転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1279.転売屋は粗悪品を転売する

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いつもの仕事をこなしながらも、継続的に西方の粗悪品買取は続けられている。

リングさんに頼んでおいた貴族関係の品もそこそこ溜まってきているので、そろそろ動きが欲しいところだ。

自分の懐は痛まずむしろプラスになる話なので全く問題はないのだが他の買取品を置くスペースがなくなるのは痛い。

ここ最近は週の半分を自分の店で過ごすようにしているのでそろそろ屋敷から荷物を引き上げる準備をしていかねば。

ウィフさんは好きなだけいてくれていいとは言ってくれているものの、俺もそろそろ自分の地盤をしっかりと固めていかないとなぁ。

幸い部屋はあるので困ることはないし、家族が来たらアニエスさんが部屋を空けてくれるとのことなので何とかなるはず。

ジンは最近店番と警備を兼ねて一階で夜を明かしている。

ありがたいと言えばありがたいのだが、本当に睡眠をとらなくていいのだろうか。

今日も店番を買って出てくれたジンに任せて二階で在庫の仕分けをしていると、下から階段を上る足音が聞こえてきた。

「主殿、お客人が参られました。」

「客?」

「なんでも西方の品を買いたいのだとか。」

「ん?買取じゃなくてか?」

「はい。ここに西方の品が集まっていると知っているようです。」

そこまで言われてハッと気が付いた。

どうやらお待ちかねの獲物が餌に引っかかってくれたようだ。

いやはやどうなる事かと思ったが、噂をすると何とやらってやつだな。

ジンと静かに頷き合い、気を引き締めて下に降りる。

「お待たせいたしました。シロウ様、後はお願いします。」

「あぁ、悪いが外回りをよろしく頼む。」

「お任せください。」

ジンとバトンタッチして外回りをお願いする。

というのは建前で、ジンにはジンにしかできないことをお願いするつもりだ。

とはいえそれは後の話なので今は目の前の相手に集中しなければ。

「すまない、店主のシロウだ。西方の品を買いたいんだって?」

「トロルと申します、こちらのお店で西方の品を買い取っておられると耳にしまして。是非お譲りいただけないかと思い参りました。」

深々と頭を下げる背の高い男。

雰囲気は物静かで礼儀正しいような感じがする。

顔はイケメンという程ではないが悪くはない、よく言えばそんな感じ悪く言えば普通過ぎてあまり印象に残らないタイプだ。

いや、目元の泣き黒子が結構印象に残るか。

ぶっちゃけるとそこしか覚えていなさそうな感じだな。

「確かに買い取ってはいるが、どんなものを買い取っているのかは理解してるんだよな?」

「西方のあまりよろしくない品ですよね。」

「買い取っている身としてこういうのもなんだが、こんなのをどうするつもりだ?俺にはいろいろとコネがあるからこういった品でも十分利益を出せるが正直売り物にならないようなものがほとんどだぞ。」

俺が買い取っているのが売り物にならないような粗悪品だと理解した上で買いに来ているのは理解しているが、これをどうするのか気になるところだ。

もちろんすんなり教えてくれるとは思っていないけれどそれらしい答えは用意しているだろう。

「実はですね、西方の品々を細かく研究して新しい物を作り出そうと思っているのです。こちらにはない細かな手仕事や模様の工夫など勉強になる部分は多々あります。とはいえ上質な物を分解する程の財力はない物でして、こうやって質の悪い物を買い付けているんです。売り物にはならなくとも技術や模様などは近しい仕上がりですし、なにより遠慮なく壊せるのがありがたい限りでして。」

「模倣するには細部まで分解する必要があると、なるほど確かにそれなら質の悪い物の方が気兼ねなく出来るな。」

「そういう事なんです。もちろんいずれは上質な物も壊さないといけないでしょうけど、構造を知っているかどうかで模倣する質が変わります。」

「だが所詮は模倣、西方に勝るものが出来るのか?」

「やってみなければわかりません。それに全く同じものを作るつもりではないんです。あくまでも製法を知りそれを我々の新しい武器にするだけで目的は新しい技術の創造ですから。」

なるほど、これは想像以上に巧妙な理由だな。

西方の製法を模倣してそこから新しい物を想像する。

別に模倣は悪い事じゃない、全く同じものを作ってそれだと偽るのが悪なだけだ。

模倣こそ新しい技術の母でもある、それを理解している身としては今の話を聞いて思わず感銘を受けてしまった。

「なるほどなぁ。因みにもしそれが成功した暁には俺にも一口噛ませてもらえるのか?」

「期待していただいて嬉しいのですが、まだまだ研究段階でして。」

「そりゃ残念だ。でもまぁそれに貢献できるというのなら提供するのもやぶさかじゃない、だがタダってわけにはいかないんだ。こっちも商売なんでね。」

「もちろん理解しております、ただ欲を言えばお安くいただけると・・・。」

「ま、それは交渉次第だな。とりあえずここに買い付けたリストがある、興味がある物があったら教えてくれ。」

この日のために用意しておいた買い付けた粗悪品リスト。

あえてリングさんから回収した分は乗せず、俺が個人で買い付けた分だけを乗せてある。

いきなり手札を全部さらけ出すのは素人のする事。

これは戦いなんだ、出来るだけ少ない手札で相手を攻略してなんぼだろう。

リストを渡すと静かにそれを受け取り中身に目を通すトロルさん。

五分ほどそうしていただろうか、静かに頷くと紙をこちらに返してくる。

「いい物はあったか?」

「こちらの布と服、それとこのカップをお願いできますでしょうか。」

「布はともかくカップか?」

「これは個人的に欲しくてですね。数があっても困りませんし、別に店も持っていますのでそこで使おうと思います。」

「なるほどな。その組み合わせなら・・・こんな感じか。」

買い取った総額はおよそ銀貨25枚。

さて、いくらで転売してやろうか。

高くても買ってくれそうな雰囲気はあるのだがここは一つ恩を売っておきたいところだ。

たった一回の買い物で尻尾を出すはずもないし何度か取引をして関係を強化、さらには尻尾を出すのを待たなければならない。

この人がどんな理由で粗悪品を買い続けているのか。

そして、誰が何のために粗悪品を売り続けているのか。

それをこの一階で見極めることはできそうもない。

「銀貨40枚でいいんですか?」

「まぁ物が物だからな、買い取った金額もそこまで高くないし儲けたいのならまともな物を売った方が儲かる。」

「確かにその通りです。」

「それにだ、長い付き合いになるんならここで恩を売っておくほうがお互いにとって利が多いだろ?今後も継続してそういった物は買い取っていくから定期的にのぞいてみてくれ。予定では一週間後に大口の買取をするつもりだ。」

「そこまで教えていただけるんですか?」

「一応販路はあるがわざわざそれを使わずに売れるのならそれに勝ることはない。今後もいい取引を期待している。」

「こちらこそよろしくお願いします。」

交渉成立。

にこやかな笑顔を浮かべながら銀貨を積み上げていくトロルさんを待たせ、二階から希望する商品を取ってくる。

買い付けた品物の三割にも満たない量だが初回としては悪くはない。

あとは向こうが味を占めてくれるのを待つだけだ。

店を出ていったトロルさんの背中を見送りながら視線を少しだけ外し路地の方を見ると、身を潜めていたジンが静かに頭を縦に動かした。

商品を売って恩を売るだけじゃ調査にならない。

リングさんからはどんな相手かまで調べるように言われているので、とりあえずどこに戻るかをまず確認しよう。

流石に俺が追いかけるわけにもいかないので、隠密も出来るジンに後は丸投げだ。

鬼が出るか蛇が出るか、粗悪品を売りつけているのはいったい誰なのか。

折角手に入れたきっかけを逃す手はないよな。

積み上げられた銀貨を確かめながら次の仕込みについて考える。

買っていったのは布と服、それとカップ。

前者はともかく後者は売り込まれるとすぐに判別がつくので再び誰かに売りつけられたらこの人が仕入れ担当だという事がわかる。

もちろん足がつかないよう他所で売る可能性もあるのだけれど、西方ブームは王都が中心。

必ずこの街で売るはずだ。

「ただいま戻りました。おや、嬉しそうですね。」

「そんな顔してるか?」

「はい、とても悪い顔をしています。」

悪い顔が嬉しそうってのはどうなんだろうか。

アニエスさんが何故か得意げな顔で何度もうなづいている。

「まぁ半分は当たりだ。例の粗悪品買取に動きがあったんでね、それに少しだが儲けも出た。」

「それはそれは。今後も大きな儲けになりそうですか?」

「今の所はその予定だ。安く仕入れた粗悪品を高く売りつけ、そしてまた安く仕入れる。買わされた貴族には申し訳ないが俺は何の痛みもなく儲けだけが出るからな、悪い顔にもなるさ。」

「ですがいつまでもそれができるわけではありません。続けば間違いなく西方に対する反感は強くなります。」

「そして俺の仕入れた品が売れなくなると。この前仕入れた茶葉や海苔を売りさばくためにも、こんな所で西方の好感度を下げたくはないんでね。手はしっかり打たせてもらうさ。」

これも俺の金儲けの為。

長い戦いの火ぶたが切って落とされた、そんなアナウンスが聞こえたような気がした。
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