転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1220.転売屋は劇場での企画を考える

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「主殿お客が参られたそうですよ。」

「最近多いな、今日は誰だ?」

「フェル様とマイク様のお二人だそうです。なんでも折り入って相談したいことがあるのだとか。」

「フェルさんとマイクさんが?わかった、すぐ行く。」

どちらかだけならまだしも、この二人が一緒に来るなんて珍しい話だ。

面識はあるしお互いに仲がいいのは知っているけれど、宮廷画家と吟遊詩人。

接点があるかと聞かれるとそうでもないんだよなぁ。

とりあえず作業を中断して急いで応接室へと向かう。

ノックをして部屋に入るとマイクさんが俺を見て軽く手を上げた。

「やぁ、久しぶりだね。」

「こっちに戻ってきていたんだな。それにしてもフェルさんと一緒だなんて珍しい。」

「珍しいかな?」

不思議そうな顔をしながらフェルさんが首をかしげる。

部屋に入る前も中から随分と楽しそうな会話が聞こえてきていたので余計にそう思ってしまっただけなんだが、俺が思っている以上に仲がいいように感じる。

「と、個人的に思っただけだ。それで今日は何か相談したいことがあるんだって?」

「とりあえずマイクが買って来たお土産でも食べながら話をしようじゃないか。そういえば歌姫はどうしたんだい?君と一緒に戻って来たんだよね。」

「ピュアホワイトを買うんだって大急ぎで宝飾ギルドに向かったよ。今頃ルティエ職人と話しているんじゃないかな。」

「相変わらずだなぁ。」

マイクさんと一緒に旅をしながら各地でコンサートを開催している、国一番の歌姫オリガ。

絶大なる人気を誇る彼女だが、その中身はごく普通の女の子でありルティエの作るアクセサリーの大ファンでもある。

前にピュアホワイトのサンプル品を提供したことがあるのだが、正式に発売されたことを受け改めて買いに行ったんだろう。

宝飾ギルドとしても広告塔として歌姫が着用してくれるのであれば願ってもない話だろうし、今頃歌姫の登場にルティエが照れまくっているに違いない。

タイミングよく運ばれてきた香茶を飲みながら、マイクさんが買ってきたお菓子を頂く。

もちろんこの間作ったサーターアンダギーもお茶うけとして提供させてもらった。

反応は上々のようだ。

「それじゃあそろそろ本題に入ろうか。王都の劇場で日々色々な演目が上演されているのは知ってるかな?」

「あぁ、最近ポップコーンなんかの卸しを始めたから納品の際に時々見させてもらってる。」

「喜劇、悲劇、様々な内容が上映されているんだけど正直に言って皆飽き気味で、この夏以降はこれといったものがまだ決まっていないんだ。実をいうとその演目を考える順番が回って来てしまったんだけど、色々考えてはみたものの僕は吟遊詩人であって脚本家じゃないからまったくと言っていいほど思い浮かばないんだよ。」

「どうにもならなくて困っている彼(マイク)に助けを求められたときにふと思い付いたんだ、シロウさんなら何とかしてくれるかもってね。」

「もちろんお礼はするし、君がしたいことがあるのなら喜んで手を貸そう。頼む、僕たちを助けると思って夏に上演する演目について知恵を貸してもらえないだろうか。」

開いた口が塞がらないというか、なんで俺なんだというか。

話は分かったけれど俺に助けを求めてくる意味が分からない。

頼られるのは嬉しいがマイクさんが吟遊詩人であるように俺もただの買取屋。

いきなりそんなことを言われてもなぁ。

「一応話は理解した。が、俺に話を振られても困るんだが?」

「別に小難しい話を考えてほしいわけじゃないんだ。むしろそういうのじゃなくて、もっとこう誰も考えた事の無いような内容を君なら考えられると思ってる。」

「その時点で難易度が高いっての。」

「とりあえず今この話を聞いて思いついたのなら何でもいい。悲劇でも喜劇でもバカ騒ぎでもなんでもありさ、それに僕が歌をつけてフェルが絵を描けばそれだけで成功間違いなしだよ。」

それなら別に俺じゃなくてもいいと思うんだが・・・。

とはいえ数少ない友人の頼みでもあるわけだし、俺みたいな素人が考えた内容で満足するのならとりあえず考えてみるとしよう。

喜劇とか悲劇とかはよくわからないけれど、夏と言われて思いつくのはひとつだけある。

あれはそう、夏の暑い日にデパートの屋上で見たお祭り騒ぎ。

バカでかい音と過激な爆発を背に正義のヒーローが悪の親玉をやっつけるヒーローショー。

子どもながらに大興奮したのを覚えている。

大人になってからはあまり見なくなったが、代わりに映画館に舞台を変えて子供たちが必死に玩具を振って応援しているのをグッズを買いに行きながら見たなぁ。

そうそう、あれはよく売れた。

映画館に行けない人やそこでしか買えない物ってのは人の購買欲を非常に高めてくれる。

偶然そういうのをよく上演する映画館が近くにあったのでよく利用させてもらった物だ。

ん?

待てよ?

前は企業が出したグッズを必死に買って転がす側だったが、もしそれを自分でできるとなったらあんな苦労をしなくても大儲けできるんじゃないだろうか。

自分で作って自分で売る。

もちろんグッズを作っても作品が成功しなかったら意味はないのだが、こっちには最高の音楽家とデザイナーがいるわけで。

それに、せっかく作ったあれを売り出す絶好の機会になるじゃないだろうか。

「素人の考えで申し訳ないが、一応思いついたのはある。」

「本当か!ぜひ聞かせてくれ!」

ダン!と机に手をついてマイクさんが身を乗り出してくる。

俺の頭の中にしかなかった夏の思い出、それをこの世界で行うことができるかとりあえず話すだけ話してみよう。


「さすがだね、やっぱり君に話を振って正解だったよ。」

「面白い。これは絶対にあたる、間違いない。」

必死に頭の中に残った映像を言語化して二人に話をしてみたものの、最初は黙り込んだまま何の返事ももらえなかった。

やっぱり伝わらなかったかと諦めたのだが、まさかの返事に思わず今度はこっちが前のめりになってしまう。

「いやいや、話の内容も決まってないのにそれはまだわからないだろ。」

「そんなことはないさ。これまでそういった内容はたくさん上演されてきたけど、そんな風に上演されたことは一度もない。魔王を倒すべく旅をする勇者一行、そこに現れた魔王の手先に危なく敗れそうになるものの、観客の力を借りて見事にそれを撃退する・・・最高じゃないか。頭の中にいくらでも絵が浮かんでくるよ。」

「観客を作品に参加させるなんて発想今まで誰もしたことがなかったけど、そんなやり方もあるんだね。」

「参加って言っても、声を出すとかじゃないぞ。例えば手を振るとか光る棒を振るとかそんな感じだ。」

思い浮かべたのは子供たちが映画のスクリーンに向かって光る棒を振るアレだ。

屋外のヒーローショーでは声援を送る感じでもりあがっていたけれど、劇場の中でそれをやるのはさすがにまずいだろうから、それなら声ではなく別の物で応援するという手がある。

あの棒も結構売れたんだよなぁ。

「今の感じだと出来れば派手な魔法を使った演出がよさそうだけど、そうなると今の劇場じゃちょっと手狭じゃないかな。」

「それなら屋外の舞台を使えばいいんじゃないか、あそこなら観客を大勢入れられるし派手な魔法を使っても被害は出ない。拡声魔法を使えば声を届けることも十分に可能だ。それならオリガにも出演させるのはどうだろう、歌姫が勇者を助けるなんて最高に盛り上がるだろ?」

なんだかよくわからないが急に二人で盛り上がり始めてしまった。

取り残された感じはあるけれど知恵を貸してほしいという二人の助けになれたのならば幸いだ。

あぁでもないこうでもないと盛り上がる二人を見ながら、どのタイミングで俺の金儲けに結び付けるかをのんびりと考える。

うん、サーターアンダギー美味いな。

「ちなみにだけど、君がさっき言っていた光る棒に心当たりはあるのかな?」

「それがあれば絶対に盛り上がれるだろうけど、屋外劇場を使うとなるとかなりの本数が必要になる。それも各上演毎にそれを使うとなったらものすごい量になると思うけど。」

「それに関しては心配しないでくれ、心当たりはあるんだ。」

「つまりそれを売り込む前提での話だったわけだね。」

「そういうわけじゃないんだが・・・いや、そういうことにしておこう。」

思いついた時はそこまで考えていなかったんだが、今思えばそれを使うしか選択肢はない。

まさかこんな所でお披露目することになるとは思っていなかったが・・・これは量産を急ぐ必要が出てきたな。

「それじゃあ僕は今の話を脚本係に伝えてくるよ。この夏は今までにない最高の夏になるぞってみんな盛り上がるのは間違いない。本当にありがとう、君に相談して本当に良かった。」

「話が決まったらすぐに脚本を持ってきてくれよ。描きたい絵がたくさんありすぎて時間が足りなくなりそうだ。」

「あー、盛り上がっているところ悪いんだが一ついいか?」

「なんだい?」

「それを上演するにあたり小道具をいくつか売り出したいんだが、もちろんそれは許可してくれるんだよな?演目に使うやつはしっかりと提供するからそっちで協力してくれるとありがたいんだが。」

ただネタを提供するだけで終われるはずがない。

こっちは持ち上がるだけの情報を提供したんだから、それに見合うリターンを提示してもらわないと割に合わないだろ。

「小道具?」

「例えば作品内で勇者が身に着けていた小道具の模造品や、歌姫がつけていたアクセサリーなんかだな。それこそオリガが身に着けたともなればバカ売れするのは間違いない。もちろんそのすべてを俺に売らせろとは言わないから、そういった小道具の一割を俺に回してくれればそれでいい。あとは光る棒の専売だな、こればっかりは他人に任せるわけにはいかないし、情報提供料としてそこはしっかり保証してくれ。」

「確かに各演目ごとにそういった物を販売することはあるけど・・・。でもそうだね、こんなにも素晴らしい作品を考えてくれたんだからそれぐらいの見返りはあるべきだ。小道具の方も君から仕入れるように手はずを整えるからその代わり少しは安くしてくれると嬉しいなぁ。あんまり予算がないんだよね。」

「その辺は要相談ってことで。演目の内容が決まるまでにどのぐらいかかる?」

「早くて一週間、10日ももらえれば問題ないと思うよ。っていうか夏に間に合わせようと思ったらそれぐらいしないと間に合わないしね。」

確かに春になって早10日。夏まであと二カ月を切っている。

今から脚本を作って練習を始めても本番まで一か月ちょっとしかないわけだし、演じる人もかなり大変だろう。

もちろん販売するものを作る時間もそれしかないわけで。

あれ、もしかしてものすごい大変なことをしようとしているんじゃなかろうか。

春が始まったばかりだというのにもう夏の話をしているなんて思いもしなかったが、これが大きな儲けになるのは間違いない。

さぁ気合を入れて頑張ろう。

『この夏、王都に勇者が現る。』

そんな告知ポスターが張り出され、街が大騒ぎになったのは言うまでもない。
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