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第二章
幕間~ニッカの幸福な朝~
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通常であれば日の上る前には起床して朝の日課である柔軟などをしているはずなのだが、さすがに今日はそんな元気はなかった。年はとりたくないものだ。
昔であればあれぐらいの酒で酔いつぶれるようなことはなかったというのに。
最近は腰も膝も肩もと体中がよく悲鳴を上げる。
それでも村長としての勤めは私にしか勤まらない。
二日酔いなどに負けるわけにはいかんのだ。
井戸まで行くと先に使っている物がいた。
ドリスか。
「ニッカさん今日は随分と遅いんだな。まさかあれぐらいの酒で二日酔いになったんじゃないだろうな。」
「そのまさかですよ。昨日は最高の宴でしたからついつい飲みすぎたようです。」
昨日は人生の中で五本の指にはいる幸せな時間だった。
妻との結婚、子供たちの出産、旅立ち、そして。
「まさかシルビア様が戻ってくるなりあの兄ちゃんと婚約するって言うとは思っていなかった。ニッカさんもやっと孫の顔が見られるってわけだ。そりゃあ飲み過ぎるわけだな。」
そう、武芸のみを極めいまや騎士団の分団長まで勤め上げる愛娘が結婚するといってきたのだ。
しかも相手はあのイナバ殿だ。
色恋には全く興味がなく、強さのみを追いかけていたあの子に相手が見つかることはないと半ばあきらめていたというのに、孫の顔を見るまでまだまだ衰えてはおれんようだ。
「イナバ殿にも恐れ入る。三日ほど帰ってこないのはてっきり観光しているとばかり思っていたのだが、まさか向こうで盗賊を討伐し嫁まで作ってくるとは思わなかった。あの人は普通ではないと思っておったがまさか息子になろうとは。」
結婚するという事は息子になると言う事だ。
私は妻しか娶っておらんからわからんが、どうやらエミリア殿も同時にという約束のようだ。
そのことに関しては何も言うつもりはないし、むしろ喜ばしい。
「普通の兄ちゃんじゃないと思っていたがアリの次は盗賊か。それに作付けの労働力まで確保してくるなんてな。これで秋の収穫は安泰だ、感謝してもしきれないぜ全く。」
そうだ。
イナバ殿は人手不足の村の状況を領主様に訴え、労働奴隷の貸付まで交渉してきたのだ。
話によると今回の盗賊討伐の際に奴隷に落ちた者達という事であったが、騎士団の話によれば勤労奴隷として預かっているウェリスという者の部下らしくイナバ殿の監視下で労働するように義務付けられているそうだ。
盗賊という事で少し構えはしたが、村からあぶれた元農民が多いらしく素行が悪いというわけではないそうだ。
監視のために騎士団より人を回して頂けるようで、これで今年の作付けを無事に間に合わせることができる。
貸付の人数次第では昨年以上の収穫も見込めるだろう。
動ける者達に作付けではなく開墾のほうを指示しなければならないな。
まったく、あの人は神の御使いか何かなのだろうか。
村の窮地を救っただけでなく村の発展にまでご助力くださるなんて。
息子として迎え入れるのは非常にうれしいが頭が上がらない。
「ドリス、今日からは作付けではなく畑の拡張に従事するよう皆に伝えておきなさい。私は労働奴隷の皆さんが住む住居の準備をしなければなりません。」
「その辺に小屋を建てるだけではダメなのか。」
「領主様より正式に村の拡張をするようにと指示が出ています。今回の労働奴隷の貸付は今後の村の発展にも関わる大事な事業なのです。それに、雨風をしのげる場所がなければ次の日の力もわかないでしょう。」
領主様から村の拡張事業として予算も賜っている。
今度人口が増えることを考え、無計画に拡張するのではなくしっかりと計画を立てて拡張するようにとの命令だ。
労働奴隷とはいえ貴重な労働力だ。
無碍にするわけにはいかない。
それに奴隷とはいえイナバ殿の知り合いになるようだ。
丁重にお迎えせねばならないな。
「村の拡張か。俺は小さなこの村が好きだが他の者達が飢えるのはごめんだからな。この計画にもあの兄ちゃんが噛んでいるって話だろ。」
「正確には商店連合の思惑がからんでいるそうです。今後ダンジョンを利用する者が増えることを見越してあらかじめ準備をしておきたいと。」
「そういえばあの兄ちゃんあの廃墟に赴任してきたんだったな。最近は随分と綺麗に建て直しているって話しだし、そうかここも他の町のように大きくなるかもしれないんだな。」
ドリスは村の拡張に反対ではないようだな。
今度改めて他の者達に説明しなければならない。
森を切り開き、土を耕し、家を建て、生活する物を増やす。
今後人が増えるのであれば商店や宿などがあってもいいだろう。
村人たちにお金が行き渡れば皆の生活もよくなる。
そうすればまた人が増える。
豊かさは幸福の象徴だ。
ついこの間まで冬の飢えを皆で耐えていたというのに。
春が来たとたんに新しい命が芽吹くようだ。
これも全て彼のおかげだな。
「そういえば、イナバ殿達はお前の家を仮住まいとするそうだな。」
「あのバカ息子はシルビア様の下で10年ほど鍛えなおしてもらうように約束した。俺一人ではあの家は広すぎるし、商店ができるまでまだ日があるようだから俺のほうからお願いしてある。それでだ。」
やれやれ、こいつの考えることはどうしてこうわかりやすいのか。
悪意がないのが救いだが、もうすこし根回しというものを今後は覚えてもらわねばならんな。
村が大きくなれば人も増える。
人が増えれば、わだかまりも増え諍いも多くなるだろう。
そんな時に私以外に調停をして、皆をまとめる役割が必要になる。
ドリスには私の右腕としてしっかりと働いてもらわねばなるまい。
「イナバ殿がそちらの家を使うのであれば客間が空くだろう。何が悲しくてお前のようなむさ苦しい男と一緒に住まねばならんのだ。」
「俺が死ぬまで面倒見てやるから心配する必要はないぞ、ニッカさん。」
「孫の顔見るまでは死なんわこのバカモノが。」
近くにおらん息子の変わりではないが、息子のように可愛がっているのは間違いない。
ありがたいことにドリスもそう思ってくれているというのは嬉しい事だ。
「それで、家を建てるとしてもその資金はどうするんだ。領主様の話とはいえすぐに用立てできる物ではないんだろう。」
領主様の指示で予算が出るとはいえ、すぐにというわけにはいかん。
指示だけは早いが金払いが遅いのは何年経とうが昔と何にも変わらんな。
「その当座の資金もイナバ殿から預かっている。あの蜜玉を通常よりも高く売りさばいてきたそうだ。それに資材の売買についてもネムリ殿が間に入り安く卸してくれる。彼はいったい何を考えて普段生活しているんだろうな。」
イナバ殿には蜜玉を預けてあった。
村に帰ってきた際にネムリ殿からの残りを頂戴したが、彼はそれとは別に自分の蜜玉の分まで私に渡してきたのだ。
金貨14枚分。
これだけの金額があれば当座の資金と税の支払をしてもお釣りが来る。
もちろん断ろうとしたが
「この村への投資という事にしてください。この村が大きくなった暁には熨斗をつけて返してもらいますよ。」
と言われて返すことはできなかった。
熨斗とはなんだろうか。
利子という事でいいのだろう。
正直に言ってありがたい。
資金は潤沢にあり、税金の支払いにも困らず、労働力の問題も解決している。
村の怪我人も夏になればまた働くことができるだろう。
支払いだけでなく日常の仕入れに関しても商店やネムリ殿の融通を受けることができるそうだ。
なんと頼もしいことだろう。
この村で残りの人生をただ枯れていくだけと思っていた自分に、これほどの機会が訪れるとはおもっていなかった。
亡き妻にも愛娘の花嫁姿を見せたかったものだ。
いや、まだ式も挙げていないか。
「急に現れて村のごたごたを片付けて、いなくなったと思ったら今度は村を大きくさせて。あいつが何をしたいのか俺にはさっぱりだ。」
「私にもさっぱりだよ。ただ、彼がこの村の為に動いてくれたと言う事実は本当だ。私たちはその事実に報いるだけだ。これからも頼りにしているぞドリス。」
「これ以上こき使われると思うと手伝うの止めたくなるね。」
ドリスは笑いながら家へと戻っていった。
さて、やらなければならないことがたくさんあるな。
まずは顔を洗ってしっかり朝食を食べて。
今日はイナバ殿も朝食へ招待しよう。
もちろんエミリア殿もシルビアも一緒だ。
昨日持ってきてもらった食料の中に良い肉があったはずだ。
まだ食べていなければの話だが。
その後は久々にシルビアと話をしよう。
顔を見て話すなど何年ぶりだろうか。
いい子に育ってくれた。
もう一人はまぁ、適当にやっているそうだから問題ないだろう。
領主様に迷惑を掛けていなければそれでいい。
エミリア殿には商店の話を聞いていたほうがいいかもしれない。
今後この村をどのように発展させるべきかの件も聞きたい。
イナバ殿には、そうだな。
「おはようございますニッカさん。」
「おはようございますイナバ殿、昨晩は楽しい時間をありがとうございました。」
「こちらこそありがとうございました。」
どうやらイナバ殿も顔を洗いに来たようだ。
慣れない手つきでひげをそっている。
まだまだこの手の事には不慣れなようだな。
身の回りも含めてシルビアには覚えさせなければならないことがたくさんある。
こんなとき妻がいてくれたらと後悔するばかりだ。
「昨夜はよくお休みになれましたか。」
「おかげ様でエミリアもシルビア様もよくお休みになっています。良かったんでしょうかドリスさんを追い出したような形になってしまいましたが。」
「あの男一人で家を維持するのは難しいですから、商店が出来上がるまでお気軽にお使いください。」
「お言葉に甘えさせていただきます。」
このような事でしか恩を返すことができない現状に歯がゆさを感じる。
頂いた恩は時間をかけてでも大きくして返すとしよう。
彼が今後どのように成長するかも含めて私の楽しみだ。
何せ私の新しい息子になるのだから。
さぁ、新しい息子を迎える準備をするとしようか。
「イナバ殿、よろしければ我が家で朝食などいかがですか。もちろん、お休みの2人が起きてからですが。」
「喜んでお伺いいたします。起きるのがいつになるかはわかりませんが・・・。」
「あの娘はなかなか寝起きが悪いですからな、苦労を掛けます。」
「やはりそうですか。申し訳ありませんがのんびりとお待ちください。」
しばらくかかるだろうから準備をしておこう。
二日酔いに効くお茶と消化に良い食事。
こんなに幸福だと思える朝はいつぶりだろうか。
重たい頭にエンジンをかけつつ家へと戻る。
願わくば、この幸福がいつまでも続くことを。
昔であればあれぐらいの酒で酔いつぶれるようなことはなかったというのに。
最近は腰も膝も肩もと体中がよく悲鳴を上げる。
それでも村長としての勤めは私にしか勤まらない。
二日酔いなどに負けるわけにはいかんのだ。
井戸まで行くと先に使っている物がいた。
ドリスか。
「ニッカさん今日は随分と遅いんだな。まさかあれぐらいの酒で二日酔いになったんじゃないだろうな。」
「そのまさかですよ。昨日は最高の宴でしたからついつい飲みすぎたようです。」
昨日は人生の中で五本の指にはいる幸せな時間だった。
妻との結婚、子供たちの出産、旅立ち、そして。
「まさかシルビア様が戻ってくるなりあの兄ちゃんと婚約するって言うとは思っていなかった。ニッカさんもやっと孫の顔が見られるってわけだ。そりゃあ飲み過ぎるわけだな。」
そう、武芸のみを極めいまや騎士団の分団長まで勤め上げる愛娘が結婚するといってきたのだ。
しかも相手はあのイナバ殿だ。
色恋には全く興味がなく、強さのみを追いかけていたあの子に相手が見つかることはないと半ばあきらめていたというのに、孫の顔を見るまでまだまだ衰えてはおれんようだ。
「イナバ殿にも恐れ入る。三日ほど帰ってこないのはてっきり観光しているとばかり思っていたのだが、まさか向こうで盗賊を討伐し嫁まで作ってくるとは思わなかった。あの人は普通ではないと思っておったがまさか息子になろうとは。」
結婚するという事は息子になると言う事だ。
私は妻しか娶っておらんからわからんが、どうやらエミリア殿も同時にという約束のようだ。
そのことに関しては何も言うつもりはないし、むしろ喜ばしい。
「普通の兄ちゃんじゃないと思っていたがアリの次は盗賊か。それに作付けの労働力まで確保してくるなんてな。これで秋の収穫は安泰だ、感謝してもしきれないぜ全く。」
そうだ。
イナバ殿は人手不足の村の状況を領主様に訴え、労働奴隷の貸付まで交渉してきたのだ。
話によると今回の盗賊討伐の際に奴隷に落ちた者達という事であったが、騎士団の話によれば勤労奴隷として預かっているウェリスという者の部下らしくイナバ殿の監視下で労働するように義務付けられているそうだ。
盗賊という事で少し構えはしたが、村からあぶれた元農民が多いらしく素行が悪いというわけではないそうだ。
監視のために騎士団より人を回して頂けるようで、これで今年の作付けを無事に間に合わせることができる。
貸付の人数次第では昨年以上の収穫も見込めるだろう。
動ける者達に作付けではなく開墾のほうを指示しなければならないな。
まったく、あの人は神の御使いか何かなのだろうか。
村の窮地を救っただけでなく村の発展にまでご助力くださるなんて。
息子として迎え入れるのは非常にうれしいが頭が上がらない。
「ドリス、今日からは作付けではなく畑の拡張に従事するよう皆に伝えておきなさい。私は労働奴隷の皆さんが住む住居の準備をしなければなりません。」
「その辺に小屋を建てるだけではダメなのか。」
「領主様より正式に村の拡張をするようにと指示が出ています。今回の労働奴隷の貸付は今後の村の発展にも関わる大事な事業なのです。それに、雨風をしのげる場所がなければ次の日の力もわかないでしょう。」
領主様から村の拡張事業として予算も賜っている。
今度人口が増えることを考え、無計画に拡張するのではなくしっかりと計画を立てて拡張するようにとの命令だ。
労働奴隷とはいえ貴重な労働力だ。
無碍にするわけにはいかない。
それに奴隷とはいえイナバ殿の知り合いになるようだ。
丁重にお迎えせねばならないな。
「村の拡張か。俺は小さなこの村が好きだが他の者達が飢えるのはごめんだからな。この計画にもあの兄ちゃんが噛んでいるって話だろ。」
「正確には商店連合の思惑がからんでいるそうです。今後ダンジョンを利用する者が増えることを見越してあらかじめ準備をしておきたいと。」
「そういえばあの兄ちゃんあの廃墟に赴任してきたんだったな。最近は随分と綺麗に建て直しているって話しだし、そうかここも他の町のように大きくなるかもしれないんだな。」
ドリスは村の拡張に反対ではないようだな。
今度改めて他の者達に説明しなければならない。
森を切り開き、土を耕し、家を建て、生活する物を増やす。
今後人が増えるのであれば商店や宿などがあってもいいだろう。
村人たちにお金が行き渡れば皆の生活もよくなる。
そうすればまた人が増える。
豊かさは幸福の象徴だ。
ついこの間まで冬の飢えを皆で耐えていたというのに。
春が来たとたんに新しい命が芽吹くようだ。
これも全て彼のおかげだな。
「そういえば、イナバ殿達はお前の家を仮住まいとするそうだな。」
「あのバカ息子はシルビア様の下で10年ほど鍛えなおしてもらうように約束した。俺一人ではあの家は広すぎるし、商店ができるまでまだ日があるようだから俺のほうからお願いしてある。それでだ。」
やれやれ、こいつの考えることはどうしてこうわかりやすいのか。
悪意がないのが救いだが、もうすこし根回しというものを今後は覚えてもらわねばならんな。
村が大きくなれば人も増える。
人が増えれば、わだかまりも増え諍いも多くなるだろう。
そんな時に私以外に調停をして、皆をまとめる役割が必要になる。
ドリスには私の右腕としてしっかりと働いてもらわねばなるまい。
「イナバ殿がそちらの家を使うのであれば客間が空くだろう。何が悲しくてお前のようなむさ苦しい男と一緒に住まねばならんのだ。」
「俺が死ぬまで面倒見てやるから心配する必要はないぞ、ニッカさん。」
「孫の顔見るまでは死なんわこのバカモノが。」
近くにおらん息子の変わりではないが、息子のように可愛がっているのは間違いない。
ありがたいことにドリスもそう思ってくれているというのは嬉しい事だ。
「それで、家を建てるとしてもその資金はどうするんだ。領主様の話とはいえすぐに用立てできる物ではないんだろう。」
領主様の指示で予算が出るとはいえ、すぐにというわけにはいかん。
指示だけは早いが金払いが遅いのは何年経とうが昔と何にも変わらんな。
「その当座の資金もイナバ殿から預かっている。あの蜜玉を通常よりも高く売りさばいてきたそうだ。それに資材の売買についてもネムリ殿が間に入り安く卸してくれる。彼はいったい何を考えて普段生活しているんだろうな。」
イナバ殿には蜜玉を預けてあった。
村に帰ってきた際にネムリ殿からの残りを頂戴したが、彼はそれとは別に自分の蜜玉の分まで私に渡してきたのだ。
金貨14枚分。
これだけの金額があれば当座の資金と税の支払をしてもお釣りが来る。
もちろん断ろうとしたが
「この村への投資という事にしてください。この村が大きくなった暁には熨斗をつけて返してもらいますよ。」
と言われて返すことはできなかった。
熨斗とはなんだろうか。
利子という事でいいのだろう。
正直に言ってありがたい。
資金は潤沢にあり、税金の支払いにも困らず、労働力の問題も解決している。
村の怪我人も夏になればまた働くことができるだろう。
支払いだけでなく日常の仕入れに関しても商店やネムリ殿の融通を受けることができるそうだ。
なんと頼もしいことだろう。
この村で残りの人生をただ枯れていくだけと思っていた自分に、これほどの機会が訪れるとはおもっていなかった。
亡き妻にも愛娘の花嫁姿を見せたかったものだ。
いや、まだ式も挙げていないか。
「急に現れて村のごたごたを片付けて、いなくなったと思ったら今度は村を大きくさせて。あいつが何をしたいのか俺にはさっぱりだ。」
「私にもさっぱりだよ。ただ、彼がこの村の為に動いてくれたと言う事実は本当だ。私たちはその事実に報いるだけだ。これからも頼りにしているぞドリス。」
「これ以上こき使われると思うと手伝うの止めたくなるね。」
ドリスは笑いながら家へと戻っていった。
さて、やらなければならないことがたくさんあるな。
まずは顔を洗ってしっかり朝食を食べて。
今日はイナバ殿も朝食へ招待しよう。
もちろんエミリア殿もシルビアも一緒だ。
昨日持ってきてもらった食料の中に良い肉があったはずだ。
まだ食べていなければの話だが。
その後は久々にシルビアと話をしよう。
顔を見て話すなど何年ぶりだろうか。
いい子に育ってくれた。
もう一人はまぁ、適当にやっているそうだから問題ないだろう。
領主様に迷惑を掛けていなければそれでいい。
エミリア殿には商店の話を聞いていたほうがいいかもしれない。
今後この村をどのように発展させるべきかの件も聞きたい。
イナバ殿には、そうだな。
「おはようございますニッカさん。」
「おはようございますイナバ殿、昨晩は楽しい時間をありがとうございました。」
「こちらこそありがとうございました。」
どうやらイナバ殿も顔を洗いに来たようだ。
慣れない手つきでひげをそっている。
まだまだこの手の事には不慣れなようだな。
身の回りも含めてシルビアには覚えさせなければならないことがたくさんある。
こんなとき妻がいてくれたらと後悔するばかりだ。
「昨夜はよくお休みになれましたか。」
「おかげ様でエミリアもシルビア様もよくお休みになっています。良かったんでしょうかドリスさんを追い出したような形になってしまいましたが。」
「あの男一人で家を維持するのは難しいですから、商店が出来上がるまでお気軽にお使いください。」
「お言葉に甘えさせていただきます。」
このような事でしか恩を返すことができない現状に歯がゆさを感じる。
頂いた恩は時間をかけてでも大きくして返すとしよう。
彼が今後どのように成長するかも含めて私の楽しみだ。
何せ私の新しい息子になるのだから。
さぁ、新しい息子を迎える準備をするとしようか。
「イナバ殿、よろしければ我が家で朝食などいかがですか。もちろん、お休みの2人が起きてからですが。」
「喜んでお伺いいたします。起きるのがいつになるかはわかりませんが・・・。」
「あの娘はなかなか寝起きが悪いですからな、苦労を掛けます。」
「やはりそうですか。申し訳ありませんがのんびりとお待ちください。」
しばらくかかるだろうから準備をしておこう。
二日酔いに効くお茶と消化に良い食事。
こんなに幸福だと思える朝はいつぶりだろうか。
重たい頭にエンジンをかけつつ家へと戻る。
願わくば、この幸福がいつまでも続くことを。
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