転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

文字の大きさ
上 下
1,083 / 1,415

1078.転売屋は瓶を買い付ける

しおりを挟む
「いやー、いい店で買い物ができた。フレイに聞いて正解だったな。」

「そんなことないですよ。いつも美味しい果物を置いているあの店がすごいんです。」

昨日尾羽を販売していた際にひと悶着あったのだが、色々な事情を踏まえ彼(フレイ)を雇うことにした。

契約内容は二つ、街に滞在している間は案内人として同行すること、それと自分の知っている店や商人を紹介すること。

明日の祭り当日は別行動をすることになるが、それ以外は今のように彼の知識と人脈を有効に活躍させてもらう。

その見返りとして彼の望む尾羽を提供しつつもうひとつの役割を果たす。

正直見返りの二つ目はおまけみたいなものなのだが、個人的に金を投げ捨てるようなやつに負けてほしくないんだよな。

なのでこれは完全に俺の私情なのだが彼にも利があるので何も言わず受け入れてもらった。

そして今、契約内容を遂行してもらっているのだがそれが思った以上の成果を生んでいる。

例えば今紹介してもらった果物屋だが、どれも非常に鮮度が良くさらには店主の知識もしっかりとしていて安心して買い物をすることができた。

事情を説明するとどの果物をジャムにするか相談に乗ってくれただけでなく、わざわざジャム用に使えそうな店頭に出せない分を格安で譲ってくれたぐらいだ。

今回仕入れたのはララライチとマルゴスティンの二つ。

どれも南方独特の味と香りが特徴で、生食だと傷みが早い為現地以外では見かけない果物。

そのせいもあって傷みかけの物を廃棄せずに提供できると店主も喜んでくれた。

しめて金貨2枚分。

今回はジャムに加工するためにそういったものを買い付けたが、今度は生食用に仕入れさせてもらうとしよう。

バーンと一緒なら傷む前に運びきることができる。

ほんとありがたい話だ。

「謙遜は美徳だがたまには素直に受け取ってもいいんだぞ。」

「僕なんかほんとまだまだで。むしろシロウ様みたいにすごい人と一緒に過ごせるだけで光栄です!」

「生憎と尊敬されるほどすごい人でもない、俺はただ金儲けがしたいだけの商人さ。」

これは謙遜でも何でもない、事実だ。

皆俺の事を凄いだのなんだのともてはやすが、結局は自分の金儲けがしたくて動き回っているだけに過ぎない。

この旅行も家族の為と言いながら半分はこういう仕入れを行うためだしな。

「でも名誉男爵になられたんですよね?」

「それもまぁ偶然みたいなもんだけどな。運も実力のうち、そういうことにしておいてくれ。そんじゃま、果物は宿に運んでもらうとしてあとは入れ物をどうにかしないとなぁ。予定ではこの街で作られているガラス細工の工房を訪ねることになっているんだが。」

「ガラス細工でしたらボトゥルさんの工房がいいですよ。ジャムの入れ物ってこのぐらいの大きさですか?」

そういいながらフレイは上下に10cmほどの隙間を両手で作る。

大型のはたくさんあるが、それだとかなりの量を入れないといけないので今回は小さいものを大量に作るつもりでいる。

作るときに煮沸消毒しやすく、封入後も大鍋で一気に湯煎できるしな。

湯煎するしないでジャムの長持ち具合が大きく変わるのでその辺は手を抜きたくない。

「そうだな、それぐらい小型のがあるとうれしい。他にも色々と入れたいものがあるから出来るだけ数を確保したいところだ。後はアクセサリーも一緒に買い付けたいんだが、こんな感じの小さくて丸いガラス細工が付いたやつ知ってるか?」

「そういうのはあまり詳しくなくて。でも、ボトゥルさんなら教えてくれると思います、いい人なので。」

「その辺の交渉は任せた。っと、そろそろアニエスさんが戻ってくる頃なんだが・・・。」

「お待たせいたしました。宿への配送手続きは完了、昼には持ち込んでいただけるようです。」

買い付けを行った後、荷運び業者をアニエスさんに手配してもらっていたんだが何とか話がついたようだ。

近場とはいえかなりの量だけに難色を示されるかと思ったが、こちらもフレイの紹介業者なので問題なく終わったらしい。

「ってことはそれまでに仕入れを行わないとだめって事か。」

「候補は見つかりましたか?」

「あぁ、ボトゥルさんって人が小さめの入れ物を作っているらしい。そこで一緒にアクセサリーについても聞く予定だ。フレイ、道案内を頼む。アニエスさんは周囲の警戒をよろしくな。」

「お任せを。」

「こっちです、ついてきてください。」

いくら平和な世の中とはいえ、俺達からしてみれば右も左もわからない危険な場所。

下手なところに入ってしまったら身ぐるみはがされないとも限らない。

もちろん彼がそんなことをするとは思っていないのだが、念のためにということで護衛としてアニエスさんについてきてもらった。

本当はウーラさんにもついてきてもらうつもりでいたのだが、今は別件で動いてもらっている。

今回の旅行はおよそ二週間。

戻る行程を考えると滞在日数は後四日しかない。

もちろんそれに合わせて色々と準備はしてきているし、スケジュールもある程度合わせてはいるのだがその通りに行かないのが人生ってもんだ。

事実まさかジャムづくりを自分たちですることになるとは思わなかったが、そのまま仕入れても無駄になるしドライフルーツにするとどうしても魅力が半減してしまう。

その点ジャムなら様々な購買層に売れる可能性があるし、なにより値段を下げずに売ることができる。

これも金儲けの為ってね。

フレイについていくこと10分程。

くねくねとした裏道を進むと、先程とは違い様々な音が響く地域に到着した。

「ここです、ちょっと声をかけてきます。」

「よろしく頼む。」

大きな扉の横には、ショットグラスのような紋章が描かれている。

どうやらここがボトゥルさんというガラス職人の工房のようだ。

西方ガラスに比べると細工などは少なめだが、その代わり大量生産しているので日用品として用いられているのだとか。

海酒も木の入れ物で飲むよりもガラスで飲んだ方が色もわかって美味しいからなぁ。

そういう見た目って結構大事だ。

「お待たせしました。」

「俺がボトゥルだ、なんでもフレイが世話になったらしいな。」

「むしろ世話してもらってるのはこっちの方だ。話は聞いていると思うがジャム用の瓶を200個ほど探しているんだが、それに合いそうなものはあるか?」

「小さいのでよかったらすぐに用意できる。大きさはこのぐらいでいいんだろ?」

「あぁ、問題ない。ちなみにほかの大きさの物も見てみたいんだが、サンプルはあるか?」

「それなら中に入ってくれ、現物を見てもらった方が早いだろ。」

中で事情を説明してくれたんだろう、話が早くて助かる。

フレイと一緒に出てきたボトゥルという職人の頭にはアニエスさんと同じ狼っぽい耳がついていた。

俺にはよくわからないが同族同士で何か感じるものがあるのか、一瞬だけだがアニエスさんと目を合わせていた。

念のためアニエスさんの方を振り向くと静かに頷く。

どうやら敵意は感じないらしい。

二人を追いかけて入った工房の中には大小さまざまが瓶が並べられており、その一つ一つに値札が付いていた。

細工は少ないがシンプルで使いやすそうなデザイン。

俺達の街だとそれなりの値段で売られていそうな物なのだが、実際に商品の横についている値札は俺の想像を大きく下回っていた。

「今回用意するのはこの瓶だ。で、それよりも大きいのがこっちで、細いが背は高くなるのがこれだな。」

「思ったよりも安いんだな。」

「うちのは実用重視だからな、細工仕事が苦手なもんでどうしてもこういうのばっかりになっちまう。その分値段は下げているから数を買ってもらえるのはありがたいんだが、どうだいいのはありそうか?」

「あぁ、最初のに加えてこの細長い奴をあるだけもらいたい。」

「さすがに全部となると高くつくぞ?」

「もちろんわかっているさ、だが全部買うついでに一つ頼みたいことがある。」

細い筒、いやどっちかっていうと筒よりも太めの試験管という方が正しいかもしれない。

太さは5cm長さは20cm程で上部がそのまま開いたようになっている。

一見すると製薬や調剤用に使うような機材に見えるが、俺には別の使い方しか思い浮かばなかった。

さっき果物を買い付けた時に見つけた小さな種。

弾力があり大きさはちょうどこの瓶と同じぐらいだのだが、なんでも使い道がないのでそのまま廃棄されているらしい。

それを組み合わせればいい感じの入れ物に生まれ変わるんじゃなかろうかと考えたんだ。

なんならその中にこの前みつけたグラススラグの欠片や貝殻を入れるといい感じで映えるんじゃないだろうか。

中身はもう街に送る手はずを整えてしまったので、せめて瓶だけでもすぐに使えるようにしてしまいたい。

ってことで事情を説明すると二つ返事で受け入れてくれた。

ジャム用の瓶が200個と欠片用の瓶が600本、どちらも一個銅貨20枚で販売してくれるそうなので加工賃も含めて全部で金貨2枚で購入。

思わぬ品を追加で買ってしまったが、後々のことを考えると結果オーライと言っていいだろう。

なんせ果物と合わせても昨日ぼったくった・・・じゃなかった、まとめ買いさせたぶんでお釣りが出る。

ジャムを銀貨1枚で売って、さらに欠片を銅貨50枚で売れば金貨5枚の儲け、やり方次第ではそれ以上も十分狙える。

と後は瓶を宿に送ってもらって、エリザ達にジャムの制作を任せておけば完璧だ。

昨日例の金投げ男が買っていった尾羽代と今日の買い物代が同じと考えれば、かなりの利益が出るのは間違いない。

いやー、笑いが止まりませんなぁ。

「そうだボトゥルさん、ガラス玉をつかったアクセサリーも探しているそうなんですけど、誰か知りませんか?」

「アクセサリーねぇ、それならもう一本中に入った所に工房があるからそこをのぞいてみるといい。俺の紹介っていえば話を聞いてくれるはずだ。個人を特定するのはちょいとあれだから、自分の目で確認してくれ。」

「わかった、そうさせてもらおう。」

瓶を買うだけですっかり忘れていたが、アクセサリーを買うって自分で言ってたな。

歌姫が着用していたかなんかで今かなり人気が出ている商品だけに、こっちをメインで仕入れてもいいぐらいだ。

果たしてどんな商品が眠っているのか。

果物に始まりまだまだ仕入れは終わりそうにない。

これもまたこの旅行の醍醐味・・・ってね
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

Age43の異世界生活…おじさんなのでほのぼの暮します

夏田スイカ
ファンタジー
異世界に転生した一方で、何故かおじさんのままだった主人公・沢村英司が、薬師となって様々な人助けをする物語です。 この説明をご覧になった読者の方は、是非一読お願いします。 ※更新スパンは週1~2話程度を予定しております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

処理中です...