転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

文字の大きさ
上 下
1,340 / 1,415

1334.転売屋は新しい飲み物に舌鼓を打つ

しおりを挟む
まだまだ残暑厳しい7月。

オークションの準備をしながら今日もいつものように仕事を片付ける。

最近は武器の買取と販売が増えてきており店にも前以上に冒険者が集まってくるようになった。

その中に一般の客が混ざっている空間は中々カオスな感じはあるのだが、不思議と揉め事もなくむしろいつも以上に商売がうまくいっている気がするのは気のせいだろうか。

なんていうかお行儀がいいんだよなぁ冒険者が。

てっきり威張り散らすのかと思ったのだが、やはり若い女の子には優しくするのだろうか。

いや、年齢というか女性にはって感じかな。

この間もいい感じに年齢を重ねられた奥様が勇者グッズを見に入って来たのだが、さっきまで煩くしていた冒険者が急に声のトーンを落としたんだよなぁ。

まるで邪魔をしないように気を使ったんだよ、あの粗暴な冒険者が。

そんなわけでうちの店は絶賛大繁盛中なわけだが店が繁盛すると外の流行りに対してどうしても疎くなってしまうわけで。

その為に会計の時に色々と話を聞いているのだが、流行に疎い冒険者が多いのでなかなかいい感じの情報がなかなか手に入れられないでいた。

「いらっしゃい。」

「すみません買取いいですか?」

「売りたい物をカウンターの上に並べてくれ。」

一人片付けては次の客、てな感じでやってくる客をちぎっては投げちぎっては投げしているのだが次にやってきたのはぽっちゃりとした背の低い一般女性。

ぶっちゃけ元の世界みたいにハイカロリーなものがたくさんあるわけではないのでふくよかな女性の方が珍しいのだが、この人はその珍しい中でもトップクラスな感じがする。

男性で太ってる人は結構いるのに女性じゃなかなか見かけなかったのはいったいなぜなんだろうか。

「これで全部です。」

「多種多様な感じだな、香茶が好きなのか?」

「趣味で色々と集めていたのですが、近々引っ越すことが決まったので処分することにしたんです。他の所だとあまり買ってくださらなかったのですが知り合いにここを教えてもらった物ですから。」

「そんな風に言われたら気合を入れないとなぁ、数が多いから少し待ってくれ。」

香茶は今ブームなので珍しい茶葉なんかは結構高値で取引されていることが多い。

俺は保冷ボトルの兼ね合いもあって水出し系の南方のをメインで販売しているが、北方をはじめ国中に様々な種類が出ていたりする。

カウンターに乗せられた茶葉の半分は見た事のない物だったが、そこは鑑定スキルと相場スキルを使用すれば全く問題はない。

五分ほどですべてを調べ終り見積を伝票に記入していく。

「待たせたな、これが見積額だ。」

「え、こんなに高いんですか?」

「今は香茶ブームだからな、珍しい茶葉はそれなりの値段で取引されてる。特にこの茶葉は俺も初めて見たんだが、最近手に入れたのか?」

「昨日見つけて買ってみたんですけど、甘すぎて私の口には合わなくて。」

「まぁそういうのは飲んでみないとわからないからなぁ。」

飲み物とか食べ物とかは出来るだけ試飲試食できるようにと心がけているのだが、誰もが俺みたいに準備をしているわけじゃない。

味もわからず言われるがまま買ってみて合わなかったなんて言うのはよくある話、ここに並んだ連中の半分はそんな感じなのかもしれない。

『蜂蜜香茶。茶葉から蜂蜜のような甘い香りと味がするように合わせられた茶葉だが、蜂蜜が使われているわけではない。甘さと香りのバランスが良いが好みが分かれることが多い。最近の平均取引価格は銀貨1枚、最安値銅貨80枚最高値銀貨4枚最終取引日は本日と記録されています。』

因みに甘すぎてダメだったというのがこの蜂蜜香茶。

元の世界でも見たことはあるが香茶に蜂蜜をかけるのではなく茶葉そのものから蜂蜜の味がするらしい。

一体どういう原理なのかはさっぱりだが、相場スキルから察するに今日もそこそこの値段で取引されている。

上はかなり高いが下はさほど低くないのと平均取引価格が近いところを察するに、転売されている品というわけではなさそうだ。

「この値段で大丈夫です。」

「そんじゃまこれが買取金で、受け取りの署名をここによろしく。引っ越すまでに手放したいものがあったらまた持ってきてくれ。」

「ぜひお願いします。」

買い取り額は8種類で銀貨11枚。

袋に半分ほどしか入っていない茶葉もあったが、ほとんどが少し飲んで終わりって感じの量なので十分元は取れるだろう。

個人的に飲みたいやつもあるので大儲けというわけにはいかなさそうだが、少々のプラスが出るだけも価値のある買取と言えるだろう。

「そうだ、この蜂蜜紅茶だがどこで買ったんだ?」

「昨日市場に売りに来てました、奥の方ですが今日もいるかもしれません。」

「奥の方だな、了解。」

その人を見送った所で客足が途絶えたので裏に戻りお茶の準備をする。

折角だから甘かったという蜂蜜紅茶に手を出してみよう。

とはいえアニエスさんは甘いのを受け付けられない状態なので、一緒に買い付けたレレモン風味の香茶がいいかもしれない。

お湯を沸かし終えた所でそれぞれのポットに茶葉を淹れてからお湯を高い所から注いで茶葉を躍らせると、爽やかな香りと甘い香りが絶妙に合わさって何ともいい香りになっている。

あれ、この香りはどこかで嗅いだことがあるんだが・・・。

「蜂蜜レモン、そういえばそんなのもあったな。」

ふと子供の頃に舐めた飴の味を思い出した。

甘いんだけど少しだけ爽やかな組み合わせ、大人になったら似たようなものがたくさん出てきたが子供の頃のあの甘ったるい感じの奴がどうしても忘れられない。

とはいえこれを合わせて同じ味になるとは限らないのだがこの香りは間違いなく昔のアレだ。

ひとまず熱いうちにアニエスさんの所にもっていくとして、少し冷めた所でカップの中に二つの味を注いで飲んでみる。

思った以上に蜂蜜感の強い味に交じって爽やかな香りが鼻から抜けていく。

これはなかなかにアリだ。

あまりブレンドとかしたことなかったがこの組み合わせは好きかもしれない。

「ただいま戻りました。おや、いい香りですな。」

「ちょうど香茶を淹れた所なんだが、なかなか面白い味だぞ。」

「ほぉ、主殿が面白いと言いますか。それはいい意味でですかな?」

「もちろん、俺は好きな味と香りだ。」

新しい味と香りに舌鼓を打っているとジンが外から戻ってきた。

炎天下を歩いてきたにもかかわらず汗一つ書いていないのは流石強欲の魔人、見た目が老人なだけに心配になってしまうがその見た目でサクサク歩かれると今でも脳がバグってしまう。

一応姿は変えられるらしいけど、本人が痛く気に入っているのでしばらくはこのまんまなんだろうなぁ。

「ほぉ、これは面白いですな。」

「だろ?二種類を混ぜ合わせてみたんだが、思った以上に美味しいんだ。」

「これは茶葉から?それとも淹れた後に?」

「後だな。なるほど、そういう合わせ方もあるのか。」

「てっきりそっちかと思いましたが、案外淹れた後の方が合わせやすいかもしれませんな。」

淹れ方一つで味が変わるだけに混ぜ合わせるとなると毎回それを維持しなければならなくなる。

その点茶葉からであれば味さえ決まってしまえばあとは濃い薄いの考えになるのでずれは少なくなるだろう。

今回の蜂蜜紅茶がまさにそんな考えで作られた物なんだろうな。

「しかしあれだな、合わせるにしても茶葉がないと始まらないわけで。レレモンの方はそれなりにあるが、蜂蜜の方は少なめだな。ちょっと買ってくるか。」

「それは構いませんがこれで商売するおつもりで?」

「というと?」

「いえ、いつもの主殿だと売れるとわかってから買い付けられますが今回は随分とそのあたりが甘いなと思いまして。」

「どっちかっていうと自分の為っていう割合が強いからだな。そりゃ売れれば最高だが、それを本業にするつもりはない。」

水出し香茶用に茶葉を売っている身でこういうのもあれだが、茶葉はあくまでも個人で楽しむ分の延長線上って感じだ。

結果として金になるから売ってはいるが率先してブレンドして味を作りたいとは思わない。

今気になっているのも元の世界で味わったのを再現したいからっていうのが強いので、それ以外の理由ではないんだよなぁ。

「なるほど。因みに個人的には売れるとお思いですか?」

「んー、ぶっちゃけた言い方をすると売れると思う。色々な茶葉を楽しんできたがここまで甘みの強い物は初めてだし、加えて今は砂糖が高騰しているしそういうのを気にせず楽しめるってのは強みだと思うぞ。」

「そこまで確信がおありでしたら何も言いますまい。」

「なんだよ、ずいぶんと突き放した言い方だな。」

「いえ、やるからにはがっつり行くのが主様のやり方ですがここ最近は少し保守だなと感じまして。」

保守的、保守的ねぇ。

俺個人ではそこまで保守的だとは思わないのだが、強欲の魔人としては物足りないと言いたいんだろう。

昔の俺はもっとガンガン新しい品を生み出してそれを売って儲けていたが、最近は転売屋らしく仕入れたものを右から左にというのが多かったようにも感じる。

もちろんそれは悪い事じゃないし、むしろ転売屋としては至極まっとうな稼ぎ方だと言えるだろう。

だがそれでは大儲けするにはたどり着かない。

匿名オークションに出品する品は別として、ここ最近でがっつり稼いだのって・・・そういや思いつかないな。

浅漬けとかは人気だったが単価が安いし、象の皮もまだまだ軌道に乗ったわけじゃない。

牙は一応売れたけどこれも右から左に転がしただけだからなぁ。

そう言えば豚肉が溢れた時はそれなりに稼いだ気はするが言い換えるとそれぐらいという事だろう。

「物足りないか?」

「正直に申しまして、少し。」

「とはいえそんな大儲けできるネタがすぐに見つかるわけないから、期待してくれるのはありがたいがすぐにとはいかないかもしれないぞ。」

「大丈夫です主殿でしたら必ずや思いつかれる事でしょう。ライブグッズも悪くありませんでしたがやはり誰もが殺到するような品をお作りになる姿が私は楽しみです。」

「はぁ、期待が重いなぁ。」

強欲の魔人を納得させるような儲け話を考えなきゃならないなんて、かなりハードルが高いと言える。

しかしながら金貨3000枚を早期に返済しようと思うとそういうがっつりとした儲けが必要なのは間違いない。

ここ最近は地道にコツコツってな感じの儲けが多かっただけにここらでホームランの一本でも打ちたいところだ。

気負い過ぎるのはよくないが男ならガツンと行こうじゃないか。

ということでまずは市場調査から、そのついでに蜂蜜香茶の茶葉は買っておくとしよう。

それはそれ、これはこれ。

この味を失うのは正直惜しいからしっかりと買い付けておかないとな。

その日からいつも以上に茶葉の消費が増えてしまい帳簿をつけているアティナに怒られたのはもう少し先の話だ。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

Age43の異世界生活…おじさんなのでほのぼの暮します

夏田スイカ
ファンタジー
異世界に転生した一方で、何故かおじさんのままだった主人公・沢村英司が、薬師となって様々な人助けをする物語です。 この説明をご覧になった読者の方は、是非一読お願いします。 ※更新スパンは週1~2話程度を予定しております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

処理中です...