転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1181.転売屋は事の成り行きを報告する

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「シロウ様、お客様が参られましたわよ。」

「俺に客?」

「応接室にお通ししてますから、後で香茶をお持ちしますわ。」

こちらでは珍しく曇天が広がり冷たい雪の降る日の事、自室でのんびりとしていると突然イザベラから客が来たと連絡を受けた。

王都にきてそろそろ一カ月弱。

それなりに仕事をしてきたのでそのうちの誰かが会いに来たという可能性はあるんだけど、よく考えればどこに住んでいるかとかまでは教えていなかったはず。

にもかかわらず俺の居場所を知る人物となると限られてくるわけだが・・・。

ま、行けばわかるか。

「ジン、一緒に行くぞ。」

「よろしいのですか?」

「イザベラが確認もせずに案内するってことは俺に近しい人物なんだろう。隠す必要もないさ。」

「なるほど、かしこまりました。」

もちろんルフも立ち上がり、総出で応接室へと移動する。

「シロウだ、入るぞ。」

親しき中にも礼儀あり、ちゃんとノックをして声をかけてから扉を開いた。

「シロウ、久しぶりだな。」

「ケイゴさん!それにアニエスさんまで、戻ってきていたのか。」

「お久しぶりですシロウ様。おや、そちらの方は?」

アニエスさんが少しだけ表情を和らげたものの、すぐに後ろに立っているジンに目をやり厳しい顔に戻る。

頭の上の耳がピンと立っているときは警戒している証拠だ。

「あー、それについては後で報告させてくれ。とりあえず無事に戦争が終わってよかったな、色々大変だっただろ。」

「大変といえば大変だったが、それにもシロウが関係しているらしいな。」

「俺は別に・・・ってディーネから聞いたのか。」

「あぁ、その後ろにいるのがそうなのか。」

「お初にお目にかかります、私はジン。シロウ様より強欲の壺から出していただいた魔人でございます。ご壺から出していただいた御恩もあり、欲深きシロウ様のお手伝いをさせていただいております。どうぞお見知りおきを。」

後ろに控えていたジンが、横に並び立ち深々とお辞儀をする。

うーん、見た目も相成って様になるなぁ。

中身はアレだけど。

「そうか、お前が弟を変えた張本人か。」

「300年ぶりの願いがまさかあのような事に使われるとは思っていませんでしたが、後から人間の争いを犠牲者も出さずに終える事が出来たと伺いました。小さき願いで大きな結果を生み出すとは強欲なお方だ。」

「シロウ様は強欲では・・・いえ、強欲ですね。」

「アニエスさんフォローしてくれるんじゃないのかよ。」

「よくよく考えますとその欲深さが今の結果につながったと考えられます。マリー様を始めとした皆様を守りつつ財産を残す、欲深くなければできなかったでしょう。」

これは褒められているのかけなされているのか。

いや、褒められているのはもちろん理解しているがなんていうか言い方がさぁ。

「まぁまぁそのぐらいにしておけ。正直首を取ることも覚悟していたのだが終始穏やかに話し合いの場を設ける事が出来たのは間違いなくシロウのおかげだ。改めて礼を言わせてくれ、弟の目を覚まさせてくれて本当にありがとう。」

「本当に偶然の結果だが、まぁうまくいってよかった。それで今日はそれを報告に来てくれたのか?」

「西方国との交渉について陛下にご報告をするべく戻ってまいりました。その前にどうしてもケイゴ様がお礼を言いたいとのことでしたので参上した次第です。」

「なるほど、それじゃあ陛下にもよろしく伝えてくれ。」

西方国から戻ってきて疲れている所わざわざ寄ってくれたのか。

本当は色々と聞きたい事もあるのだが、あまり引き留めるのもよろしくないな。

「何を言うか、お前も一緒に行くんだぞ。」

「俺が?なんでだ?」

「近年最大の戦争になりかけたのを止めた張本人だぞ?いかない理由はないだろう。」

「強欲の壺の願いで西方国国王の性癖を変えましたって報告するのか?勘弁してくれ。」

「だが事実は事実だ。ディネストリファ様やガルグリンダム様からも同様の報告が上がっている事だろう。それだけの事実があれば仕組まれた国家反逆罪などいくらでも帳消しにできるのではないか?」

「それはそれ、これはこれ。罪は罪として受け入れないと今後の示しがつかないだろ?それにだ、陛下からは推薦状という形で褒美をもらっているし、今更同行するつもりはない。むしろいい機会だと思ってここでしっかり稼いでいくつもりだ。ここで人脈を作っておけば向こうに戻ってからも十分稼ぐことができるからな。」

ケイゴさんの気持ちは大変ありがたいが、これに関してはもう終わった話だ。

金貨3000枚もの借金と引き換えに、俺は王都での生活と新しいきっかけを手にしたことになる。

もちろんそれを行うにあたって少しでもスムーズに事が運ぶように陛下からの特別な推薦状ももらっているし、現にそれがあったおかげで錬金術ギルドや製薬ギルドとの取引が成功したと言えるだろう。

もちろんすぐに罰金を支払って街に戻るという選択肢もあったのだが、それではこの世界を知らずに過ごすことになる。

最初はすぐに帰りたいと思っていたが、今は少しでも多くの物を持ち帰りたいという考え方に変わっている。

せっかくの機会なんだ、強欲の魔人に驚かれるぐらいの欲深さで金もうけしてやろうじゃないか。

「そうか、お前がそういう考えならば何も言うまい。だが一緒には来てもらうぞ。」

「えー、今日は寒いからゆっくりしたいんだがなぁ。」

「そういうわけにはまいりません。西方国との今後についての話もありますのでどうかご同行お願いします。」

「そうか、西方国との国交について決まれば向こうの品がまた入ってくることになるのか。」

戦争が終わった以上向こうの品がこちらに流れてくるわけだし、それを聞かない手はないよな。

折角ハルカとケイゴさんが作ってくれている調味料にも関係する話だけにしっかりと情報収集しておかないと。

ということで予定を変更してケイゴさん達と共に馬車に乗り込み一路王城へと向かう。

平民の身でありながら一カ月で二回も行くことになるとは思ってもみなかったが、まぁ一回も二回も同じことか。

「ケイゴ殿、アニエス長旅ご苦労だった。」

「西方国国王より親書を預かっております、まずはこちらをお納めください。」

「うむ、拝見しよう。」

城に到着した後は二人と共に陛下の元へ。

使者として出向いた二人と違ってなんとも場違いな感じではあるのだが、誰も文句を言う人はいないようなので静かにしておこう。

大勢の臣下と兵士が見守る前でケイゴさんが陛下に書状を手渡す。

それをその場で開き素早く目を通すと、その目がかすかに動いたのが見えた。

「これが西方国の回答か。」

「はい。此度の戦争に関しては西方国に非があり、多大なる迷惑をかけたことをお詫びする。国交の再開を認めてもらえるのならば賠償金として金貨1000枚を支払う用意がある。また、今後五年間にわたり西方国での関税を二割減らすとの事です。可能であれば直接陛下に謝罪をするとも言っておりましたが、それに関しては勝手ながら保留にさせていただきました。ひとまずは賠償の問題を解決したのち謝罪を受け入れるかどうかをお決めいただければと思います。」

「弟に厳しいのだな。」

「国の長として国民の上に立つのならばそれなりの罰を受けるべきだと思いますが、私も身勝手に民を捨てた身ですので、あまり偉そうなことを言うことはできません。」

「では、国王としてこの件について回答しよう。我が国は西方国の賠償内容を了承し、西方国国王直々の謝罪をもって国交回復に同意する。時期においては先方が落ち着き次第という事で構わないだろう。現時点で西方国の品が不足して困っているわけでもないが、関税が引き下げられるとわかれば聡い商人なら急ぎ準備するものも出てくるはず。その準備期間も必要だろう。」

そういいながら俺の方を見るのはなぜだろうか。

別に西方と取引がしたいわけではないので、俺は別に関係ないんだが。

むしろ向こうの品がすぐに入ってこないという情報の方がありがたい。

せっかくハルカたちが頑張っているのに安価に醤油やみそが流入することになれば折角の投資が無駄になってしまうからな。

「そのように申し伝えます。」

「うむ、今回の件はさほど大事にせず両国の繁栄につながるきっかけになればとも思っている。平和な世でありながらも私利私欲のために国をも利用するものがいるといういい戒めにもなっただろう。我もより一層気を引き締めて統治にあたることにする。ケイゴ殿、アニエスよくやってくれた。」

「「ありがとうございます。」」

「ケイゴ殿には引き続き西方国との仲介役として動いてもらえればと考えているが、そのあたりはどうお考えだ?」

「申し訳ありませんが身内である私があまり口を出し続けるのは宜しくないと考えております。つきましては、今回の件を伝えた時点で仲介の役目を辞させていただけますでしょうか。」

「そうか、それは残念だ。」

ふむ、てっきり継続して西方との仲介に入ると思っていたのだが、あくまでも国を捨てた身。

加えて身内があれこれ口を出しては世間的にもよろしくないと考えてのことだろう。

まぁ、早くハルカの所に戻りたいっていう部分の方が強いかもしれないけどな。

「後任に関しては議会での一件もありましたので中立の立場で動くことができ、かつ向こうの文化に詳しい者が相応しいと考えております。つきましては一人推薦したい者がいるのですが・・・。」

「奇遇だな、私も同じことを考えていた。」

「・・・おい。」

なんでそうなるんだよ。

っていうかこっちを見るな。

俺はもう貴族の身分を剥奪されたただの平民、っていうか国を裏切った国家反逆罪の前科持ちに戦争相手国との仲介をさせるとかどう考えてもおかしいだろうが。

折角そういうしがらみから解放されたはずなのに、そもそもそんなの議会が許すはずがないだろ?

許さないよな?

な?

「もちろんその者も突然のことに戸惑うと思いますので、そこで同行してくださいましたアニエス監査官を補佐としてついていただければとも考えております。実際に私と共に現地でのやり取りを見ておりますし、その武力と知力は必ずやお役に立つと思います。」

「と、ケイゴ殿は申しているがアニエスどう思う。」

「私でよろしければ喜んでお手伝いさせていただきます。」

「決まりだな。その者には後日使いを出し了承を取り付けると約束しよう。」

「ありがとうございます。」

なんだよその出来レース。

まだ誰にっていう明言はしてないけど、どう考えても俺だよな。

っていうかこの場にいるほぼ全員が俺の方を見ているんだが?

ここに俺を呼んだ本当の理由はこっちだったか・・・。

くそ、アニエスさんにまでしてやられた。

悔しそうな顔をする俺を見て陛下が満足げな笑みを浮かべている。

終戦の功労者どころか厄介ごとの押し付けに呼ばれただけじゃないか。

おのれケイゴさん、後で覚えとけよ。

こうなったら西方関係の儲け話は全部俺の金になるように仕向けてやる。

それをわかってやれって言ってるんだよな?そうだよな!?

なんて心の中で叫びながら彼らの後ろで盛大なため息をつくのだった。
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