転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

文字の大きさ
上 下
1,299 / 1,415

1293.転売屋は北方の珍味を仕入れる

しおりを挟む
「あの~。」

「イラッシャイ、買取ならカウンターまで持って来てくれ。」

「いや、そう言うのじゃないんですけどいいですか?」

刺すような日差しが降り注ぐ昼前、恰幅の良い中年女性がふらりと店にやって来た。

透き通るような金髪に雪のように白い肌。

これでお腹のポッコリが無ければ元の世界ではさぞもてはやされただろうという感じのその女性は、申し訳なさそうな顔でカウンターまでやってくる。

どうやら買い取り客じゃないようだが、そんな人が何でまたこんな店にやって来たんだろうか。

「販売もしてるからそれは構わないんだが、探し物か?」

「オムヒゥケールトジェリーという魔物の肉を探しているんです。此方ではあまりなじみはないかもしれませんが、私の故郷では珍味としてよく食べられているんです。ですがこの夏は全くと言っていい程見つからなくて、王都でなら手に入るかもと思ったのですがなかなか見つからなくて。」

「それで俺の店にたどり着いたと。正直うちでもそういった素材を扱った覚えはないんだが、そんなに美味いのか?」

「甘辛く味付けして食べるのが一般的ですがコリコリとした食感が癖になりますよ。何故こちらで食べられないかはわかりませんが、私は昔から食べているので、それが食べられないとなると夏を迎えた気がしないんです。」

うーむ、そんな言われ方すると気になるじゃないか。

珍味って言われるものの多くはなかなか手に入らないかそれとも癖があるのかのどちらかなのだが、どうやら前者の方らしい。

そしてそういう物は総じて高くなるのが一般的だが・・・。

「なるほどなぁ、因みに有ればいくらで買うつもりなんだ?」

「一匹当たり銀貨10枚でも買います。」

「そんなに高くても買うのか。」

「私達にはそれだけ大切な物なんです。それが急に見つからなくなって、何か良くない事の前触れじゃなかったらいいんですけど。」

どんな魔物か知らないが一匹当たり銀貨10枚もの金額をポンと出そうっていうんだからよっぽど需要があると見える。

この近辺では全く聞かないという事は限られた需要になるんだろうけど、この金額なら手を出してみてもいいかもしれない。

「何匹必要なんだ?」

「何匹でも。」

「おいおい、本気か?」

「それだけのお金はみんなから預かってきました、ここが最後の綱なんです宜しくお願いします!」

「とりあえず出来る限りの事はさせてもらうが確約はしないからその時は覚悟してくれ。とりあえず滞在先を教えてくれれば報告は入れよう。」

「ありがとうございます。」

出来れば大儲け、出来なくても大きな損失はなさそうなのでとりあえず探すだけ探してみてもいいだろう。

とりあえずは情報収集からだな。

そろそろジンが製薬ギルドから戻ってくるだろうからそれから図書館に行ってどんな魔物か調べてみよう。

「オムヒゥケールトジェリーですか。えぇっと・・・あ、ありました!逆さになったクヴァーレですの事ですね。」

「逆さ?」

「はい。ダンジョンの天井なんかに張り付いて触手を垂らし、そこに引っかかった魔物や人を捕まえて食べる魔物です。クヴァーレの一種ではあるんですけど海に住んでいない珍しい魔物だったかと。」

ジンと交代するように図書館に向かい、ラブリーさんに魔物について問い合わせてみると本を探すまでも無く本人の口からすらすらと情報が流れて来た。

全部覚えてないとか言ってたのにこの人もアレン少年と同じタイプなんじゃなかろうか。

「よくまぁそんなの覚えてるな。」

「実はこの間入って来た本に書いてあったものですから。」

「なるほどそういう事か。」

「でも珍しい魔物だって書いてありましたよ。一応本も持ってきますね。」

「あぁ、宜しく頼む。」

そうか、やっぱり珍しい魔物なのか。

ダンジョンの中にいるらしいから片っ端から探せば見つかるかもしれないけれど、すぐに見つかるかどうかは何とも言えないなぁ。

クラゲなのに水中にいないとかそれってクラゲって言えるんだろうか。

ま、この世界と向こうの世界が全く同じわけじゃないんだし違ったものがいても何の不思議もない。

彼女が探してきてくれた本を貸し出してもらいその足で冒険者ギルドへ。

受付嬢も魔物について全く知らなかったらしいので、とりあえず借りてきた本を見せて依頼を出してもらうことになった。

一匹当たり銀貨5枚。

本当はもう少し安くしたいんだが安くて持ち込まれないのもあれなので少し高めに設定しておいた。

「こんな魔物がいるんですね。」

「俺も話を聞くまでは知らなかったが、美味いらしいぞ。」

「え!食べるんですか?」

「北方じゃ珍味っていうことで人気らしい。正直どんな味かは知らないが、まぁ魔物を喰うのは俺達も同じだしそれと似たようなもんだろう。」

「でもクヴァーレですよ?」

俺達の知っているクヴァーレとは違うのかもしれないし、その辺はとりあえず依頼を出して様子をみよう。

ぶっちゃけこの感じだと期待は薄そうだけどなぁ。

「ただいま。」

「おかえりなさいませ、主殿急ぎ見て頂きたい素材がございまして。」

「変なのが持ち込まれたのか?」

「クヴァーレの触手だと思うのですが、どうも見たことが無く値段のつけようがございません。あ、毒がありますのでご注意を。」

「毒か、了解した。」

鑑定するのに素材に触れる必要はあるのだが手袋をしていても発動するのでその辺の心配は無用だ。

『オムヒゥケールトジェリーの触手。逆さクヴァーレとも呼ばれており、見た目は海にいる種と同じで触手を伸ばして獲物を取るがこの種はダンジョンや洞窟の天井に張り付き触手に引っかかった獲物を捕食する。触手には神経性の毒があるが本体部分は北方では珍味とされており、高値で取引されている。最近の平均取引価格は銀貨12枚、最安値銀貨8枚最高値銀貨18枚、最終取引日は33日前と記録されています。』

こんな偶然があっていいのだろうか、探していた魔物がまさかこんなに早く見つかるとは。

っていうかあまりにも出来すぎていて怖いぐらいだ。

とはいえここに持ち込まれるという事は近くのダンジョンに生息するという事、急ぎどこで見つけたか聞かなければ。

「ジン、これを持ち込んだ冒険者はいつ戻ってくる?」

「主殿の期間がわかりませんでしたので夕方とだけお伝えしてますが。これに何か問題でも?」

「素材よりもこいつがどこで見つかったかの方が重要なんだ、そいつがどこにいるかはわかるか?」

「来たのは少し前ですので探せるやもしれません、少しお時間を頂戴します。」

「見つかったら査定が終わった事とどこで見つけたかを聞き出してくれ。」

「お任せを。」

触手だけここに持って来て本体を他所に持って行っている可能性もある、もしそれを持っているのなら出来るだけ早くここに連れてきて両方回収しなければ。

「シロウ様ただいま戻りました。」

早くジンが戻ってこないかとやきもきしていると、先にアニエスさんが戻って来た。

ここ二日ほどギルド協会の要請で魔物が溢れそうになっているさびれたダンジョンの討伐隊に同行していたのだが、どうやらそれが終わったらしい。

クーガーさんもいたのでまぁ問題はないだろうと思っていたのだが予想通り怪我一つしていないようだ。

「お帰り、合同討伐隊はどうだった?」

「お陰様で氾濫する前に魔物の駆除に成功しました。あまり見かけない魔物も多く苦戦はしましたが冒険者に死者は出ておりません。こちら、ギルドより頂いた報酬と分配された素材になります。」

「随分と大量・・・ってこれはもしかして天井にぶら下がってる魔物のやつか!?」

「そうですがオムヒゥケールトジェリーなどよくご存じですね。主に北方にしかいない珍しい魔物なのですが。」

「丁度それを探していたところだ。そうか、これだとかなりの数が手に入りそうだな。」

おそらくはギルドにも持ち込まれているだろうからそれはすべて回収するとして、他にも持っている人がいないか声掛けしてもらえるようにお願いしておこう。

ジンには悪いがもう殆ど判明してしまったけども、まぁ他に持っているものがあれば割増しで買い取ればいいか。

急ぎギルドに向かい依頼を見て大喜びする冒険者達からクラゲを回収、触手の方も色々と使い道がありそうなので両方買い付ける事にした。

この前のベルベラドンナと一緒に聖騎士団に持ち込む予定だ。

本当はその日のうちに回収分を持ち込んでも良かったんだが、流石に早すぎるので翌日の昼ぐらいまで寝かせて持ち込むことにした。

「まさかこんなに手に入るなんて・・・。」

「こいつで間違いないか?」

「この白濁した半透明な感じ、間違いないオムヒゥケールトジェリーだよ。」

「そりゃよかった。正直なところ手に入るとは思っていなかったんだが、偶然遭遇したっていう冒険者がいたんで売ってもらったんだ。全部で25匹、状態はいいはずだが念のために確認してくれ。」

ぶよぶよした本体を机の上に並べながら一匹ずつ検品してもらう。

本当はこの倍ほどあるんだけれどあまり多すぎてもあれなので頑張りました感を出すために小出しにしている。

目を輝かせてブヨブヨのクラゲを見つめる様は正直少し怖い感じだが、それだけほしかったってことなんだろう。

「どれも申し分ないですけど触手はありませんでしたか?」

「アレは別で使う予定が出来たんで頼まれていた本体しかないんだ。あったほうが良かったのか?」

「いえ、あの噛んだ時にしびれる感じも好きだったので手に入ればと思って。」

いやいや、獲物をしびれさせる触手の方まで食べるのか。

そっちはどっちかっていうと刺激ほしさなんだろうけど・・・いや、人の趣味にとやかく言うのは失礼だよな。

とりあえずしばらくはこっちにいるそうなので手に入り次第お渡しすることを約束して今日の分の報酬をもらった。

今回の冒険者から買い取った分で得られる報酬はおよそ銀貨25枚、後は巣になっていたっていうダンジョンでどのぐらいのペースで回収できるかによって得られる金額が変わってくる。

この人もずっとここにいられるわけじゃないだろうから今後は北方に輸出する算段も計画しなければならないだろう。

しかしこんなクラゲが銀貨に化けるとはなぁ。

後は聖騎士団が触手にどれだけの金を積むのか気になるところだが、まぁあまり期待はしないでおこう。

ベルベラドンナもそこまでの高額にはならなかったし期待して落ち込むよりかはずっといい。

これもまた自分の心を慰める処世術。

折角なので残ったクラゲを教えてもらった作り方で調理してみたのだが、味に関してはあえて触れないでおくつもりだ。

不味くはなかった・・・そういう事にしておいてくれ。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。 彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。 他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。 超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。 そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。 ◆ 「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」 「あらすじってそういうもんだろ?」 「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」 「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」 「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」 「ストレートすぎだろ、それ……」 「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」 ◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...