転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1294.転売屋は嘘を見破る

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「ってな感じで、おおよその尻尾はつかめた。ただ肝心の黒幕についてはまだ確認できていないってのが現状だな。」

「そうか、やはり西方の印象を悪化させるべく裏で暗躍している奴がいるようだな。」

「あいつはあくまでも下っ端、捕まえた所でリザードのように尻尾を切られて終わりだろう。とはいえ本人もそれをわかっているはずだから消されないという保証があれば口を割ると思うんだがどう思う?」

「それに関しては何とも言えんな。仮に保護した所でそいつの情報が嘘だと言い切られればそこまで、黒幕はそれが出来る相手だとお前は睨んでいるのだろう?」

珍しく分厚い雲が太陽を覆い隠し、少しだけひんやりとした日の事。

西方の粗悪品問題についての中間報告を手に俺はリングさんの所を訪ねていた。

何度かうちの店に買い付けに来た後をジンに尾行させて仕入れた情報によると、奴は自主的に動いているのではなく第三者の指示で動いているようなそぶりが確認できた。

手紙が定期的に届けられそのタイミングでうちに買い付けにやってくる。

買い付けた品は一度持ち帰った後すぐに次の獲物の所に持ち込まれているようで、現にうちで買い取った品を売りつけられた貴族も把握している。

とはいえ売りに来たのは例の男なので黒幕まではわからないんだよなぁ。

金の動きもさっぱりで根城にしている所に今も保管されているのかそれとも別の場所に移送されているのかは現時点ではわかっていない。

うちで買い付けた金額と他所で売った金額に大きな開きはないので、やはり金儲けを目的としていないのは間違いないようだ。

となると狙いはやはり西方の印象悪化。

とはいえなぜそれをしなければならないのかという部分に関してはさっぱりわからないまま。

まぁ、本人に聞くのが一番手っ取り早いんだろうけど話してくれるかは何とも言えない。

「例えそうだとしてもとりあえず次に買い付けに来た時点で捕縛するつもりでいる。情報の真贋に関しては見破りの鈴があるからそれで逐一確認して正しい情報だけを引き抜くつもりだ。悪いがもうしばらく待ってくれ。」

「くれぐれも無茶だけはしてくれるなよ?」

「言われなくてもそのつもりだ。俺も命は惜しいんでね、やばくなったら早々にとんずらさせてもらうさ。」

「何が目的で誰が西方への感情を悪化させているのか、そしてその目的は。まだまだ分からないことばかりだ。」

盛大なため息をつくリングさんの肩を叩き報告を終えた俺は家路へとつく。

さぁここを曲がればもうすぐ到着というとこまで来ると、店の前に大きな荷馬車が止まっているのが見えてきた。

この間買い付けた馬車と比べると随分と貧相だが誰か来たんだろうか。

「ただいま。」

「これは主殿、トロル殿がお待ちですぞ。」

「ん?トロルさんが?」

「なんでも大至急買い付けたいものがあるんだとか、今裏で待ってもらっております。」

「了解した。悪いが例のブツを急ぎ手配してくれ、今日が最終日なんだ。」

「わかりました超特急でご準備いたします。」

中で待つトロルさんにも聞こえるような大きさで当たり障りのない程度に話をする。

だがお互いにアイコンタクトで別の要件を伝え、ジンは深々と頷いて店を後にした。

「悪い、待たせてしまったか。」

「いえいえいつも急な訪問で申し訳ありません。」

ジンが出ていくのを背中で聞きながら奥で待つトロルさんに声をかける。

いつもと変わらない柔らかな笑顔だがその下では何を企んでいるのかもしれない。

しかしながら今回は見破りの鈴を用意しているので、嘘をつけばすぐにわかるだろう。

そこからじわじわと追い詰めていき何とかして黒幕について聞きださなければ。

「俺は金になれば問題ない。表の馬車はト口ルさんが?」

「はい。実は大口の買い取り先が見つかりまして、可能でしたらお持ちの分を全て譲っていただくことはできますでしょうか。先方がかなりお急ぎでして頼れると事がここしかないんです。」

『チリン』

腰に付けた鈴が小さく音を鳴らす。

一瞬怪訝そうな顔をするもののすぐに真剣な面持ちで俺に向かって頭を下げるトロルさん。

この嘘はいったいどの部分に対する嘘なのか今の流れでは確認することはできなかった。

致し方ないもう少しさぐってみるか。

「全部ってのは西方製品をか?それとも例の品の方か?」

「後者です。」

「ふむ、それはこっちとしてもありがたい話だがあれは文化を研究するために集めてるんだろ?買い取りってのはどういうことだ?」

「もちろんそのための物ですが、やはり向こうの品は珍しく使用済みの物を買い取ってくださるという方が出てきたんです。もちろんシロウ様にはそれ相応のお礼はお渡しします。本来であれば直接取引していただく方が良いんでしょうが先方はそれを望んでいなくてですね。」

『チリン』

「つまりトロルさんが中間に入って取引するという事か。まぁ俺も似たようなことはしたことあるし、さっきも言ったように金になるのなら問題ない。しかし一気に全部とは剛毅だな。」

粗悪品だけに一つ一つの値段は微々たるものだが量が増えるとそれなりの金額になる。

どう考えても売り込み先を見つけたって感じなんだろうけども今度は誰が狙われているのやら。

「もちろん即金でお支払い致します。」

「わかった、すぐに準備するから少し待ってくれ。」

事前に用意していたリストを取りに一度に階へ上がり窓から外を見ると正面の路地にジンの姿、そこから離れた所にセインさんと聖騎士団員の姿が見える。

とりあえずこれで逃げられる心配は無くなったな。

あまり遅すぎても怪しいのですぐに下に戻りリストを手渡す。

それらすべてに目を通してから彼は静かに頷いた。

「これだけあれば先方も喜ぶことでしょう。こんなにたくさん、ありがとうございます。」

「気にしないでくれ。前々から集めていたものだし金になるのならありがたい。全部でいくらになる?」

「そうですね・・・概算ではありますが金貨2枚ぐらいでどうでしょう。」

「ふむ、金貨2枚か。まぁ、それぐらいが妥当なところだな。」

「では!」

「すぐに上から持って降りるから馬車への搬入はよろしく頼む。」

とりあえず恩を売って向こうの警戒を解きつつ一気に追い込む作戦で行こう。

すぐに荷物を降ろし馬車へと積み込んでいく。

あっという間に空っぽだった馬車には山のような木箱が積み上げられ、買い付けた品のほとんどがこの中に収められた。

それじゃあちょいとちょっかい出してみるか。

「これで最後だ。」

「ありがとうございます。これで先方も喜んでくれることでしょう。」

「そりゃよかった。新しいものも多いが前と同じものを売り込んで喜んでくれるとはずいぶんと適当な買い主なんだな。」

「・・・どういうことですか?」

「そのままの意味だ。今回運び込んだ品の半数はあんたが貴族に売り込んだものを俺の所で回収したやつ。同じ商品を二度売りつけることになるにもかかわらずそれに気づかないんだから随分と甘いって言ってるんだ。」

さっきまでの雰囲気はどこへやら一触即発のピリピリとした感じに切り替わる。

俺をにらみつけるように見たかと思えば、表の方にも目配せをしてどうやってこの場から逃れようか必死に頭を回転させているようだ。

「うちで買い物をした後あんたがどこに戻っているのかも全て調べてある、逃げるのは勝手だがそう簡単に逃げられると思うなよ。店の外には聖騎士団をはじめ俺の手配した人が待機してるから捕まるのも時間の問題だ。それに、逃げ出したとしても正体がばれたとなれば依頼主が黙っちゃいないだろう。捕まるだけならまだいいさ、この世から消される可能性だって十分にあるわけだし下手なことはしない方が得策だと忠告しておく。」

「いつから気付いていたんですか?」

「最初からだ。粗悪品を出回らせている奴がいるって話を聞いたタイミングで買い付けに来たら怪しまない方がおかしいだろ。どんな目的があってこんなことをしたかは知らないがあんたに残された選択肢はさほど多くない。一つは全て白状して俺達に身柄を確保される事、二つ目は逃げ出して雇用主に消される事。三つめは・・・これも結局は死ぬだけだから一緒か。」

助かる選択肢はただ一つ、情報と引き換えに身柄を保護してもらう事。

その選択肢を選ぶかどうかは本人次第だが正直それしか生き延びる方法はない。

命を取るか名誉を取るかそこが問題だ。

「私はあいつに脅されているんです。貴方が西方の粗悪品を集めているからそれを買ってくれば家族に手は出さないと言われていて、それで仕方なく・・・。」

『チリン』

其れっぽいことは言っているがどれだけ巧妙でもこの鈴がそれを逃すことはない。

「嘘だな。」

「・・・その鈴か。」

「御明察。あんたがどれだけ巧妙な嘘をつこうともこれがすぐに見破る。非協力的なのは別に構わないがただ単に自分の首を絞めているだけだという事も理解してくれ。逃げても死ぬだけ、嘘をつき続けても見破られるだけ。それなら聖騎士団の保護下でほとぼりが冷めるまで静かにしておいた方が良いと思わないか?」

「絶対に助かるという保証はどこにもないだろ。」

「世の中絶対という言葉はないがそれに近しいことになるように努力はする。例え雇用主が大物貴族であれ
俺の後ろには王族と聖騎士団がついているんだから大々的に悪さはできないはずだ。さぁ、どうする死ぬか生きるか、二つに一つだ。」

明らかに口調と態度が変わっている。

おそらくはこちらが本性なんだろうけど、どうにかしてこの窮地を脱することができないか考えているようだ。

誰が何のために西方を貶めようとしているのか。

そしてその目的は。

色々と思案したものの最後は観念したという顔のトロルからこぼれた言葉は想像の遥か斜め上を行く内容だった。
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