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1020.転売屋はお互いの本音を語る
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「それじゃあ始めるか。」
「「よろしくお願いします。」」
通いなれた廃鉱山、その奥の奥にある一角が鼠人族の住処として代々引き継がれている。
さらに一番奥にある大きな部屋が族長室。
そこに、現族長であるミヌレさんと次期族長候補のマウジーそして俺の三人が静かに向かい合っていた。
今までにも何度もこうやって話し合ってきたのだが、今日は特に空気が重い。
まぁそれもそうか。
今までの一族としての在り方ががらりと変わってしまう可能性があるんだから。
とはいえいずれは話し合わなければならないことではある。
それが今回だったというだけの話だ。
「まず初めに、現状を改めて説明させてくれ。この廃鉱山から大山脈沿いに東へ一時間ほど進んだところにダンジョンの入り口が発見された。そこはどうやら北方の国と繋がっているようで、そこを通じて商人や冒険者が出入りするようになっている。幸いまだ出入りする人は少ないのと内部がかなり寒いこともありこちらへ来る可能性は非常に低いのだが、ダンジョンから出た後は道なき道を進んで街道に出るよりも、大山脈沿いにこちらへ向かいそこから街道に出るほうが正直安全なだけに状況次第ではここを通る人がかなり増えてくると考えられる。そうなれば必然的に廃鉱山に興味を持つ輩も出てくるので興味本位で中へ入ってくるやつも出てくるはずだ。もちろんここは俺の私有地だし中に貴重なものをたくさん置いているだけに勝手に出入りさせるつもりはないが、今までのように隠れ続けることができない可能性も出てきている。そうなったときのことを踏まえ、今回の話し合いを有意義なものにしていきたい。ここまではいいか?」
ひとまず復習を兼ねて現状を説明。
二人ともよく理解してくれているので、静かに頷いたのを確認してから俺は再び口を開く。
「ずばり、今回の議題は鼠人族の今後についてだ。これまで通りこの地に隠れて住み続けるのか、それとも表に出て新たな生活を構築するのか。この変化を作り出した張本人が言うのもなんだが、昔とは状況が違うのは二人共わかっているだろう。食料問題は解決し、生活に必要な道具なども充実している。正直何不自由なくここで暮らしていくことはできるだろう、少なくとも俺が生きている間は。だが、生活の安定は時として不自由も生み出す。その最たる例が、若者たちの外へのあこがれだ。レールの搬出に始まり、氷室の管理ケイブワームの育成や発熱素材の作成等色々な仕事を任せることによって、自尊心が満たされより新しい刺激を求めているのは間違いない。正直それを抑制し続けるのは無理だと思うんだが、マウジーそこはどう思う?」
「正直に言って今すぐにでも出たいと思っている奴は多いです。特に結婚適齢期の連中は男女問わずこのままこの地にとどまる事に大きな不満を持っています。このまま顔見知りの奴と結婚するのか、それとも新たな出会いを探すのか。なにより、ここで一生を終えることが納得できないって感じですね。」
「まぁそうなるよなぁ。今までならここで生きるしか選択肢はなかったわけだが、それとは違う選択肢を選べるだけの金と機会を俺は作ってしまった。それを使って新しい人生を歩んでみたいと思うのは至極当然なことなのだが、だがそれを望んでいない人もいる。ミヌレさん、そういった人たちはぶっちゃけどうしたいんだ?」
「まず誰もがシロウ様のおかげで食事や水に関して困る事がなくなった事に感謝しております。また、生きがいとなる仕事も与えてくださり生き生きと仕事に励んでいるのも事実です。しかしながら、外を知らずに私のように老いた者達にとって外の世界は非常に恐ろしいものなのです。もちろん状況が変わったのも理解していますが、不用意に外に出て結果として危険を持ち帰るのではないかそう考えている者もおります。なによりここにはシロウ様に献上する魔力水がありますから、その秘匿を漏らす者が出る事によりここを追い出されるのではないか、そう不安になっているのです。マウジー達のように若ければ外で生きていくこともできるでしょう。しかしながら力の無い私共にとってこの地は聖域であり全てなのです。そこを侵してほしくないと願いのは悪いことでしょうか。」
若者には若者の、年配者には年配者の考えと願いがある。
誰一人として同じ人は存在しない、だからこそ多種多様な考えが生まれそしてぶつかり合う。
特に刺激を求める若者と安定を求める年配者ではまるで水と油。
反発しあうのは当然だろう。
「確かにここには存在を隠している魔力水がある。もちろんここのみんなはその存在を知っているわけだが、誰かが口を滑らせてその秘密を漏らしてしまえばそれを狙った第三者がここを襲う可能性もあるし、なにより俺に多大な迷惑をかけるだろう。誰かに狙われている以上、入り口は開けたままに出来ないわけだし必然的に前以上に窮屈な生活を余儀なくされるはずだ。そうならないという保証はあるのか、マウジー。」
「残念ながら保証はできません。もちろん口外しないように重々理解させるつもりではいますが、絶対という言葉はありませんから。」
「ま、そりゃそうだ。現に俺だって何かの拍子で口を滑らせる可能性を持っているわけだしな。」
「別に外に出るといっても全員が王都や別の国に行きたいわけではありません。まずは自由に外と接する機会を増やし彼らの欲を満たしてやる、加えて我々が率先して外に出る事で鼠人族がこの場所にいると理解させればいいのです。ここはシロウ様の管理する廃鉱山で、我々がその管理を任されている。それをすることで不用意に入ろうとする連中をけん制することができます。」
「ですが我々は小さき者、大人数で押しかけられればひとたまりもありません。」
子供ぐらいの大きさしかない鼠人族は見た目だけでいえば弱そうに見える。
実際はブラックホーンを狩れるぐらいの実力を持っているわけだが、弱そうだからという理由でちょっかいを出すやつはいるかもしれないなぁ。
そういう意味でも不用意に外と接したくないと年配者を含めた否定派は思うんだろう。
とはいえマウジーの考えにも一理あるわけで。
たらればで話をするのは建設的ではないのだが、命がかかっているだけに楽観視できないのも事実だ。
「侵入者が不安なら入口に警備をつけるのはどうだ?中には金目のものも多数置いているし、前からそうするべきかと考えていたんだ。今はマウジー達にお願いをしているが常時誰かが立っているわけじゃない。今後物流が増えれば奥の倉庫を使う頻度も増えてくるだろうし、南北を行き来する商人がここで荷物を預けるなんてことも出てくるかもしれない。そうなれば必然的に入口には警備を置く必要が出てくるよな?」
「それを我々以外にさせるわけですね。」
「あくまでも警備だけだけどな。中を出入りできるのは鼠人族だけ、そうすることで不用意な接触を避けることができるだろうし、預かり品の盗難も防ぐことができる。魔力水の存在を秘匿にするためにも誰も入れないというのは大前提だ。」
「そんなにも上手くいくでしょうか。」
「あくまでも倉庫としての機能に特化するのであれば不可能ではない。それこそ、宿場を別の場所に作れば一般人はここを経由することはあっても滞在することはなくなるはずだ。作っても休憩所ぐらいじゃないか?」
利用者を減らせばリスクは減らせる。
だが、利用者が減れば外部との接触が減り外への欲は満たせなくなる。
ダンジョンに潜りたいと願うぐらいだし、もっと自分の可能性を試してみたいんだろうなぁ。
結局倉庫だけでは今まで通りなわけだし。
「休憩所があれば色々な人と話ができますね。」
「だな、その中には別の鼠人族もいるかもしれない。新しい出会いが生まれる可能性も出てくるわけだ。」
「正直このまま外に出なければ血が濃くなりすぎるんです。新しい血を入れる意味でも、外に出してやるべきではないでしょうか。」
「そのまま帰ってこなかったらどうする。」
「その時はその時です。今はもう昔とは違う、ボスという後ろ盾があるうちに古い考えを変えていくべきなんですよ。」
「古さは歴史、歴史は安定を得るために我々が積み上げてきたものだ。それを否定する気か?」
「否定はしませんけどそれを守る必要はなくなったのがなぜわからないんですか?」
「まぁまぁ落ち着け。」
ヒートアップする二人をなだめつつ、話し合いの着地点を模索する。
マウジー達若者は、外の世界でも生きていきたい。
ミヌレさん達年配者は、鉱山の安定した生活を維持したい。
どちらにも言えることは、俺という守護者がいて生活が豊かになったことから始まっているという事。
現状でもそれなりに満たされてはいるもののそれ以上のものを求めるか否か。
これに関してはどれだけ未来があるかによって考え方が変わるんだよなぁ。
ただ一つだけ言えるのはこのままでは一族に未来はないということ。
生活には支障はないかもしれないが、マウジーが言うように外からの血を入れなければいずれ限界が来るのは間違いない。
それならば新しい風が吹いている今こそ行動するべきではないだろうか。
もちろん今の生活も守りながらではあるのだが、ぶっちゃけそれはこの地の所有者である俺の仕事だ。
「お互いに譲れない部分があるのは当然だが、どちらにも言えるのは今の生活が維持されていることが前提ということだ。これに関しては俺が保証する。当初は魔力水を提供する限りという話だったがそれを変更したい。」
「変更、ですか。」
「魔力水の提供はもちろん継続してもらう。が、それ以外の仕事を手伝う限り今の待遇を約束しよう。もし仮に魔力水の秘匿がどこからか漏れ提供できなくなったとしてもほかの仕事を手伝ってくれるのであれば出ていく必要もないし食料も提供し続ける。加えて、そうならないための努力は俺がする。魔力水は俺の大事な収入源、加えて氷室も倉庫も発熱素材も今やなくてはならないものだ。それを守るのはここの所有者である俺の仕事、それが協力してくれている鼠人族への恩返しだと思っている。」
「そこまで思ってくださっているのは。」
「感謝の言葉もありません。」
ミヌレさんとマウジーが二人同時に頭を下げる。
とりあえず落ち着いてくれたようだ。
「でだ、それを保証したうえでマウジー達若者の要求も満たしてやりたい。その為にまずは入り口前に休憩所兼詰め所を設けて、そこで外の世界との接点を作ろうと思う。これを作ることで無理やり中に入れないようにすると同時に、ここを利用したい人たちと関係を持つことができる。ぶっちゃけダンジョンを使った交易が盛んになれば間違いなくここを経由することになる。さすがに宿泊させるわけにはいかないが、ここで準備を整えてから突入することになるだろう。ならばそのための道具や食料をここで売れば、儲かるんじゃないだろうか。」
「お店を開くんですか?」
「まぁ、そんな感じだ。もちろん店員も在庫も俺が手配するが、そういうことに興味があるのならやってもらっても構わない。利益が出ればそれだけ本人の実入りも増えるやりがいのある仕事だ。さらにはそれを運ぶ仕事や調理、なんならダンジョンへの護衛という仕事もできるかもしれない。ここでくすぶっているよりももっと外に出たいという彼らの欲は満たせるんじゃないだろうか。」
「そうですね、概ね満たせるかと。」
「ここの安全確保をしつつ若者の欲を満たし、さらには俺の懐も温かくなる。もちろん問題が出れば俺も一緒に考えよう。なに、いざとなれば貴族の地位を存分に乱用してやるさ。」
廃鉱山は今や俺の大事な場所。
そこをどうにかしようというのならば徹底的に戦ってやろうじゃないか。
ひとまず若者たちと年配者、お互いの本音を少しは吐き出せただろうか。
まだまだ確執はあるだろうが少しずつ歩み寄ることはできるだろう。
お互いに臨むことは一つ。
何事もなく生活できる事。
それをサポートするのもまた、所有者である俺の仕事。
問題はまだまだあるがまずは大きな一歩を踏み出すことができたのだった。
「「よろしくお願いします。」」
通いなれた廃鉱山、その奥の奥にある一角が鼠人族の住処として代々引き継がれている。
さらに一番奥にある大きな部屋が族長室。
そこに、現族長であるミヌレさんと次期族長候補のマウジーそして俺の三人が静かに向かい合っていた。
今までにも何度もこうやって話し合ってきたのだが、今日は特に空気が重い。
まぁそれもそうか。
今までの一族としての在り方ががらりと変わってしまう可能性があるんだから。
とはいえいずれは話し合わなければならないことではある。
それが今回だったというだけの話だ。
「まず初めに、現状を改めて説明させてくれ。この廃鉱山から大山脈沿いに東へ一時間ほど進んだところにダンジョンの入り口が発見された。そこはどうやら北方の国と繋がっているようで、そこを通じて商人や冒険者が出入りするようになっている。幸いまだ出入りする人は少ないのと内部がかなり寒いこともありこちらへ来る可能性は非常に低いのだが、ダンジョンから出た後は道なき道を進んで街道に出るよりも、大山脈沿いにこちらへ向かいそこから街道に出るほうが正直安全なだけに状況次第ではここを通る人がかなり増えてくると考えられる。そうなれば必然的に廃鉱山に興味を持つ輩も出てくるので興味本位で中へ入ってくるやつも出てくるはずだ。もちろんここは俺の私有地だし中に貴重なものをたくさん置いているだけに勝手に出入りさせるつもりはないが、今までのように隠れ続けることができない可能性も出てきている。そうなったときのことを踏まえ、今回の話し合いを有意義なものにしていきたい。ここまではいいか?」
ひとまず復習を兼ねて現状を説明。
二人ともよく理解してくれているので、静かに頷いたのを確認してから俺は再び口を開く。
「ずばり、今回の議題は鼠人族の今後についてだ。これまで通りこの地に隠れて住み続けるのか、それとも表に出て新たな生活を構築するのか。この変化を作り出した張本人が言うのもなんだが、昔とは状況が違うのは二人共わかっているだろう。食料問題は解決し、生活に必要な道具なども充実している。正直何不自由なくここで暮らしていくことはできるだろう、少なくとも俺が生きている間は。だが、生活の安定は時として不自由も生み出す。その最たる例が、若者たちの外へのあこがれだ。レールの搬出に始まり、氷室の管理ケイブワームの育成や発熱素材の作成等色々な仕事を任せることによって、自尊心が満たされより新しい刺激を求めているのは間違いない。正直それを抑制し続けるのは無理だと思うんだが、マウジーそこはどう思う?」
「正直に言って今すぐにでも出たいと思っている奴は多いです。特に結婚適齢期の連中は男女問わずこのままこの地にとどまる事に大きな不満を持っています。このまま顔見知りの奴と結婚するのか、それとも新たな出会いを探すのか。なにより、ここで一生を終えることが納得できないって感じですね。」
「まぁそうなるよなぁ。今までならここで生きるしか選択肢はなかったわけだが、それとは違う選択肢を選べるだけの金と機会を俺は作ってしまった。それを使って新しい人生を歩んでみたいと思うのは至極当然なことなのだが、だがそれを望んでいない人もいる。ミヌレさん、そういった人たちはぶっちゃけどうしたいんだ?」
「まず誰もがシロウ様のおかげで食事や水に関して困る事がなくなった事に感謝しております。また、生きがいとなる仕事も与えてくださり生き生きと仕事に励んでいるのも事実です。しかしながら、外を知らずに私のように老いた者達にとって外の世界は非常に恐ろしいものなのです。もちろん状況が変わったのも理解していますが、不用意に外に出て結果として危険を持ち帰るのではないかそう考えている者もおります。なによりここにはシロウ様に献上する魔力水がありますから、その秘匿を漏らす者が出る事によりここを追い出されるのではないか、そう不安になっているのです。マウジー達のように若ければ外で生きていくこともできるでしょう。しかしながら力の無い私共にとってこの地は聖域であり全てなのです。そこを侵してほしくないと願いのは悪いことでしょうか。」
若者には若者の、年配者には年配者の考えと願いがある。
誰一人として同じ人は存在しない、だからこそ多種多様な考えが生まれそしてぶつかり合う。
特に刺激を求める若者と安定を求める年配者ではまるで水と油。
反発しあうのは当然だろう。
「確かにここには存在を隠している魔力水がある。もちろんここのみんなはその存在を知っているわけだが、誰かが口を滑らせてその秘密を漏らしてしまえばそれを狙った第三者がここを襲う可能性もあるし、なにより俺に多大な迷惑をかけるだろう。誰かに狙われている以上、入り口は開けたままに出来ないわけだし必然的に前以上に窮屈な生活を余儀なくされるはずだ。そうならないという保証はあるのか、マウジー。」
「残念ながら保証はできません。もちろん口外しないように重々理解させるつもりではいますが、絶対という言葉はありませんから。」
「ま、そりゃそうだ。現に俺だって何かの拍子で口を滑らせる可能性を持っているわけだしな。」
「別に外に出るといっても全員が王都や別の国に行きたいわけではありません。まずは自由に外と接する機会を増やし彼らの欲を満たしてやる、加えて我々が率先して外に出る事で鼠人族がこの場所にいると理解させればいいのです。ここはシロウ様の管理する廃鉱山で、我々がその管理を任されている。それをすることで不用意に入ろうとする連中をけん制することができます。」
「ですが我々は小さき者、大人数で押しかけられればひとたまりもありません。」
子供ぐらいの大きさしかない鼠人族は見た目だけでいえば弱そうに見える。
実際はブラックホーンを狩れるぐらいの実力を持っているわけだが、弱そうだからという理由でちょっかいを出すやつはいるかもしれないなぁ。
そういう意味でも不用意に外と接したくないと年配者を含めた否定派は思うんだろう。
とはいえマウジーの考えにも一理あるわけで。
たらればで話をするのは建設的ではないのだが、命がかかっているだけに楽観視できないのも事実だ。
「侵入者が不安なら入口に警備をつけるのはどうだ?中には金目のものも多数置いているし、前からそうするべきかと考えていたんだ。今はマウジー達にお願いをしているが常時誰かが立っているわけじゃない。今後物流が増えれば奥の倉庫を使う頻度も増えてくるだろうし、南北を行き来する商人がここで荷物を預けるなんてことも出てくるかもしれない。そうなれば必然的に入口には警備を置く必要が出てくるよな?」
「それを我々以外にさせるわけですね。」
「あくまでも警備だけだけどな。中を出入りできるのは鼠人族だけ、そうすることで不用意な接触を避けることができるだろうし、預かり品の盗難も防ぐことができる。魔力水の存在を秘匿にするためにも誰も入れないというのは大前提だ。」
「そんなにも上手くいくでしょうか。」
「あくまでも倉庫としての機能に特化するのであれば不可能ではない。それこそ、宿場を別の場所に作れば一般人はここを経由することはあっても滞在することはなくなるはずだ。作っても休憩所ぐらいじゃないか?」
利用者を減らせばリスクは減らせる。
だが、利用者が減れば外部との接触が減り外への欲は満たせなくなる。
ダンジョンに潜りたいと願うぐらいだし、もっと自分の可能性を試してみたいんだろうなぁ。
結局倉庫だけでは今まで通りなわけだし。
「休憩所があれば色々な人と話ができますね。」
「だな、その中には別の鼠人族もいるかもしれない。新しい出会いが生まれる可能性も出てくるわけだ。」
「正直このまま外に出なければ血が濃くなりすぎるんです。新しい血を入れる意味でも、外に出してやるべきではないでしょうか。」
「そのまま帰ってこなかったらどうする。」
「その時はその時です。今はもう昔とは違う、ボスという後ろ盾があるうちに古い考えを変えていくべきなんですよ。」
「古さは歴史、歴史は安定を得るために我々が積み上げてきたものだ。それを否定する気か?」
「否定はしませんけどそれを守る必要はなくなったのがなぜわからないんですか?」
「まぁまぁ落ち着け。」
ヒートアップする二人をなだめつつ、話し合いの着地点を模索する。
マウジー達若者は、外の世界でも生きていきたい。
ミヌレさん達年配者は、鉱山の安定した生活を維持したい。
どちらにも言えることは、俺という守護者がいて生活が豊かになったことから始まっているという事。
現状でもそれなりに満たされてはいるもののそれ以上のものを求めるか否か。
これに関してはどれだけ未来があるかによって考え方が変わるんだよなぁ。
ただ一つだけ言えるのはこのままでは一族に未来はないということ。
生活には支障はないかもしれないが、マウジーが言うように外からの血を入れなければいずれ限界が来るのは間違いない。
それならば新しい風が吹いている今こそ行動するべきではないだろうか。
もちろん今の生活も守りながらではあるのだが、ぶっちゃけそれはこの地の所有者である俺の仕事だ。
「お互いに譲れない部分があるのは当然だが、どちらにも言えるのは今の生活が維持されていることが前提ということだ。これに関しては俺が保証する。当初は魔力水を提供する限りという話だったがそれを変更したい。」
「変更、ですか。」
「魔力水の提供はもちろん継続してもらう。が、それ以外の仕事を手伝う限り今の待遇を約束しよう。もし仮に魔力水の秘匿がどこからか漏れ提供できなくなったとしてもほかの仕事を手伝ってくれるのであれば出ていく必要もないし食料も提供し続ける。加えて、そうならないための努力は俺がする。魔力水は俺の大事な収入源、加えて氷室も倉庫も発熱素材も今やなくてはならないものだ。それを守るのはここの所有者である俺の仕事、それが協力してくれている鼠人族への恩返しだと思っている。」
「そこまで思ってくださっているのは。」
「感謝の言葉もありません。」
ミヌレさんとマウジーが二人同時に頭を下げる。
とりあえず落ち着いてくれたようだ。
「でだ、それを保証したうえでマウジー達若者の要求も満たしてやりたい。その為にまずは入り口前に休憩所兼詰め所を設けて、そこで外の世界との接点を作ろうと思う。これを作ることで無理やり中に入れないようにすると同時に、ここを利用したい人たちと関係を持つことができる。ぶっちゃけダンジョンを使った交易が盛んになれば間違いなくここを経由することになる。さすがに宿泊させるわけにはいかないが、ここで準備を整えてから突入することになるだろう。ならばそのための道具や食料をここで売れば、儲かるんじゃないだろうか。」
「お店を開くんですか?」
「まぁ、そんな感じだ。もちろん店員も在庫も俺が手配するが、そういうことに興味があるのならやってもらっても構わない。利益が出ればそれだけ本人の実入りも増えるやりがいのある仕事だ。さらにはそれを運ぶ仕事や調理、なんならダンジョンへの護衛という仕事もできるかもしれない。ここでくすぶっているよりももっと外に出たいという彼らの欲は満たせるんじゃないだろうか。」
「そうですね、概ね満たせるかと。」
「ここの安全確保をしつつ若者の欲を満たし、さらには俺の懐も温かくなる。もちろん問題が出れば俺も一緒に考えよう。なに、いざとなれば貴族の地位を存分に乱用してやるさ。」
廃鉱山は今や俺の大事な場所。
そこをどうにかしようというのならば徹底的に戦ってやろうじゃないか。
ひとまず若者たちと年配者、お互いの本音を少しは吐き出せただろうか。
まだまだ確執はあるだろうが少しずつ歩み寄ることはできるだろう。
お互いに臨むことは一つ。
何事もなく生活できる事。
それをサポートするのもまた、所有者である俺の仕事。
問題はまだまだあるがまずは大きな一歩を踏み出すことができたのだった。
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