転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1371.転売屋は折れた剣を買う

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「いらっしゃいませ。」

「お、今日はシロウさんが店番なのか?」

「最近さぼってたからな、たまには本業の方を頑張らないと忘れられそうだ。」

「おれはバーバラちゃんのほうが・・・って冗談、冗談だからそんな顔しないでくれよ。」

別にバーバラの方が人気が高いからって怒っているわけじゃないぞ?

むしろ彼女が店番をすることで冒険者が増えるのなら喜んで店番を任せようじゃないか。

とはいえここは俺の店だし、なにより俺自身買い取りが好きなのでそれを全部丸投げするってのはちょっとなぁ。

「別に俺はどっちでも構わないんだが?」

「シロウさんにお願いします。」

「よかろう。ってなんだよこのやり取り。」

「シロウさんがやらせたんだろ。とりあえずこいつらの査定よろしく頼む。」

くだらないコントを終えてからカウンターに乗せられた素材を順番に査定していく。

そこそこの品物も多いのは流石実力者っていうところだろうか。

何をやらせてもそつなくこなすよなぁ、この間の氾濫の時も前線で戦ったり支援に回ったりと忙しそうに動き回っていたし。

出来るやつってのは何をやらせてもそれなりに結果を残すのがずるいと思う。

「ん?これは、壊れたのか?」

「そうなんだよ。愛用してたんだけど、急にぽっきりとな。修理してもいいんだけど、直してまた壊れるぐらいならいっその事新しいのを買った方が良いかなと。何か良いのないか?」

「それなら壁に新しく仕入れたのを並べてるから探してみたらどうだ?」

「マジか!できれば安くていい感じのがあると嬉しいんだが・・・。」

『魔鉱石の長剣。魔素を多く含んだ魔鉱石は魔法の伝導率が高くこれを使った武器は魔法を並行使用しても発動に支障が出ない。切れ味も鋭いので主に魔剣士から人気が高い。折れている。最近の平均取引価格は銀貨90枚、最安値銀貨81枚最高値金貨10枚と銀貨50枚、最終取引日は63日前と記録されて行魔す。』

ぽっきりと中ほどで折れてしまった魔鉱石を使った珍しい長剣。

素晴らしい武器ではあるけれど、折れてしまっては命を預けることは出来ないだろうなぁ。

買えばそれなりの値段がするだけに非常に勿体ない。

とはいえこれを使って戦えばすぐに刃こぼれもするだろうし、なにより見た目が最悪だ。

幸い似たような装備をこの間買い付けた所なので見つければ買ってくれる・・・はず。

「嘘だろ、なんだこれ!」

「お、気づいたか。三日ほど前に持ち込まれた奴だが悪くないだろ?」

「悪くないも何も瓜二つなんだけど!」

「ダンジョン産の装備だから前のがそうだったら同じような感じになるんだろう。どうする?あまり買うやつもいないし金貨1枚でなら売ってやらんこともないぞ。」

因みに買取価格は銀貨60枚、特定の冒険者しか使わないのでもう少し値引きしてやってもいいんだがいきなり値引きするのもあれなので様子を見るとしよう。

向こうからしてみても滅多に手に入らない装備だけにこの機を逃すのは惜しいはず、あとはお互いがどこまで歩み寄れるかだ。

「やっぱりそれぐらいするよなぁ。」

「因みに素材の買取が全部で銀貨22枚でこっちの剣は銀貨18枚でなら買い取ろう。差し引きすると後銀貨60枚でそれが手に入る計算だが、どうする?」

「ちょっと待ってくれ、折れたのも買い取ってくれるのか?」

「そりゃなぁ。」

「こっちとしてはありがたい話だが折れたのなんてどうするんだよ。」

「そこは企業秘密ってもんだ。どうする?」

もちろん金になるからこそこうやってそれなりの値段を提示しているわけで。

流石にそのまま転がすことは出来ないけれどやり方次第では十分金になる・・・はずだ。

向こうも商売道具は手放したくないだろうし、予想よりも高値で売れたからか即金で新しい装備を買っていってくれた。

うちとしても在庫がなくなったのは非常にありがたい。

さて、今回のでそこそこ装備がたまったしそろそろ持って行くとするかな。

客のご要望通り店番をバーバラに頼んで、俺は買い付けた訳あり装備達を手に職人通りへと移動する。

王都に来て六カ月以上その期間をただ買取屋だけをして過ごしてきたわけじゃない。

商売の基本は情報収集、それとコネづくりが重要になってくる。

「お、シロウじゃねぇか。ま~ためんどうなもん持ってきおったな?」

「客が来るなりそれはないんじゃないか?」

「お前が来てまともな仕事だった事なんて一度もなかっただろ?よく言うぜ。」

「まぁ、実際そうなんだけど。」

入ったのは職人通りのメイン部分から離れた古い工房が連なる一角、外の看板には埃が積もり客なんて入りそうもないこの店こそ王都で五本の指に入るほどの職人の店だったりするんだよなぁ。

あれだ、店は汚いけど飯がうまい店とかそんな感じのと同じ感じだ。

そんな店の店主は頭がつるっつるの筋肉マッチョで、正直この見た目も客が来ない原因なんじゃないだろうか。

「認めてんじゃねぇか。ま、面白い仕事ばかりだからこっちとしてはありがたい話だが何をもってきたんだ?」

「今回はこの辺の折れたやつを新しい武器に改良してほしいんだ。どれも物は悪くないんだがそのまま使うのは難しいんでね。」

「これまた派手に折れてるなぁ。お、これは魔鉱石を使ったやつか。切れ目も悪くないし無理させ過ぎていきなりポッキリいった感じだろう。こっちは刃こぼれ、これは・・・ヒビか」

「先端部だから何とかなると思う。理想を言えばそのまま修理してまた使えるようになれば最高なんだが、残念ながらそういう事が出来る素材でもなさそうなんでね。それならいっその事作り直した方が材料費も浮くし悪くないだろう。どうだ出来そうか?」

作業台の上に並べたのは折れたりひびが入ったりした武器の数々、どれも二束三文ではあるが冒険者から買い取ってきた品ばかりだ。

普通壊れた武器はつかえない。

だがそれが命を吹き返すのならばやらない理由はないだろう。

この工房はそういった使い物にならなくなったようなやつに新しい命を吹き込んでくれる珍しい場所、場所が場所なら工房主も工房主。

世間では変わり者で名の通っているこの人も、俺にとってはありがたい取引先というわけだ。

「こっちのひび割れたやつはダメだな。目に見えるヒビは少ないが実際は中まで入っているせいで再加工中に砕ける。それよりもこっちのスパっと割れたやつの方が綺麗に直るぞ。」

「こっちの方が直るのか?」

「流石にくっつけると強度は落ちるがそれぞれを別の物として加工すれば使えないこともない。柄の方は短くして短剣に、先の方は別の物にくっつけてやれば槍の先でも短剣でもいくらでもやりようがある。あとはこれとこれと、こっちもいける。残りはダメだな。」

ひょいひょいと使える武器だけを選び、残りを乱雑にこちらへ押し返してきた。

持ち込んだ10個の内半数は加工できるものの、残りはただの鉄くずにしかならないらしい。

二束三文で買っているとはいえ金はかかっているだけにそれが売れないとなると大損ではある。

が、残りが売れれば利益も出るので結果としてプラスにはなるだろう。

ぶっちゃけ職人じゃないのでどれがオッケーでどれがだめなのかはさっぱりわからないが、うちでなら壊れたものも買い取ってくれるという噂が広まれば捨てずに持ってくるやつも増えてくるだろう。

損して得取れ、再加工できないやつも鉄くずとしての価値はあるのでまた溶かされた後新しい何かに生まれ変わってくれるはずだ。

「加工料はどのぐらいになる?」

「そうだな・・・ざっと見積もって銀貨30枚。場合によっては40枚だ。」

「わかったそれでやってくれ。」

「相変わらず気持ちのいい注文の仕方だな、仕事はめんどくさい物ばかりだがそういった部分は嫌いじゃないぞ。」

「とかいって早く触りたくてうずうずしているように見えるのは気のせいか?」

加工料で銀貨40枚と売れなかったものも含めて原価はざっと銀貨80枚ほど。

魔鉱石の短剣が仮に二個できればそれだけで金貨1枚分の売り上げにななるだろう。

残りも大小合わせて銀貨50枚ぐらいになればそこそこの利益が出ることになる。

冒険者は使えなくなった武器が現金に変わり、工房は面白い仕事を手に入れ、俺は仕上がった物を冒険者に売って儲けを出す。

誰もが幸せになる最高の仕事とはまさにこのこと、三方良しってやつだ。

まぁ、仕入れたり持ち込んだりする必要はあるのでめんどくさいと言えばめんどくさいけれどこの辺はいつもの事なので気にしない。

っていうかこれを乗り越えないと金儲けなんてできないっていうね。

「気のせいだろ。」

「そういう事にしておくよ。どのぐらいでできる?」

「そうだな、今は仕事もないし一週間ぐらいで何とかなるだろ。」

「よっぽど暇なんだな。」

「うるせぇ、いちいち言わなくていいんだよ。」

別に仕事の腕が悪いっていうわけじゃないんだけど、少々変わった人なので敬遠されているんだろう。

俺の他にも客はいるみたいだし必要な人には必要な職人ではある。

とにもかくにも折れた剣は無事に新しい命を吹き込んでもらえることになった。

一見すると金にならないようなものでもやり方次第では金になる。

それを見極めるのが良い商人ってもんだ。

なんて偉そうな事を考えながら次なる金儲けのネタを探しに地道に市場を見て回るのだった。
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