転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

文字の大きさ
上 下
1,311 / 1,415

1305.転売屋は夏祭りを企画する

しおりを挟む
モニカは街に帰るまで大聖堂に寝泊まりしてジャンヌ大司教の手伝いをするようだ。

役職が上がったとはいえやるべきことはあまり変わらないようで、本人も上がったという事をあまり気にしていないようだ。

王都にいると教会関係者も多いので高い低いに関して色々と関係することがあるようだが、向こうに戻れば基本一人ですべてやっているので役職云々は関係ないらしい。

ジャンヌさん曰く近隣の教会を束ねるような立場になるそうだが、モニカに務まるのかと聞かれると何とも言えないところだ。

押しに弱いところは変わらないし根が優しいだけに何かを切り捨てるとかそういうシビアなことが出来るとは思えないんだけど、まぁその辺は自分で折り合いをつけていくんだろう。

何かあれば俺達が助けてやればいいわけだし。

「なるほど、教会主導で貧民達と住民との交流を増やしたいと。」

「同じ王都に住んでいるとはいえ溝は深く彼らを見下す人が多いのは事実です。ですが奴隷でもなけば貴族でもないただ少し金銭に余裕があるかどうかだけの違いだけですから分かり合うのはさほど難しくないと思っています。」

「確かに身分だけでいえば同じだがかなりの溝があるのは間違いない。正直交流するだけでその溝が埋まるのかと聞かれると難しいとは思うが、何もしないよりかはマシだろう。で、具体的に何をするつもりだ?」

「その知恵をお借りできればとお呼びしたわけです。」

話はまぁわかった。

どの世界どの場所でも金銭的に余裕があるか否かで身分の上下を作ってしまうのは人間の悲しい性というものなのだろうか。

奴隷と貴族、元の世界にはないこの二つがあってなお平民の中に格差がある。

確かに金は素晴らしい。

あればあるだけ困ることはないし、正直金で買える物がほとんどだ。

この世界においては命でさえも金で買えると言っても過言ではないだろう。

っていうかぶっちゃけ買ってるし。

折角買った奴隷を粗末にする人は正直少ないのだが、それでもいないわけじゃない。

奴隷を肉壁のようにしてダンジョンに潜る金持ち冒険者がいるという話も聞いたことがあるので、命を買っているという考えは間違いではないだろう。

金さえあれば何でもできる。

この世界的に言えばワイバーンでも落とせるらしい。

だが所詮は金だ。

あろうがなかろうが身分に違いはなく、出来る事にも大差はない。

むしろ貧民の方が仕事や金に貪欲で仕事を頼んでも真面目にやってくれるイメージがある。

現にダンジョン街で婦人会に仕事を頼むのと住民に仕事を頼むのなら貧しい家庭の多い婦人会の方が良い仕事をしてくれていたのは間違いない。

「モニカはどう思う?」

「え、私ですか?」

「向こうで婦人会と共に貧困者への支援を行ってきただろ?間違いなく王都よりも一般住民との関係は良かったしむしろ協力関係にあったと言ってもいい。何かいい案はないか?」

「そう・・・ですね、向こうではそれぞれが手を取り合って一つの事をたくさんしてきたかなって思います。この時期ですと夏祭りを思い出しますね。」

「あー、そういえばそんなこともしたなぁ。子供向けに出店を出したがなんだかんだ大人も楽しんでいた覚えがある。」

夏といえば夏祭り、子供向けの出店から食べ物の出店まで城壁の外にたくさん並んで街をあげてのお祭り騒ぎになっていた覚えがある。

準備は主に俺達でやったが、婦人会もかなり手伝ってくれたし一般住民も分け隔てなく参加してくれていた。

まぁ、ダンジョン街が元々そういう差別の少ない町だったって言うのもあるから参考になるかは何とも言えないけれど、融和を図るのであれば祭り事は外せないだろう。

何かに夢中になれば自然と手を取り合うものだし、そこからお互いについて知っていくのも悪い事じゃない。

「お祭り、青龍祭みたいな感じでしょうか。」

「いやいやあんな大それたものじゃない、ただ単に店を出してワイワイ楽しむだけだ。飲み食いだけだと市場と何も変わらないから遊び系の出店も多く出してついでに飯を食うって感じだな。」

「遊びですか。」

「それもあまり難しくない感じで。あえて子供向けにする事でそれに合わせて大人も一緒にやってくるだろ?子供ってのは大人ほど身分差を気にしないからなんだかんだ仲よく遊ぶもんだ。そこから交流が生まれれば当初の目的は達成できたというもの、問題は何をするかってところだ。遊びだが金はとるし、やる以上は儲けも出す。俺が関わる以上儲けのない慈善事業をするつもりはさらさらないからな。」

俺がやる以上儲けさせてもらうつもりでいる。

とはいえ相手が相手なのであまり高い金のかかるようなことはしないが、ちりも積もればなんとやら。

加えて裏方の方で儲けを出す手もあるので資材の手配とかで頑張るのもいいかもしれない。

問題は何をするか、ただ単に祭りっていっても街の規模が違うだけに参加する人数もかなり多くなる。

やるからにはそれなりの人数が楽しめるものにしないといけないわけだが、そのノウハウをどうやって手に入れるかが問題だ。

「そこはお任せいたします。あくまでも目的は貧民と住民の関係改善、その為に教会も助力は惜しみません。」

「因みにどのぐらい出せる?」

「あまりたくさんは難しいですが金貨数枚というところでしょうか。」

「ふむ、それぐらいあればそこそこ出来るか。」

もちろん俺一人でそれ全てをせしめようとは思っていない、儲けるのはあくまでも参加者からで主催者からなにかお金を得るつもりはない。

確認したのは催しをするために必要な経費をどのぐらい出せるかなので、金貨を動かせるとなればそこそこの人間や資材を調達できる。

何をするにもマンパワーは必要だからな、いくら貧民の労働力が安いとはいえそれでも人数が増えればそれなりの金額になってしまう。

「では夏祭りで決まりですか?」

「そうだな、時期的に似たようなことをやる感じになるだろうからそれなりに盛り上がるだろう。まずは何をするかの案を出し合って、概要が決まり次第食い物関係の出店希望を取る感じか。あ、俺も何店舗か出すからよろしく。」

「え、食べ物の方ですか?」

「人手は借りるが色々とやりたいこともある、一番儲かるのはやっぱり食い物関係だからな。」

夏祭りといえばやっぱり出店、向こうで出した店の他にこっちで見つけた食材を使って店を出せればと思っていたんだ。

最近は忙しくてなかなかそこまで手が回らなかったけれど、そういうイベントがあれば自分で店をやらなくても誰かにやってもらえるきっかけになるのでいいチャンスだと思う。

反応次第では店を誰かにやらせながら仕入れは俺の所からさせて利益を出すなんて手法も取れる。

店を出すより物を売る方がリスクも少なく時間的拘束もない。

そういう意味では自分で店をやるってかなり非効率なんだよなぁ、残念ながら。

ほら、家を建てるよりも建てる為の足場を組む方が儲かるっていうし。

一軒作る拘束時間のあいだに何件分の足場が作れるのか、それを考えると一件単価は少なくても数をこなせば十分それを上回れるんだよなぁ。

もちろんそれにかかる資材や人員の確保が出来ればの話だけども。

「シロウ様の出す料理はどれも美味しいので今から楽しみです。」

「期待してくれて構わないぞ、定番の他に最近見つけた食材も使うつもりだ。」

「てっきり買い取った物を使って何かお店を出されるのかと思っていましたが、違うんですね。」

「それも考えたんだが、今回は材料提供の方で協力させてもらうとしよう。とりあえずどんな夏祭りにするか方向性を決めるところから始めようじゃないか。ただ単に住民との関係改善ってだけじゃ大きすぎるだろ。」

具体的にどんなやり方で関係を改善するのか。

さっき話したような子供を使うやり方なのか、それとももっと別の何かをやって改善するのか。

やり方は色々あるだろうけど、どちらにせよ俺が金儲けすることに変わりはない。

夏祭りの出店と言えば輪投げや射的、玉投げやくじ引きなんかも人気だ。

輪投げには最近手に入れたコボレートマジシャンの腕輪が使えそうだし、射的はスリングで代用して弾を子供は当てやすい物、大人は当てにくい物と変えてもいいかもしれない。

玉投げにはレッドスライムの核を使えばどこにあたったかもすぐわかるうえに誰でも投げれるので、子供から大人まで楽しめるはずだ。

どれも工夫次第でいくらでも金に化ける、それらの素材を早いうちから手配しておけば後々大儲けできること間違いなしってね。

だがこういうありきたりの奴だけだとすぐに飽きられてしまうので、もっとこう楽しめるやつを考える必要があるだろう。

なんせ規模が違う。

貧民街だけでも住民は数百人単位、王都の住民ともなると数千人規模だ。

流石にその規模の祭りはやったことないだけに、それこそ青龍祭のノウハウなんかを教えてもらう必要があるだろう。

流石に俺達だけでは出来る自信がない。

ま、今日明日やるような話でもないのでしっかり考えようじゃないか。

とりあえずその日決まったのは6月の終わりにそれを行うという事だけ。

あれ、あまり日がない?

なぜか当日まで一カ月を切るというスピード開催に決まり、慌ててしまったのは内緒だ。

とりあえず今はできることをしよう。

会議終了後、急ぎ冒険者ギルドへと駆け込み必要な素材を買い集めたのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

Age43の異世界生活…おじさんなのでほのぼの暮します

夏田スイカ
ファンタジー
異世界に転生した一方で、何故かおじさんのままだった主人公・沢村英司が、薬師となって様々な人助けをする物語です。 この説明をご覧になった読者の方は、是非一読お願いします。 ※更新スパンは週1~2話程度を予定しております。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...