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第二章

明かされた現実

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 正直暇だ。

 ウェリスが中に入ってしばらくはおとなしくまっていたが出てくる気配がない。

 裏切られたかと一瞬考えたが、裏切られてるのであれば中に入った時点で捕縛されているだろう。

 今は暇なので湖の湖畔で綺麗な石をさがしている。

 エミリアへのお土産だ。

 湖のそこのほうから湧き水のように綺麗な水が出ているらしく、川から水が入るタイプの湖と違って透明度が高い。

 そして非常に冷たい。

 ここを殲滅した後はここにプールを造って大儲けできそうだ。

 主に夏。

 問題はどこまで暑くなるかというところだな。

 あまり暑くならないのであればこの水の冷たさはちょっと堪える。

 あーでも温かい飲み物とかセットで売ればワンチャンあるんじゃないか。

 魚釣りでもいいけど、湧き水には栄養分が少ないからそんなに大きな魚はいそうにない。

 本当にここに国を作ったとしてどうやって外貨を獲得するつもりなのだろうか。

 観光資源しかないが、恐れられた土地に人が来ることもないだろう。

 鉱物とか金銀とか採掘できるなら別だけどさ。

 後は遺跡か。

 この湖の奥深くは遺跡と繋がっていて、そこには金銀財宝が!

 なんて夢物語でもあれば別だろう。

 水の中で呼吸する魔法とかあるのかな。

 あ、緑色の綺麗な石。

 そういえば元の世界では翡翠海岸なんて素晴らしい海岸があって実際に飛びきり大きな翡翠が見つかっているらしい。

 これもそうなのかなぁ。

 でも素人には全く判別がつかん。

 しまった、子供のときにもっと勉強しておけばよかった。

 だって電車や恐竜を覚える時間があったらゲームの呪文や攻略方法を探したかったし、そのほうが楽しかった。

「そこのお前、中でウェリス様がお呼びだ。」

 石ころを探していると先ほどの門番に呼ばれた。

 やれやれ、やっとお呼びがかかったか。

 中で何があったのか楽しみなような、めんどくさいような。

「すぐに参ります。」

 先ほどの緑の石だけをポケットにしまい、建物の中に入っていった。

 入り口で門番に簡単なボディーチェックを受けるも、短剣を回収されることもなく中に入れてくれた。

 え、何の為のボディーチェック。

 まさか体が触りたかっただけとか!

 いやん、不潔。

 冗談はさておき、中は思っていたよりも広くいくつかの部屋が作られている。

 廊下の向こうからウェリスが顔を出していた。

「シュウ、こっちだ。」

 はいはい、今参りますよ。

 廊下の奥は広い部屋に繋がっていた。

 イメージは民宿などにあるレクリエーションルームのような感じ。

 小学校の時に郊外学習などで泊まった宿についているあれだ。

 最奥は二段ほど高くなっており、そこに椅子が二つ並んでいる。

 これってドラ〇エでいう王様と王妃の椅子の並びだよな。

 でも座っているのは野郎が二人。

 一人は40ぐらいでガッツリ筋肉質。こっちがグランド。

 もう一人は同い年のような感じで細身で背が高い。こっちがエル。

 ウェリスが段の下に備えられた椅子に座っている。

「貴様がシュウか、今回はうちのウェリスが世話になった感謝する。」

 見た目もそうだが態度もでかいなグランドは。

「大体の話は聞かせてもらいました、騎士団の手から逃げてきたばかりか物資まで届けるとはその手腕を高く評価させてもらいます。」

 物腰が柔らかいのがエル。

 なんだか想像通りで面白くないな。

 とりあえず最初は持ち上げておくか。

「ありがたきお言葉恐縮です。」

 膝を着き頭を垂れる。

 騎士が受勲を受けるようなあれだ。

「それで、わざわざ俺たちの前にこいつを連れてきたのには理由があるんだろうウェリス。」

「こいつを新しいお抱えの商人として俺たちの組織に加えたい。街で使い捨てにしている商人ではなくもっと重要な仕事を任せられるだけの頭がこいつにはあると思っている。」

「それは今後を見据えたという事でしょうか。」

「その通りだ。今回の一件で使い捨ての商人に対するリスクが高いことは証明された。それに城塞都市では俺たちへの監視が厳しくなっている。実際アジトは襲撃され間一髪の所で逃げおおせたところだ。」

 なるほど、騎士団に襲撃される前に俺の仲間になれといわれた流れか。

「なに、他のやつらはどうなった。」

「それは別の連絡員から聞いています。夜中に騎士団分団長率いる集団に襲撃されてアジトは壊滅、なんでもアジトを見つけるために魔術師を雇ったとか。街で噂になっていた金持ち商人はこの方ですか。」

「その通りだ。町に来てすぐコッペンの居場所を突き止めやつから相応の金額をぶんどってる。口も達者だが情報を上手くつかって俺たちを救ってくれたのも事実だ。こいつの頭は金になる。それ以上に俺たちの役に立つ。」

 そんなにべた褒めされても何もでないし、こいつらの仲間になるつもりもない。

 けどそうやって評価されるのはやはりうれしいものだ。

「騎士団が動いたとなると当分城塞都市での商売は難しくなるな。最近は盗賊狩りのほうも活発になってるし別の場所で商売する必要があるか。」

「しかし城塞都市を除けば大分南まで足を伸ばさねばなりません。襲撃する街道を厳選して直接金品を狙うほうがいいでしょう。幸い明日には休息日が終わり商人の動きが活発になります。商隊もそれなりの量を動かすようになりますから一発当てると大きいでしょう。」

「しかしその為にはここを手薄にすることになるぞ、俺抜きでここを守り抜けるってのか。」

「その為に大金を掛けてあのような門を作ったのです。ウェリスはどう思いますか。」

 おいおい、一応まだ部外者だが今後の計画まで暴露してもいいのか。

「そうだな、城塞都市で商売できなくなった以上他の方法を選ぶしかないだろう。その為にこいつを連れてきたわけだからな。」

「ならお前はどう思う、なんていったか。」

「シュウです、グランド様。」

「シュウか。で、お前はなにができる。」

 そうだな、盗賊の仲間になったという仮定で考えるならばいくつか方法がある。

 しかし、その方法を選ぶ気があるかどうかは別だ。

 ここから少し揺さぶりを掛けてみるか。

「今のお話から考えますと城塞都市からは手を引くのがよろしいでしょう。多少は私が中に入って商いすることもできますが余り大きな稼ぎにはならないと思います。ならばエル様の言うように防御機構?を上手く利用し他の場所で仕入れをするのがよろしいかと。夏の節は農奴が多く移動しますので、それに乗じて奴隷を売買する方法もございます。」

「奴隷は扱わん。」

「それは何故でしょうか。」

「奴隷は動かすにも時間はかかるしごく潰しだ。持って行ったところでたいした値がつかない場合もある。それにここは町を捨てたり奴隷になった者が多い、他の者にも示しがつかん。」

「では奴隷ではなくここの水を売りに出すのはいかがでしょうか。」

 次の手だ。

「水、たかが水をどうやって売りつけるつもりだ。貴族に魔法の水とでも言ってだましてくるのか。」

「とんでもありません。ここの水は透明度も高く時期に限らずよく冷えていることでしょう。南の森を抜ければその先は砂漠地帯。水を欲する街はいくらでもあります。」

 ここを襲撃するときに地図を見た。

 この渓谷を境にして南には砂漠地帯が広がっている。

 話によれば雨季になると砂漠は減っていくのだが、乾季になると砂漠は一気に広がっていく。ちょうどその境目の町には必要な時期が絶対生まれる、それを勝機として長期的に売買すれば外貨を獲得できる。

「確かに長い目を見れば利益は出るでしょう。運搬用に荷車を改良し人を使い続ければ供給し続けることも可能です。なるほど、ここの水をそういう風に使いますか。」

「だが結局得られる金は僅かだろう。もっと派手に稼がないといつまで経ってもここは小さいままだぜ。」

 短期的に見ればそうだろう。

 しかし、これから長い年月ここでやっていくことを考えているのであればこれほど旨みのある物はない。

 グランドは見た目通り目先の物事しか考えられないタイプのようだ。

「商いとは短期ではなく長期での利益を優先します。ここを発展させる為には重要なことかと思いますが。」

「俺達はそんなちっさい仕事がしたいんじゃねぇんだよ。もっとでかい仕事で金儲けをしていきたいんだなぁウェリス。」

「確かに儲けを出せるには越したことはないが、継続して収入があるのなら他の連中にも金を回せるんじゃないのか。」

 その通り。

 自分たちしかいないのであればそれでいいかもしれない。

 しかしここには他に大勢の人が住んでいる。

 彼らを食わしていくのが国を治めるものの義務だ。

「そんなもの、仕事をしたやつは食わせてやるし仕事のできないやつは雑用するしかないだろ。そのためにも金が必要って言ってたじゃないかエル。」

「その通り、お金がなければ食料も買えませんからね。」

「そうだ、お前が来たって事は食い物持ってきたんだろ。最近まともな物食ってねぇからな。」

「食料は他の者達にも分配しておいてもよろしいでしょうか。」

 こいつらの考えはなんとなくわかった。

 所詮小さな盗賊でしかない。

 特にグランドはその典型だ。

「何言ってやがる、先に俺たちが食べて残りを他の連中に配ればいいだろうが。」

 目先のことしか考えていない者に国を動かせる器はない。

 ウェリス、これがお前の望んでいた国の現実だよ。

「恐れながらご質問してもよろしいでしょうか。」

「何でしょう。」

 食べ物のことしか考えていないグランドは部屋を出て行こうとする。

 まだだ。

 お前にもこの現実を突きつけなきゃ始まらないんだよ。

「お二人は誰も飢えることのない税金を搾り取られることのない国を作りたくてここに集ったとウェリス様から伺っております。それは間違いございませんか。」

「もちろんです。私たちは貴族などから理不尽な扱いを受け苦しむ人たちの代わりに国を作り立ち上がろうとしているのです。」

 そこまでは聞いている。

 だが現実はどうだ。

「ではその国を作ったとして、どうやって国を維持成長していかれるおつもりですか。」

「それはお前にさっき聞いただろうが。儲けを増やして大きくすればいいだろうが。」

「ではその儲けが少なくなった場合はどうします。この国を頼って集まってきた者達にどうやって食料を恵んでやるのです。」

 収入がなければ食っていくことはできない。

 食っていくことができなければ死んでしまう。

 それは人も国も同じだ。

「その分もっと稼ぎに行けば良いだけの話だろうが、お前何が言いたい。」

「少なくなった食料はどうやって分配するんです。先ほどのようにまずはお二人から、その次にウェリス様として最後の国民にまで食べ物はいきわたるのでしょうか。」

「優先的に配ればもちろん少なくなるでしょう。」

「ではその少なくなった人間はどうやって生きていくのです。国を追われ寄る辺なくここにたどり着いた者達を食っていかせる為にこの国を作ったのではなかったのですか。」

「しつこいやつだな、稼げばいいじゃねぇか。」

「稼ぎがないから食料がないのです。食料がなければ動けません。動ける人間なくどうやって稼ぎに行かれるおつもりですか。」

 こいつらは何もわかっていない。

 人の命を預かる大変さを全くといっていいほど考えていない。

「人なくして国は無し。貴方はそういいたいのですか。」

「この国のやり方は明らかに破綻しています。このようなやり方で他の人々が生きていけるはずが無い。にもかかわらず自ら先に利益をむさぼり下々のことは考えていない。そんな考えで国をつくろうなんてばかげているとお話しているのです。」

「お前、黙って聞いていればベラベラと失礼なこと言ってくれるじゃねぇか。その舌切り刻んでやろうか!」

 グランドが腰にぶら下げていた剣を抜きすごんでくる。

 ウェリスが間に入り仲裁に入る。

 もう少しだけ言わせてくれ。

「税をとらない理想は立派です。しかしながら他の者からの搾取に頼り、継続的な産業も無く、計画も無く国を運営しようなど非常識にも程がある。貴方方のやっていることは国を夢見た盗賊の戯言という事ですよ。ウェリスこれが貴方の望んでいた国の現状です。」

「お前、ぶっ殺してやる!」

「確かに俺が望んでいた理想とは明らかに違う。なぁグランド、俺が冬の節に持ってきた酒、あれをどうした。」

「あれか、いい酒だったぜ味も強さも申しぶんねぇ。全部飲んじまったよ。」

「エル以外のやつに飲ませたか。」

 ウェリスが何を言いたいのかわかった。

 そうだ、それが現実だよ。

「あんな上手い酒どうして他のやつらに振舞わなきゃいけないんだ。あいつらには安酒で十分だろうがよ。」

「あの酒はな、アジトにいた若いやつが無理して掻っ攫ってきた上物なんだよ。寒空の下で春を待ってるだろうここのやつらに、せめて体の中から温まってもらおうって考えて持ってきたんだ。ただ途中でドジ踏んで衛兵に切り殺されたけどな。」

「それがどうしたよ、俺は十分あったまらせてもらったけどな。」

「なんで他のやつにまわってないんだって言ってるんだよ!俺が町で何の為に無茶やってきたと思う。お前の為なんかじゃねぇここにいる仲間の為に命張って稼いできたんだ。それがお前の腹にだけ収まってきたって言うのはいったいどうやって説明付けてくれるんだえぇ!」

 ウェリスが切れた。

 それもそうだ。

 自分が思い描いていた理想のために悪事に手を染め危ない橋を渡り慕う仲間を犠牲にしてきた。

 しかし、その苦労の先にあるのは私服を肥やしてのうのうと胡坐をかく仲間の姿だ。

 私腹を肥やした代表が何だと思う。

 貴族だ。

 農民から搾取し、自分だけ上手い汁をすすってきたやつらと同じだ。

 彼らが一番嫌い、その呪縛から開放される為にたどり着いた理想の国で、

 現実は同じようなことが行われていたという事実。

 目を背けたくなるような現実に、ウェリスは吼えた。

「ウェリス、これが現実だよ。」

「ありがとうよ、シュウイチ。俺も目が覚めたぜ。」

 下の名前で呼ばれるとは思っていなかった。

 男の友情もいいものだよね。

「おいウェリスどういうことだ。こいつはいったい何者だ。返答によってはお前も容赦しねぇぞ。」

「返答次第でどうするって言うんだよ、グランド。」

「ひとつ、私からも質問よろしいですか。」

 静かだったエルが問いかけてきた。

「私が理想としていた物は無駄だったという事でしょうか。」

「理想は大事だ、信念ももちろん大事だ。ただ、それをかなえる為の準備ができて無さ過ぎる。現実を見ればもっと出来ることはたくさんあった。下々の声を聞けばできる選択肢は変わっていた。盗賊をやめ他のいき方を探すこともできたはずだ。でも、それをしなかった。結果として無駄に終わったという事です。」

 理想を掲げたエルとそれに同調したグランド。

 その夢を追いかけたウェリス。

 救われた者は結局一人もいなかったという事だ。

「そうですか。なら、今から再興してもけして遅くはないという事ですね。グランドこいつらを殺してもう一度やり直しましょう今度こそ私たちの理想を追いかけるべきです。」

「その言葉待っていたぜ、どけウェリス!」

 俺も腰の短剣を抜き構える。

 一触即発の空気が漂っている。

「もう少し貴方が早く仲間になっていたら変わっていたかもしれませんね。」

「タラレバでは現実は変わらない。現実は自分の足で歩いた場所だけが現実になるんです。」

「しかと心に刻み付けておきましょう。」

 現実を歩けるのは現実を見ている人だけだ。

 夢は歩く為の道しるべでしかない。

 夢だけを見て夢がかなうことはけしてない。

「グランド様!騎士団が、騎士団が襲ってきやがった。正門からだ!」

「てめぇらなにかしやがったな!」

 作戦は成功した。

 後は本隊にまかせるとしよう。

「ウェリス逃げるぞ!」

「先に行けシュウイチここは俺が食い止める。」

 死亡フラグ立てすぎだよバカ野郎。

「逃がすかよ!」

 グランドがウェリスに襲い掛かる。

 シミターのような円月上の剣がウェリスを襲う。

 スウェーのような動作で避け距離をとる。

 ウェリスは武器の帯同を許されていないので丸腰だ。

「ウェリス後でちゃんと返してもらうからな!」

 ダマスカスの短剣をウェリスへ投げる。

 ちゃんと返してもらうと約束したからな。

 ここでやられるわけにはいかない。

 外で待機していた兵が何事かと入ってきたところをラリアットでぶち倒し外に飛び出る。

 この辺りにはまだ騎士団は来ていないが、戦いの声が聞こえる。

 渓谷だからよく響く。

 まずはここから逃げることが先決だな。

 戦いはまだ、始まったばかりだ。
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