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第一章

クエスト:強襲アリ討伐受注しました。

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 可能性は二つ。

 一つ目は村を狙った誰かが村を襲わせるために蜜玉を仕込んだ。

 二つ目は村の人間が知識もなく蜜玉を手に入れ、それをどこかに隠している。

 状況から考えると後者である可能性が非常に高い。

 問題は誰がどこに隠しているかということだ。

 タイムリミットは明日の夜まで。

 二回とも夜に来ているということと、昆虫に夜行性が多いという理由から推測できる。

 それまでに見つけることが出来れば、アリの侵入を防ぐことも可能だ。

 問題は持って帰ってくれるのかということ。

 差し出したものの、言葉が通じるわけではないのでそのまま襲ってくるという可能性も十分に考えられる。

 そうなった場合にはここにいる村人全員で対処しなければならない。

 対処しなければならないのだが、先週の襲撃のときに貴重な戦力の多くが負傷し万全な状態ではない。

 少ない戦力でいかに防ぎきるか。

 もともと篭城戦は攻め込む戦力の三分の一で良いというアドバンテージがあるが、あくまでそれは人対人の話であって人対昆虫の場合は予想もつかない。

 常に最悪の状況を想定しておくのは戦術の基本って何かの本で書いてあったっけか。

 蜜玉の捜索と最悪の状況を考えた篭城戦の準備。

 この二つを同時進行しないといけないと思うと頭が痛くなる。

「今出来ることを考えましょう。まずは蜜玉の捜索。それと襲ってきたときに対する防御の準備です。」

 手をこまねいている時間はない。

 残り時間は約1日。

 明日の夕方までにはこの二つを終わらせなければならない。

「イナバ殿の言う通りじゃ。ここで怒鳴り合っていたとて良い改善策が見つかるわけではあるまい。ドリス動ける人間を出来る限り防衛の準備に回しなさい。堀の深さを1mほどまで掘り下げねばやつら塀の上から中に入ってくるやもしれん。」

 いつのまにかイナバとやらがイナバ殿に格上げされてる。

 少しは信頼してもらえたのだろうか。

「蜜玉の方はどうするんだ。あれを見つけないことにはやつらはいつまでもここを襲ってくるぞ。」

「仮に見つけて返したからといって襲ってこないとは限らない。何せやつらは虫ですから言葉が通じるとも思えませんしね、最悪の状態を想定しておくべきです。エミリア、キラーアントはどのぐらい大きいんですか。」

 敵を知り己を知れば百戦危うからず。

 敵の情報は多ければ多いほどこちらが有利に働く。

「キラーアントの身長は50cmぐらいですが壁などに足をつけて立ち上がると1.5mほどになります。数が多いと各々の体の上を上って来る事もありますので、塀などの高さが2mぐらいないとすぐに上られてしまうかと思います。」

 50cmって事は大体ひざぐらいか。

 ひざの高さ体長1.5mのアリが団体で襲ってくることを考えると非常にグロテスクだ。

 出来るならばその場を放棄して逃げたくなる。

 地〇防衛軍で戦ったときはレーザーで焼き殺すか爆弾で処理したけれどそんな近代兵器は現実でも使うことはないだろう。

 一般的に虫は殺虫剤か火で焼くのが効果的だが、火炎放射器などあるわけもなく汚物を消毒するわけにもいかない。

 まとめて爆破もしくは炎上させる何か良い方法はないだろうか。

「思っていたよりも大きいですね。あまりにも大量に来られると一匹ずつ対処するなんてことはできないな。せめて罠かなにかで数を減らしたり分散させることができればいいんだけれど。」

 数が絞られれば対処できないこともない。

 一匹ずつであれば村人でも倒せるぐらいの弱さだ。

 数さえ減らすことができれば、可能性は残されている。

「ここはただの農村、動物用の罠ならいくつかございますがモンスター用となるとございませんな。」

 ですよねー、ないよねー。

「とりあえずモンスター対策班と蜜玉捜索班に二手に分かれて考えましょう。時間が惜しい。」

「シュウイチ様、私はニッカ様と一緒に蜜玉のほうを捜索してきます。魔物から得られるアイテムは魔力を帯びていますので私であれば見つけることができるかもしれません。」

 なるほど。しらみつぶしに探すよりも効率がいいかもしれない。

 さすがエミリア、頼りになりますな。

「お願いします。こちらは頭を使うことしかできませんので頼りにしてます。見つかりましたらすぐに水かお酒につけて隠した後、知らせてください。」

「わかりました、頑張ってくださいね。」

「イナバ殿、勝手言って申し訳ありませんが村のためにお力をお貸しください。」

 深々と頭を下げる村長。

 いや、そんなにかしこまってお願いされたらやっぱやめたとか言えないじゃないですか。

 ただの通りすがりがなし崩し的に参加させられてるだけであって、協力しますとは一言も言ってないんだけれど。

 断りづらいなぁ。

 あとは勝手にとか言ってしまったら横のおっさんに刺されるかもしれないしな。

 別に厄介事に巻き込まれたいわけではないんだけれど、仕方ないか。

 エミリアとニッカ氏は探索に向かい、残るはオッサンとこの俺だけだ。

 オッサンと二人きりとか、綺麗な奥様とかだったらやる気も出たのに。

 今はそんなこと言ってる場合じゃないな。

「アリはどの方向から襲ってきたんですか。」

「二回ともやつら南門のほうから村に入ってきやがった。今回は南門を封鎖しているから恐らく東西の門どちらかに分散すると考えている。」

 仮に50匹来たとして左右に分散して25匹ずつ。

 もちろん南門正面上部から攻撃を加えるとしても、投石するぐらいしかできないだろうし、そんなものでひるむとも考えにくい。

 エミリアは魔術が使えるようだから固定砲台として考えてもいいけれど、まだ下級魔術師と言っていたし一番危険な場所に彼女を配置するのはナンセンスだ。

「前回はどのように撃退したんですか。」

「この前は南門を閉めて塀の前で戦っていたんだが、数が多くて塀の中に逃げて戦ったんだ。逃げる際にどうしても南門を閉めることができず、村の中で乱戦になった。死者が出ないことが奇跡だったよ。」

 敵の総力を見誤り、撤退に失敗。

 まだ数が10匹程度と少なかったから何とかなったと考えるべきだろう。

「たしか弓矢も準備されていましたね、使える人は多いんですか。」

 村長の村に来るときに見た気がする。

「いつもは狩りに使う弓矢だ。村の男どもと若い女は多少使える。」

「アリにも効果はありますか。」

「とどめを刺すまではいかないが弱らせるぐらいはできる。ただ、奴ら動きが速いから女どもでは当てるのは難しいだろうな。」

 効果がないわけではないか。

 動きを止めることができれば多少使えるかもしれないな。

 あとはどうやって弱らせるかだ。

 左右に分散させたところで数を減らせなければ意味がない。

 やはり左右の門で各個撃破するしかないのだろうか。

 先の戦いで負傷者が多い以上前回と同じような戦果が見込めるとは思えない。

 今回は死者が出るかもしれないし、むしろ全滅するかもしれない。

 異世界にきてすぐアリに食われて死ぬとか最悪だ。

 できればベットの上で美女に囲まれて死にたい。

「弓矢と投石、あとはエミリアの魔術と白兵戦のみですか。些か手がたらないですね。」

「先週襲われた時にケガをした男どもが多かったからな。」

「むしろケガで済んで良かったと思うべきだと思いますよ。」

 ゲームの縛りプレイとしても明らかに無理がある。

 あれは、どこまで行けば大丈夫かというトライ&エラーのもと編み出された必要最低限がわかっているからこそできる遊び方だ。

 運の要素もプラスされて運が味方に付けばクリアできる。

 しかし、今回はどうだ。

 エラーを起こせば即失敗。

 トライをする機会すら与えられず、運が悪くても失敗。

 あまりにも条件が悪すぎる。

 ここは逃げるという選択肢も用意したほうがいいかもしれない。

 ここは戦場ではない。

 死守しなければならない防衛線もなければ、敗走してはいけないという決まりもない。

 生きていれば、準備を整えてここに戻ってくることもできる。

 むしろそうするべきなのではないだろうか。

 逃げる。

 逃げるのは恥だが、役に立つ。

 むしろ恥などではない。

 逃げることは、生きることにつながるのだ。

「とりあえず塀と堀が合計3mぐらいあればなんとかなるかもしれませんが、あまりにも多い場合は村を捨てることも考えたほうがいいかもしれませんね。動けない人や子供は先に街に避難したほうがいいと思います。」

「先祖代々守ってきたこの村をたかがアリ如きに追い出されるっていうのか。」

「命さえあれば何とでもできます。逃げた後に自警団や騎士団と共にこの村を奪い返せばいい。」

 現実では考えもしなかった。

 命の危険がそこにあるという現実。

 平和な国に生きていたからこそ、『死』はあまり身近なものではなかった。

 通勤時の人身事故や交通事故、天災による死者、国外のテロや紛争。

 テレビやスマホから得るだけの他人事のようなものだった。

 親族の葬式ぐらいだろうか、実際の死に触れた機会というのは。

 しかし今は違う。

 ここにいれば、もしかしたら明日自分は死ぬかもしれない。

 モンスターという非現実的なものに食い殺されるかもしれないという恐怖。

 ゲームの中の『死』は、ただのゲームオーバーに過ぎない。

 死んでもセーブポイントからのリスタート、悪くても最初からやり直すだけだ。

 そう、やり直しがきく。

 失敗したところで自分に何のデメリットはなかった。

 しかし、ここでは違う。

 失敗は直接、『死』につながる。

 自分だけでなく、他人も、身近な人も等しく死んでいく。

 生き返ることは、おそらくない。

 残機1のシューティングゲームと同じだ。

 次はない。

 死んでしまえばすべて終わってしまう。

 リトライのない、人生のゲームオーバーだ。

 でも、本当にそれでいいのか。

 目の前にあるミッションを放棄して、本当にいいのか。

 今までどんなクエストだってクリアしてきたじゃないか。

 パンツ一枚になっても槍を投げつづけて戦ってきたじゃないか。

 レッド〇ーリマーなんて言う強敵ともやりあってきたじゃないか。

 そうだ、ここでやられるわけにはいかない。

 こっちはどうだ。

 たかがアリじゃないか。

 できる。

 この俺にならできる。

 ゲーマー歴25年をなめるな。

 こちとら小学生の時からゲームの世界で戦っているんだ。

 エ〇ーマンに負けず。

 どこぞの姫を助けに何度も同じ敵と戦い。

 死にゲーと言われる暗黒のソウル世界を渡り歩いてきたじゃないか。

 数多くのゲームをクリアしてきたこの俺には、数多くの攻略方法と知識がある。

 その知識と経験があれば、どうにだってなる。

 たかがアリだ。

 とあるゲームでは宇宙にまで行けるぐらい進化したかもしれないが、今回はただの地を這う虫けらじゃないか。

 ちょっとでかいだけでビビってるんじゃない。

 よし、やろう。

 ゲーマーの底力を見せてやる。

 オタクなめるな。

 勝利は我にアリ、続け皆の者!


 なんとかなる。

 ケ・セラ・セラだ。

 うちの可愛い子を、未来のハーレムに加わるであろう美女たちを、守らずして何が男か。

 男イナバシュウイチ31歳。

 ヤルときはヤラせていただきましょう。

 このクエスト、この俺が引き受けた。

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