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1190.転売屋はフクロを見つける
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「おや、お買い物かい?」
「あぁ、今日は俺が飯当番だからな。」
「シロウさんの作るご飯は格別だからね、夜を楽しみにしているよ。」
屋敷から出ようとしたら丁度ウィフさんと入れ違いになった。
手には何やら書類の束を抱えているが、ぶっちゃけどんな仕事をしているのか知らないんだよなぁ。
貴族ってだけで莫大なお金を右から左に転がせるわけでもなく、生きていくにはそれなりに金がかかる。
特にイザベラなんて言う金食い虫・・・失礼、手のかかる嫁さんを持つとなおのこと収入を確保していかないとあっという間に破産だからな。
もちろん何もしないで生きていけるだけの不労所得を確保している貴族もそれなりにいるんだろうけど、そこまでいけるのは余程の金持ちか俺みたいな金好きかのどちらかだろう。
ウィフさんはどちらかというとその前者の方なんだろうけど、何をしているかそれとなく聞いてみてもいいかもしれないな。
「ハードルを上げてくれないでくれ、屋敷の料理人の方が何倍もうまい飯を作るんだから。」
「その料理人たちが君の料理を認めているんだ、どうだい王都に店を出してみるかい?」
「生憎と同じものを作り続けるってのが苦手でね、辞退させてもらおう。」
「それは残念だ。」
みんな美味い美味いって言って食ってくれるが、所詮は素人。
プロに比べれば技術や勘は劣っているわけで、物珍しさだけでは早いうちに躓いてしまうだろう。
プロはそこから挽回できるが素人はそこで限界を迎える。
それに、俺が同じ場所でずっと同じことをできないのは向こうの街で十分に理解している。
そういう理由でも断るしか選択肢はないんだよな。
「参考までに聞くが今日は何を食べたい?」
「イザベラが君の唐揚げを所望していてね。ほら、例の骨付きの奴だよ。あれに冷えたエールが最高に合うんだそうだ。」
「おっさんかよ。」
「いいじゃないか、美味しそうにたくさん食べる姿はこちらも元気になるからね。」
まぁ言いたいことはわかる。
美味しく食べてくれている姿ってのは作った者には最高のご褒美だ。
素人でもその辺はプロと同じ、あの顔を見ればまた作ろうって思えるんだよな。
「じゃあリクエストにお答えして今日は骨付きから揚げにするか。」
「それじゃあ僕はとっておきのエールを用意しておこう。」
「期待してる。」
美味い食い物には美味い酒、ってことでがぜんやる気がわいたところで食材の買い出しに行くとしよう。
いつもはルフがついてきてくれるのだが、今日は朝からアニエスさんに拉致されて冒険者ギルドに行ってしまった。
女二人オオカミ同士、たまにはそんな時間もあっていいだろう。
市場へと向かう前になじみになりつつある肉屋のオッちゃんに声をかけてアングリーバードの骨付き肉を手配してもらう。
その間に市場へ向かいサラダ用の野菜を探して回っていた時だ。
「随分と可愛らしい絵だな。」
「いらっしゃいませ、気に入っていただきありがとうございます。」
「これはウルフ系、こっちはドラゴンか。普通の花もなかなか味のある感じで嫌いじゃない。」
見つけたのは20cm四方の小さなカンバスに描かれた絵。
ビビが魔物コインに描いていたような少しデフォルメした感じの絵はこっちの世界では珍しい部類に入るだろう。
でも確かな需要はあったし、現に俺の他に見ている客もいる。
「こっちのグレイウルフをくれ、いくらだ?」
「銀貨1枚です。」
「思ったより安いな。」
「この大きさですから。でもご希望があれば望みの物に描いたりもしますので持ってきてください、値段は物を見てからになりますけどこれを買ってきてくださった方には安くします。」
どうしてもグレイウルフの絵が気になるんだよなぁ。
見た感じ悪くないし、ルフも気に入ってくれるはず。
代金を支払い商品を受け取ってから改めて絵を確認する。
うーむ、やっぱりビビの絵に似てる気がするんだけどなぁ。
「どうしました?」
「いや、昔取引していた絵描きに絵が似てるなって思っただけだ。ビビっていう名前でコインタートルの甲羅に上手に絵をかいていたんだよなぁ。」
「師匠を知ってるんですか!」
「師匠って、彼女を知ってるのか?」
「知ってるも何も今も教えてもらっているんです。」
マジか、王都に行ってみたいって言っていたので送り出したのだが、まさか弟子を取るまでになっているとはちょっと想像していなかった。
そうか、この絵に面影があったのは間違いじゃなかったのか。
「そりゃいい師匠を持ったな。俺はシロウ、本人によろしく伝えてくれ。」
「シロウさんですね必ずお伝えします。」
この広い王都でまさか昔なじみの関係者に出会えるとは思ってもみなかった。
いやー、世の中狭いなぁ。
なんて事がありながらも引き続き市場を見て回ってから肉屋へと戻った。
「ただいま。」
「おぅ、注文のアングリーバード出来てるぞ。全部で銀貨3枚だ。」
「かなりの量だったのにそれだけでいいのか?」
骨付き肉は他と違って処理方法が違うので手間もかかっているはずなのに、量が多いからとおまけしてくれる当たりいい人だよなぁ。
こういう人だからこそ毎回この人から買いたくなってしまうわけで、商売ってのはこういう気配りやおまけなんかで大きく変わったりもするもんだ。
「いつも贔屓にしてくれているしな。」
「そりゃありがたい。それなら追加でもういくつかもらってもいいか?」
「悪いが今日は店じまいだ、大量に肉が運ばれてきたんでそっちを処理しちまわないといけなくなったんだ。悪いな。」
「大物なのか?」
「大きさはそうでもないんだが量が多い。明日には店に並ぶから明日を楽しみにしておいてくれ。」
そういうとおっちゃんは血の付いた肉切り包丁を手に店の奥へと引っ込んでしまった。
うーむ、ここに持ち込まれるってことは食用の魔物か魔獣なんだろうけど、いったい何を処理しているんだろうか。
気になりつつも邪魔をするわけにはいかないので肉を手に冒険者ギルドへと向かう。
依頼を受けてどこかに行っているのなら仕方ないが、そこにいるのなら声ぐらいかけておこう。
「おや、シロウ様どうされました?」
「やっぱりここにいたか。今から仕事か?」
「はい、ルフに手伝ってもらい魔物の痕跡を探しに行きます。夕方までには戻りますのでご安心ください。」
「今日はイザベラのリクエストで骨付きから揚げだから遅くならないようにな。もちろんルフにも骨付き肉を用意してあるからしっかり頑張ってこい。」
「わふ!」
元気いっぱいの返事と一緒に尻尾を振るルフ。
なるほど、魔物の痕跡を探すならルフの嗅覚があった方が良いだろう。
アニエスさんも狼人族なので一般人よりも嗅覚は発達しているが、それでも本職には負けてしまう。
この二人なら間違いなく獲物を見つける事だろう。
「ちなみに何の痕跡を探すんだ?」
「昨日フクロアナグマが大量に発見されました。幸いすぐに駆除されて街に運ばれましたが、この近辺では珍しい魔物だけにどこから来たのか調査依頼が出たようです。通常は新人冒険者がするような依頼ですが、この間のスラグアントの件もありまして念入りに調査をすることとなりました。」
「なるほど、地下から崩れたら困るもんな。」
「ではいってまいります、唐揚げ楽しみにしていますね。」
「おぅ、気を付けてな。」
街の出入り口付近まで二人を見送りに行き、そこで少し考える。
フクロアナグマといえばその名の通りカンガルーのような袋を持つ体長1mを超える中型の魔物だ。
同じく名前にあるように地面に穴を掘って暮らしているのだが、その体の大きさから地中のトンネルはかなり大きくなり時々崩落して道に大きなわだちを作ってしまうことがある。
けもの道ならともかく高速で馬車が走り回る街道でそれが起きてしまったら大惨事待ったなし、ってことで痕跡を探すように依頼が出されたんだろう。
肉は程よく脂がのり、毛皮は使えないが穴を掘るのに特化した爪は非常に鋭利かつ頑丈で加工用品や農耕用品に用いられていたはず。
爪の取引はしたことがあるが実は肉を食べたことがないんだよなぁ。
どんな味なのか明日が非常に楽しみだ。
折角だし予約を入れておくとしよう。
「いらっしゃい、悪いねあの人ならまだ裏で肉を捌いているんだよ。」
「かなりの量が持ち込まれたって話だが爪とかはもう残ってないよなぁ。」
「それ系は冒険者が持って行った後だね、残ってるのはあの薄い毛皮と分厚い袋ぐらいじゃないかい?」
予約をしに肉屋に戻ったが残念ながらまだ作業中のようでおかみさんが申し訳なさそう顔で対応してくれた。
ま、一番価値があるんだしわざわざそれを残して持ち込まれることはないよな。
残ったのは使い道のない薄い毛皮と子供を入れる袋だけ。
毛皮は肉を捌くときにキレてしまうだろうから使えるのはフクロだけだろうけど、そういえばどんな感じか見たことなかったな。
「袋ってどんなかんじなんだ?」
「ちょっとしたものを入れるのにはちょうどいい大きさだね、丈夫だし汚しても惜しくないから重宝してるよ。」
「ほぉ、そりゃ初耳だ。みせてもらっていいか?」
「あいよ、ちょっとまってな。」
突然やって来た客の無茶ぶりにも優しく対応してくれるんだからおかみさんも優しいよなぁ。
裏から運ばれてきたのは真っ白い袋。
いや、マジでそういうしかないんだって。
肩にかけるような部分はないが、中は意外に広くマチのような部分まである。
子どもをここに入れたまま地面の中を動き回るだけにかなり丈夫に作られているようだ。
毛皮の上に張り付いているような感じなので血や内臓で汚れているわけでもなくそのまますぐに物を入れられそうな感じさえする。
これで持ち手があればなぁ。
「思ったよりも丈夫だな。」
「だろ?汚れても水をかけたらすぐにとれるし便利なもんさ。ここに肩掛け出来るぐらいの持ち手を付けて使うのさ。」
「なるほどトートバッグみたいな感じか。」
「トート?なんだいそりゃ。」
「全部で何枚ある?」
「持ち込まれたのは全部で34匹だからうちで使う分を引いて30枚はあるよ。」
30枚か、加工するのは大変そうだがまたジャンヌさんにお願いして誰か紹介してもらえばいいか。
おかみさんが絶賛する使い勝手の良さ、これが売れないはずがない。
でもなぁ、このまま売っても面白くないし何か加工出来ればいいんだけど・・・。
ま、それは加工してから考えるとしよう。
「全部買いたいんだが、いくら払えばいい?」
「これを買うのかい?そうだねぇ、ちょっとあの人に聞いてみないと何とも言えないけどそんなに高くはないと思うよ。」
「また明日肉を取りに来るからその時に教えてくれ、おっちゃんによろしく。」
「あいよ、また明日ね。」
色々考えたいところだが、今日の俺には唐揚げづくりという大事な仕事が待っている。
まずは肉を捌いてそれを味付けして、コメの準備をしてからサラダ用の野菜を水にさらしてだな。
ゆっくりしたいところだが楽しみに待ってくれている皆の為に頑張らなければ。
それに明日にはお楽しみの肉が待っている。
どんな味付けがいいか今のうちに考えておかないと。
フクロアナグマ、お前の実力を見せてもらおうじゃないか。
「あぁ、今日は俺が飯当番だからな。」
「シロウさんの作るご飯は格別だからね、夜を楽しみにしているよ。」
屋敷から出ようとしたら丁度ウィフさんと入れ違いになった。
手には何やら書類の束を抱えているが、ぶっちゃけどんな仕事をしているのか知らないんだよなぁ。
貴族ってだけで莫大なお金を右から左に転がせるわけでもなく、生きていくにはそれなりに金がかかる。
特にイザベラなんて言う金食い虫・・・失礼、手のかかる嫁さんを持つとなおのこと収入を確保していかないとあっという間に破産だからな。
もちろん何もしないで生きていけるだけの不労所得を確保している貴族もそれなりにいるんだろうけど、そこまでいけるのは余程の金持ちか俺みたいな金好きかのどちらかだろう。
ウィフさんはどちらかというとその前者の方なんだろうけど、何をしているかそれとなく聞いてみてもいいかもしれないな。
「ハードルを上げてくれないでくれ、屋敷の料理人の方が何倍もうまい飯を作るんだから。」
「その料理人たちが君の料理を認めているんだ、どうだい王都に店を出してみるかい?」
「生憎と同じものを作り続けるってのが苦手でね、辞退させてもらおう。」
「それは残念だ。」
みんな美味い美味いって言って食ってくれるが、所詮は素人。
プロに比べれば技術や勘は劣っているわけで、物珍しさだけでは早いうちに躓いてしまうだろう。
プロはそこから挽回できるが素人はそこで限界を迎える。
それに、俺が同じ場所でずっと同じことをできないのは向こうの街で十分に理解している。
そういう理由でも断るしか選択肢はないんだよな。
「参考までに聞くが今日は何を食べたい?」
「イザベラが君の唐揚げを所望していてね。ほら、例の骨付きの奴だよ。あれに冷えたエールが最高に合うんだそうだ。」
「おっさんかよ。」
「いいじゃないか、美味しそうにたくさん食べる姿はこちらも元気になるからね。」
まぁ言いたいことはわかる。
美味しく食べてくれている姿ってのは作った者には最高のご褒美だ。
素人でもその辺はプロと同じ、あの顔を見ればまた作ろうって思えるんだよな。
「じゃあリクエストにお答えして今日は骨付きから揚げにするか。」
「それじゃあ僕はとっておきのエールを用意しておこう。」
「期待してる。」
美味い食い物には美味い酒、ってことでがぜんやる気がわいたところで食材の買い出しに行くとしよう。
いつもはルフがついてきてくれるのだが、今日は朝からアニエスさんに拉致されて冒険者ギルドに行ってしまった。
女二人オオカミ同士、たまにはそんな時間もあっていいだろう。
市場へと向かう前になじみになりつつある肉屋のオッちゃんに声をかけてアングリーバードの骨付き肉を手配してもらう。
その間に市場へ向かいサラダ用の野菜を探して回っていた時だ。
「随分と可愛らしい絵だな。」
「いらっしゃいませ、気に入っていただきありがとうございます。」
「これはウルフ系、こっちはドラゴンか。普通の花もなかなか味のある感じで嫌いじゃない。」
見つけたのは20cm四方の小さなカンバスに描かれた絵。
ビビが魔物コインに描いていたような少しデフォルメした感じの絵はこっちの世界では珍しい部類に入るだろう。
でも確かな需要はあったし、現に俺の他に見ている客もいる。
「こっちのグレイウルフをくれ、いくらだ?」
「銀貨1枚です。」
「思ったより安いな。」
「この大きさですから。でもご希望があれば望みの物に描いたりもしますので持ってきてください、値段は物を見てからになりますけどこれを買ってきてくださった方には安くします。」
どうしてもグレイウルフの絵が気になるんだよなぁ。
見た感じ悪くないし、ルフも気に入ってくれるはず。
代金を支払い商品を受け取ってから改めて絵を確認する。
うーむ、やっぱりビビの絵に似てる気がするんだけどなぁ。
「どうしました?」
「いや、昔取引していた絵描きに絵が似てるなって思っただけだ。ビビっていう名前でコインタートルの甲羅に上手に絵をかいていたんだよなぁ。」
「師匠を知ってるんですか!」
「師匠って、彼女を知ってるのか?」
「知ってるも何も今も教えてもらっているんです。」
マジか、王都に行ってみたいって言っていたので送り出したのだが、まさか弟子を取るまでになっているとはちょっと想像していなかった。
そうか、この絵に面影があったのは間違いじゃなかったのか。
「そりゃいい師匠を持ったな。俺はシロウ、本人によろしく伝えてくれ。」
「シロウさんですね必ずお伝えします。」
この広い王都でまさか昔なじみの関係者に出会えるとは思ってもみなかった。
いやー、世の中狭いなぁ。
なんて事がありながらも引き続き市場を見て回ってから肉屋へと戻った。
「ただいま。」
「おぅ、注文のアングリーバード出来てるぞ。全部で銀貨3枚だ。」
「かなりの量だったのにそれだけでいいのか?」
骨付き肉は他と違って処理方法が違うので手間もかかっているはずなのに、量が多いからとおまけしてくれる当たりいい人だよなぁ。
こういう人だからこそ毎回この人から買いたくなってしまうわけで、商売ってのはこういう気配りやおまけなんかで大きく変わったりもするもんだ。
「いつも贔屓にしてくれているしな。」
「そりゃありがたい。それなら追加でもういくつかもらってもいいか?」
「悪いが今日は店じまいだ、大量に肉が運ばれてきたんでそっちを処理しちまわないといけなくなったんだ。悪いな。」
「大物なのか?」
「大きさはそうでもないんだが量が多い。明日には店に並ぶから明日を楽しみにしておいてくれ。」
そういうとおっちゃんは血の付いた肉切り包丁を手に店の奥へと引っ込んでしまった。
うーむ、ここに持ち込まれるってことは食用の魔物か魔獣なんだろうけど、いったい何を処理しているんだろうか。
気になりつつも邪魔をするわけにはいかないので肉を手に冒険者ギルドへと向かう。
依頼を受けてどこかに行っているのなら仕方ないが、そこにいるのなら声ぐらいかけておこう。
「おや、シロウ様どうされました?」
「やっぱりここにいたか。今から仕事か?」
「はい、ルフに手伝ってもらい魔物の痕跡を探しに行きます。夕方までには戻りますのでご安心ください。」
「今日はイザベラのリクエストで骨付きから揚げだから遅くならないようにな。もちろんルフにも骨付き肉を用意してあるからしっかり頑張ってこい。」
「わふ!」
元気いっぱいの返事と一緒に尻尾を振るルフ。
なるほど、魔物の痕跡を探すならルフの嗅覚があった方が良いだろう。
アニエスさんも狼人族なので一般人よりも嗅覚は発達しているが、それでも本職には負けてしまう。
この二人なら間違いなく獲物を見つける事だろう。
「ちなみに何の痕跡を探すんだ?」
「昨日フクロアナグマが大量に発見されました。幸いすぐに駆除されて街に運ばれましたが、この近辺では珍しい魔物だけにどこから来たのか調査依頼が出たようです。通常は新人冒険者がするような依頼ですが、この間のスラグアントの件もありまして念入りに調査をすることとなりました。」
「なるほど、地下から崩れたら困るもんな。」
「ではいってまいります、唐揚げ楽しみにしていますね。」
「おぅ、気を付けてな。」
街の出入り口付近まで二人を見送りに行き、そこで少し考える。
フクロアナグマといえばその名の通りカンガルーのような袋を持つ体長1mを超える中型の魔物だ。
同じく名前にあるように地面に穴を掘って暮らしているのだが、その体の大きさから地中のトンネルはかなり大きくなり時々崩落して道に大きなわだちを作ってしまうことがある。
けもの道ならともかく高速で馬車が走り回る街道でそれが起きてしまったら大惨事待ったなし、ってことで痕跡を探すように依頼が出されたんだろう。
肉は程よく脂がのり、毛皮は使えないが穴を掘るのに特化した爪は非常に鋭利かつ頑丈で加工用品や農耕用品に用いられていたはず。
爪の取引はしたことがあるが実は肉を食べたことがないんだよなぁ。
どんな味なのか明日が非常に楽しみだ。
折角だし予約を入れておくとしよう。
「いらっしゃい、悪いねあの人ならまだ裏で肉を捌いているんだよ。」
「かなりの量が持ち込まれたって話だが爪とかはもう残ってないよなぁ。」
「それ系は冒険者が持って行った後だね、残ってるのはあの薄い毛皮と分厚い袋ぐらいじゃないかい?」
予約をしに肉屋に戻ったが残念ながらまだ作業中のようでおかみさんが申し訳なさそう顔で対応してくれた。
ま、一番価値があるんだしわざわざそれを残して持ち込まれることはないよな。
残ったのは使い道のない薄い毛皮と子供を入れる袋だけ。
毛皮は肉を捌くときにキレてしまうだろうから使えるのはフクロだけだろうけど、そういえばどんな感じか見たことなかったな。
「袋ってどんなかんじなんだ?」
「ちょっとしたものを入れるのにはちょうどいい大きさだね、丈夫だし汚しても惜しくないから重宝してるよ。」
「ほぉ、そりゃ初耳だ。みせてもらっていいか?」
「あいよ、ちょっとまってな。」
突然やって来た客の無茶ぶりにも優しく対応してくれるんだからおかみさんも優しいよなぁ。
裏から運ばれてきたのは真っ白い袋。
いや、マジでそういうしかないんだって。
肩にかけるような部分はないが、中は意外に広くマチのような部分まである。
子どもをここに入れたまま地面の中を動き回るだけにかなり丈夫に作られているようだ。
毛皮の上に張り付いているような感じなので血や内臓で汚れているわけでもなくそのまますぐに物を入れられそうな感じさえする。
これで持ち手があればなぁ。
「思ったよりも丈夫だな。」
「だろ?汚れても水をかけたらすぐにとれるし便利なもんさ。ここに肩掛け出来るぐらいの持ち手を付けて使うのさ。」
「なるほどトートバッグみたいな感じか。」
「トート?なんだいそりゃ。」
「全部で何枚ある?」
「持ち込まれたのは全部で34匹だからうちで使う分を引いて30枚はあるよ。」
30枚か、加工するのは大変そうだがまたジャンヌさんにお願いして誰か紹介してもらえばいいか。
おかみさんが絶賛する使い勝手の良さ、これが売れないはずがない。
でもなぁ、このまま売っても面白くないし何か加工出来ればいいんだけど・・・。
ま、それは加工してから考えるとしよう。
「全部買いたいんだが、いくら払えばいい?」
「これを買うのかい?そうだねぇ、ちょっとあの人に聞いてみないと何とも言えないけどそんなに高くはないと思うよ。」
「また明日肉を取りに来るからその時に教えてくれ、おっちゃんによろしく。」
「あいよ、また明日ね。」
色々考えたいところだが、今日の俺には唐揚げづくりという大事な仕事が待っている。
まずは肉を捌いてそれを味付けして、コメの準備をしてからサラダ用の野菜を水にさらしてだな。
ゆっくりしたいところだが楽しみに待ってくれている皆の為に頑張らなければ。
それに明日にはお楽しみの肉が待っている。
どんな味付けがいいか今のうちに考えておかないと。
フクロアナグマ、お前の実力を見せてもらおうじゃないか。
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