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第二章

番外編~ネムリの小言~

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 今朝の目覚めは上々だった。

 子供たちに起こされることもなく一番すっきりとしたタイミングでの起床。

 今日は隣村まで行商に出る日だ。

 馬車で片道4刻程。

 今から準備をして出れば日暮れまでには十分戻ってこれるだろう。

 今日は妻のおいしいご飯が食べられそうだ。

 まずは市場で日用品の買い付け。

 油や塩、掃除道具、食器や服まで何でもありだ。

 確か隣村は先日キラーアントの襲撃にあったとうわさで聞いた。

 なんでも商店連合の新しい店主とお付の女性スタッフが討伐に当たって無事撃退したらしい。

 他の商人が聞いた噂話に尾ひれをつけたに違いない。

 赴任早々魔物に襲われて、しかもそれを撃退するなんてまさに虫が良すぎる話だ。

 うん、うまい。

 今日は調子がいいな。

 しかし、その噂が本当なら店主に恩を売る絶好のチャンスだろう。

 お近づきになれば新しい商売相手が見つかるかもしれない。

 村を救ったとなれば領主様から恩賞が出てもおかしくはない。

 金持ちに近づいて悪いことはないと爺様も言っていた。

 時は銀貨よりも高し。

 誰よりも早くお近づきになるべきだ。

 店主には町で流行りだした軟膏を持っていこう。

 お付の女性はそうだな、妻に買った櫛を持っていこうか。

 残念ながら妻にはこの櫛は不評だった。

 どうもわがホビルトは髪の質が他の種族と違って硬質らしい。

 妻の髪に挿したものの全く役に立たなかった。

 次はもっと丈夫なものを選ぶことにしよう。

 あの櫛が役に立つのならば無駄にならなくて済む。

 一回しか使ってないしばれないばれない。

 そうだ、襲撃されたのならば薬も必要なのではないだろうか。

 怪我人も出ているという話だし、春の節が始まり備蓄も底をついているはずだ。

 これはいいことに気が付いた。

 良い儲け話になりそうだ。

 村長は珍しいお酒が手に入ったらほしいとも言っていたな。

 なんでも近々娘さんが帰ってくるのだとか。

 たしか騎士団の分団長様が娘さんだったと思うけど名前は何だったかな。

 あーそうだ、シルビア様だ。

 少し見た目は怖いけれど背が高くかっこいいと評判だった。

 副分団長のカムリ様もたいそう整った顔立ちをしているのだとか。

 妻が『名前は似てるのに貴方とは全然違うわね。』なんてひどいことを言っていた。

 顔立ちがいいのがお好きなようだ。

 この顔が好きで結婚してくれたわけではないとはいえ、他の男性にときめくのはいかがなものか。

 でもこの前、仕入れ先の奥さんが美人だったのをついつい見とれていたこともあったっけ。

 うーむ、人のことは言えないか。

 それよりも何よりも、うちの奥さんが一番綺麗だ。

 気立ても器量もいいし、自分にはもったいないぐらいの美人だし。

 この前の話をしたらあきれられたんだっけ。

 違う違う。

 仕事の事だった。

 仕入れは問題ない。

 後は向こうで何を買い付けてくるかだ。

 この冬はオオカミの動きが活発だったと聞いている。

 恐らくはグレーウルフの毛皮に干し肉がメインだろう。

 毛皮だったらたしか奥の服屋が秋冬の仕込みように買い付けをしていたな。

 まだ先の話だというのにご苦労様だ。

 お互い良い商いができればいいけれど。

 よし、準備はこれでよし。

 あとは店主の新しい情報を仕入れておけば問題ないかな。

 おや、もう妻は起きているのか。

 台所でいいにおいがするな。

「おはよう、ずいぶん早起きだね。」

「おはようネムリ、今日は行商に出る日でしょう。お弁当を作ろうと思って準備していたの。」

 なんだって、わざわざお弁当まで作ってくれたのか。

 子供たちがまだ寝てるからゆっくりしたらいいのに。

 いい奥さんをもらったなぁ。

「ありがとう、味はどうかな。うん、いつ食べても美味しいね。」

「やだネムリったら。褒めても何も出ませんよ。」

「あ、お父さんお母さんおはよう!」

 おや子供たちが起きてきたな。

 今日も元気だ、顔色もいい。

「おはよう、今日はよく眠れたかい。」

「うん!暖かくなっていつもよりたくさん寝ちゃった。お父さん今日はお仕事に出る日でしょう?」

「お父さんお仕事?お土産、お土産買ってきて!」

 お兄ちゃんはしっかりしているのに妹はまだまだ子供だな。

「こら、お父さんお仕事なんだから無理言わないの。」

「えー、でもでも私新しい玩具がほしいの。」

「それなら僕は新しいペンがほしいな。今のはもう擦れちゃってうまくインクが出ないんだ。」

「それなら私は新しいお鍋がほしいわねぇ。おいしいスープがたくさんできるような大きなのがほしいわ。」

 おいおい、みんな好き勝手言ってくれるな。

 なになに、玩具にペンにお鍋か。

 うーん、仕入れがうまくいったら良いけれど。

「お仕事がうまくいったら考えておくよ、それじゃあみんな行って来るね。」

「「お父さん行ってらっしゃい!」」

「アナタ、気を付けてね。」

 妻と子供たちに見送られて家を出る。

 よし、天気も良いし朝から家族の顔は見れたし。

 今日はいいことあるに違いない!

 今日も一日頑張るぞ!
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