転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1168.転売屋は今後について考える

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さて、どうしたもんか。

ルフと共に議会を出てきたものの、突然放り出されたような形になってしまった。

王都を出ていくなというぐらいだからてっきり見張りであるとか、何かしらの拘束具をつけられることぐらい覚悟していたのだがそういった物もなくただ帰ってくれと議場から追い出されてしまったわけで。

このままだと俺王都から出れるんですけど?

いやまぁ、出た所でどこかに行けば捕まるんだろうけど・・・。

あれか?

没収されたやつですぐに返すだろうからそういうのはいらないんじゃない?っていう考えなのか?

だとしたら見当違いなんですけど。

うーむ、緩い。

色々と思惑が絡み合ったとはいえ国家反逆罪を言い渡された男ですよ?

ようは前科持ちだ。

それをこんな簡単に野に放ってだな・・・。

「どうするかな。」

「わふ?」

「まぁ、いつまでもここにいた所で何もできないし適当にうろつくとするかね。」

そういえば持ってきた荷物はどこにあるんだろうか。

あの壺もそこに入ったままだし、まずはそれを探すところからだな。

流石に没収って感じじゃなかったから詰所かどこかにあるんだろう。

ルフがいてくれて本当に良かった。

俺一人だったら途方に暮れていたかもしれないが、とりあえず彼女を安心させなければという気持ちが働く。

まだ冬のど真ん中、このまま夜になれば一気に冷え込んでしまう。

それまでにルフが落ち着ける温かい場所を用意してやらないと・・・。

「探しましたわよ。」

「この声は、イザベラか。」

聞き覚えのある声に後ろを振り返ると、前以上に高飛車な雰囲気を纏ったイザベラが腰に手を当ててふんぞり返っていた。

首にはまだ隷属の首輪がついているから奴隷であることは変わりないようだが、離婚を機に所有権が変わったので彼女との直接的な関係は無くなっているはず。

王都にいる知り合いとしては一番接点があるのだが、どうしてここにいるんだろうか。

「騎士団の方が教えてくれましたの。ひとまずうちに呼ぶようにとウィフが言っていますわ、おいでくださいな。」

「いいのか?」

「いいも何も知人を迎え入れるのは当然のことですわ。主人ではなくなったからといて今までの恩を忘れるほど恩知らずじゃありませんの。」

「そりゃありがたい話だ。悪いが少し世話になる。」

「えぇ、喜んで。荷物もうちに運んでありますわよ。」

おそらくは護送してた時に同席していた彼がどこぞの流れでウィフさんに連絡を取ってくれたんだろう。

もしくは事前に荷物を運ぶように伝達してあったか。

俺が行くことは知らされているだろうし、そっちの方が確率は高そうだ。

先を行くイザベラを追いかけて少し歩くと、淡いオレンジ色の壁が特徴的なお屋敷に到着した。

白を基調としたこの王都では少し珍しい感じだ。

どことなく太陽のような温かさを感じるのは気のせいじゃないんだろうな。

「いい屋敷だな。」

「そうでしょう、ウィフが私の為に塗りなおしてくれましたの。」

「なんだかんだ言って仲がいいじゃないか。」

「ウィフとの関係はもうご存じでしょうし隠す必要もありませんわね。昔は反発したりしましたけど、今はこの通り尻に敷いてやってますわ。」

「ウィフさんもご苦労なことだ。」

ウィフさんにイザベラの事を頼んだ時はどうなる事かと思ったが、なんだかんだウィフさんの思惑通りに事は進んだようだ。

元々恋仲だった二人だしこうなるのも時間の問題だったが、仲睦まじい感じで今の俺には正直つらい感じもある。

いやいや、最初からこんな気持ちでどうするよ。

そのままルフと共に応接室へと案内される。

ふかふかのソファーに品のいい調度品。

どことなく譲り受けた屋敷と雰囲気が似ているところから察するに、王都に来ても趣味は変わっていないようだ。

ルフは落ち着いた感じで俺の足元で静かに体を伏せ、後ろから感じる暖炉の熱を感じている様子。

そんな感じであたりを見渡していると、ノックの音ともに屋敷の主がやって来た。

「やぁシロウさん、一年ぶりになるかな。」

「それぐらいか。急な訪問にもかかわらず受け入れてもらって感謝しかない。」

「僕と君との仲なんだから気にしないでくれ。それに君の方も随分と大変だったようだね、リング様からいろいろと話は聞かせてもらったよ。君が国家反逆者だなんて天地がひっくり返ってもあり得ない話だというのに。」

「別に愛国者って訳じゃないんだがいつの間にかそんな感じに仕立てられてしまったようだ。身分も剥奪されたし今じゃ金貨3000枚の借金持ちさ。」

久々の再開だというのに非常にスムーズに話が進むあたり、ウィフさんの人柄の良さを感じる。

最初に出会った時もそうだったがなんだかんだいい人なんだよな、ちょっとこだわりが強いだけで。

貴族だからという事を前面に出すわけでもなく、かといって甘いといえばそうでもない。

イザベラは尻に敷いていると言っているが実際にコントロールしているのは間違いなくウィフさんだろう。

手綱の握り方がうますぎて本人が気づいていないだけなんだろうな。

「それはそれは、イザベラなんて目じゃない多さだね。」

「にもかかわらず逃亡禁止のために王都から出ることはできないし、それでいて住まいや支援は行うつもりはないらしい。一応何かあれば議会にと議長は言っていたが所詮は口だけだろうな。」

「なるほどねぇ。さすがにその金額ともなると僕もすぐに貸す事も出来ないし、下手に手を出すと色々と言われそうだからあまり手助けはできないかもしれない。でも君の人脈と才能ならそんなに時間もかからず返せるんじゃないかな。」

「そうだといいんだが最近は結構人任せなところもあったしなぁ。心機一転、自分の力だけでどこまでできるか試すいい機会なのかもしれないが今考えれば別に頼っちゃいけない理由はないんだよな。王都から出れなくても連絡を取り合ってはいけないというわけではないし、出来る事を少しずつやっていけば何とかなるかもしれない。」

そういえば議長も同じようなことを言っていた気がする。

王都に放り出されたからと言って別に孤立無援というわけではないし、ここで使える人脈だってそれなりにある。

とりあえず女達には手紙を出して状況を伝え、離れていながらでもお互いに利益を出せる取引を行えばどっちの懐も潤わせる事も出来るだろう。

もちろん今までのように何でもかんでも任せっぱなしってわけにはいかないので、稼ぐペースは落ちるかもしれないがそれでも普通の人よりかは稼げる自信はある。

相場スキルさえあればとりあえず損をすることはない。

まずは元手を確保するために少額から取引を始めて、それを元手に事業を拡大。

うん、なんだかやれるような気がしてきたぞ。

「お待たせいたしました。」

「ありがとうイザベラ。」

「悪いな、香茶まで用意させて。」

「最近南方の茶葉が手に入りやすくなったので自分で淹れるようにしていますの、お口に会えばいいんですけど。」

「いただこう。」

どこかで嗅いだことのある爽やかな香り。

これはあれだ、俺たちが南方で買い付けている新しい茶葉だな。

砂糖壺に入っているのも同じく南方産の砂糖だろう。

俺達が仕入れた品がこうやって王都で広まっているのを見ると感慨深いものがある。

逆を言えば王都ではやっているものも少し遅れて向こうではやったりもする。

それをコントロールするのも面白いかもしれない。

「うん、美味い。」

「よかったですわ。」

「住む場所が決まるまではうちの部屋を使うといい。倉庫が必要なら空いている場所も手配できる食事ぐらいは用意させてもらうよ。」

「出来るだけ早く出ていくつもりだが本当にいいのか?」

「君がいると王家の人間ともつながりができるからね、こっちも打算で動いているからまったく気にしないで構わないよ。さっきも言ったようにお金は出せないけど場所ぐらいじゃ文句は言われないはずだ。それに、君がいてくれた方が色々と楽しそうだしね。」

そういってウィフさんは意味ありげな笑みを浮かべる。

宿なしになるところから一転こんなにすごい屋敷に住めるのは非常にありがたい話だが、本音のところあまり世話になりたくないという部分もある。

別にウィフさんを嫌っているわけではないのだが自由に商売するのにどうしても気を使ってしまうからなぁ。

犯罪を犯すつもりはさらさらないが、今回のように巻き込まれないとも限らない。

その時に迷惑をかけるのだけは避けたいところだ。

とはいえ無い袖は振れないし、衣食住が安定していてこそいい仕事ができる。

しばらくは好意に甘えて世話になるとしよう。

その後状況確認を意見交換をして、用意してもらった部屋に移動する。

どう見ても上位の客を案内するような広々とした客間。

うーん、さすが王都貴族金持ちの具合が元の街と全然違うな。

ベッドに飛び込みスプリングの良さに改めて恵まれた状況を実感する。

せっかくいい状況で再出発できるんだ。

早く家族の所に戻るためにも効率的に金を稼いでいかなければ。

なんせ金貨3000枚だからなぁ、普通にやれば一生かかっても返すことができないような金額だ。

だが俺ならできる。

二年、いや一年以内に全額返済してみんなの待つ街に戻って見せる。

やればできるさ。

ベッドから体を起こし興味深そうに部屋中の匂いを嗅いでいるルフを見ていると、ふと部屋の隅に例の壺が転がっているのが見えた。

この中に入っているはずの金貨さえあればすぐにでも自由の身になれるんだけどなぁ。

だがその金も西方との戦争を解決するのに使ってしまった。

おっと、そういえば願いが叶っていたら金貨を1枚入れろって言ってたよな。

ポケットを触ると最後に残った金貨が指に触れた。

ここに来るまでに稼いだ最後のあぶく銭、再出発の意味も込めて心置きなく使わせてもらおう。

魔人の願いを聞いてやるべく指ではじいた金貨は、まるで今後の行く末を暗示するかのような素晴らしい放物線を描いて壺の中に吸い込まれていく。

ナイスシュート。

そう呟いてガッツポーズをした次の瞬間。

「私はこの壺に住まう魔人!さぁ、強欲なる人間よ己の心に眠らせたどす黒い欲を今すぐ解き放つのです!っていうか300年ぶりの願いがあれっぽっちで納得するはずがありません!」

静寂はあっという間に終わりを迎え、してやったりの顔で魔人が再び現れた。

この野郎、これを狙ってやがったな。

どや顔でおれを見下ろす強欲の壺の魔人。

王都での再出発はもしかすると前途多難なのかもしれない。
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