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1123.転売屋は石鹸を売り込む
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「シロウ様、イザベラ様が参られました。」
「イザベラが?そんな話聞いていたか?」
「いえ、聞いていません。」
「わざわざ王都から何かあったのか?」
昼前に執務室でいつものように仕事をしていると思わぬ人物の到来を知らされた。
普段は王都の代理店担当として向こうでの業務の一切を取り仕切っているイザベラ。
俺の奴隷ではあるのだけれど、今はウィフさんに監督してもらって俺への借金を返済している。
総額金貨5000枚。
正確に言うと総売上額なので実際に俺に支払われるのはその半分ぐらいだろうけど、向こうでしかできない商売もある上に持ち前の社交力と社交界という魔殿でやっていけるだけのメンタルの強さは彼女にしかない。
そんなイザベラが態々戻ってくるとは、もしや西方関係で何か良くないことがあったんだろうか。
どうやらミラもセーラさんたちも来訪を聞かされていなかったようだし、それが余計に不安にさせる。
とりあえず応接室に通すように伝え、急いで仕事を切り上げ応接室に入ると落ち着いた様子で俺を一瞥してからイザベラは立ち上がり優雅にスカートの端をつまんで一礼をした。
相変わらずの上品さ、でも中身は結構口が悪い。
「急に来訪しまして申し訳ありません。」
「気にするな、それよりも元気そうで安心した。」
「おかげさまで風邪をひいている暇もありませんわ。」
「忙しいか?」
「最近は西方関係で色々と。」
そうは言いながらなかなか充実した日々を過ごしているのか出会った頃以上に覇気がある。
太陽のティアラという規格外の装備がなくともこの雰囲気であれば多くの人を引き付ける事だろう。
元々そういう素質があったんだろうけど、それが見事花開いたような感じだ。
「なるほどなぁ。で、わざわざこっちまで戻ってきたのはそれだけじゃないんだろ?俺に買われて約一年、その成果を報告するために戻って来たって感じか?」
「せっかく驚かせようと思っていましたのに、そこまでお見通しですとちょっと面白くないですわね。」
「驚かせようって思っていたのなら残念だったな。」
「まぁいいですわ、これがこの一年の報告書ですの。ご確認お願いできまして?」
「拝見しよう。」
横に置いたファイルから書類を一枚取り出し、そっと机の上を滑らせる。
それを受け取り静かに目をとお・・・。
「は?」
「どうかしまして?」
「いやいやいや、『どうかしまして?』じゃないだろ。まだ一年だぞ?それなのにもう半分以上返済してるのか?」
「私からすれば遅すぎるぐらいですわ。本当は一年で完済するつもりでしたのに、戦争さえなければもう少し西方関係の商材で稼げたんですけど。」
書類の一番最初に書かれていたのは現在の総売上額。
その額金貨2765枚。
王都に流した品なんかは全てイザベラを経由して販売しているので決して彼女一人で稼いだ金ではないのだが、それでも一年でこれだけの金額を売り上げたってのは俺の想像をはるかに超えていた。
続いて書かれているのは大まかな売上額の内訳。
輸出品に始まり王都でやっている掃除道具のレンタル代なんかも事細かく記載されている。
うーむ、簡潔ではあるものの要点はしっかりと抑えた報告書。
俺にはまねのできない丁寧さだ。
「シロウ様拝見しても?」
「あぁ、確認してくれ。」
契約関係の内容にもなるのでミラにも確認してもらった方がいいだろう。
なんせ買い取った後にイザベラを一から教育したのはほかでもないミラだ。
あの時の鬼教官ぶりはなかなかのもので、エリザがビビっていたぐらいだからなぁ。
静かに書類に目を通すと、ミラは静かにイザベラの方をまっすぐに見つめる。
「シロウ様のためによく頑張りましたね。」
「お褒めにあずかり光栄です。ですが別にシロウ様のためではなく私の為ですの、そこは誤解しないでいただけると・・・。」
「イザベラさん。」
「・・・はい。」
まるで蛇に睨まれた蛙の如くあの高飛車なイザベラがミラの一声で静かになった。
あの短期間でこれだけ仕込めるとか、ミラを怒らせるのはやめた方がよさそうだ。
「まぁまぁ落ち着け。とりあえず現時点での返済額は確認した。残り約半分、早く終わればその時点で解放するから引き続き精進するように。ウィフさんも首を長くして待ってるんだろ?」
「ウィフは関係ありませんわ。」
「そういうことにしておいてやる。せっかく来たんだ、お互いに情報交換しながら次の金儲けのネタを探そうじゃないか。とりあえず西方関係と今の流行りについて教えてくれ。」
王都、それも貴族の中での流行りなんていう生の情報はここでしか手に入れられないからな。
それに西方関係の情報はこちらに流れてくるよりもより正確だろう。
予想通りもたらされた情報はかなりのもので、どれもここにいるだけでは手に入らないようなものばかりだった。
「戦端は開いたのか。」
「といっても何度か小競り合いがあった程度のようですわ。初回にディネストリファ様の炎に焼かれ、半数以上が死亡。それに恐れをなして逃げ出すと思いきや、今もにらみ合っているのだから驚きですわね。」
「そうか、ディーネが。」
「こちらにはガルグリンダム様もいるだけに負けはないでしょうけど、何のために攻め込んできているのかが正直わかっていませんの。土地が欲しいお金が欲しい、そういう感じではない気がしますわ。」
「一応宣戦布告してきたんだろ?」
「形式上って感じですわね。『自国の民を不当に虐げていることは許されない、即刻返還せよ。さもなくば実力行使で奪い返す』、奴隷制なんて何十年以上前から行われていましたし前王の時代には友好的ですらあった国がわずか一年で手のひらを返して刃を向けてくるなんておとぎ話にもありません。」
うーむ、聞けば聞くほど謎は深まるばかり。
ケイゴさんの弟はいったい何の目的で戦争を始めたんだろうか。
幸い最初にディーネが実力を見せて以降は散発的に戦いが起きている程度のようだが、戦争の影響は王都にも広がっているようだ。
食料が値上がりして娯楽品の販売が低迷、その分割安なちょっと贅沢な日用品が売れているんだとか。
うちと似たような流れではあるが、ここは戦地からだいぶん離れているのでそこまでの消費低迷は起きていない。
そんなこんなで今度は向こう流行りについてきいていたのだが、次に出てきたのは思いもしなかったものだった。
「薬草石鹸ねぇ、似たようなもん作ってるなぁ。」
「こちらでも石鹸が流行ってまして?」
「流行ってるってわけじゃないが知り合いに頼んで作ってもらっているところなんだ。ミラ、アロマに頼んで作らせたやつを持ってきてくれ。」
「かしこまりました、すぐにご用意します。」
スッと立ち上がりイザベラをチラッと見てからミラが応接室を出ていく。
書類の代わりに置かれているのは、鮮やかな緑色をした石鹸。
薬草が練りこまれているらしく肌荒れなんかに効果があるんだとか。
それなら化粧水でいいじゃないかとも思うんだが、薬用成分が違うんだと。
でもなぁ、この緑色はあまり映えないんだよなぁ。
においもあまりよろしくないし、使いたい!って感じにはならなさそうだ。
『薬草石鹸。薬効成分の高い薬草のみを使用した石鹸は、肌荒れや傷などにも効果がある。ただしにおいはあまり良くなく、また、傷口に触れるとかなりの痛みが出るので注意が必要。最近の平均取引価格は銀貨2枚。最安値銀貨1枚最高値銀貨4枚、最終取引日は本日と記録されています。』
ただの石鹸なのだが、薬草を使っているだけあってそれなりの高値で取引されている。
傷に効果があるのは事実なのだが、わざわざ石鹸にするあたりこれも戦地に薬系を出荷している余波なんだろうか。
話によれば貴族の中でお肌にいいって話が出てから流行りだしてるそうなのだが、それでも継続して使いたくなくなるこの仕上がりは物としてよくないだろう。
「お待たせしました。」
「助かった。こいつが今知り合いの調香師に作ってもらってるハーブ石鹸だ。南方の薬効成分もあるハーブを使ったやつで、香りもいいし効果もそれなりにある。化粧水成分を含んだ石鹸もあるんだがそっちはハーブじゃなくてパックに使っているのと同じ果物のエキスをふんだんに使っている。」
「これは・・・。」
薬草石鹸の横に置かれたのは一回り小さいカラフルな石鹸。
青、黄色、オレンジ、緑もあるが黄緑に近いような明るい感じの色になっている。
『ハーブ石鹸。南方のさわやかなハーブを配合した石鹸。薬効成分の高いハーブだけでなく製造に化粧水を用いているため、肌荒れや保湿にも効果がある。最近の平均取引履歴はありません。』
南方旅行の時に見つけたさわやかな香りのするハーブを何かに使えないかと悩んでいたところ、魔避け香を持ってきたアロマに話をしてみたらとんとん拍子で話が進み気づけば製品が仕上がっていた。
いや、マジでなんでこんなにスムーズに話が進むのかはよくわからなかったのだが、お互いに作りたいものとそれに使う材料が手元にあるのとでその日のうちに試作品ができていたもんなぁ。
元々この街で年明けから売り出すつもりで量産してもらっているのだが、正直この出来なら十分に向こうの石鹸に対抗できる。
同じような効能があってもこれだけ物が違うとなればどちらが売れるかは比べるまでもない。
「どうだ?」
「どうもこうもこちらのが勝てる要素がどこにもないんですが。」
「まぁそうだろうなぁ、っていうかそっちのもなんでこんな見た目なんだよ。もっとこうやりようがあっただろ?」
「今王都の貴族の間では健康志向が高まってますの。素材をそのまま生かした方が効果が高いとかなんとか、若干やりすぎなところも多くて困っているところなんです。」
「そりゃなんていうか、ご苦労さん。」
どの世界でも金持ちの健康志向は過激になるものなのか。
やれ無農薬だのやれ無添加だの、めんどくさい上にこだわりが強い。
結局効果があるかもわからない高いものに手を出して満足するんだもんなぁ。
俺も二回ほど高く売れるっていう健康食品に手を出して転売したが、あれはもう二度とごめんだ。
「おいくらですの?」
「こっちでは銀貨1枚で売り出すつもりだがこれなら向こうで銀貨2枚でも売れるだろう。とりあえず流行りが続いているうちに初回分を納品するから適当にばらまいてくれ。そっちの流行がこっちに流れてくるころにこっちの在庫を厚くするから、それまではイザベラ専売でやっていいぞ。」
「これでまた解放されるのが近づきますわね。」
「うれしいだろ?」
「えぇ、とても。」
ちなみに原価は銅貨50枚程。
輸送費を差し引いてもこっちで売るよりも向こうで転売した方が間違いなく利益が出る。
ある程度数が出たら落ち着くんだろうけど、そのころにはこっちで同じようなものが流行りだすのでそこで売れば在庫の問題は出ないはず。
材料は運んでくるだけでいいし製造方法はさほど難しくない。
輸送も木箱に隙間なくびっしり詰め込めるので数を運べるのが大きいよな。
向こうで売り出すのであればそれなりに見栄えする箱に入れてやると貴族なんかは喜んで買ってくれるだろう。
それこそ銀貨3枚でも売れるかもしれない。
四個セット銀貨10枚とかにすればお得感も出るし、普通に売るよりも利益が出るのでどちらにも利がある。
この間の果物といい砂糖といい、南方の品がこんなにも儲かるとは思っていなかった。
つまりはまだまだ金になるネタがあるという事。
次なる儲け話を探してイザベラとの情報交換は日が暮れるまで続けられるのだった。
「イザベラが?そんな話聞いていたか?」
「いえ、聞いていません。」
「わざわざ王都から何かあったのか?」
昼前に執務室でいつものように仕事をしていると思わぬ人物の到来を知らされた。
普段は王都の代理店担当として向こうでの業務の一切を取り仕切っているイザベラ。
俺の奴隷ではあるのだけれど、今はウィフさんに監督してもらって俺への借金を返済している。
総額金貨5000枚。
正確に言うと総売上額なので実際に俺に支払われるのはその半分ぐらいだろうけど、向こうでしかできない商売もある上に持ち前の社交力と社交界という魔殿でやっていけるだけのメンタルの強さは彼女にしかない。
そんなイザベラが態々戻ってくるとは、もしや西方関係で何か良くないことがあったんだろうか。
どうやらミラもセーラさんたちも来訪を聞かされていなかったようだし、それが余計に不安にさせる。
とりあえず応接室に通すように伝え、急いで仕事を切り上げ応接室に入ると落ち着いた様子で俺を一瞥してからイザベラは立ち上がり優雅にスカートの端をつまんで一礼をした。
相変わらずの上品さ、でも中身は結構口が悪い。
「急に来訪しまして申し訳ありません。」
「気にするな、それよりも元気そうで安心した。」
「おかげさまで風邪をひいている暇もありませんわ。」
「忙しいか?」
「最近は西方関係で色々と。」
そうは言いながらなかなか充実した日々を過ごしているのか出会った頃以上に覇気がある。
太陽のティアラという規格外の装備がなくともこの雰囲気であれば多くの人を引き付ける事だろう。
元々そういう素質があったんだろうけど、それが見事花開いたような感じだ。
「なるほどなぁ。で、わざわざこっちまで戻ってきたのはそれだけじゃないんだろ?俺に買われて約一年、その成果を報告するために戻って来たって感じか?」
「せっかく驚かせようと思っていましたのに、そこまでお見通しですとちょっと面白くないですわね。」
「驚かせようって思っていたのなら残念だったな。」
「まぁいいですわ、これがこの一年の報告書ですの。ご確認お願いできまして?」
「拝見しよう。」
横に置いたファイルから書類を一枚取り出し、そっと机の上を滑らせる。
それを受け取り静かに目をとお・・・。
「は?」
「どうかしまして?」
「いやいやいや、『どうかしまして?』じゃないだろ。まだ一年だぞ?それなのにもう半分以上返済してるのか?」
「私からすれば遅すぎるぐらいですわ。本当は一年で完済するつもりでしたのに、戦争さえなければもう少し西方関係の商材で稼げたんですけど。」
書類の一番最初に書かれていたのは現在の総売上額。
その額金貨2765枚。
王都に流した品なんかは全てイザベラを経由して販売しているので決して彼女一人で稼いだ金ではないのだが、それでも一年でこれだけの金額を売り上げたってのは俺の想像をはるかに超えていた。
続いて書かれているのは大まかな売上額の内訳。
輸出品に始まり王都でやっている掃除道具のレンタル代なんかも事細かく記載されている。
うーむ、簡潔ではあるものの要点はしっかりと抑えた報告書。
俺にはまねのできない丁寧さだ。
「シロウ様拝見しても?」
「あぁ、確認してくれ。」
契約関係の内容にもなるのでミラにも確認してもらった方がいいだろう。
なんせ買い取った後にイザベラを一から教育したのはほかでもないミラだ。
あの時の鬼教官ぶりはなかなかのもので、エリザがビビっていたぐらいだからなぁ。
静かに書類に目を通すと、ミラは静かにイザベラの方をまっすぐに見つめる。
「シロウ様のためによく頑張りましたね。」
「お褒めにあずかり光栄です。ですが別にシロウ様のためではなく私の為ですの、そこは誤解しないでいただけると・・・。」
「イザベラさん。」
「・・・はい。」
まるで蛇に睨まれた蛙の如くあの高飛車なイザベラがミラの一声で静かになった。
あの短期間でこれだけ仕込めるとか、ミラを怒らせるのはやめた方がよさそうだ。
「まぁまぁ落ち着け。とりあえず現時点での返済額は確認した。残り約半分、早く終わればその時点で解放するから引き続き精進するように。ウィフさんも首を長くして待ってるんだろ?」
「ウィフは関係ありませんわ。」
「そういうことにしておいてやる。せっかく来たんだ、お互いに情報交換しながら次の金儲けのネタを探そうじゃないか。とりあえず西方関係と今の流行りについて教えてくれ。」
王都、それも貴族の中での流行りなんていう生の情報はここでしか手に入れられないからな。
それに西方関係の情報はこちらに流れてくるよりもより正確だろう。
予想通りもたらされた情報はかなりのもので、どれもここにいるだけでは手に入らないようなものばかりだった。
「戦端は開いたのか。」
「といっても何度か小競り合いがあった程度のようですわ。初回にディネストリファ様の炎に焼かれ、半数以上が死亡。それに恐れをなして逃げ出すと思いきや、今もにらみ合っているのだから驚きですわね。」
「そうか、ディーネが。」
「こちらにはガルグリンダム様もいるだけに負けはないでしょうけど、何のために攻め込んできているのかが正直わかっていませんの。土地が欲しいお金が欲しい、そういう感じではない気がしますわ。」
「一応宣戦布告してきたんだろ?」
「形式上って感じですわね。『自国の民を不当に虐げていることは許されない、即刻返還せよ。さもなくば実力行使で奪い返す』、奴隷制なんて何十年以上前から行われていましたし前王の時代には友好的ですらあった国がわずか一年で手のひらを返して刃を向けてくるなんておとぎ話にもありません。」
うーむ、聞けば聞くほど謎は深まるばかり。
ケイゴさんの弟はいったい何の目的で戦争を始めたんだろうか。
幸い最初にディーネが実力を見せて以降は散発的に戦いが起きている程度のようだが、戦争の影響は王都にも広がっているようだ。
食料が値上がりして娯楽品の販売が低迷、その分割安なちょっと贅沢な日用品が売れているんだとか。
うちと似たような流れではあるが、ここは戦地からだいぶん離れているのでそこまでの消費低迷は起きていない。
そんなこんなで今度は向こう流行りについてきいていたのだが、次に出てきたのは思いもしなかったものだった。
「薬草石鹸ねぇ、似たようなもん作ってるなぁ。」
「こちらでも石鹸が流行ってまして?」
「流行ってるってわけじゃないが知り合いに頼んで作ってもらっているところなんだ。ミラ、アロマに頼んで作らせたやつを持ってきてくれ。」
「かしこまりました、すぐにご用意します。」
スッと立ち上がりイザベラをチラッと見てからミラが応接室を出ていく。
書類の代わりに置かれているのは、鮮やかな緑色をした石鹸。
薬草が練りこまれているらしく肌荒れなんかに効果があるんだとか。
それなら化粧水でいいじゃないかとも思うんだが、薬用成分が違うんだと。
でもなぁ、この緑色はあまり映えないんだよなぁ。
においもあまりよろしくないし、使いたい!って感じにはならなさそうだ。
『薬草石鹸。薬効成分の高い薬草のみを使用した石鹸は、肌荒れや傷などにも効果がある。ただしにおいはあまり良くなく、また、傷口に触れるとかなりの痛みが出るので注意が必要。最近の平均取引価格は銀貨2枚。最安値銀貨1枚最高値銀貨4枚、最終取引日は本日と記録されています。』
ただの石鹸なのだが、薬草を使っているだけあってそれなりの高値で取引されている。
傷に効果があるのは事実なのだが、わざわざ石鹸にするあたりこれも戦地に薬系を出荷している余波なんだろうか。
話によれば貴族の中でお肌にいいって話が出てから流行りだしてるそうなのだが、それでも継続して使いたくなくなるこの仕上がりは物としてよくないだろう。
「お待たせしました。」
「助かった。こいつが今知り合いの調香師に作ってもらってるハーブ石鹸だ。南方の薬効成分もあるハーブを使ったやつで、香りもいいし効果もそれなりにある。化粧水成分を含んだ石鹸もあるんだがそっちはハーブじゃなくてパックに使っているのと同じ果物のエキスをふんだんに使っている。」
「これは・・・。」
薬草石鹸の横に置かれたのは一回り小さいカラフルな石鹸。
青、黄色、オレンジ、緑もあるが黄緑に近いような明るい感じの色になっている。
『ハーブ石鹸。南方のさわやかなハーブを配合した石鹸。薬効成分の高いハーブだけでなく製造に化粧水を用いているため、肌荒れや保湿にも効果がある。最近の平均取引履歴はありません。』
南方旅行の時に見つけたさわやかな香りのするハーブを何かに使えないかと悩んでいたところ、魔避け香を持ってきたアロマに話をしてみたらとんとん拍子で話が進み気づけば製品が仕上がっていた。
いや、マジでなんでこんなにスムーズに話が進むのかはよくわからなかったのだが、お互いに作りたいものとそれに使う材料が手元にあるのとでその日のうちに試作品ができていたもんなぁ。
元々この街で年明けから売り出すつもりで量産してもらっているのだが、正直この出来なら十分に向こうの石鹸に対抗できる。
同じような効能があってもこれだけ物が違うとなればどちらが売れるかは比べるまでもない。
「どうだ?」
「どうもこうもこちらのが勝てる要素がどこにもないんですが。」
「まぁそうだろうなぁ、っていうかそっちのもなんでこんな見た目なんだよ。もっとこうやりようがあっただろ?」
「今王都の貴族の間では健康志向が高まってますの。素材をそのまま生かした方が効果が高いとかなんとか、若干やりすぎなところも多くて困っているところなんです。」
「そりゃなんていうか、ご苦労さん。」
どの世界でも金持ちの健康志向は過激になるものなのか。
やれ無農薬だのやれ無添加だの、めんどくさい上にこだわりが強い。
結局効果があるかもわからない高いものに手を出して満足するんだもんなぁ。
俺も二回ほど高く売れるっていう健康食品に手を出して転売したが、あれはもう二度とごめんだ。
「おいくらですの?」
「こっちでは銀貨1枚で売り出すつもりだがこれなら向こうで銀貨2枚でも売れるだろう。とりあえず流行りが続いているうちに初回分を納品するから適当にばらまいてくれ。そっちの流行がこっちに流れてくるころにこっちの在庫を厚くするから、それまではイザベラ専売でやっていいぞ。」
「これでまた解放されるのが近づきますわね。」
「うれしいだろ?」
「えぇ、とても。」
ちなみに原価は銅貨50枚程。
輸送費を差し引いてもこっちで売るよりも向こうで転売した方が間違いなく利益が出る。
ある程度数が出たら落ち着くんだろうけど、そのころにはこっちで同じようなものが流行りだすのでそこで売れば在庫の問題は出ないはず。
材料は運んでくるだけでいいし製造方法はさほど難しくない。
輸送も木箱に隙間なくびっしり詰め込めるので数を運べるのが大きいよな。
向こうで売り出すのであればそれなりに見栄えする箱に入れてやると貴族なんかは喜んで買ってくれるだろう。
それこそ銀貨3枚でも売れるかもしれない。
四個セット銀貨10枚とかにすればお得感も出るし、普通に売るよりも利益が出るのでどちらにも利がある。
この間の果物といい砂糖といい、南方の品がこんなにも儲かるとは思っていなかった。
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