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1194.転売屋はトートバッグに絵をかいてもらう
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ジャンヌ大司教からこの間頼んでおいたブツができあがったと報告をもらったので、ルフと共に教会へと向かった。
最近は少しずつ仕事が増えて来たので当初のように毎日のゴミ拾いが出来なくなったのだが、それでもイヤな顔せずに頼んだ仕事を受け入れてくれる当たり有難い限りだ。
ちょうどゴミ拾いが終わった所なのか大量の袋を片づけているジャンヌさんはこちらに気づく様子はない。
とその時だった、積みあがったゴミ袋がバランスを崩し雪崩のように崩れ始める。
慌てて近づて支えようとしたが間に合わず、結果として後ろから覆いかぶさるようになってしまった。
「キャッ!」
いつもの穏やかな感じと違い年相応の可愛らしい悲鳴を上げながらも、相手が俺だと気づくとすぐに安心したように表情を崩した。
ひとまずゴミの山を片づけてパンパンと手を払う。
「悪い、驚かせた。」
「いえ、ありがとうございました。」
「例の物が出来上がったって聞いたんで取りに来たんだが、随分と早く仕上がったんだな。」
「丁度加工の得意な奥様がおられたのでお願いしたんです。小さいお子さんを抱えたまま旦那さんと別れた方で、困っていたところに仕事が出来たと喜んでおられました。」
「そりゃいいタイミングだったな。」
どの世界でも夫婦仲が悪くての離婚は良くある話。
うちのように借金関係でっていうのもあるだろうし、ダンジョンで旦那と死に別れたなんてのはしょっちゅうだ。
偶然とはいえそういう人に仕事が行ったのは何かの縁みたいなものがあったんだろう。
外は寒いからとわざわざ大聖堂に入れてもらってしばらく待つと、大きな袋を両手に抱えて戻って来た。
「お待たせ、しました。」
「重たかっただろそこに置いてくれ。」
「フクロアナグマがこんな素敵なカバンになるなんて思いませんでした。」
「色は地味だが丈夫だし日常使いには悪くなさそうだな。うん、縫製もいい感じだ。」
「お気に召しましたか?」
「あぁ、これを追加の報酬で渡して貰えると助かる。」
いい仕事にはいい報酬を。
例え自由に使える金が少なくてもその考えに変わりはない、ってことで受け取った袋の代わりに銀貨を後3枚置いておく。
今回作ってもらったのはずばりトートバッグ。
フクロアナグマの丈夫な袋部分に肩掛けできる少し長めの取っ手を付けてもらっただけのお手軽仕様だが、仕事がいいのか使いやすそうな感じが出ている。
でもなぁ、欲を言うと少し地味なんだよなぁ。
個人的にはもう少し明るい色使いの方が好きなんだが、魔物の素材に文句を言っても仕方がない。
色が無いのなら加工してしまえば良いじゃないかってことで早速次の目的地へ。
重量感たっぷりのトートバッグを両手に抱えて次に向かったのは貴族が大勢集まっている王都でも指折りの高級通り。
金貨を超える品ばかりがショーウィンドーに並んでいるような店を縫うようにして移動しつつ向かったのは小さな画廊。
見覚えのある化粧品ポスターが飾られた扉を開けると、小さなベルがチリンと小さく鳴った。
「おや、そこにいるのはシロウさんじゃないか。」
「フェルさん、こっちでは久々だな。」
「君の事は色々と聞いているよ。ルフさんもようこそ我がお城へ。」
出迎えてくれたのは国一番の画家といっても差し支えない宮廷画家フェル=ジャン=メール。
ここは普段貴族や王族に呼ばれて肖像画などを描いている彼の小さな城、ということになるのだろう。
因みに外に飾ってあったのはマリーさんをモデルにした化粧品のポスター。
あれのおかげで王都での知名度が一気に上がり、バカ売れするきっかけになったやつだ。
応接用のソファーに案内されるとルフが足の下で静かにその身を伏せてしまった。
恐らく匂いがきついんだろうけど、文句を言わずに耐えてくれているようだ。
「今、二人に声をかけてきたところだ。しかし今回は大変だったようだね。」
「色々重なった結果だが、まぁいい機会だと思うことにしたよ。こんなことでもないと王都に長期滞在なんてしないからなぁ。」
「君のその前向きさを尊敬するよ。僕なら金貨3000枚もの借金を背負ったら卒倒するね。」
「とかなんとか言って、それをバネに最高の絵を描いてすぐに返済しそうなものだけどな。」
「それだけのモチーフがあればいいけど、流石にそれをバネにしては難しいかな。ワイバーンに乗った君ならそれなりの値段になると思うよ。ちょっと鎧とか着こむ必要はあると思うけど。」
「却下で。」
フェルさんはこうやって気楽に話が出来る数少ない友人ってことになるんだろうけど、普通に生きていたら出会う事の無かった人でもある。
世の中何が起きるかわからないものだ。
とりあえず王都に来てからの流れを話し終える頃に、画廊の奥から話し声が聞こえて来た。
入ってすぐのスペースはかなり狭いが、建物の構造から察するに奥の作業場はかなり広く作られているんだろう。
「お待たせしました!」
「ビビさん、久々だな。」
「シロウ様!まさかこんな所でお会いできるとは思いませんでした、お元気でしたか?」
「金貨3000枚の借金を背負ってるけどとりあえずはな。そういえば弟子を取ったんだって?」
「えへへ、色々ありまして・・・。」
緊張した青年を前にビビさんが恥ずかしそうな顔をする。
なぜ彼女がここにいるのかそれを話すと色々と長くなるのだが、簡単に言えばビビさんに興味を持ったフェルさんが王都に行ったビビさんをスカウトして自分の画廊と作業場を貸し出すことにしたらしい。
で、そこで作業をしていく流れで絵を売っていたらこの青年を弟子にすることになったと。
なんでそうなったのかは全く分からないが、世の中何が起こるかわからないのは自分がよく理解している。
正直彼の描く絵も悪くなかっただけに波長か何かが合うんだろう。
「今日は彼に仕事を持ってくるって話だったね。僕ではなく彼にという所に少々嫉妬するけど、一体どんな仕事なのかな?」
「ぶっちゃけた話フェルさんやビビに頼むほどの金がないからって話なんだが、せっかく仕事をしてもらうなら気に入った人にお願いしたいじゃないか。」
「それがカルロだったんですね。」
「そういう事だ。今回はこいつに持ち味の絵を描いてもらいたい、モチーフはこの間見せてもらった魔物関係で宜しく頼む。加工量は全部で25枚で報酬は一枚当たり銀貨2枚、納期は一か月か出来るだけ早めに頼みたいんだが・・・どうだ?」
先程貰って来たトートバッグをドサッと机の上に置く。
超有名画家と自分の師匠に挟まれてガチガチになっていたのが、この間市場で出会ったカルロ青年。
無地のトートバッグも悪くないが、折角なら冒険者が喜んで日常遣いしてくれるような物を作りたい、そう考えた時に思いついたのが彼に絵を描いて貰う事だった。
もちろんビビさんでもよかったんだが、彼女は今や王都で人気の絵師になってしまった。
もちろん報酬もうなぎのぼり、さっきも言ったように今の俺にその金を払う余裕はないので弟子である彼に頼むことにしたわけだ。
固まったままの彼の代わりにフェルさんがトートバッグを手に取り興味深そうにひっくり返している。
「面白いカバンだね、何の素材を使っているんだい?」
「フクロアナグマの袋を加工してもらったんだ。丈夫だしこの生地なら絵を描くにも問題無いと思うんだが、どう思う?」
「良いと思うよ。しっかりとした画材を使えば色落ちもしづらいだろうし、折角なら飾られるだけの物よりも楽しんで使ってもらえる物を作るほうが作家冥利に尽きるってものだ。ねぇ、何枚か貰えないかな。」
「失敗することも考えて余分に何枚かあるからそれならいいぞ。」
「大丈夫彼なら失敗しないよ。ねぇ、カルロ?」
「え、あ!は、はい!頑張ります!」
うーん、全く大丈夫には見えないんだけど何かあったら二人が手助けしてくれるだろうし大丈夫なんだろう。
ぶっちゃけた話フェルさんが興味を持つことは想定済みなので、それを一つでも回してもらえれば大儲け間違なし。
もちろんそれを本人が許してくれればの話だが、そこは交渉次第ってことで。
「初めての依頼がシロウさんだなんて、まるで私みたいね。」
「師匠も仕事を受けていたんですか?」
「それはもう、私がこうやって立派になれたのはみんなシロウさんのおかげなんだから。」
「その節は大変儲けさせてもらった。またこっちでも頼みたいところだが、とりあえず依頼できるぐらいに稼がなきゃならないんでそれまで待っててくれ。」
「お手柔らかにお願いします。」
そう言いながらビビが苦笑いを浮かべる。
自分の作品が投資目的で売買されている現実を受け入れられず結果として彼女に依頼をした魔物コインは製造中止になった。
とはいえ取引が無くなるわけではなく、彼女が王都に旅立った後は更なる高騰をみせた魔物コインだったが今ではコレクター同士で細々と取引するだけとなっている。
王都にもそれなりの量が流れたと思うのでこちらでも目にすることはあるだろう。
「それでどうだ、やってもらえるか?」
「私なんかの絵で満足してもらえるかわかりませんが、精一杯頑張らせてもらいます。」
「作家の前でこういうのは申し訳ないが、今回は雑に使えるようなカバンとして売るつもりなんだ。だから上手に描こうとかではなく買う人が喜ぶような奴で頼む。」
「ふふ、それが一番難しいんですよ。」
「画家泣かせだねぇシロウさん。」
よくよく考えればこのセリフはまずかった。
簡単に言えば『高く売ろうと思わないでいいからさくっと転売してくれていいよ』みたいな感じで言われているのと同じこと。
そんなサクッとって言われても無理だから。
普通にイラっとしてしまうセリフをまさか自分が行ってしまうとは・・・。
「いや、そういうわけじゃなかったんだが。すまない無責任な発言だった。」
「そんな、謝らないでください。それぐらい気楽な気持ちで頑張らせてもらいます。」
「そう言ってもらえると助かるよ。だが、これが売れれば追加で注文しようとも考えているんだ。だから依頼主としては期待している。」
「が、頑張ります。」
気楽にと言いながら期待しているとプレッシャーをかけるこの矛盾。
あとは彼がどれぐらい頑張ってくれるか。
納期的には一か月と伝えているのだが出来れば春先までに作ってもらいたいところだ。
春になれば多くの人が外を出歩くことになる。
そのタイミングで人目に触れれば間違いなく人気が出るだろう。
魔物コインもそうだったが、冒険者はゲンを担ぐ傾向があるから自分の好きな魔物が描かれてるものはすぐに手を出すんだよな。
それはコインの時に確認しているのでこれも間違いなく売れる、そう確信している。
後はフェルさんやビビがどんな作品を作ってくれるか。
そこはもう好きにしてくれって感じだ。
個人で使うもよし、売り物にしていいのなら喜んで売らせてもらおう。
この感じだと気に入ってくれているみたいだし可能性は十分にある。
「さぁさぁ仕事の話はこれぐらいにして、今後の話をしようじゃないか。」
「今後?」
「暇そうに見えるだろうけど僕も結構仕事を抱えていてね。でも残念な事にどれも上手くいってないんだ。」
「はぁ。」
「そんな時に君がこっちに来ているという話を聞いてね、運命を感じたんだよ。折角君が王都にいるんだ、是非普通では考えられないような知恵をたくさん出してもらえると助かる。」
「いや、普通では考えられないってハードル高すぎないか?」
「もちろん報酬は出すとも。とりあえずは来週に迫っているとある貴族の肖像画なんだけど、普通と違うものに描いてくれって言われていてね。何か面白い物を知らないかい?」
俺はただトートバッグを依頼しに来ただけなのに、どうしてこんなことになってしまったのか。
逃がさないと言わんばかりの勢いで迫ってくるフェルさんと、それを見て笑うビビさん。
結局その日は夕食を御馳走になるまで缶詰にされることになってしまった。
はぁ、疲れた。
最近は少しずつ仕事が増えて来たので当初のように毎日のゴミ拾いが出来なくなったのだが、それでもイヤな顔せずに頼んだ仕事を受け入れてくれる当たり有難い限りだ。
ちょうどゴミ拾いが終わった所なのか大量の袋を片づけているジャンヌさんはこちらに気づく様子はない。
とその時だった、積みあがったゴミ袋がバランスを崩し雪崩のように崩れ始める。
慌てて近づて支えようとしたが間に合わず、結果として後ろから覆いかぶさるようになってしまった。
「キャッ!」
いつもの穏やかな感じと違い年相応の可愛らしい悲鳴を上げながらも、相手が俺だと気づくとすぐに安心したように表情を崩した。
ひとまずゴミの山を片づけてパンパンと手を払う。
「悪い、驚かせた。」
「いえ、ありがとうございました。」
「例の物が出来上がったって聞いたんで取りに来たんだが、随分と早く仕上がったんだな。」
「丁度加工の得意な奥様がおられたのでお願いしたんです。小さいお子さんを抱えたまま旦那さんと別れた方で、困っていたところに仕事が出来たと喜んでおられました。」
「そりゃいいタイミングだったな。」
どの世界でも夫婦仲が悪くての離婚は良くある話。
うちのように借金関係でっていうのもあるだろうし、ダンジョンで旦那と死に別れたなんてのはしょっちゅうだ。
偶然とはいえそういう人に仕事が行ったのは何かの縁みたいなものがあったんだろう。
外は寒いからとわざわざ大聖堂に入れてもらってしばらく待つと、大きな袋を両手に抱えて戻って来た。
「お待たせ、しました。」
「重たかっただろそこに置いてくれ。」
「フクロアナグマがこんな素敵なカバンになるなんて思いませんでした。」
「色は地味だが丈夫だし日常使いには悪くなさそうだな。うん、縫製もいい感じだ。」
「お気に召しましたか?」
「あぁ、これを追加の報酬で渡して貰えると助かる。」
いい仕事にはいい報酬を。
例え自由に使える金が少なくてもその考えに変わりはない、ってことで受け取った袋の代わりに銀貨を後3枚置いておく。
今回作ってもらったのはずばりトートバッグ。
フクロアナグマの丈夫な袋部分に肩掛けできる少し長めの取っ手を付けてもらっただけのお手軽仕様だが、仕事がいいのか使いやすそうな感じが出ている。
でもなぁ、欲を言うと少し地味なんだよなぁ。
個人的にはもう少し明るい色使いの方が好きなんだが、魔物の素材に文句を言っても仕方がない。
色が無いのなら加工してしまえば良いじゃないかってことで早速次の目的地へ。
重量感たっぷりのトートバッグを両手に抱えて次に向かったのは貴族が大勢集まっている王都でも指折りの高級通り。
金貨を超える品ばかりがショーウィンドーに並んでいるような店を縫うようにして移動しつつ向かったのは小さな画廊。
見覚えのある化粧品ポスターが飾られた扉を開けると、小さなベルがチリンと小さく鳴った。
「おや、そこにいるのはシロウさんじゃないか。」
「フェルさん、こっちでは久々だな。」
「君の事は色々と聞いているよ。ルフさんもようこそ我がお城へ。」
出迎えてくれたのは国一番の画家といっても差し支えない宮廷画家フェル=ジャン=メール。
ここは普段貴族や王族に呼ばれて肖像画などを描いている彼の小さな城、ということになるのだろう。
因みに外に飾ってあったのはマリーさんをモデルにした化粧品のポスター。
あれのおかげで王都での知名度が一気に上がり、バカ売れするきっかけになったやつだ。
応接用のソファーに案内されるとルフが足の下で静かにその身を伏せてしまった。
恐らく匂いがきついんだろうけど、文句を言わずに耐えてくれているようだ。
「今、二人に声をかけてきたところだ。しかし今回は大変だったようだね。」
「色々重なった結果だが、まぁいい機会だと思うことにしたよ。こんなことでもないと王都に長期滞在なんてしないからなぁ。」
「君のその前向きさを尊敬するよ。僕なら金貨3000枚もの借金を背負ったら卒倒するね。」
「とかなんとか言って、それをバネに最高の絵を描いてすぐに返済しそうなものだけどな。」
「それだけのモチーフがあればいいけど、流石にそれをバネにしては難しいかな。ワイバーンに乗った君ならそれなりの値段になると思うよ。ちょっと鎧とか着こむ必要はあると思うけど。」
「却下で。」
フェルさんはこうやって気楽に話が出来る数少ない友人ってことになるんだろうけど、普通に生きていたら出会う事の無かった人でもある。
世の中何が起きるかわからないものだ。
とりあえず王都に来てからの流れを話し終える頃に、画廊の奥から話し声が聞こえて来た。
入ってすぐのスペースはかなり狭いが、建物の構造から察するに奥の作業場はかなり広く作られているんだろう。
「お待たせしました!」
「ビビさん、久々だな。」
「シロウ様!まさかこんな所でお会いできるとは思いませんでした、お元気でしたか?」
「金貨3000枚の借金を背負ってるけどとりあえずはな。そういえば弟子を取ったんだって?」
「えへへ、色々ありまして・・・。」
緊張した青年を前にビビさんが恥ずかしそうな顔をする。
なぜ彼女がここにいるのかそれを話すと色々と長くなるのだが、簡単に言えばビビさんに興味を持ったフェルさんが王都に行ったビビさんをスカウトして自分の画廊と作業場を貸し出すことにしたらしい。
で、そこで作業をしていく流れで絵を売っていたらこの青年を弟子にすることになったと。
なんでそうなったのかは全く分からないが、世の中何が起こるかわからないのは自分がよく理解している。
正直彼の描く絵も悪くなかっただけに波長か何かが合うんだろう。
「今日は彼に仕事を持ってくるって話だったね。僕ではなく彼にという所に少々嫉妬するけど、一体どんな仕事なのかな?」
「ぶっちゃけた話フェルさんやビビに頼むほどの金がないからって話なんだが、せっかく仕事をしてもらうなら気に入った人にお願いしたいじゃないか。」
「それがカルロだったんですね。」
「そういう事だ。今回はこいつに持ち味の絵を描いてもらいたい、モチーフはこの間見せてもらった魔物関係で宜しく頼む。加工量は全部で25枚で報酬は一枚当たり銀貨2枚、納期は一か月か出来るだけ早めに頼みたいんだが・・・どうだ?」
先程貰って来たトートバッグをドサッと机の上に置く。
超有名画家と自分の師匠に挟まれてガチガチになっていたのが、この間市場で出会ったカルロ青年。
無地のトートバッグも悪くないが、折角なら冒険者が喜んで日常遣いしてくれるような物を作りたい、そう考えた時に思いついたのが彼に絵を描いて貰う事だった。
もちろんビビさんでもよかったんだが、彼女は今や王都で人気の絵師になってしまった。
もちろん報酬もうなぎのぼり、さっきも言ったように今の俺にその金を払う余裕はないので弟子である彼に頼むことにしたわけだ。
固まったままの彼の代わりにフェルさんがトートバッグを手に取り興味深そうにひっくり返している。
「面白いカバンだね、何の素材を使っているんだい?」
「フクロアナグマの袋を加工してもらったんだ。丈夫だしこの生地なら絵を描くにも問題無いと思うんだが、どう思う?」
「良いと思うよ。しっかりとした画材を使えば色落ちもしづらいだろうし、折角なら飾られるだけの物よりも楽しんで使ってもらえる物を作るほうが作家冥利に尽きるってものだ。ねぇ、何枚か貰えないかな。」
「失敗することも考えて余分に何枚かあるからそれならいいぞ。」
「大丈夫彼なら失敗しないよ。ねぇ、カルロ?」
「え、あ!は、はい!頑張ります!」
うーん、全く大丈夫には見えないんだけど何かあったら二人が手助けしてくれるだろうし大丈夫なんだろう。
ぶっちゃけた話フェルさんが興味を持つことは想定済みなので、それを一つでも回してもらえれば大儲け間違なし。
もちろんそれを本人が許してくれればの話だが、そこは交渉次第ってことで。
「初めての依頼がシロウさんだなんて、まるで私みたいね。」
「師匠も仕事を受けていたんですか?」
「それはもう、私がこうやって立派になれたのはみんなシロウさんのおかげなんだから。」
「その節は大変儲けさせてもらった。またこっちでも頼みたいところだが、とりあえず依頼できるぐらいに稼がなきゃならないんでそれまで待っててくれ。」
「お手柔らかにお願いします。」
そう言いながらビビが苦笑いを浮かべる。
自分の作品が投資目的で売買されている現実を受け入れられず結果として彼女に依頼をした魔物コインは製造中止になった。
とはいえ取引が無くなるわけではなく、彼女が王都に旅立った後は更なる高騰をみせた魔物コインだったが今ではコレクター同士で細々と取引するだけとなっている。
王都にもそれなりの量が流れたと思うのでこちらでも目にすることはあるだろう。
「それでどうだ、やってもらえるか?」
「私なんかの絵で満足してもらえるかわかりませんが、精一杯頑張らせてもらいます。」
「作家の前でこういうのは申し訳ないが、今回は雑に使えるようなカバンとして売るつもりなんだ。だから上手に描こうとかではなく買う人が喜ぶような奴で頼む。」
「ふふ、それが一番難しいんですよ。」
「画家泣かせだねぇシロウさん。」
よくよく考えればこのセリフはまずかった。
簡単に言えば『高く売ろうと思わないでいいからさくっと転売してくれていいよ』みたいな感じで言われているのと同じこと。
そんなサクッとって言われても無理だから。
普通にイラっとしてしまうセリフをまさか自分が行ってしまうとは・・・。
「いや、そういうわけじゃなかったんだが。すまない無責任な発言だった。」
「そんな、謝らないでください。それぐらい気楽な気持ちで頑張らせてもらいます。」
「そう言ってもらえると助かるよ。だが、これが売れれば追加で注文しようとも考えているんだ。だから依頼主としては期待している。」
「が、頑張ります。」
気楽にと言いながら期待しているとプレッシャーをかけるこの矛盾。
あとは彼がどれぐらい頑張ってくれるか。
納期的には一か月と伝えているのだが出来れば春先までに作ってもらいたいところだ。
春になれば多くの人が外を出歩くことになる。
そのタイミングで人目に触れれば間違いなく人気が出るだろう。
魔物コインもそうだったが、冒険者はゲンを担ぐ傾向があるから自分の好きな魔物が描かれてるものはすぐに手を出すんだよな。
それはコインの時に確認しているのでこれも間違いなく売れる、そう確信している。
後はフェルさんやビビがどんな作品を作ってくれるか。
そこはもう好きにしてくれって感じだ。
個人で使うもよし、売り物にしていいのなら喜んで売らせてもらおう。
この感じだと気に入ってくれているみたいだし可能性は十分にある。
「さぁさぁ仕事の話はこれぐらいにして、今後の話をしようじゃないか。」
「今後?」
「暇そうに見えるだろうけど僕も結構仕事を抱えていてね。でも残念な事にどれも上手くいってないんだ。」
「はぁ。」
「そんな時に君がこっちに来ているという話を聞いてね、運命を感じたんだよ。折角君が王都にいるんだ、是非普通では考えられないような知恵をたくさん出してもらえると助かる。」
「いや、普通では考えられないってハードル高すぎないか?」
「もちろん報酬は出すとも。とりあえずは来週に迫っているとある貴族の肖像画なんだけど、普通と違うものに描いてくれって言われていてね。何か面白い物を知らないかい?」
俺はただトートバッグを依頼しに来ただけなのに、どうしてこんなことになってしまったのか。
逃がさないと言わんばかりの勢いで迫ってくるフェルさんと、それを見て笑うビビさん。
結局その日は夕食を御馳走になるまで缶詰にされることになってしまった。
はぁ、疲れた。
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ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
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