商店だし。

「もう中に入れるようですから入ってみましょうか。」

「中も見れるのかそれは楽しみだ。」

「シルビア様はダンジョンに入ったことはありますか。」

「このダンジョンは父から入ることを禁止されていてな、入ったことはない。ほかのダンジョンであれば一度修行のために入ったことはあるが途中で挫折して戻ってきてしまった。」

 やはり村としてはここのダンジョンは不可侵の領域だったようだ。

 黙って侵入した奴もいるだろうが、生きて帰ったのか死んだのかはわからない。

 町からも遠いし整備されてないしで来る人が少なかったのだろう。

 俺だったらわざわざこんな遠くまで来ようとは思わない。

 レア装備があるとか、効率がいいとかでなければわざわざ来ることはないだろう。

 それは今も同じ状態だともいえる。

 ここにダンジョンがあって、便利になって、来てみたいと思わせないといけない。

 この世界の冒険者がどのような心理で動いているのかもしっかり勉強しなければならないな。

 冒険者が来ないことには商店はもうからない。

 さすがに村のお客さんだけでは商売あがったりだ。

 異世界にきてマーケティングを考えないといけないとは思いもしなかったな。

 どう売り込んでいこうか。

「ここが宿兼休憩所や待合所の入り口です。外には直接売買できるカウンターも設置していますが、中でもできるように作ってあります。素材の買取や換金などもこちらでする予定です。二階は宿として使えるように8部屋作ってあります。あまり広くありませんが私たちの部屋を作らなくて済むのでその分部屋を増やしてあります。」

「食事の提供もしなければなりませんね。」

「そうですね、スタッフは商店連合のほうで準備することもできますし現地の人を雇用しても問題ありません。お給金は商店連合で負担しますのでご安心ください。」

 現地の人を雇うのがベストだろう。

 どれぐらいの人が来るかわからないし、手が回らなくなったら追加で準備してもらえばいい。

 なにより商店連合で給与支払いをしてくれるし現地にお金が落ちるのは喜ばしい。

 だれを選ぶかは村長に一任すれば喧嘩も起きないだろう。

「冒険者が多く来るということは治安の面でも考えないといかんな、奴らすべてというわけではないが素行の良くない者が多い。ここで暴れるならまだしも村のほうで悪さをせんとも限らん。」

 確かにその通りだ。

 俺が強かったら宿のムキムキマスターのように荒くれ者を(物理的に)静かにさせることもできるだろうけど残念ながらそういったことはできないヘタレなもので。

 元気になったウェリスでも雇いたいけど、騎士団から誰か回してもらえないかな。

 むりだよなー。

 だって管轄外だし。

「その件については村の方とも連携を取って取り締まる必要があると思います。」

「どうにもならなければ私がいるから安心していいぞ。」

「シルビア様は騎士団の方で働いておられますから。」

「はやくあの木偶の棒に育ってもらわねばならんか。」

 イケメンに対する扱いがひどい。

 でもしかたないよな、イケメンだもん。

「では中に入ってみましょうか。」

 いよいよ商店の中に突入だ。

 ドアを開けて中に入る。

 木のいい匂いがする。

 スキーの時に入ったロッジのにおいと同じだ。

 ヒノキとか杉とかそういった感じの匂いだ。

 断定はできない。

 だって詳しく知らないし。

 でもいい匂い。

「思ったよりも広いですね。」

 一階部分は約半分が待機スペースのようになっている。

 机と椅子が置かれ、食事やミーティングができるようになっている。

 冒険者ギルドとかこんな感じなのかな。

 入り口横のカウンターで宿の受付をしたり食事を注文するのかな。

 ちょうどカウンターの裏が外のカウンターとつながっているみたいだし、その奥が倉庫か。

 いいなぁ、ゲームでよく見る冒険者ギルドとかこういう感じだよな。

 壁にクエストとか貼ってあって、ダンジョンで依頼をこなす系のやつだ。

「販売に仕入れ、宿や食事の管理、なによりも冒険者の面倒を見なければならないわけですね。」

「販売や仕入れは私ができますのでシュウイチさんには主に在庫管理や売り上げ管理などの裏方をお願いすることになると思います。もちろん忙しくなると手伝ってもらわないといけませんが、基本的に売価などは決まっていますし、買取できるものも限られていますから。」

 こんなおっさんが店に出てるよりもかわいいエミリアが店に出ているほうが売り上げはいいだろう。

 看板娘というやつだな。

 おさわりは銀貨1枚と壁に貼っておくか。

「シュウイチさんにはダンジョンの方にも力を注いでもらわなければなりませんからね。そっちの説明は改めてさせていただきます。ダンジョンの整備は毎日ですが休日の就業は禁止されていますので注意してください」

「たしか休息日はダンジョンに潜ることを禁止されているんでしたね。」

「そうです、休息日は冒険者のダンジョンへの侵入は禁止されています。ですので商店もお休みです。」

「休息日しか大規模なメンテナンスをする日はないと思うのですが、どうされてるんでしょうか。」

「基本的に毎日ダンジョンに潜りながら整備をしているので問題ないと思いますが、どうしても必要なようでしたら平日に無理やりダンジョンを閉めることもできますよ。」

 ダンジョンに定休日作ってもいいんだ。

 中にいる冒険者にはホタルノヒカリでも流せばいいんだろうか。

「冒険者は休息日以外は好きなタイミングでダンジョンに入れるんですよね。」

「あの方々は昼夜関係ありませんから。ただ、私たちは就業の時間が決まっていますので時間が来たらお店を閉めるようにしています。買い物は翌日にしてもらうようにお願いするしかないですね。」

 お客様至上主義の現代人に言い聞かせたいよ。

 24時間のコンビニがどれだけ偉大で大変かみんな理解してないんだよな。

 休む時は休む。

「何やらダンジョンというのは大変なようだな。」

「そのために私が呼ばれたわけですから頑張らないといけません。」

「シュウイチ殿は無理をしすぎるタイプのようだからな、私やエミリアがしっかりと監視せねばなるまい。」

「その通りです。働きすぎは許しません。」

 仕事中毒ワーカホリックは許されないらしい。

 でも人がいない時しかダンジョン整備ってできないと思うんだけど、矛盾してないかなぁ。

「できる限り善処します。ですが細かいところまで私が全部するのは難しいと思いますが。」

「そのために専用の部門がありますので、そこに関しても改めてご説明しますね。」

 さすがダンジョン商店連合。 

 かゆいところまで手が届く。

「最初の商品や資材の搬入は休息日前日の予定です。」

「最初の仕入れは商店がしてくれるということですね。」

 食べ放題の初期完食義務メニューのようだ。

 売れ残りとか押し付けられたりしないだろうか。

 でも、何が売れるとかわからないし最初はそのほうがいいのかもしれない。

「4日後ですね。」

 ちなみに今は春の節花期4週目聖日前日。

 イメージは6月の4週目土曜日がないから金曜日。

 つまり花金だ。

 翌日は日曜日になる。

 日数で行くと6月23日ぐらいか。

 ちなみに一か月は30日換算なので来週には月が変わって夏の節だ。

 土曜日がないとちょっとややこしい。

「では次は住居のほうに行きましょうか。裏口から行くとすぐですよ。」

「いよいよか。」

「シルビア様うれしそうですね。」

「村を出てから自分の家というものがなかったからな。帰る家があるというのはいいものだ。」

 なんていうか働くお父さんのセリフですよね。

 念願のマイホームを30年ローンで買いました的な。

 かえりた~い、かえりた~い、あったか我が家が待っている。

 カウンターの横から商店の裏側へと抜け裏口から外に出る。

 先ほどは見えなかったが店の裏に商店の半分ほどの大きさの住居が建っていた。

 同じく木造二階建て。

 敷地が決められていないからか少し大きく見える。

「裏に畑もあるそうですよ、手前の井戸は商店と共用になっています。」

 商店と家を結ぶ真ん中に井戸まで掘られていた。

 至れり尽くせりだな。

 近くの川を探して汲みに行かなければいけないかと思っていた。

 商店で食事を出したりするんだから井戸がないと不便だよな。

 庭まであると聞いたら森の中のコテージでまったりスローライフを思い浮かべてしまった。

 異世界に来てまで現実忘れてスローライフとか悲しすぎる。

 自給自足がしたいわけじゃないが、庭仕事には興味がある。

 昔祖父母の家の畑でトマトやキュウリを勝手に食べたっけ。

 美味しかったなぁ。

「こちらの家はもう住んでも大丈夫なので資材搬入前までには移っておきたいですね。」

「荷物も少ないし明日にでも移れるかもしれないね、あーでもシルビア様の荷物がまだか。」

「私の分は気にしなくてもいいぞ。もともとそんなに持ち合わせておらんし必要であれば騎士団からこちらに届けてもらうこともできる。ネムリにお願いしておくとしよう。」

 さすがのネムリもシルビア様のお願いは断れないだろう。

 ちゃっかり運賃とってそうだし、最近は騎士団との取引で潤ってるはずだからサービスするかもしれないな。

 あー、しないか。

 だってネムリだし。

「最初はシュウイチさんに開けてもらいましょう。」

「そうだなこういう事はやはり旦那様にやってもらうべきだ。」

 旦那様って、だからまだ結婚してませんって。

「そういうことでしたら喜んで。」

 カギはないのか。

 それとも閂でも裏にあるのかな。

 ドアに手をかけゆっくりと引く。

 最初に目に飛び込んできたのはリビングだ。

 正確にはわからないが30畳ぐらいありそう。

 とりあえず広い。

 二階まで吹き抜けになっていて上から見下ろすことができる。

 正面の階段をあがれば二階か。

「二階が各自の部屋になっています。一階は食事をしたり会議をしたりできるようになっているので商店の打ち合わせなどもこちらを使うといいかもしれません。」

 できれば家には仕事を持ち込みたくないんだけどなー。

「奥が台所か。おや、この部屋はなんだ。」

 シルビア様が子供のようにはしゃぎながら探検している。

 わかるなぁ。

 旅行先でとりあえず全部の扉開けたくなるよね。

「奥は台所と倉庫、それにシュウイチさんたっての希望でお風呂があります。」

「まさかお風呂まであるとは思わなかった。しかしシュウイチ殿はなぜそんなにお風呂にこだわるのだ。」

「こだわるというかここに来る前はそれが当たり前でしたから。エミリアに聞くと外に湯沸し用の装置を作ることができるそうなので無理を言ってお願いしてみました。いいですよ、毎日入るお風呂は。」

 シャワーはないが湯船の湯は簡単に取り換えることができるようになっている。

 もう白鷺亭のように下から大量の湯を持ち込む必要もない。

 湯沸し装置と言っても下から火で加熱する五右衛門風呂構造だからガス湯沸かしのようなハイテクではない。

 薪で加熱して湯船を温めるのだが、加熱部の金属はサンサトローズの武器屋の親父さんにお願いをした。

 ダマスカス短剣が折れたことをお詫びしに行くと笑って再作成を申し出てくれた。

『俺の剣がオリハルコンにも負けなかったという事実だけで十分だ。生きて帰ってよかったよ。』

 どうやらあの日予想通りの流れになったようで心配していたらしい。

 シルビア様の剣も鍛えなおしてもらっている所だ。

 今回は武器ではないものをお願いしてしまったので、次回は頼んでおいた短剣を取りに行くとしよう。

 ちなみに、直接加熱するので湯船の底には簀の子が敷いてある。

 水抜きはそこに開けた穴に栓をしてあるのでそこから屋外に排出可能だ。

 ただし、お風呂用の水は自分で井戸から運び込まなければならない。

 だって水道がないんだもん。

「毎日の風呂とはまるで貴族のようだな。しかもそれを自分でしてしまうという考えも面白い。」

「水をくむのは大変ですが、鍛えると思えばいずれ楽になるでしょう。」

「日々体を鍛えるための努力もするか。よほどこの前の事を気にしておるのだな。」

 あのしごきは二度とご免ですから。

「排水は庭の方に流れるようにしてありますので毎日の水やりも楽ですよ。」

 なんていう親切設計。

 そこまで考えてなかった。

 そうかこれだけの水排出するんだから用水路ぐらいないと水浸しだし湿度上がるしで大変だもんな。

 御見それしました。

「二階に行ってみるとしよう。」

 階段を上り二階へ向かう。

 上から一階を見下ろす作りはかまいた〇の夜でみたロッジのようだ。

 それか金田〇少年ね。

 やめよう、この家で事件とは不吉すぎる。

「部屋は7つか。防犯を考えて私が一番手前の方がいいな。」

 シルビア様はすぐ左手の部屋に入る。

「シュウイチさんのお部屋は一番奥に決まっていますので確認しておいてくださいね。」

 あれ、選べないんだ。

 階段を上がり廊下の左右にドアが6つ。

 廊下の突き当りにももう一つのドア。

 こんなに部屋があっても使う人いないし、まさか今後増員されるハーレム要員用とか!

「部屋数多いんですね。」

「他のスタッフが住めるようにと思ってお願いしてありますが当分は物置でもよろしいかと。」

「エミリアはどの部屋にしますか。」

「私はここって決めてあるんです。」

 そう言って指さしたのは右側二つ目のドアだ。

「なにか特別な理由がありそうですね。」

「見てみますか?」

 エミリアと一緒に部屋に向かいドアを開ける。

 目に飛び込んでくるのは大きな窓と先にあるあの大きな樹だ。

「この景色が理由ですか。」

「そうなんです。明るさもですけどあの大きな樹が見えるのが一番の理由です。マナの樹っていうんですよ。」

 マナの樹か。

 世界樹の樹ではないようだな。

「特別な樹なんでしょうか。」

「樹自体はそんなに珍しいものではないんですが、あの樹からは魔法の元になるマナ、つまり魔素が出て来るんです。エルフィーの村にはたくさんあって魔法の練習をするときはあの樹のそばですると成功しやすいんです。昔の事を思い出してしまってなんだか懐かしくなっちゃいました。」

 魔素か。

 魔力とはまた別の力なんだろうな。

「つまり魔法は自分の魔力を使うタイプと精霊のタイプと魔素のタイプがあるという事ですか。」

「魔法はこの前の二種類なんですが、魔素はどちらの魔法の時にも手助けをしてくれる力なんです。ダンジョンや魔力溜まりでみられる魔力とはまた違うもので溜まらずにそのまま大気中に拡散して消えてしまいます。」

 つまりあの樹の近くであれば魔法の補助を得られるという事か。

「お手伝いをしてくれる樹というわけですね。」

「その通りです!あの樹からとれる枝は杖の材料にもなりますし、樹液が採れれば魔法薬の原料にもなります。最初にこの商店を作った時に一緒に植えたんでしょうね。」

 そして建物が朽ち果ててもなお大きくなったというわけか。

 樹の管理はエミリアにお願いしたほうがよさそうだ。

「では最後にシュウイチさんの部屋ですね。」

 すっかり忘れていた。

 専用の部屋というわけだしいったい何があるのやら。

「奥がシュウイチ殿の部屋だそうだな。」

「そのようです。」

 ではその専用ルームとやらを開けてみましょうか。

 一番奥にある部屋を開けると。

 そこには一人の女の子が倒れていました。

 姉さん事件です!
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