転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1333.転売屋はオークションの準備を始める

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7月になりいよいよ匿名オークションの日が近づいてきた。

とはいえ俺の仕事は基本真贋鑑定、一応出品もする予定だが役目は主にそっちだ。

王都のとある場所には出品される品がたくさん運ばれているようだが、生憎と場所は極秘扱い。

それもそうだよな、匿名を理由にとんでもない物が山ほど持ち込まれているんだから。

流石に非合法なものは含まれていないようだけど陛下がこれを黙認しているってのは一種のガス抜きみたいなものなんだろう。

人の欲望というのは果てしなく特に金が絡むと一気に強く燃え上がる。

更にはある程度の金を持つようになると人が持っているものを欲しくなってしまうからさぁ大変ってなわけだ。

無用な争いを防ぐ為にも欲しい物を遠慮なく買い付ける事が出来る匿名オークションはまさに最高のガス抜きと言えるだろう。

加えてオークションが盛り上がれば盛り上がるほど手数料という名の資金が王都ひいては王家へと還元される。

金は寂しがり屋だとはよく言ったもので、資本主義の都合上どうしても同じ場所に集まりやすい。

それを回収して必要なところに分配する為にも今回のオークションは非常に重要だという事だ。

「あーーー、疲れた!休憩!」

そんな重要なオークションにかかわる仕事を任されているとはいえ、ただひたすら鑑定と相場スキルで真贋を調べていくのは非常にめんどくさい上に疲れてくる。

いっその事まとめて鑑定して偽物だけバツマークが浮かんでくれたら最高なんだが、残念ながらそんなうまい具合に行かないわけで。

何度目かの悲鳴を上げた所で思わぬ返事が返ってきた。

「お疲れ様ですマスター。」

「アティナ、戻ってたのか。」

「はい。先ほどダンジョンより戻ってまいりました、予定通りダンジョン内の宝箱から装備品を。また、オーガの巣を襲撃して使用できそうな武具を回収しておりますので鑑定と解呪をお願いします。ついでにブルーティエレファントも狩って参りましたので確認してください。」

「宝箱は想定してたが、まさかオークの巣まで襲撃するとはなぁ。楽しかったか?」

「はい。久々に満足のいく戦いをすることが出来ました。」

発言が完全に戦闘狂だが戦闘用ホムンクルスなんだから仕方がないかもしれない。

本当に戻ってきてすぐなんだろう、返り血の付いたワンピースを着たままだ。

ぶっちゃけよくその恰好で警備の人が通してくれたものだなぁ。

むしろ大丈夫なのかここの警備は。

「そりゃ何よりだ。すぐに鑑定してやりたい所なんだが、生憎とこっちの仕事が終わらなくてな。」

「鑑定はバーバラ殿に任せていますから大丈夫かと。禍々しい物はジン殿が仕分けしておりますので後でまとめてご確認ください。」

「もう俺がいなくても何とかなるんじゃないか?」

「では任せて私とダンジョンへ?」

「行かないっての。」

「残念です。」

何をエリザみたいなことを言うんだろうか、せっかくアニエスさんが妊娠してダンジョンに行く回数が減ったっていうのに俺の本業は買取屋であって冒険者はタダのオマケなんだが?

そりゃあ必要に迫られたら戦いにもいくけど今はアティナがいるから任せてしまって問題ないと思うんだがなぁ。

「そうだ、店に戻ったって言ってたが出品物について何か聞いてないか?」

「申し訳ありませんそこまでは。」

「そうか。せっかくだからいろいろと出品してやろうと思っているんだが・・・。オールダートレント関係はほぼ出すとして、他に何かいい感じのものがあったかなぁ。」

「シュウ様のグラスを出すというお話はどうなりましたか?」

「そうだそうだ、いい感じのを作るって意気込んでたからそれを出すって話だったな。あとはルティエの試作品と、オリガのサイン入りグッズもファンが多い王都なら高値で売れるだろう。本当はフェルさんの描いた栞のサンプルとかも出したいんだが、流石に出所がわかっているだけに出しにくいんだよなぁ。」

転売屋としては出所がわからない匿名性を利用してそういった品を多数出品したいところなのだが、流石に世界で一つしかないようなものは出所がバレてしまうので匿名性の意味がない。

本人は大丈夫というかもしれないがとりあえず今回は見送るとしよう。

「それでしたら私の眠っていた遺跡で見つけた壺などはどうでしょう、旧王朝時代の物であればそれなりの値段が付くと思いますが。」

「あー、あれなら別口でもう売却済みなんだ。」

「そうなのですか?」

「そういうのを集めている知り合いがいてな、いい値段で引き取ってもらったんだ。」

ダンジョン街で昔旧王朝時代の遺跡を発見したことがあったんだが、そこの調査に来た二人組に買取を依頼した所二つ返事で買ってくれることになった。

そりゃあホムンクルスが封印されていたともなればこれ以上の付加価値はないよなぁ。

ついでに遺跡の場所も教えておいたので今頃隅から隅まで調べ上げているんじゃなかろうか。

目覚めたことに関しては陛下を通じて知っているはずなのだが、生きているのには興味が無いのかもしれない。

「こう思いますとあまり数が無いのですね。」

「ある程度の物に関しては引き取り手が決まっているし、出品できるようなレアな品は別の買取屋にもっていかれている可能性もある。俺なんて店を出して数カ月のペーペーだからな、信用っていうもんがやっぱり少ないんだろう。」

「マスターの後ろ盾を考えればこれ以上の信頼はないと思いますが。」

「それとこれとは話が別ってことだ。」

いくら王族へ聖騎士団が後ろに控えているとはいえそれですべてを信頼する人はあまりいない。

冒険者にも付き合いっていう物があるだろうからある程度の熟練者になるとどうしてもそっちに持っていかざるを得ない何かがあるんだろうなぁ。

ぶっちゃけその辺は覚悟していたし新人が育ってくれればいずれ客はつく。

それまでは時間をかけて積み上げていくしかないだろうなぁ。

「やはり私がホワイトドラゴンを倒さないといけないでしょうか。」

「いやいや、それはまた今度な。」

「冗談です。」

「冗談に聞こえないっての。」

「古龍の素材ともなればかなりの高値が期待できますが、通常のホワイトドラゴンであればせいぜい金貨10枚ぐらいなものでしょう。早くも一匹は仕留められたそうですから私が出る幕はなさそうです。」

てっきり何が何でも行きたい!と言い出すのかと思ったが、案外聞き分けが良いようだ。

ダンジョンですっきりしてきたおかげかもしれない、今後も定期的にお願いした方がよさそうだな。

「あの~、追加が来たんですが構いませんか?」

「お、また来たのか。手前に置いてくれ。」

「わかりました!」

話すのは自由だけどいい加減仕事もしなければならない。

アティナは帰りの護衛役なのでどこかで休んでもらいながら、俺は運ばれてきた商品を片っ端から鑑定していく。

調べて調べて調べて調べて調べて。

そしてある事に気が付いた。

「今回西方の品がほとんどないな。」

「そうなのですか?」

「ないわけじゃないんだが数がかなり少なくなってる。いくら向こうとの国交が復活したとはいえここまで露骨に少なくなるか?」

前のオークションがどうだったかはわからないけれどここまで露骨に少ないのは逆に違和感が強い。

北方南方共にそれなりの数が出ているし国内の品もかなりの数存在している。

にもかかわらずこれだけ西方の品がないとまた変なことが起きているんじゃないかと勘繰ってしまうなぁ。

この前は粗悪品、今回はいったい何が狙いなんだろうか。

いやまてよ?

むしろこれは好都合なのか?

「そういう事に関しては申し訳ありませんが全く分かりませんが、少ないのであればその分出せばよいのではありませんか?」

「俺も同じことを思っていた、折角ライバルが少ないのならそこを狙ってオークションに出せば確実に人の目に留まるだろう。真贋鑑定なんてめんどくさいと思っていたが案外こういう使い道もあるんだな。」

「役得という物ですね。」

「そういうことだ。」

問題は何を出すかだが、グラス関係の他にいくつか使えそうなネタはあったはずだ。

もし足りなければ直接向こうから運んできてもらうという手もある。

なんせ向こうのえらいさんと対等に仕事してるんだ、それを生かさない理由はないだろう。

「とりあえず店に戻ってオークションに出せそうな西方の素材や道具がないかを調べるとしよう。必要であればオークション用に買い取って出品するという方法もなくはない。」

「わざわざこのために買い取るんですか?」

「もちろん、売れるとわかっていて買わない理由はないだろ?どんな理由で少ないかまではわかってないがそれだけ眠っている可能性は高い。まぁ仕組まれてて少ないんだったら大損ではある。ま、そん時はそん時だ。」

いくらたくさん所有していても展示できるものに限りはあるし、扱いに困っているという貴族もそれなりにいるんじゃないだろうか。

売れるとわかって仕入れてそれを高値で売りぬく、これこそがまさに転売だ。

早速戻ったらイライザを通じて貴族に呼びかけてもらって様子を見てもいいかもしれないな。

最悪ここで売れなくても他所にもっていけば売れる可能性は十分にあるから心配無用。

「商売というのは奥が深いのですね。」

「いい所に気が付いたな。アティナが戦いに特化しているように俺もまた金儲けに特化している、それを生かすも殺すも俺次第ってことだ。」

「可能であればマスターのお手伝いをと思っていたのですがまだまだ修行が足りないようです。」

「俺だってまだまだ修行不足だ、これからしっかり頑張っていこうぜ。」

「よろしくお願いします。」

戦闘用ホムンクルスであるアティナに商売をしろというつもりはないが、手伝いたいという気持ちは素直に嬉しい。

それに、素材を集めにダンジョンに行ってもらうとなればある程度の知識はあってもいいだろう。

ホムンクルスがどれだけの知識を吸収できるかは不明だがやってみる価値はあるはずだ。

そんなこと言ってすぐに抜かされてしまったりしてな。

ま、それはそれか。

匿名オークションまであと少し。

この夏最後のビッグイベントをしっかり楽しもうじゃないか。
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