転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1210.転売屋は祭りについて知る

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「あの、買取できますか?」

二月も残り二日、一段と気温が上がりもうそこまで春が来ているのがわかる。

そんな中、いつものように市場に店を出し月末最後の在庫処分にいそしんでいるとおどおどした感じの女性が店の間に現れた。

見た目は王都の住民っぽい感じだが俺が買取屋だと知っている所から察するにこう見えて冒険者なんだろう。

人を見た目で判断するのはよくないことだが、あまり実力があるようには見えないなぁ。

「まずは物を見せてくれ。よほどの物じゃなかったら一応は値段をつけるつもりだ。」

「よろしくお願いします。」

深々と頭を下げた彼女がカバンから取り出したものを見て、思わず目を見開いてしまった。

いやいや、こんなものをこんな場所で出すとかどういう神経してるんだ?

いや、促したのは俺だがこれはちょっと絵面的にやばい気がする。

その証拠に後ろからチラ見していた別の女性が小さく悲鳴を上げたのを俺が聞き逃さなかった。

商品の並んだ敷物の上に転がされたのは無数の目を持つ芋虫。

体長は50cmほど。

そのサイズの芋虫ってだけで寒気がするが、これでも芋虫系の魔物としては小さい部類に入るだろう。

だが悲鳴を上げられた理由は他にある。

ブヨブヨとした緑色の体には無数の目。

本当に目と表現するべき500円玉ほどのレンズが体中に張り付いている。

死んでいるので眼球なんかは確認できないが、芋虫の体にこんなに目がついていてそれが一斉にこっちを向いてきたら卒倒すること間違いなしだ。

『百眼蟲。名前の通り100個目があるわけではないが無数の目を持つ魔物。なぜそれだけ目があるのかは不明だが撃退される時の状況により興奮時は赤にそうでないときは青に目の色が変わる。最近の平均取引価格は銅貨20枚。最安値銅貨10枚最高値銅貨35枚、最終取引日は五日前と記録されています。』

こんなに気持ちが悪い魔物が五日前に取引されているというのは非常に不思議な感じだが、取引履歴があるという事は売れるってことなんだろう。

しかしこんなのを手に入れてどうするつもりなんだろうか。

「これはまたすごい魔物だな。どこで倒したんだ?」

「岩場のダンジョンによく出てきますよ。」

「岩場?あぁ、あの谷間にあるダンジョンか。」

「そこですね。あの、これも買い取れますか?」

「買い取れと言われたら買い取るが、そもそもなんでこんなのを持ち帰ろうと思ったんだ?他にも金になる魔物がいるだろ?」

「もうすぐ青龍祭なのでそれに使えるかと思ってみたんですけど・・・やっぱり駄目ですよね。」

ん?青龍祭?

聞いたことない単語に思わず手が止まってしまった。

ぶっちゃけお断りしようと思ったのだがそのお祭りとこの芋虫が一切つながらないんだがどういう事だろうか。

「どういうことだ?」

「ほら、青龍祭って青い物を持ち寄るじゃないですか。これの目も青いですし何かに使えないかなーって思ったんですけど。」

「それでわざわざ赤くならないように仕留めたのか。」

「わかりますか?でもやっぱり芋虫は芋虫ですしダメですよねぇ。」

「確かにこいつの目は青いが・・・。青龍祭について詳しく聞かせてくれたら銀貨1枚で買ってもいいぞ。」

「本当ですか!」

買取価格だけみれば大赤字だが、情報料として考えればむしろプラスだと言えるだろう。

その人の話によると春の中頃に青龍祭というお祭りが開催されるらしい。

内容としては青龍、つまり古龍ガルグリンダム様を祀るお祭りのようだが祀り方が少し変わっていて面白そうな感じだ。

その祭りに参加する人は青い物を身に着け、更には青い物を持って祭壇に捧げるんだとか。

当日はガルグリンダム様本人が登場することもあるらしく、そうなるとこの一年は平和に過ごせるとかなんとか色々と言われているらしい。

姿を出すだけで平和になれば世話ないがそういう願掛けならまぁ悪くはない。

でだ、その祭壇に奉納する青い物を求めて祭りが近づくと街は一気に活気づくらしく、今回はそれ用のネタになればと彼女は頑張って運んできたんだろう。

実際は100個も目はついていないが、中々綺麗な青色をしているじゃないか。

「そういえばもうそんな時期だったんですね、すっかり忘れていました。」

「アニエスさんは参加したことあるのか?」

「もちろんですとも。王都と王家を守護するガルグリンダム様を称える大切なお祭りですから。王家総出で盛り上げるはずです。」

「そこまで大きな祭りになるのか、知らなかった。」

「最近青っぽい物が多く並んでいることにお気づきではありませんでしたか?」

屋敷に戻って買い取った百目蟲を解体しながらアニエスさんに話をすると、更なる情報を仕入れることに成功した。

確かに青い物が多いな~とは思っていたが、まさかそんな理由があるとは知らなかった。

しかも王家も出てくるだなんて中々大きなお祭りごとのようだ。

「意識はしていなかったが、よくよく思い出すとそんな気もする。」

「青い物であれば皆喜んでお金を出してくれることでしょう。よろしければ参加してみてはいかがですか?」

「もちろん売る方でだよな?」

「シロウ様であればいくらでも青い物を思いつくのではないでしょうか。」

「いくらでもってわけではないがそれなりに思い付くものはある。」

ようは青ければいいんだろう?

それなら前に化粧品で使ったネモフィラニウムで染めたハンカチなんかはかなりいい感じの値段で売れるんじゃないだろうか。

他にもスカイに頼んで作ってもらったインディードブルーの革小物なんかも実用的な物が多いので身に着けるのにはいいかもしれない。

他にもいくつか候補がポンポンと思いつく。

つまりそれだけ売れる可能性が転がっているわけだが、ありきたりなものだとすぐに売れなくなるだろう。

本番までまだ一か月以上あるというのに早くもたくさんの物が売りに出されている。

そうなると余程個性の強い物でないと売れないのは間違いない。

後は何を売るか。

意外性も大事だがやはり商売だけに高く売れないと意味がない。

安く仕入れて高く売る。

それも安くて大量に手に入ればなおの事良し。

「主殿がどんな欲深さを見せて下さるのか楽しみで仕方ありません。」

「頼むからハードルを上げないでくれ。」

「壁は高ければ高いほど良い結果を生みだすと申しますから。」

「とりあえず手紙を出してネモフィラニウムが手に入るかと、スカイに頼んでインディードブルーの端材が手に入るか聞いてみよう。うまくいけばそれなりの儲けになるはずだ。」

「ではそれは私が。」

「それと一緒に前に手に入れた発光石があっただろ。普通のよりも光るっていうやつ、あれが手に入るかも聞いてくれ。できるだけ数があるとありがたい。」

「発光石ですか。」

前に別の道具を作るのに利用した発光石。

普通の奴よりも発光が強くてあの時は確か小さなプラネタリウム的な物を作って売り出したんじゃなかっただろうか。

あれも見方によっては青く見えるしついでに売れるかもしれない。

「因みに今解体しておられるその蟲はどうするおつもりですか?一応青いようですが。」

「これなぁ・・・。正直何も思いつかないんだ、これが。」

情報料として買い取った百目蟲。

とりあえず解体してレンズの部分を回収してみたのだが、わずかに青いだけのガチャガチャのカプセルみたいな感じだった。

回収できたのは全部で32個。

名前負けにもほどがあるが、まぁ元の世界でも八百万とか数が多いという意味だけで使われている言葉はたくさんあるしそれに近い感じなんだろう。

とはいえ所詮はガチャガチャのカプセル。

被せた所で青いとはいいがたく、かといって使い道があるかと聞かれれば何とも言えない。

これを使えばガチャガチャは再現できるかもしれないが、銅貨を入れる機構だとかその辺を考えるのが非常にめんどくさい。

それなら大量に準備して好きなのを選ばせるという手もあるのだが、半透明すぎて中身が見えているっていうね。

それならいっそクジのようなものを入れるという手もあるのだが、そこまでいくともう青い物とは全く関係がないよな。

「主殿をもってしてもダメですか。」

「だが今回のとは別の事に使えそうな気はするから、とりあえず依頼を出してレンズ部分だけ買い付けよう。」

「ご自身で解体した方が安上がりでは?」

「面倒な上に飯がまずくなりそうだからもうやらねぇ。」

芋虫が嫌いっていうわけじゃないけれど、紫色の体液をぶちまけながらカプセルの片割れを回収するのはメンタル的によろしくない。

それなら金に物を言わせて冒険者にやってもらう方が何倍も価値がある。

まぁ回収した所で使い道はまだ決まってないんだけれども何かに使えるだろう。

たぶん。

「ではシロウ様には引き続き青龍祭に使う何かを探していただいている間に、マリー様への手紙を書いてまいります。他に何かお伝えしたいことはございますか?」

「そうだな、シャルロットをよろしく頼むと伝えてくれ。それだけでいい。」

「かしこまりました。」

色々と言いたいことはたくさんあるが、それを全部書いたところで不安がなくなるわけじゃない。

それならば直接言えるようになるためにしっかり稼ぐべきだろう。

幸いにもそれに使えるイベントが待ち構えているわけだしな。

冬は終わり春が訪れる。

さぁ、しっかりと稼がせてもらおうじゃないか。


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