転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1245.転売屋は森を調査する

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「なるほど、総量で換算すると森一つ分の樹液が必要になるわけか。」

「あくまでも理論値だけどそれぐらいは必要になると思う。それも、一本の木から限界まで搾り取る前提でね。あぁ、限界といっても継続的に採集できるようにしたうえでの限界だ。私も私利私欲のために森一つ犠牲にするつもりはないからね。」

「とはいえ今回発表すれば同じことをしようとする輩は少なからず出てくるだろう、せっかく俺達が配慮してもそういった輩が無駄にする可能性は十分にあるだろう。」

「だからこうやって調査に来てるんじゃないか。しかし、空の上から見る景色というのは格別だねぇ。」

俺の腰に回した手にギュッと力を入れつつ身を乗り出すようにして眼下を望むカーラ。

一応手には力が入っているものの、かなりの高さだというのに全く怖がるそぶりを見せない。

俺もまぁ高いところは苦手じゃないが最初は流石にビビったもんだけどなぁ。

眼下に広がるのはミカールラッケイトの樹液が採取できる森が広がっている。

王都のすぐ近くとはいえかなりの広さがあり北の方へ途切れることなくずっと続いている。

一度は行ったときには気付かなかったが森の中には何本か川が流れており豊かな自然が広がっていることが確認できた。

空から見るのと地上とでは情報が全く違う。

なんならボスケの森と奥の奥では繋がっているじゃないか。

うーむ、どの辺が境界線なんだろうか。

普通は上空から確認なんてできないからあいまいなんだろうけど、あの森と繋がっているとなると余計に欲しくなってしまうなぁ。

ミカールラッケイトを継続的に生産する為には樹液の確保は必須。

だが、さっきも言ったように無策で発表すれば乱獲されて森は一気に衰退してしまうだろう。

悪い言い方だがそれが独立した森ならまだいい、だが上から見てわかるようにボスケの森と繋がっているのであれば他の人に迷惑が掛かってしまう。

それは絶対に避けなければならない。

だがこの広大な森をどうやって手に入れる?

一応は国の持ち物という事になっているが、購入するとなると莫大な費用が掛かってくるだろう。

それこそ金貨3000枚なんてはした金に見えるぐらいの金額なのは想像に容易い。

はてさてどうしたもんか。

「お?」

「どうしたんだい?」

「あれ、何だと思う?」

「あれ?あぁ、あの森の奥に見える巨木の事かい?」

眼下に広がる広大な森。

北の大山脈にまで届こうかという広い森の奥に巨大な気が一本そびえ立っていた。

こういうのは大抵何か重要な物だったりするのだが、それはつまり金になるという事。

それを無視するのは俺らしくないだろう。

「何か珍しい樹だったりするのか?」

「あー、残念だけどそれは違うね。でもまぁあんなに奥にいるのならよほどのことがない限り遭遇することはないし、近づかなければ問題ないよ。」

「というと?」

「エルダートレント、その中でも最古のトレントと言われるオールダートレントだね。あぁ見えて魔物だし、近づく者には容赦しない凶暴な魔物でもある。あのワイバーンですら近づくことはしない非常に危険な魔物だよ。もっとも近づかなければ悪さはしないしあの巨木が落とす枝や葉は森の栄養と冒険者の装備品としても価値があるから夜更けにそっと拝借して戻るぐらいでいいんじゃないかな。」

マジか、そんな危険な奴までいるのかよ。

まぁかなり奥まで行かないと遭遇しないから問題ないと言えば問題ないけど、それを放置するってのはどうなんだ?

「退治しないのか?」

「まさか、あれに戦いを挑むなんて意味のないことは誰もしないよ。あそこから動かない以上近づかなければいいだけだし、さっきも言ったようにこっそり近づけばそれなりの恩恵を受ける事が出来る。枝一本で銀貨10枚の値段が付くこともあるんだよ?」

「よし、拾って帰ろう。バーン、降りれる場所を探してくれ。」

「わかった!ちょっと待ってね!」

「こらこら、ここには非戦闘員もいることを忘れないでくれ。森の中は魔物の巣窟、そんなところに降りるとか勘弁してくれないかな。」

む、それもそうか。

同乗しているのがアニエスさんだったら間違いなく突入している所だったけど、ここにいるのは戦えない二人。

この間のようにバーンに頑張ってもらう方法もあるのだが、近づけなければ回収することもできやしない。

宝の山が眠っているだけに勿体ないがいずれまた回収させてもらうとしよう。

今日の目的はあくまでもミカールラッケイトの植生を確認するために来たんだから。

「という事だから下降は中止だってさ。」

「そっか、残念。」

「なんだ降りたかったのか?」

「ちょっと喉が渇いたから。」

「ふむ、それはよろしくないね。それなら・・・あそこの泉はどうだろうか。開けているから魔物が来てもすぐにわかるだろうし、逃げる時間ぐらいは稼いでくれるだろう?」

「まぁ、それぐらいはできるだろう。ってことであそこまで頼むな。」

「わかった!しっかりつかまっててね!」

先程のトレントから少し離れた所に少し開けた泉があった。

あそこなら少々の時間休憩する事も出来るだろう。

もちろん泉の中に魔物がいないことが前提だが、もしいたとしてもバーンを前に出てくることはないだろう。

こう見えてワイバーンは魔物のヒエラルキーの中では上位に君臨しているらしいので、弱い魔物は態々近づいてくることはしない。

「おぉ~、これはまた綺麗な水だな。」

「底の方で湧き出しているようだね、透けて見えるぐらいの透明度だ。」

「美味しいよ、トト!」

「そりゃよかった。折角だしここで少し休憩しよう、道具も持ってきてるしな。」

「それはありがたいね、正直長時間座り続けてお尻が痛かったんだ。」

色々と確認したかったのであっちこっち飛び回ってたからな、俺は慣れてるけどカーラはまだ慣れてないだろうし致し方ない。

早速持ってきた道具を地面に広げてお茶の準備に取り掛かる。

森がすぐそこなので適当に枝を拾って簡易の焚火台の上で火をつけ、ティタム製の折り畳みの鍋を火にかける。

綺麗とは言えそのまま飲むのは宜しくないかもしれないので一度煮沸してから飲むのが冒険の基本。

そのまま顔をつけてごくごく行くのは簡単だし絵面的にはいいだろうけど、そのまま腹を下す可能性が非常に高くなるもろ刃の剣でもある。

こんなときパイホーンのボトルを持ってきていたらすぐにお湯を確保できたんだが、こんな日に限って持ってきてないっていうね。

しっかり沸騰したら同じく折りたたみのマグに注ぎ、ティーパック風に加工した香茶の茶葉を入れれば完成だ。

「爽やかな青空の下、綺麗な泉の横で優雅に香茶を頂くなんて最高だね。」

「茶菓子もあるぞ。バーンには干し肉な。」

「やった!」

流石にワイバーンのままだと腹の足しにもならない量だが、人型に戻ればそれなりに食べ応えがあるらしい。

とはいえ腹の中身は元の姿と変わらないのか、人型でも恐ろしい量の肉を食べるんだよなぁ。

あの量がいったいどこに消えてしまうのか正直不思議でならない。

泉の水に冷やされるのかそよそよとした風がまた気持ちがいい。

可能なら毎日でもここで昼寝がしたくなる心地よさだ。

パラソルでも持ってきたらよかった。

「本当にいい森だね、ここは。」

「あぁ王都のすぐ近くとは思えないぐらいだ。なんでこんなに荒らされてないんだ?」

「死角も多いしわざわざ危険をさらして倒すほどの魔物もいない。採取できるのもあまりお金にならないようなものばかりとくれば荒らす価値もないと判断されるんだろう。正直ここまで来た人はいないんじゃないかな。」

「つまり誰も欲しがらないってことか。」

「とりあえず今は、ってところだけど。」

今の所は誰も興味が無いただの近所の森なのだが、それが大きく変わってしまう可能性があるわけだ。

金にならないようなものばかりというけれど、ブラウンマッシュルームを始めとした食用キノコに毒キノコ、薬草だってそれなりに生えているだろう。

これだけ水が綺麗ならそういった場所にしか生えないような植物も手に入るはず。

そういった場所が荒らされてしまうかもと思うと何とも言えない気持ちになってしまう。

「トト!綺麗な花が咲いてるよ!」

「それはピュアブルーだね、きれいな水の近くにしか咲かない貴重な花だよ。普通の水じゃ一時間もすれば枯れてしまうから滅多に市場に出ることもない花だ。」

「つまり持ち帰れれば高値で売れるってことだな?」

「相変わらずぶれないねぇ、まぁそういうことになるかな。」

早速バーンが珍しい花を見つけてきた。

『ピュアブルー。鮮やかな青い花は汚れのない清らかな水辺にのみ花を咲かせ、それ以外の水ではすぐに枯れてしまう。取り扱いが非常に難しく常に水を変え続けなければすぐに枯れてしまう為、市場に出回ることはほとんどない。最近の平均取引価格は銀貨30枚、最安値銀貨20枚最高値銀貨50枚最終取引日は442日前と記録されています。』

俺の想像以上に高値で取引される花のようだが、常に水を変え続けないといけないぐらいに繊細な物らしい。

取引履歴を見てもかなり貴重なものだという事はわかるのだが、手に入れたもののかなり慎重に取り扱わなければならないようなので正直めんどくささの方が勝ってしまう。

もっとこう雑に扱っても壊れず痛まずそれでいて金になるようなものがあると最高なんだけどなぁ。

「トト、持って帰る?」

「いや扱いが大変だからあきらめよう。下手に持ち帰ってこれを探しに森を荒らされても困るだろ?」

「君の言うとおりだね。ただでさえ人が入ってくる可能性があるのに、わざわざそれを促す必要はないさ。」

「ミカールラッケイトだけじゃなくこういった場所を守る必要もあるわけだ。さぁて、どうしたもんかなぁ。」

「こればっかりは私にはどうにもできそうにないから君の人脈に頼るしかないかな。」

人脈ねぇ。

そりゃこの国最強のカードと知り合い・・・っていうか身内ではあるけれど、それを使うのはちょっと違う気がする。

もっとこう誰もが納得するような形で手に入れる事が出来れば最高なんだけど、なんなら手に入れなくても貸し出しという形でもいい。

10年、欲を言えば20年ぐらいでいいから俺に貸し出してくれれば十分利益を出すことができるだろう。

その後はもっと効率的な何かが発見されているかもしれないし、あくまでも直近をなんとかできればそれで充分。

何百年もここを守ろうなんて言う気はさらさらない。

綺麗な場所ではあるけどな。

「ま、なるようになるって。もう少し休憩したら街に戻ろう。」

「君がそういうんだからきっと大丈夫さ。」

「そうやってハードル上げるのはマジで勘弁してほしいんだが。」

「あはは、なんのことやら。」

あと数日で青龍祭。

まずはそこに向けて集中しよう。

こういった難しい話はそれからでも遅くはない。

とか言いながら夏までに何とかしないといけないんだけど、その事実はあえて見ないことにした。
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