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1274.転売屋はギルドから呼び出される
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「シロウ様、先程魔術師ギルドよりギルドに来るようにとの通達が参りました。」
「魔術師ギルド?なんでまたそんなところが。」
「詳しくはわかりませんが、恐らくこの間流したブツの事かと。」
「・・・出所は隠したはずだが?」
「セイレーンの歌を閉ざし続けることは出来ませんから。」
口に戸は建てられぬの異世界版ってやつか。
セイレーンと言えば海上で歌を歌い船乗りを惑わせるというやつだったよな、成程確かに閉ざし続ける事は出来なさそうだ。
しかし魔術ギルドからのお呼び出しとは・・・、正直前に一回やりあっているのでいい印象がないんだよなぁ。
っていうか今日は一体何なんだ?
「魔術師ギルドに行かれるのは結構ですが、それよりも前に商業ギルドと冒険者ギルド、加えて製薬ギルドからもお声が掛かっておりますが時間的に大丈夫ですか?」
「なんで今日に限ってこんなに声がかかるんだよ。こっちの都合も考えろっての。」
「ひとまず用事がわかっているのは商業ギルドと製薬ギルドですね、そちらから済ませるのが宜しいかと。」
「そうだな、とりあえず先方には昼を過ぎるとだけ伝えてくれ。」
昼は過ぎるが過ぎてからどのぐらいかまでは伝えない。
っていうか読めないのでそれぐらいの言い方しかできないんだが、まぁ許してもらえるだろう。
とりあえず今日は店を開けるつもりもなかったので、面倒な用事を終わらせてしまうとするか。
ってことでまずはこの間顔を出したばかりの商業ギルドへ。
こっちに関しては香茶の茶葉についての確認だったのでさほど時間はかからなかった。
現地の商業ギルドが茶葉の買い付けに許可を取ったので、時期にこちらに流れてくるらしい。
その取引の中で先方がバーンと俺にお礼を言いたいとの事だったので、わざわざそれを言う為に呼んだんだとか。
ともかく苦情とかじゃなくて何よりだ。
元の世界では『急にバカ売れしていい迷惑だ!』なんていう話も聞いたことがあるだけに、そう言われないだけでもホッとする。
ってことで早々に一つ目の用事を終わらせて向かった二つ目。
そこが今日のハイライト・・・ではないんだよなぁ残念ながら。
「先日のバグワーミーもそうでしたが、この若葉は一体どこで手に入れられたんでしょう。」
製薬ギルドの応接室に入りソファーに座るや否や、机の上に置かれたオールダートレントの若葉を指さしてファマスさんが問い詰めてくる。
これに関しては俺が直接ギルドに運び込んだものなんだが、まさかこんなにも早くお呼び出しを喰らうとは思わなかった。
「それに関しても取引相手からきつく口止めされてるんでね、残念ながら直接取引できるとは思わないでくれ。先方も俺経由だから希少な物を提供してくれているんだ、決して詮索なんてしないでくれよ。この間うちの人間が屋敷の周りをうろついているっていう怪しい人物について報告が上げてきたんだが、聞けば製薬ギルドに雇われたそうじゃないか。まさかファマスさんの指示じゃないよな?」
「それはそれは、うちのギルド職員が不快な事を致しまして申し訳ございませんでした。以後ご迷惑を掛けないよう周知徹底致します。」
「そうしてくれ、いちいち確認のために時間を取られるのも面倒なんでね。」
あくまで私は知りませんでしたっていう体裁で行くつもりなんだろう。
こっちもジンが捕まえたっていう関係者は最後までファマスさんの名前を出さなかったので、それ以上追及することはできないんだよな。
とはいえここで釘を刺しておけばこれ以上の事はしてこないだろう。
いや、絶対にしないという保証はないが、とりあえずこっちが警戒しているぞっていう意思表示にはなるはずだ。
まったく街を代表するギルドが裏でこんなことをして来るとは、今回のもそうだけど珍しい素材を出すときは今まで以上に警戒しないといけないらしい。
「それで、これは他にも在庫をお持ちなのですか?」
「残念ながらこれ一枚だ。あぁ、落ち葉なら5枚程在庫してるが・・・。」
「いただきましょう。」
「他所に流す選択肢は与えてもらえないのか?」
「他所よりも高い値段を提示しますのでそうなる事はありません。」
ありえないと言い切るところがこの人らしい。
若葉一枚が銀貨30枚以上で取引され、乾燥させるとその価値は半減すると聞く。
今回はその若葉を相場よりも高い銀貨40枚で買取ってくれた製薬ギルドだが、果たして落ち葉にどのぐらいの値段をつけるのだろうか。
「ちなみにいくら出すつもりだ?」
「銀貨1枚出しましょう。足りなければ2枚まで出します。」
「マジか。」
「貴方はオールダートレントの価値を理解していないようですね、落ち葉とはいえ森の奥深くでしか手に入らない上に枯葉でさえ人を癒すことが出来るのです。そのほとんどが森の魔物の手に渡り、市場に出回るのは一か月に一枚あるかないか。もちろんその為だけに落ち葉を荒らしまわるような人はいませんから当然といえば当然ですが、それを5枚もまとめて持ってくる時点でこういう反応をされることを覚えておくといいでしょう。」
「御忠告感謝する。」
うーむ、この反応から察するに魔術師ギルドの呼び出しがどれだけヤバいかなんとなくわかってしまった。
そりゃ呼び出されもするか。
今の話を聞いて俄然行きたくなくなってしまったのだが、呼び出されてしまったからにはいかねばならない。
ファマスさんの忠告を胸に、ついでに落ち葉も買い取ってもらってから製薬ギルドを後にする。
えーっと、次は冒険者ギルドか、時間的にそろそろお昼だし先に飯を済ませてしまおう。
市場で寄り道をして昼食を買い込み自分の店の戸を開ける。
買取分がまだまだ仕分けられていないので裏での食事は出来そうにない為、カウンターで食べるとしよう。
昨日までの忙しさが嘘のように静まり返った店内。
まだ自分の店っていう雰囲気にはなっていないが、ここから少しずつ馴染んでいくんだろうか。
「ま、まだ始まったばかりだしな。」
とりあえず呼び出しはあと二つ。
さっさと終わらせて裏に積みあがった奴を仕分けるとしよう。
そんな気持ちで昼食を済ませ、いざ冒険者ギルドへ。
馴染みの受付嬢に声をかけるや否や、慌てた様子で裏へと飛んで行ったと思ったら強面のオッサンが奥から顔を出してこちらに近づいてきた。
しまった、アニエスさんに同行してもらえばよかったと後悔した時にはもう遅い。
そのまま連行される宇宙人のように左右を塞がれて応接室へと連れていかれてしまう。
「この仕打ちはなんだ?」
「まぁまぁそう怖い顔しないで。」
「いきなり有無も言わせず連れて行かれたら文句も言いたくなるだろ。」
「おい。」
「あぁ、彼の事は気にしないで。ギルドの職員っていうと皆冒険者あがりだと思われるかもしれないけど、僕のようにひ弱なのもいるからその護衛みたいなものかな。とりあえず敵意が無い事を表すためにもまずは自己紹介から始めようじゃないか。僕はウォーリー、ギルドのしがない中間管理職で彼はドォール。君はシロウさんだったね、一応新人冒険者ってことになってるけど実力と成果は中級冒険者並、そして近所に新しいお店を開いた買取屋さん、そこまでは間違いないかな。」
威嚇してくる護衛を片手で制する時点でただの中間管理職じゃないと思うんだが。
表面上はにこにこしていても中身は何を考えているかわからないタイプだ、それなら横に立つ厳つい男の方が何倍も話がしやすい気がする。
わざわざ俺を呼び出して一体何をさせたいのやら。
「間違いない。」
「それはよかった。今日ここに呼んだのはお願いとお願いと命令があったからなんだけど、いいかな。」
「最後以外は聞いてもいい。」
「あはは、そう言わずに全部聞いてくれるとありがたい。まず最初のお願いは定期的な素材の提供について。まぁ、これに関してはこの間そちらのアニエスさんがリストを持って行ってくれたから承諾してくれていると判断している。それで二つ目が新人冒険者の準備に使う店として登録してもらえないかという事。ギルドから一番近い上に薬をはじめ保存食や道具を一度に手配できるのは彼らにとっても好都合だから是非紹介させてもらいたいんだ。そして最後の命令だけど・・・。」
「その代わりに買取の割り増しを止めろって事だろ?お断りだね。」
終始ニコニコしながら話していた顔がピクリと固まる。
もちろんそのまま修羅の顔になる事はなかったが、表情は少しこわばったままだ。
「登録してもらえれば継続して冒険者が利用するからかなり儲かると思うんだけど。」
「俺がそれ目当てで店を出しているのなら大歓迎だが、俺の仕事はあくまでも買取屋。店で薬類を売っているのは冒険者に寄ってもらいやすくするためであって、ここで準備を整えてくれって言っている事じゃない。それに登録してしまったら今まで彼らが贔屓していた店の売り上げが減るのは目に見えている、その恨みをなんで俺がかぶらないといけないんだ?そんな面倒なことになるのなら端から登録はお断りだし、なにより買取価格を強制するのが納得いかない。そんな命令するのなら店を出すって話をした時に断りを入れて来るべきだろう。後になって自分の所の買取量が減ったからって文句を言ってくるのは天下の冒険者ギルドの仕事とは思えないね。」
「・・・それがそちらの言い分かな?」
「言いたいことは言わせてもらった。もちろんそれで冒険者に圧力をかけてうちを利用させないというのなら、俺にも考えはある。もちろんそんなせこい事をするのならの話だが。」
「何をするのかな?」
「国王陛下に直訴してギルドのやり方に文句を言うだけだ。知っているかもしれないが、元はつくが名誉男爵としての地位は持っていたし貴族と王族にもそれなりに顔が利く。最悪ここで取引できなくなっても聖騎士団と取引すればそれなりに儲けは出るから問題はないんだけどな。聞いた話じゃ聖騎士団が討伐した素材は無条件で冒険者ギルドが買い付けているそうじゃないか、値段もそっちの言い値らしいから俺が適切な値段で買い付けた方が向こうも喜ぶだろう。ホリアとセインとは親しい仲でね、そちらが何かをしようとしてもすぐにわかるから余計な方はしない方がいいと先に言っておこう。つい先日製薬ギルドの息がかかった奴をうちのが捕まえた所なんだ。」
まったく、製薬ギルドに目をつけられたと思ったら今度は冒険者ギルドかよ。
冒険者として所属している以上あまりもめたくはないのだが、商売をする上でちょっかいを出してくるのなら俺にも考えってもんがある。
折角手に入れた王都での二号店をそう簡単につぶそうと思ったら大間違いだぞ。
流石に陛下直々の紹介状を取り出してまで抵抗されるとは思っていなかったんだろう。
護衛は何も言わずただ無言でこちらを見て来るだけで威嚇してくる様子はない。
とおもったら、突然大きな声で笑い始めた。
「あっはっは!だから言っただろうウォーリー、こいつには手を出すべきじゃないと。」
「仕方ないじゃないかこれも仕事なんだから。でも僕らがどうこうできる相手じゃないという事もよくわかった。あぁ、気を悪くしたのなら素直に謝るよ。君を試させてもらっただけなんだ。」
「試す?」
「最近はギルドに取り入るためにあれこれ手を回してくる輩が多くてな、そう言うのを見分けるためにこちらから餌をまくことにしているんだ。飛びつけば要注意、警戒すれば見込みアリ。お前が陛下のお気に入りだって事も聖騎士団の二人と仲が良い事も直接本人から聞いている。試すようなことをして悪かった、許してくれ。」
「ちょっとギルド長。そんな簡単に頭を下げないでくださいよ。」
「ギルド長だったのか。」
ただの護衛かと思ったらまさかの人物の登場にこちらが逆に驚いてしまう。
マジか、そんな偉い人が来てたのか。
っていうかそんなのに目をつけられていたのか。
まったく、何なんだよ。
「聖騎士団の二人だけでなく陛下までお前を褒めるんでな、どんな人物か気になっていたんだ。そしたらすぐ近くに店を出すっていうじゃないか、金儲けが好きだって聞いていたからちょいと餌をたらしてみようとこいつが言うもんで見に来てみたらこのざまだ。話に聞いていた通り面白いやつみたいだな、気に入った。」
「そりゃどうも。ってことはさっきのお願いも無かったことになるのか?」
「いえ、最初の二つに関しては引き続きお願いしたいと思っています。取引もそうですし、新人冒険者への紹介もさせてもらうつもりです。そのほうがこちらにとっても都合がいいので、先程のお詫びもかねていかがでしょう。」
「そりゃ有難いが、いいのか?」
「新人の持ち込む買取品を高く買ってもらえればその分奴らのやる気も変わってくる。持ち込まれる素材なんてたかが知れてるし遠慮は無用だ。」
ふむ、そういう事ならお願いしてもいいかもしれない。
もちろんそれで本業がおろそかになるのなら話は別だが、とりあえず冒険者とのつながりが出来るのは有難い事だ。
とはいえ各ギルドが色んな意味で俺に注目していることが分かったので、これからはその辺も気を付けなければいけないな。
その後冒険者ギルドから解放された俺は、フラフラのまま魔術師ギルドへと向かいこの前流したオールダートレントの枝について質問攻めにあったのだった。
もうギルド関係の呼び出しは勘弁してもらいたい。
せめて無理を言ってでも日をずらそう、そう誓った。
「魔術師ギルド?なんでまたそんなところが。」
「詳しくはわかりませんが、恐らくこの間流したブツの事かと。」
「・・・出所は隠したはずだが?」
「セイレーンの歌を閉ざし続けることは出来ませんから。」
口に戸は建てられぬの異世界版ってやつか。
セイレーンと言えば海上で歌を歌い船乗りを惑わせるというやつだったよな、成程確かに閉ざし続ける事は出来なさそうだ。
しかし魔術ギルドからのお呼び出しとは・・・、正直前に一回やりあっているのでいい印象がないんだよなぁ。
っていうか今日は一体何なんだ?
「魔術師ギルドに行かれるのは結構ですが、それよりも前に商業ギルドと冒険者ギルド、加えて製薬ギルドからもお声が掛かっておりますが時間的に大丈夫ですか?」
「なんで今日に限ってこんなに声がかかるんだよ。こっちの都合も考えろっての。」
「ひとまず用事がわかっているのは商業ギルドと製薬ギルドですね、そちらから済ませるのが宜しいかと。」
「そうだな、とりあえず先方には昼を過ぎるとだけ伝えてくれ。」
昼は過ぎるが過ぎてからどのぐらいかまでは伝えない。
っていうか読めないのでそれぐらいの言い方しかできないんだが、まぁ許してもらえるだろう。
とりあえず今日は店を開けるつもりもなかったので、面倒な用事を終わらせてしまうとするか。
ってことでまずはこの間顔を出したばかりの商業ギルドへ。
こっちに関しては香茶の茶葉についての確認だったのでさほど時間はかからなかった。
現地の商業ギルドが茶葉の買い付けに許可を取ったので、時期にこちらに流れてくるらしい。
その取引の中で先方がバーンと俺にお礼を言いたいとの事だったので、わざわざそれを言う為に呼んだんだとか。
ともかく苦情とかじゃなくて何よりだ。
元の世界では『急にバカ売れしていい迷惑だ!』なんていう話も聞いたことがあるだけに、そう言われないだけでもホッとする。
ってことで早々に一つ目の用事を終わらせて向かった二つ目。
そこが今日のハイライト・・・ではないんだよなぁ残念ながら。
「先日のバグワーミーもそうでしたが、この若葉は一体どこで手に入れられたんでしょう。」
製薬ギルドの応接室に入りソファーに座るや否や、机の上に置かれたオールダートレントの若葉を指さしてファマスさんが問い詰めてくる。
これに関しては俺が直接ギルドに運び込んだものなんだが、まさかこんなにも早くお呼び出しを喰らうとは思わなかった。
「それに関しても取引相手からきつく口止めされてるんでね、残念ながら直接取引できるとは思わないでくれ。先方も俺経由だから希少な物を提供してくれているんだ、決して詮索なんてしないでくれよ。この間うちの人間が屋敷の周りをうろついているっていう怪しい人物について報告が上げてきたんだが、聞けば製薬ギルドに雇われたそうじゃないか。まさかファマスさんの指示じゃないよな?」
「それはそれは、うちのギルド職員が不快な事を致しまして申し訳ございませんでした。以後ご迷惑を掛けないよう周知徹底致します。」
「そうしてくれ、いちいち確認のために時間を取られるのも面倒なんでね。」
あくまで私は知りませんでしたっていう体裁で行くつもりなんだろう。
こっちもジンが捕まえたっていう関係者は最後までファマスさんの名前を出さなかったので、それ以上追及することはできないんだよな。
とはいえここで釘を刺しておけばこれ以上の事はしてこないだろう。
いや、絶対にしないという保証はないが、とりあえずこっちが警戒しているぞっていう意思表示にはなるはずだ。
まったく街を代表するギルドが裏でこんなことをして来るとは、今回のもそうだけど珍しい素材を出すときは今まで以上に警戒しないといけないらしい。
「それで、これは他にも在庫をお持ちなのですか?」
「残念ながらこれ一枚だ。あぁ、落ち葉なら5枚程在庫してるが・・・。」
「いただきましょう。」
「他所に流す選択肢は与えてもらえないのか?」
「他所よりも高い値段を提示しますのでそうなる事はありません。」
ありえないと言い切るところがこの人らしい。
若葉一枚が銀貨30枚以上で取引され、乾燥させるとその価値は半減すると聞く。
今回はその若葉を相場よりも高い銀貨40枚で買取ってくれた製薬ギルドだが、果たして落ち葉にどのぐらいの値段をつけるのだろうか。
「ちなみにいくら出すつもりだ?」
「銀貨1枚出しましょう。足りなければ2枚まで出します。」
「マジか。」
「貴方はオールダートレントの価値を理解していないようですね、落ち葉とはいえ森の奥深くでしか手に入らない上に枯葉でさえ人を癒すことが出来るのです。そのほとんどが森の魔物の手に渡り、市場に出回るのは一か月に一枚あるかないか。もちろんその為だけに落ち葉を荒らしまわるような人はいませんから当然といえば当然ですが、それを5枚もまとめて持ってくる時点でこういう反応をされることを覚えておくといいでしょう。」
「御忠告感謝する。」
うーむ、この反応から察するに魔術師ギルドの呼び出しがどれだけヤバいかなんとなくわかってしまった。
そりゃ呼び出されもするか。
今の話を聞いて俄然行きたくなくなってしまったのだが、呼び出されてしまったからにはいかねばならない。
ファマスさんの忠告を胸に、ついでに落ち葉も買い取ってもらってから製薬ギルドを後にする。
えーっと、次は冒険者ギルドか、時間的にそろそろお昼だし先に飯を済ませてしまおう。
市場で寄り道をして昼食を買い込み自分の店の戸を開ける。
買取分がまだまだ仕分けられていないので裏での食事は出来そうにない為、カウンターで食べるとしよう。
昨日までの忙しさが嘘のように静まり返った店内。
まだ自分の店っていう雰囲気にはなっていないが、ここから少しずつ馴染んでいくんだろうか。
「ま、まだ始まったばかりだしな。」
とりあえず呼び出しはあと二つ。
さっさと終わらせて裏に積みあがった奴を仕分けるとしよう。
そんな気持ちで昼食を済ませ、いざ冒険者ギルドへ。
馴染みの受付嬢に声をかけるや否や、慌てた様子で裏へと飛んで行ったと思ったら強面のオッサンが奥から顔を出してこちらに近づいてきた。
しまった、アニエスさんに同行してもらえばよかったと後悔した時にはもう遅い。
そのまま連行される宇宙人のように左右を塞がれて応接室へと連れていかれてしまう。
「この仕打ちはなんだ?」
「まぁまぁそう怖い顔しないで。」
「いきなり有無も言わせず連れて行かれたら文句も言いたくなるだろ。」
「おい。」
「あぁ、彼の事は気にしないで。ギルドの職員っていうと皆冒険者あがりだと思われるかもしれないけど、僕のようにひ弱なのもいるからその護衛みたいなものかな。とりあえず敵意が無い事を表すためにもまずは自己紹介から始めようじゃないか。僕はウォーリー、ギルドのしがない中間管理職で彼はドォール。君はシロウさんだったね、一応新人冒険者ってことになってるけど実力と成果は中級冒険者並、そして近所に新しいお店を開いた買取屋さん、そこまでは間違いないかな。」
威嚇してくる護衛を片手で制する時点でただの中間管理職じゃないと思うんだが。
表面上はにこにこしていても中身は何を考えているかわからないタイプだ、それなら横に立つ厳つい男の方が何倍も話がしやすい気がする。
わざわざ俺を呼び出して一体何をさせたいのやら。
「間違いない。」
「それはよかった。今日ここに呼んだのはお願いとお願いと命令があったからなんだけど、いいかな。」
「最後以外は聞いてもいい。」
「あはは、そう言わずに全部聞いてくれるとありがたい。まず最初のお願いは定期的な素材の提供について。まぁ、これに関してはこの間そちらのアニエスさんがリストを持って行ってくれたから承諾してくれていると判断している。それで二つ目が新人冒険者の準備に使う店として登録してもらえないかという事。ギルドから一番近い上に薬をはじめ保存食や道具を一度に手配できるのは彼らにとっても好都合だから是非紹介させてもらいたいんだ。そして最後の命令だけど・・・。」
「その代わりに買取の割り増しを止めろって事だろ?お断りだね。」
終始ニコニコしながら話していた顔がピクリと固まる。
もちろんそのまま修羅の顔になる事はなかったが、表情は少しこわばったままだ。
「登録してもらえれば継続して冒険者が利用するからかなり儲かると思うんだけど。」
「俺がそれ目当てで店を出しているのなら大歓迎だが、俺の仕事はあくまでも買取屋。店で薬類を売っているのは冒険者に寄ってもらいやすくするためであって、ここで準備を整えてくれって言っている事じゃない。それに登録してしまったら今まで彼らが贔屓していた店の売り上げが減るのは目に見えている、その恨みをなんで俺がかぶらないといけないんだ?そんな面倒なことになるのなら端から登録はお断りだし、なにより買取価格を強制するのが納得いかない。そんな命令するのなら店を出すって話をした時に断りを入れて来るべきだろう。後になって自分の所の買取量が減ったからって文句を言ってくるのは天下の冒険者ギルドの仕事とは思えないね。」
「・・・それがそちらの言い分かな?」
「言いたいことは言わせてもらった。もちろんそれで冒険者に圧力をかけてうちを利用させないというのなら、俺にも考えはある。もちろんそんなせこい事をするのならの話だが。」
「何をするのかな?」
「国王陛下に直訴してギルドのやり方に文句を言うだけだ。知っているかもしれないが、元はつくが名誉男爵としての地位は持っていたし貴族と王族にもそれなりに顔が利く。最悪ここで取引できなくなっても聖騎士団と取引すればそれなりに儲けは出るから問題はないんだけどな。聞いた話じゃ聖騎士団が討伐した素材は無条件で冒険者ギルドが買い付けているそうじゃないか、値段もそっちの言い値らしいから俺が適切な値段で買い付けた方が向こうも喜ぶだろう。ホリアとセインとは親しい仲でね、そちらが何かをしようとしてもすぐにわかるから余計な方はしない方がいいと先に言っておこう。つい先日製薬ギルドの息がかかった奴をうちのが捕まえた所なんだ。」
まったく、製薬ギルドに目をつけられたと思ったら今度は冒険者ギルドかよ。
冒険者として所属している以上あまりもめたくはないのだが、商売をする上でちょっかいを出してくるのなら俺にも考えってもんがある。
折角手に入れた王都での二号店をそう簡単につぶそうと思ったら大間違いだぞ。
流石に陛下直々の紹介状を取り出してまで抵抗されるとは思っていなかったんだろう。
護衛は何も言わずただ無言でこちらを見て来るだけで威嚇してくる様子はない。
とおもったら、突然大きな声で笑い始めた。
「あっはっは!だから言っただろうウォーリー、こいつには手を出すべきじゃないと。」
「仕方ないじゃないかこれも仕事なんだから。でも僕らがどうこうできる相手じゃないという事もよくわかった。あぁ、気を悪くしたのなら素直に謝るよ。君を試させてもらっただけなんだ。」
「試す?」
「最近はギルドに取り入るためにあれこれ手を回してくる輩が多くてな、そう言うのを見分けるためにこちらから餌をまくことにしているんだ。飛びつけば要注意、警戒すれば見込みアリ。お前が陛下のお気に入りだって事も聖騎士団の二人と仲が良い事も直接本人から聞いている。試すようなことをして悪かった、許してくれ。」
「ちょっとギルド長。そんな簡単に頭を下げないでくださいよ。」
「ギルド長だったのか。」
ただの護衛かと思ったらまさかの人物の登場にこちらが逆に驚いてしまう。
マジか、そんな偉い人が来てたのか。
っていうかそんなのに目をつけられていたのか。
まったく、何なんだよ。
「聖騎士団の二人だけでなく陛下までお前を褒めるんでな、どんな人物か気になっていたんだ。そしたらすぐ近くに店を出すっていうじゃないか、金儲けが好きだって聞いていたからちょいと餌をたらしてみようとこいつが言うもんで見に来てみたらこのざまだ。話に聞いていた通り面白いやつみたいだな、気に入った。」
「そりゃどうも。ってことはさっきのお願いも無かったことになるのか?」
「いえ、最初の二つに関しては引き続きお願いしたいと思っています。取引もそうですし、新人冒険者への紹介もさせてもらうつもりです。そのほうがこちらにとっても都合がいいので、先程のお詫びもかねていかがでしょう。」
「そりゃ有難いが、いいのか?」
「新人の持ち込む買取品を高く買ってもらえればその分奴らのやる気も変わってくる。持ち込まれる素材なんてたかが知れてるし遠慮は無用だ。」
ふむ、そういう事ならお願いしてもいいかもしれない。
もちろんそれで本業がおろそかになるのなら話は別だが、とりあえず冒険者とのつながりが出来るのは有難い事だ。
とはいえ各ギルドが色んな意味で俺に注目していることが分かったので、これからはその辺も気を付けなければいけないな。
その後冒険者ギルドから解放された俺は、フラフラのまま魔術師ギルドへと向かいこの前流したオールダートレントの枝について質問攻めにあったのだった。
もうギルド関係の呼び出しは勘弁してもらいたい。
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