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第二章
分団長は激しいのがお好き
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城壁は見上げれば首が痛いほどの大きさだった。
あの後なんとかリバースする事無く東門付近までたどり着いたが、すんなり中に入ることは許されなかった。
「そこの者、どうして騎士団の制止を聞かず止まらなかったのだ。事情だけでも話せ。」
まわにりは物騒な装備を持った兵士の皆様方。
輪の中心にいるのは俺を含めて3人。
状況の原因はこうだ。
盗賊から全速力で逃走し丘を下りだして一安心と思ったのも束の間、正面から歩いてくる武装集団を発見した。
「前、前からも物騒な人が歩いてきますよ。」
「くそ、主力は別にいたか。」
やり過ごしたはずだった、まさかこんな堂々と正面から来るとは思っていなかった。
「止まるなネムリ、止まるとやられる。」
「ですが、このまま突っ込むわけには。」
「万事休すか。」
街道のど真ん中を進んでくる武装集団。
このまま突っ込んで轢いてもかまわないが、さすがにこちらも無事というわけにも行かない。
脱輪し、横転し、放り出されて大怪我ということも十分考えられる。
しかし、このまま掴まったとしても結果は同じこと。
僅かな可能性に賭けて街道をそれようかとも考えたすると。
「そこの荷馬車、止まれ!」
止まれといわれても荷馬車は急に止まれない。
それに止まって何をされるかもわからない。
「どうします、どうします、どうします!」
パニックを起こすネムリを横目に何か無いか策を考える
しかし、こちらも何も思いつかない。
最悪を考えていたそのときだった。
「シュウイチさん、大鷲のエンブレムです。騎士団の方です!」
エミリアが集団の掲げるエンブレムに気づいた。
騎士団。
何でこんなところに。
行軍かなにかか。
しかしこのスピードでは止まれない。
「ネムリ、止まれ、急停止だ!」
「そんな無茶な、急になんて止まれませんよ!」
「すみません、どいてくださぁぁぁぁぁぁい!」
時かけの自転車のごとく大声で叫びながら騎士団に退避を促す。
馬の嘶きと騎士団の怒号と我々の叫び声が青空に響き渡った。
そして、停車できたのが東門の手前。
何とか止まり、ふらふらしながら荷馬車を降り現在の状況に至る。
「恐れながら騎士団様、私達は盗賊の集団に襲われ命からがらこの町まで走ってきたのでございます。先ほど止まれなかったのは前からこられたのが騎士団の皆様と気づかず、気づいたときには止まれない状況でございました。けして、騎士団の皆様の制止を無視したわけではございません。」
ネムリが平身低頭騎士団に説明をする。
むさ苦しい集団の中にポッと咲いたバラが一輪ある。
まさにそう表現するのが正しいだろう、バラのように鮮やかな赤色の髪の毛、それと同じ真っ赤なハーフプレートに身を包んだ女性が一人まざっている。
「何、盗賊に出会ったと申すか。」
「はい、この丘の先に馬のいない荷馬車がおりました。故障か何かかと思い近づきましたが荷馬車にはギルドのエンブレムがございませんでしたので、こちらの方のとっさの判断で盗賊と気づき逃げおおせたところだったのでございます。」
「分団長、荷台に矢が刺さっております。おそらくその証言に間違いないかと。」
やっぱり刺さってた。
荷台だったから良いものの、中央に飛んできてたら毛皮を突き抜けて刺さっていたかもしれない。
おそろしやおそろしや。
「そうか。当直全員に集合をかけろ。行軍訓練中止ただいまより盗賊狩りをはじめる。直ちに準備せよ!」
「「「はい」」」
分団長の指示で騎士たちが素早く行動を始める。
一人は伝令に、他の者は装備の準備。
統率の取れた素早い行動だ。
かっこいい。
本物の騎士団とかお目にかかれると思っていなかった。
剣と魔法の世界に来たという実感がわいてくる。
騎士団の一糸乱れぬ行動に驚いたが、一番驚いたのが分団長と呼ばれたのがあの赤いハーフプレートの女性だということ。
通常、戦の時には目立つ色鎧を着ることはない。
矢の的になってしまうからだ。
旗色で目立つ色を使うことはあるが、あれだけ目立つ色の鎧を着るということはよっぽど腕が立つのだろう。
集団戦になったときには真っ先に狙われる。
それをあえて着ているのだ。
烈火の如き赤き鎧は誉れ高き分団長か。
どこぞの吟遊詩人が歌でも作っているかもな。
いるかしらないけど。
「詳細は戻り次第詳しく聞かせてもらう。昼の鐘の頃に騎士団詰め所まで出頭するように。おぬし名は。」
「この町で商いをしておりますネムリと申します、シルビア様。」
「うむ、ネムリとやら一人借りて行くぞ。」
ん、借りていく。
誰をだ。
「お前だ行くぞ。」
え、俺か。
なんで、どうして、まじか。
状況が全くわからない。
わからないが、とりあえず現場を見た人間を連れて行かないことには始まらないんだろう。
気弱な商人と女性を除けば、残るのは俺か。
「シュウイチさん。」
エミリアが不安そうに名前を呼ぶ。
そんな、不安そう顔でな見ないでも大丈夫。
ちょっとお呼ばれするだけだから、たぶん。
「ちょっと、行って来るだけだから。エミリアは先に商店連合の用事を済ませておいて、またお昼に!」
ここでポイント。
『大丈夫、無事に生きて帰ってくるから』とか、『心配するな、帰ってくる』なんて言ってはいけません。
え、それはなぜって。
死亡フラグバンバン立ててしまうからですよ。
自分から死にに行くようなことをしてはいけません。
ですので、ちょっとランチに行って来るぐらいのノリで答えるのが良いでしょう。
以上、死亡フラグ回避豆知識でした。
「貴様、名はなんと申す。」
エミリアに別れを告げ分団長と共に歩きだす。
物言いといい、雰囲気といい、分団長様となると違うな。
それが赤い鎧を身にまとってしかも美人となると言う事なしだ。
背は俺と変わらない、鮮やかな赤い髪がくくられて風になびいている。
スポーツ系ってポニーテールが似合うイメージだけどやっぱり似合うね。
色の効果もあって他の騎士団員よりも三倍強そう。
「は、イナバと申します。分団長様。」
「イナバ、そうか貴殿が父の言っていたイナバ殿か。こんなところで会うのも何かの縁、この度は父が大変お世話になった。」
急に言葉遣いが丁寧になる分団長。
いや、お父上様とはお会いしていないかと思いますがどういうことだ。
まだお嫁さんにくださいとは言いに行ってないんだけど。
うん。
俺にはエミリアという非常に可愛いと思う子がいてですね。
ってちがう。
「いまいちお話が読めませんが、どういうことでしょうか。」
「おっと、話を急いてしまった申し訳ない。私の悪い癖だ。」
なんだよ、美人なのに照れると可愛いとか反則だろ。
急に話し方も変わってツンデレか、ツンデレなのか!
「私はシルビアと申す、我が父はニッカと言い村長をしておる。ここまで言えばもうお分かりになるかな。」
マジか、父がニッカさんってもしかして娘か!
村長こんな美人の娘がいたのかよ。
知ってたら、報酬に娘さんをお嫁にくださいってお願いしといたのに。
「ニッカさんの御息女様でしたか。まさかこんな形でお会いするとは思っていませんでしたが、どうして私のことを。」
「父から手紙を受け取っていてな、村の状況とこの度の襲撃の件の報告を受けている。我が騎士団はその時、別地域の魔物を退治しに行っていて留守にしていてな。大変助かった。父の命を救って頂いて本当に感謝している。」
なるほど。
そりゃあんな襲撃あったら騎士団なり領主に報告するか。
報・連・相が良く出来てる証拠だ。
「いえいえ、今回の件は私一人の手柄ではございません。たまたま私はあの村にいただけであって襲撃は村人全員で撃退したまでです。私の力など微々たるものですよ。」
「なるほど、その謙虚さも父の言う通りだな。そなたの功績は父から領主様にも上がっている、後日改めて連絡があるだろう。それよりもまずは盗賊の件について話を聞かせてもらおうか」
そうだった、連行されている理由は盗賊の殲滅だった。
「その丘を越えた先、街道の左側に荷馬車がありました。馬はおらずエンブレムはなく情報から盗賊と判断して逃走しました。振り返って確認したところ6人の盗賊は確認できました、うち弓兵が2名他4人の装備はわかりません。状況から反対側の森にも隠れている可能性もあるかと。」
「そのような状況でよく判断できたな。最近この近辺で盗賊の被害にあう者が多くてな、巡回を強化しておったのだが詳しい状況を聞ける者がおらんかったのだ、貴重な情報に礼を言う。」
「お礼など結構でございます分隊長様。」
「シルビアでよい。父の恩人にそのような言葉遣いで話されるとやりにくくてな。」
いや、呼び捨てにすると他の団員の目があるからそういうわけにもいかないんだけど。
「分団長、部隊12名準備完了しました。」
「これより盗賊狩りを開始する。こちらのイナバ殿の情報によれば敵は6人、内2人は弓で武装している。丘の上左側の荷馬車に隠れているとの情報だ。各自丘の上まで行軍の後、4名は右側へ残りは左側へ散開し進軍。敵を発見しだい殲滅しろ。小者はいらん、リーダーと思われるもののみ残せ。なに、腕の一本や二本なくてもかまわん、しゃべる口だけ残っていればいい。」
殲滅ってこれまた物騒だな。
生き残りはリーダーのみで捕虜は要らないということか。
盗賊相手にこの装備、容赦ないな。
赤き分団長はどうやら激しいのがお好みのようだ。
それで、情報提供した俺はどうなるの。
「イナバ殿は先日のキラーアント襲撃の際に村人を指揮して守った優秀な御仁である。皆の物存分に働いてくれ。」
いやいや、何でそんなに持ち上げるの。
全員が見てくる視線が痛い。
こんな細いのとか絶対思われてる。
そんな期待する目で見ないでほしい、ただのオタクサラリーマンですって。
「以上、進軍開始!」
シルビアの指示に続き部隊が進軍を始める。
錬度の高い統率の取れた進軍だ。
先ほど盗賊とすれ違ってから時間が経っている。
おそらくはもう逃げてしまっていないだろう。
普通に考えて町のほうに逃げたのだから自警団か何かに報告をすると考えるだろう。
わざわざ残って待ち構えているバカはいない。
それがシルビアにもわかってるはずなのにわざわざ装備を厳重にして進むには何かわけがあるに違いない。
そして、それには成り行きで俺も参加しなければならないというわけだ。
乱戦になったら間違いなく死ぬんですけど。
武器もないし、守れるほど強くないし。
一般人連れてきて何させようって言うんだかまったく。
部隊は丘の上に到着後、予定通り散開。
静かに目的の荷馬車まで到着。
しかし、予想の通り盗賊の姿はなかった。
「分団長、やつらの姿は見えませんやはり先に逃げ出したようです。」
「各自周辺を探索、ついさっきだそれほど遠くまではいっていないだろう。」
団員が警戒しつつ周囲を捜索し始める。
うーむ、俺なら逃走するならどうするかな。
森の奥に逃げて、折を見てもどってくる。
バラバラで逃走し、所定の隠れ家に戻る。
逃げるだけなら簡単だろうし、普段からここで追剥みたいなことしているんだから奪った物をためておく場所も必要だろう。
隠れ家に戻ると考えるのが普通か。
でも奪った物は換金しないと何にもならないし、手を組んでいる行商人に買い取ってもらうかもしくは変装して自分で売りに行くしか方法はない。
「イナバ殿貴方はどう思う。」
いや、そこは貴女の仕事だとおもうんですがどうして聞いてくるのかな。
そんな怖い目でこっち見ないでもらえるかな、ちゃんと答えるから。
「そうですね、森の奥にバラバラで逃げて後で隠れ家に集合というのが一般的でしょうか。騎士団は何か情報を掴んでいるんですか。」
「そのような場所を見たという報告も確かにある。しかしながら詳しい場所まではわかっていないのだ。」
そらそうだ。方位磁石もGPSもないんだから場所なんて特定できるはずもない。
後を追いかけていくか、なにか目印になるような物を残していないとダメだろう。
「そうですか。この森ですから探すとなるとこの人数では難しいでしょう。」
「やはりそうか、なにか手がかりでも見つかればいいのだが。」
まぁ足跡ぐらいでこれといった物はおそらくないだろうな。
ならば他の手で見つけるしかない。
「襲われた人たちは把握されていますか。」
「自警団、騎士団に逃げ込んできた者は把握している。」
「ならば、その人たちが運んでいた荷の詳細は。」
「それも把握している。主に日用品や酒、作物の種が多いな。」
どれもありふれた物過ぎて目印になるような物はないな。
普段は当たり前でも今だけ珍しいという物があればいいんだが。
「ごくありふれたものか。うーん。」
特に珍しい物はなし。
ネムリのように毛皮とかだったら売りに行ったときにわかるだろうけど、全ての人が買うようなものだと売買していても確認しようがないな。
もっと情報がほしい。
「襲われたのはどんな人たちですか。」
「皆町から村に荷を運んでいた行商人たちだ。この時期はどの村も作付けの忙しい時期でな、秋の収穫のために種を欲している。それに冬の備蓄が尽き、仕入れを行う時期なだけにやつらの動きも活発になり始めていたのだ。」
なるほど、荷物の運搬が盛んな時期だからこそ襲撃も多くなっているんだな。
奪う為の物が多い。
それを貯めて、自分たちの食料や生活に使っているんだろう。
宝石や武器なども荷に混ざっているかもしれない。
そうすればもっと収入は増え、勢力を伸ばしていくだろう。
この人数しかおらず、後ろに大きな組織がないのであれば今叩いておかないと厄介なことになる。
なるほど、だから分団長直々に盗賊退治なんかしてるのか。
おそらく上の人から何か言われているんだろうな。
主に町の領主様とかその辺から。
うーむ、なにかないか。
雑魚盗賊とはいえ簡単には足を出さないと思うが、何かヘマぐらいはしそうだ。
俺見たいなど素人に出し抜かれるぐらいだし。
食料、日用品、種、酒、油とか農具か。
ネムリみたいに薬もあるだろうし、仕入れ用に現金も持っていただろう。
羽振りが良くなると何に手を出す。
酒か。いや、奪った物にある。
食い物か。うーん、同じだな。
宝石。なくはないが、男所帯だろうし豚に真珠だ。
女か。これはありえるな。
急に羽振りが良くなって、ふだん普通の行商人が手を出す物を買わず、女を買うようなやつ。
あとは・・・。
あれ、これこいつらどうするんだ。
使い道ないよな。
だとしたら・・・。
「これ以上ここを探しても何もでんか。総員撤退準備、町に戻るぞ。」
「「「了解しました」」」
団員が駆け足で集まり、町へと戻っていく。
「イナバ殿世話をかけたな。」
「いえいえ、分団長殿」
「シルビアだ。」
「・・・シルビア殿のお役に立てず申し訳ありません。」
ものすごい目で言い直させられられた。
シルビア殿は怒らないんだ。
当分これで行くしかないな。
「詳しい話は聞いたが、申し訳ないが昼にまた詰め所までお願いしたい。役所仕事でな、書面でまとめねばならんのだ。」
どの世界もお役所仕事めんどくさいようだ。
「畏まりました、またそのときに。」
騎士団に先導され町まで戻る。
うーむ、仮定が正しいのであればもしかしたらやつらの尻尾つかめるかもしれないな。
次の手を考えながら無事、城塞都市の中に入ることが出来た。
あの後なんとかリバースする事無く東門付近までたどり着いたが、すんなり中に入ることは許されなかった。
「そこの者、どうして騎士団の制止を聞かず止まらなかったのだ。事情だけでも話せ。」
まわにりは物騒な装備を持った兵士の皆様方。
輪の中心にいるのは俺を含めて3人。
状況の原因はこうだ。
盗賊から全速力で逃走し丘を下りだして一安心と思ったのも束の間、正面から歩いてくる武装集団を発見した。
「前、前からも物騒な人が歩いてきますよ。」
「くそ、主力は別にいたか。」
やり過ごしたはずだった、まさかこんな堂々と正面から来るとは思っていなかった。
「止まるなネムリ、止まるとやられる。」
「ですが、このまま突っ込むわけには。」
「万事休すか。」
街道のど真ん中を進んでくる武装集団。
このまま突っ込んで轢いてもかまわないが、さすがにこちらも無事というわけにも行かない。
脱輪し、横転し、放り出されて大怪我ということも十分考えられる。
しかし、このまま掴まったとしても結果は同じこと。
僅かな可能性に賭けて街道をそれようかとも考えたすると。
「そこの荷馬車、止まれ!」
止まれといわれても荷馬車は急に止まれない。
それに止まって何をされるかもわからない。
「どうします、どうします、どうします!」
パニックを起こすネムリを横目に何か無いか策を考える
しかし、こちらも何も思いつかない。
最悪を考えていたそのときだった。
「シュウイチさん、大鷲のエンブレムです。騎士団の方です!」
エミリアが集団の掲げるエンブレムに気づいた。
騎士団。
何でこんなところに。
行軍かなにかか。
しかしこのスピードでは止まれない。
「ネムリ、止まれ、急停止だ!」
「そんな無茶な、急になんて止まれませんよ!」
「すみません、どいてくださぁぁぁぁぁぁい!」
時かけの自転車のごとく大声で叫びながら騎士団に退避を促す。
馬の嘶きと騎士団の怒号と我々の叫び声が青空に響き渡った。
そして、停車できたのが東門の手前。
何とか止まり、ふらふらしながら荷馬車を降り現在の状況に至る。
「恐れながら騎士団様、私達は盗賊の集団に襲われ命からがらこの町まで走ってきたのでございます。先ほど止まれなかったのは前からこられたのが騎士団の皆様と気づかず、気づいたときには止まれない状況でございました。けして、騎士団の皆様の制止を無視したわけではございません。」
ネムリが平身低頭騎士団に説明をする。
むさ苦しい集団の中にポッと咲いたバラが一輪ある。
まさにそう表現するのが正しいだろう、バラのように鮮やかな赤色の髪の毛、それと同じ真っ赤なハーフプレートに身を包んだ女性が一人まざっている。
「何、盗賊に出会ったと申すか。」
「はい、この丘の先に馬のいない荷馬車がおりました。故障か何かかと思い近づきましたが荷馬車にはギルドのエンブレムがございませんでしたので、こちらの方のとっさの判断で盗賊と気づき逃げおおせたところだったのでございます。」
「分団長、荷台に矢が刺さっております。おそらくその証言に間違いないかと。」
やっぱり刺さってた。
荷台だったから良いものの、中央に飛んできてたら毛皮を突き抜けて刺さっていたかもしれない。
おそろしやおそろしや。
「そうか。当直全員に集合をかけろ。行軍訓練中止ただいまより盗賊狩りをはじめる。直ちに準備せよ!」
「「「はい」」」
分団長の指示で騎士たちが素早く行動を始める。
一人は伝令に、他の者は装備の準備。
統率の取れた素早い行動だ。
かっこいい。
本物の騎士団とかお目にかかれると思っていなかった。
剣と魔法の世界に来たという実感がわいてくる。
騎士団の一糸乱れぬ行動に驚いたが、一番驚いたのが分団長と呼ばれたのがあの赤いハーフプレートの女性だということ。
通常、戦の時には目立つ色鎧を着ることはない。
矢の的になってしまうからだ。
旗色で目立つ色を使うことはあるが、あれだけ目立つ色の鎧を着るということはよっぽど腕が立つのだろう。
集団戦になったときには真っ先に狙われる。
それをあえて着ているのだ。
烈火の如き赤き鎧は誉れ高き分団長か。
どこぞの吟遊詩人が歌でも作っているかもな。
いるかしらないけど。
「詳細は戻り次第詳しく聞かせてもらう。昼の鐘の頃に騎士団詰め所まで出頭するように。おぬし名は。」
「この町で商いをしておりますネムリと申します、シルビア様。」
「うむ、ネムリとやら一人借りて行くぞ。」
ん、借りていく。
誰をだ。
「お前だ行くぞ。」
え、俺か。
なんで、どうして、まじか。
状況が全くわからない。
わからないが、とりあえず現場を見た人間を連れて行かないことには始まらないんだろう。
気弱な商人と女性を除けば、残るのは俺か。
「シュウイチさん。」
エミリアが不安そうに名前を呼ぶ。
そんな、不安そう顔でな見ないでも大丈夫。
ちょっとお呼ばれするだけだから、たぶん。
「ちょっと、行って来るだけだから。エミリアは先に商店連合の用事を済ませておいて、またお昼に!」
ここでポイント。
『大丈夫、無事に生きて帰ってくるから』とか、『心配するな、帰ってくる』なんて言ってはいけません。
え、それはなぜって。
死亡フラグバンバン立ててしまうからですよ。
自分から死にに行くようなことをしてはいけません。
ですので、ちょっとランチに行って来るぐらいのノリで答えるのが良いでしょう。
以上、死亡フラグ回避豆知識でした。
「貴様、名はなんと申す。」
エミリアに別れを告げ分団長と共に歩きだす。
物言いといい、雰囲気といい、分団長様となると違うな。
それが赤い鎧を身にまとってしかも美人となると言う事なしだ。
背は俺と変わらない、鮮やかな赤い髪がくくられて風になびいている。
スポーツ系ってポニーテールが似合うイメージだけどやっぱり似合うね。
色の効果もあって他の騎士団員よりも三倍強そう。
「は、イナバと申します。分団長様。」
「イナバ、そうか貴殿が父の言っていたイナバ殿か。こんなところで会うのも何かの縁、この度は父が大変お世話になった。」
急に言葉遣いが丁寧になる分団長。
いや、お父上様とはお会いしていないかと思いますがどういうことだ。
まだお嫁さんにくださいとは言いに行ってないんだけど。
うん。
俺にはエミリアという非常に可愛いと思う子がいてですね。
ってちがう。
「いまいちお話が読めませんが、どういうことでしょうか。」
「おっと、話を急いてしまった申し訳ない。私の悪い癖だ。」
なんだよ、美人なのに照れると可愛いとか反則だろ。
急に話し方も変わってツンデレか、ツンデレなのか!
「私はシルビアと申す、我が父はニッカと言い村長をしておる。ここまで言えばもうお分かりになるかな。」
マジか、父がニッカさんってもしかして娘か!
村長こんな美人の娘がいたのかよ。
知ってたら、報酬に娘さんをお嫁にくださいってお願いしといたのに。
「ニッカさんの御息女様でしたか。まさかこんな形でお会いするとは思っていませんでしたが、どうして私のことを。」
「父から手紙を受け取っていてな、村の状況とこの度の襲撃の件の報告を受けている。我が騎士団はその時、別地域の魔物を退治しに行っていて留守にしていてな。大変助かった。父の命を救って頂いて本当に感謝している。」
なるほど。
そりゃあんな襲撃あったら騎士団なり領主に報告するか。
報・連・相が良く出来てる証拠だ。
「いえいえ、今回の件は私一人の手柄ではございません。たまたま私はあの村にいただけであって襲撃は村人全員で撃退したまでです。私の力など微々たるものですよ。」
「なるほど、その謙虚さも父の言う通りだな。そなたの功績は父から領主様にも上がっている、後日改めて連絡があるだろう。それよりもまずは盗賊の件について話を聞かせてもらおうか」
そうだった、連行されている理由は盗賊の殲滅だった。
「その丘を越えた先、街道の左側に荷馬車がありました。馬はおらずエンブレムはなく情報から盗賊と判断して逃走しました。振り返って確認したところ6人の盗賊は確認できました、うち弓兵が2名他4人の装備はわかりません。状況から反対側の森にも隠れている可能性もあるかと。」
「そのような状況でよく判断できたな。最近この近辺で盗賊の被害にあう者が多くてな、巡回を強化しておったのだが詳しい状況を聞ける者がおらんかったのだ、貴重な情報に礼を言う。」
「お礼など結構でございます分隊長様。」
「シルビアでよい。父の恩人にそのような言葉遣いで話されるとやりにくくてな。」
いや、呼び捨てにすると他の団員の目があるからそういうわけにもいかないんだけど。
「分団長、部隊12名準備完了しました。」
「これより盗賊狩りを開始する。こちらのイナバ殿の情報によれば敵は6人、内2人は弓で武装している。丘の上左側の荷馬車に隠れているとの情報だ。各自丘の上まで行軍の後、4名は右側へ残りは左側へ散開し進軍。敵を発見しだい殲滅しろ。小者はいらん、リーダーと思われるもののみ残せ。なに、腕の一本や二本なくてもかまわん、しゃべる口だけ残っていればいい。」
殲滅ってこれまた物騒だな。
生き残りはリーダーのみで捕虜は要らないということか。
盗賊相手にこの装備、容赦ないな。
赤き分団長はどうやら激しいのがお好みのようだ。
それで、情報提供した俺はどうなるの。
「イナバ殿は先日のキラーアント襲撃の際に村人を指揮して守った優秀な御仁である。皆の物存分に働いてくれ。」
いやいや、何でそんなに持ち上げるの。
全員が見てくる視線が痛い。
こんな細いのとか絶対思われてる。
そんな期待する目で見ないでほしい、ただのオタクサラリーマンですって。
「以上、進軍開始!」
シルビアの指示に続き部隊が進軍を始める。
錬度の高い統率の取れた進軍だ。
先ほど盗賊とすれ違ってから時間が経っている。
おそらくはもう逃げてしまっていないだろう。
普通に考えて町のほうに逃げたのだから自警団か何かに報告をすると考えるだろう。
わざわざ残って待ち構えているバカはいない。
それがシルビアにもわかってるはずなのにわざわざ装備を厳重にして進むには何かわけがあるに違いない。
そして、それには成り行きで俺も参加しなければならないというわけだ。
乱戦になったら間違いなく死ぬんですけど。
武器もないし、守れるほど強くないし。
一般人連れてきて何させようって言うんだかまったく。
部隊は丘の上に到着後、予定通り散開。
静かに目的の荷馬車まで到着。
しかし、予想の通り盗賊の姿はなかった。
「分団長、やつらの姿は見えませんやはり先に逃げ出したようです。」
「各自周辺を探索、ついさっきだそれほど遠くまではいっていないだろう。」
団員が警戒しつつ周囲を捜索し始める。
うーむ、俺なら逃走するならどうするかな。
森の奥に逃げて、折を見てもどってくる。
バラバラで逃走し、所定の隠れ家に戻る。
逃げるだけなら簡単だろうし、普段からここで追剥みたいなことしているんだから奪った物をためておく場所も必要だろう。
隠れ家に戻ると考えるのが普通か。
でも奪った物は換金しないと何にもならないし、手を組んでいる行商人に買い取ってもらうかもしくは変装して自分で売りに行くしか方法はない。
「イナバ殿貴方はどう思う。」
いや、そこは貴女の仕事だとおもうんですがどうして聞いてくるのかな。
そんな怖い目でこっち見ないでもらえるかな、ちゃんと答えるから。
「そうですね、森の奥にバラバラで逃げて後で隠れ家に集合というのが一般的でしょうか。騎士団は何か情報を掴んでいるんですか。」
「そのような場所を見たという報告も確かにある。しかしながら詳しい場所まではわかっていないのだ。」
そらそうだ。方位磁石もGPSもないんだから場所なんて特定できるはずもない。
後を追いかけていくか、なにか目印になるような物を残していないとダメだろう。
「そうですか。この森ですから探すとなるとこの人数では難しいでしょう。」
「やはりそうか、なにか手がかりでも見つかればいいのだが。」
まぁ足跡ぐらいでこれといった物はおそらくないだろうな。
ならば他の手で見つけるしかない。
「襲われた人たちは把握されていますか。」
「自警団、騎士団に逃げ込んできた者は把握している。」
「ならば、その人たちが運んでいた荷の詳細は。」
「それも把握している。主に日用品や酒、作物の種が多いな。」
どれもありふれた物過ぎて目印になるような物はないな。
普段は当たり前でも今だけ珍しいという物があればいいんだが。
「ごくありふれたものか。うーん。」
特に珍しい物はなし。
ネムリのように毛皮とかだったら売りに行ったときにわかるだろうけど、全ての人が買うようなものだと売買していても確認しようがないな。
もっと情報がほしい。
「襲われたのはどんな人たちですか。」
「皆町から村に荷を運んでいた行商人たちだ。この時期はどの村も作付けの忙しい時期でな、秋の収穫のために種を欲している。それに冬の備蓄が尽き、仕入れを行う時期なだけにやつらの動きも活発になり始めていたのだ。」
なるほど、荷物の運搬が盛んな時期だからこそ襲撃も多くなっているんだな。
奪う為の物が多い。
それを貯めて、自分たちの食料や生活に使っているんだろう。
宝石や武器なども荷に混ざっているかもしれない。
そうすればもっと収入は増え、勢力を伸ばしていくだろう。
この人数しかおらず、後ろに大きな組織がないのであれば今叩いておかないと厄介なことになる。
なるほど、だから分団長直々に盗賊退治なんかしてるのか。
おそらく上の人から何か言われているんだろうな。
主に町の領主様とかその辺から。
うーむ、なにかないか。
雑魚盗賊とはいえ簡単には足を出さないと思うが、何かヘマぐらいはしそうだ。
俺見たいなど素人に出し抜かれるぐらいだし。
食料、日用品、種、酒、油とか農具か。
ネムリみたいに薬もあるだろうし、仕入れ用に現金も持っていただろう。
羽振りが良くなると何に手を出す。
酒か。いや、奪った物にある。
食い物か。うーん、同じだな。
宝石。なくはないが、男所帯だろうし豚に真珠だ。
女か。これはありえるな。
急に羽振りが良くなって、ふだん普通の行商人が手を出す物を買わず、女を買うようなやつ。
あとは・・・。
あれ、これこいつらどうするんだ。
使い道ないよな。
だとしたら・・・。
「これ以上ここを探しても何もでんか。総員撤退準備、町に戻るぞ。」
「「「了解しました」」」
団員が駆け足で集まり、町へと戻っていく。
「イナバ殿世話をかけたな。」
「いえいえ、分団長殿」
「シルビアだ。」
「・・・シルビア殿のお役に立てず申し訳ありません。」
ものすごい目で言い直させられられた。
シルビア殿は怒らないんだ。
当分これで行くしかないな。
「詳しい話は聞いたが、申し訳ないが昼にまた詰め所までお願いしたい。役所仕事でな、書面でまとめねばならんのだ。」
どの世界もお役所仕事めんどくさいようだ。
「畏まりました、またそのときに。」
騎士団に先導され町まで戻る。
うーむ、仮定が正しいのであればもしかしたらやつらの尻尾つかめるかもしれないな。
次の手を考えながら無事、城塞都市の中に入ることが出来た。
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そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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