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1019.転売屋はクマの毛皮を集める
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北の大山脈に新たに出来たダンジョンを調査しに行って五日。
昨夜調査隊を乗せた馬車が街に戻ってきた。
時間が時間だけに報告は翌日に持ち越されたが、戻ってきたエリザやウーラさんの消耗加減を見るにかなり大変な場所だったようだ。
あのエリザが出迎えの酒も飲まずに風呂に入ってそのまま寝てしまったぐらいだ。
ルカは久々にあった母親にべったりで構ってほしそうだが、ペチペチと顔をたたかれても一切起きる気配はない。
結局大泣きしたルカを回収して目覚めるのを待っていたのだが、まさか夕方まで寝ているとは思わなかったが。
「おはよ~。あー良く寝た。」
「もう夕方だけどな、少しは疲れ取れたか?」
「うん、ご飯食べたら復活できそう。」
「だってよ。ハワード、とびっきりのやつを焼いてやってくれ。」
「お任せください。」
エリザの為にとミラ達が用意したのは厚さ10cmはあろうかという漫画のような肉の塊。
冒険者に依頼して龍の巣から回収したドラゴンの肉だ。
巨大なフライパンで器用に焼き色を付けながら岩塩とペパペッパーで味付けしただけのシンプルな奴。
なんだかんだ言って肉はこういうのが一番うまいんだよなぁ。
なんて考えながらしばし豪快な食べっぷりを皆で鑑賞する。
「あー美味しかった!ご馳走様。」
「ほれぼれする食いっぷりだな。」
「ふふ~ん、でしょ?」
「ルカ君も食べたいって言ってますね。」
「お前はもうすぐ離乳食だから、まずはそこからな。」
エリザの腕の中に納まり自分もよこせと両腕を振り回すルカを宥めつつ、エリザがやっといつもの感じに戻った。
ダンジョンの深層に行ってもそこまで疲労することはないのだが、やはり初めてのダンジョンということもありかなりのプレッシャーがあったんだろう。
ルカを産んで初めての長期遠征だし、今までの自分とのギャップもあっただけに余計気を張っていたんだろうなぁ。
その証拠に一緒に参加したウーラさんは昼前には起きだして、さっきと同じ肉の塊を食べた後いつものようにダンジョンに潜っている。
タフっていうのはあぁいう人の事を言うんだろうな。
「エリザ様、ダンジョンはどんな感じでした?」
「もう寒いのなんのって。一日目で行ったことを後悔したわ。」
「発熱下着着けていったんだろ?」
「下着だけじゃなくて服も着て行ったけどあれはそういうので何とかなるレベルじゃないわね。下手に着込むと魔力を吸われちゃうし、もっと根本的に寒さから身を守るやつが無いと寒さに慣れてない人は耐えられないんじゃないかしら。」
ダンジョンは基本的に入り口のあった場所とは別の場所に存在しているっていう話だったはず。
にもかかわらず寒いというのは、そこが北の大山脈のおひざ元だから寒かったと考えるべきなのか、それとも偶然なのか。
どちらにせよエリザの話の7割は寒さによる問題ばかりで、魔物や内部構造そのものに大きな問題はないようだ。
「そんなに寒かったのか、大変だったな。」
「もう外に出た瞬間天国よ。初日入り口付近を探索しつつ何度も出入りをして寒さに体を馴染ませて、本格的な探索をしたのは二日目以降ね。それでもあまりの寒さに途中で切り上げて戻っては、また突入しての繰り返し。結局今回の調査では奥の方まで確認できなかったんだけど、北方からの移動経路は確認できたから準備さえできていれば何時でも行けると思うわよ。魔物って言ってもそんなに危険なのはいなかったし、下手に大山脈を踏破することを考えたら何百倍もマシじゃないかしら。」
「確かに上の方が危険な魔物は多そうだな、ワイバーンもかなりの数確認できたしバカでかい狼も見つけたぞ。」
「え、空から見えるぐらいの狼?そんなのいたかしら。」
あの鋭い視線は勘違いで感じるようなものではない。
見間違いではないと思うのだが、とはいえ確証はないしもう一度確認しに行けと言われても行きたくないので見間違えということにしておこう。
「では探索には今まで以上の防寒対策が必要ということですね。」
「うん。魔物の数は知れてるし、多少動きにくくてもいいからしっかり冷気を防いでくれる奴がいいわ。」
「となると外套かそれとも着る感じか。この間のウィンドブレーカー的なのじゃダメなんだろ?」
「風というか芯から冷えてくる感じなのよね。だから、外部の冷気を中に入れないような奴がうれしいかな。」
現地に行った生の声だけに出来るだけその意向は反映させてやりたいのだが、正直思いつくものがない。
現地では焔の石や日の魔道具を常用するなどして暖を取っていたらしいのだが、そのレベルの冷気を遮断するとなると余程の素材でないと太刀打ちできないのではないだろうか。
一緒に行ったキキなら何かいい素材を思いついているかもしれないが、残念ながらこの場にはいないので後でギルドへ確認しに行くとしよう。
「ウ、タダイマ。」
「お、ウーラさんお帰り・・・ってデカいな!」
「クマだ!」
「おっきぃ!」
エリザのお腹も落ち着いたのでさぁ聞きに行こうか、そんなタイミングで勝手口が開きウーラさんが巨大な熊を背負って戻ってきた。
身の丈2mはあるんじゃないだろうか、背負いながらも足は地面についているので完全に引きずってしまっている。
こんなのと遭遇したら間違いなく死を覚悟するな。
突然現れたクマにソラとジョンが大喜びで駆け寄り、手や顔を興味深そうにのぞき込んだりつついたりしている。
小さい子供たちは、なんていうかあまりの大きさに存在をうまく理解できないのかキョトンとした顔をしていた。
まぁ、怖いかどうかは感覚の問題だもんなぁ。
しっかしなんでまたこんなデカいのをわざわざ持ち帰ってきたんだろうか。
大変だっただろうに。
「これは今日の晩飯か?」
「アウノサルムサフニハウコノルクマフガワウガイルチフバウンルデフス。」
「寒いのには、これがいいそうです。」
「これって、この毛皮か?」
ソラの通訳でなんとなく持ち帰った意図が分かった気がする。
俺も近くに行きドスンと横たわったクマの死骸に手を伸ばす。
『ツンドラベア。ダンジョンの氷壁や付近や北方の山奥に生息する真っ白い熊の魔物。白っぽく見える毛は実は透明で、光が反射することで白く見え雪や氷に紛れて獲物を狩る。その毛皮は非常に保温性に優れまた断熱性能も高い為、北方では日常的に着用されている為需要が高い。最近の平均取引価格は銀貨30枚、最安値銀貨27枚、最高値銀貨44枚、最終取引日は本日と記録されています。』
なるほど、確かにこの毛皮ならどんな寒さにも耐えれそうな気がする。
毛の繊維は細かくそれでいて密度が高い。
それでいて皮は分厚く、押すと反発するぐらいだ。
恐らくは保温の為に皮下脂肪がしっかりとついているんだろう。
確かにこの大きさならエリザが言うように身体をすっぽりと覆うぐらいの毛皮が確保できるな。
「これを教えるためにわざわざ取りにいってくれたのか、ありがたい。」
「ニクもオイシイ。」
「へぇ、そりゃ楽しみだ。クマといえば少し生臭いイメージがあるんだがその辺はハワードの腕の見せ所か?」
「俺よりもドーラさんの方が適任ですよ。さっきから目をキラキラさせていますし、前に調理したことあるんじゃないですかね。」
ハワードの後ろに控えるドーラさんが、まるでアイドルに出会った乙女のように両手を胸の前で組んで目をキラキラと輝かせている。
あれはクマを持ち帰った旦那にときめいているんじゃない、獲物の方だ。
「ちなみにどうやって食べるんだ?」
「ウニコルンダフラヤウワラルカクフテトロトロウニツナフル、ウヤイルテモフイイ、ウテガルイチフバンウオイルシフイ。」
「とりあえずトロトロになるのはわかった。」
とりあえず食堂で解体されても困るので、ひとまず外に運んでもらってタープの下で慎重にバラしてもらう。
この世界に来てすぐの頃は目の前で解体されるのに若干気持ち悪さを感じていたんだが、それが当たり前になると寧ろ美味そうに見えてしまうから不思議なものだ。
毛皮をはがされた下から現れたのは分厚い脂肪と色鮮やかな肉の塊。
内臓を傷つけないようにろっ骨を外し、中身をタライに詰め込んでいく。
ダンジョンならそのまま吸収されるのだが、ここではそういうわけにもいかないのでカニバフラワーたちのご飯になってもらおう。
普段お目にかからないだけに喜ぶ姿が目に浮かぶ。
肉をばらす傍らエリザが器用に毛皮を広げていく。
流石にこのままでは着用出来ないので、これはブレラの所にもっていって処理してもらうとしよう。
しっかし見事なものだなぁ。
うつぶせて両手足を広げたような見た目は、映画や本でよく書かれていたのとまったく同じ。
これを飾る趣味はないのだが、確かに床に敷けばあったかいだろうなぁ。
タープの下とはいえまだまだ外気温は高く、そのうえこんな毛皮をバラしているもんだから全員汗だく。
あぁ、プールに入りたい。
「あっついなぁ。」
「寒いよりかはマシよ。」
「でも寒さは服を着れば何とかなるだろ?でも暑いときは脱ぐのにも限界がある。」
「でもシロウはそのほうが嬉しいんじゃない?」
「それとこれとは話が別だっての。まぁ、その通りだけどさ。」
着ぶくれした女たちよりも薄着で色々と見える女たちの方が見ていて何倍も楽しいのは事実だ。
『子供を産んだら嫁が母親にしか見えなくなった』とか元の世界では色々と聞いていたが、有難い事に全くそんなことはない。
いつ見ても女たちは綺麗だし、もちろんそれを維持する為に努力しているのを知っている。
もちろん自分の為だろうけど、その中に俺も含まれるのが誇らしいというか自慢できるというか。
まぁ、そんな話はいいとして。
問題はこの毛皮をどう扱うか。
ダンジョンを行くには毛皮がいる、でもそれをタダで貸すなんて事はしない。
これは商売だ、慈善事業じゃない。
ウーラさんは簡単に持って帰ってきたが実際同じ物を用意するとなるとかなりの危険と労力を要するだろう。
つまりそれに見合うだけの報酬を支払わなければならないわけで。
それを簡単にはいどうぞというわけにはいかないよなぁ。
「そうか、やっぱり数は手に入らないか。」
「氷壁の近くで冷凍作業して今の今まで遭遇しなかったレベルよ?そりゃあ場所を変えれば遭遇するかもしれないけど、それでも良くて10頭が限界じゃないかしら。」
「でも時間をかければもう少し集まるよな?」
「狩ろうと思う人がいればね。」
相場スキルから逆算して買取するとしたら銀貨30枚で高いぐらい。
出来れば銀貨25枚ぐらいに抑えたいが、わざわざリスクを冒して狩ってきた魔物がその金額にしかならないのならもっと安全に同じ金額を稼ぐことが可能なだけに、追加で毛皮を集められるかは未知数だ。
となると最初に集めた分を流用するしかないわけで。
「となるとしばらくは貸出で対応するしかないか。いつもならギルドに買い取ってもらうところだが、今後どうなるかわからないだけにギルドもそこまでお金を出してくれるかわからないしな。」
「いくらぐらいで行きますか?」
「一往復銀貨5枚。エリザの話じゃ魔物に追われる心配はなさそうだし、脱げば間違いなく凍えるだけに紛失するリスクはないと考えられる。一応六回で元は取れるし、もし北方との行き来が多くなればそのたびにお金が生まれる事になる。その間に数を増やせれば万々歳だ。」
「後はどこでそれを行うか、ですね。」
「なんなら同時に発熱素材の服や下着も提供して小銭を稼ぎたいところだが、そうなると場所は一つしかないわけで。」
北の大山脈に一番近くてそして交易路が出来上がっている場所。
本来ならそこには誰も近づけさせないほうがいいのだが、何の因果かそこが金を生み出すことになってしまいそうだ。
とはいえ持ち主とはいえそれを勝手に決めるわけにはいかないわけで。
マウジーの話もあったし、一回真剣に話し合う必要はあるだろう。
これも金儲けの為。
とはいえその為に犠牲にしてはいけない物があるぐらい、流石の俺も分かっているつもりだ。
昨夜調査隊を乗せた馬車が街に戻ってきた。
時間が時間だけに報告は翌日に持ち越されたが、戻ってきたエリザやウーラさんの消耗加減を見るにかなり大変な場所だったようだ。
あのエリザが出迎えの酒も飲まずに風呂に入ってそのまま寝てしまったぐらいだ。
ルカは久々にあった母親にべったりで構ってほしそうだが、ペチペチと顔をたたかれても一切起きる気配はない。
結局大泣きしたルカを回収して目覚めるのを待っていたのだが、まさか夕方まで寝ているとは思わなかったが。
「おはよ~。あー良く寝た。」
「もう夕方だけどな、少しは疲れ取れたか?」
「うん、ご飯食べたら復活できそう。」
「だってよ。ハワード、とびっきりのやつを焼いてやってくれ。」
「お任せください。」
エリザの為にとミラ達が用意したのは厚さ10cmはあろうかという漫画のような肉の塊。
冒険者に依頼して龍の巣から回収したドラゴンの肉だ。
巨大なフライパンで器用に焼き色を付けながら岩塩とペパペッパーで味付けしただけのシンプルな奴。
なんだかんだ言って肉はこういうのが一番うまいんだよなぁ。
なんて考えながらしばし豪快な食べっぷりを皆で鑑賞する。
「あー美味しかった!ご馳走様。」
「ほれぼれする食いっぷりだな。」
「ふふ~ん、でしょ?」
「ルカ君も食べたいって言ってますね。」
「お前はもうすぐ離乳食だから、まずはそこからな。」
エリザの腕の中に納まり自分もよこせと両腕を振り回すルカを宥めつつ、エリザがやっといつもの感じに戻った。
ダンジョンの深層に行ってもそこまで疲労することはないのだが、やはり初めてのダンジョンということもありかなりのプレッシャーがあったんだろう。
ルカを産んで初めての長期遠征だし、今までの自分とのギャップもあっただけに余計気を張っていたんだろうなぁ。
その証拠に一緒に参加したウーラさんは昼前には起きだして、さっきと同じ肉の塊を食べた後いつものようにダンジョンに潜っている。
タフっていうのはあぁいう人の事を言うんだろうな。
「エリザ様、ダンジョンはどんな感じでした?」
「もう寒いのなんのって。一日目で行ったことを後悔したわ。」
「発熱下着着けていったんだろ?」
「下着だけじゃなくて服も着て行ったけどあれはそういうので何とかなるレベルじゃないわね。下手に着込むと魔力を吸われちゃうし、もっと根本的に寒さから身を守るやつが無いと寒さに慣れてない人は耐えられないんじゃないかしら。」
ダンジョンは基本的に入り口のあった場所とは別の場所に存在しているっていう話だったはず。
にもかかわらず寒いというのは、そこが北の大山脈のおひざ元だから寒かったと考えるべきなのか、それとも偶然なのか。
どちらにせよエリザの話の7割は寒さによる問題ばかりで、魔物や内部構造そのものに大きな問題はないようだ。
「そんなに寒かったのか、大変だったな。」
「もう外に出た瞬間天国よ。初日入り口付近を探索しつつ何度も出入りをして寒さに体を馴染ませて、本格的な探索をしたのは二日目以降ね。それでもあまりの寒さに途中で切り上げて戻っては、また突入しての繰り返し。結局今回の調査では奥の方まで確認できなかったんだけど、北方からの移動経路は確認できたから準備さえできていれば何時でも行けると思うわよ。魔物って言ってもそんなに危険なのはいなかったし、下手に大山脈を踏破することを考えたら何百倍もマシじゃないかしら。」
「確かに上の方が危険な魔物は多そうだな、ワイバーンもかなりの数確認できたしバカでかい狼も見つけたぞ。」
「え、空から見えるぐらいの狼?そんなのいたかしら。」
あの鋭い視線は勘違いで感じるようなものではない。
見間違いではないと思うのだが、とはいえ確証はないしもう一度確認しに行けと言われても行きたくないので見間違えということにしておこう。
「では探索には今まで以上の防寒対策が必要ということですね。」
「うん。魔物の数は知れてるし、多少動きにくくてもいいからしっかり冷気を防いでくれる奴がいいわ。」
「となると外套かそれとも着る感じか。この間のウィンドブレーカー的なのじゃダメなんだろ?」
「風というか芯から冷えてくる感じなのよね。だから、外部の冷気を中に入れないような奴がうれしいかな。」
現地に行った生の声だけに出来るだけその意向は反映させてやりたいのだが、正直思いつくものがない。
現地では焔の石や日の魔道具を常用するなどして暖を取っていたらしいのだが、そのレベルの冷気を遮断するとなると余程の素材でないと太刀打ちできないのではないだろうか。
一緒に行ったキキなら何かいい素材を思いついているかもしれないが、残念ながらこの場にはいないので後でギルドへ確認しに行くとしよう。
「ウ、タダイマ。」
「お、ウーラさんお帰り・・・ってデカいな!」
「クマだ!」
「おっきぃ!」
エリザのお腹も落ち着いたのでさぁ聞きに行こうか、そんなタイミングで勝手口が開きウーラさんが巨大な熊を背負って戻ってきた。
身の丈2mはあるんじゃないだろうか、背負いながらも足は地面についているので完全に引きずってしまっている。
こんなのと遭遇したら間違いなく死を覚悟するな。
突然現れたクマにソラとジョンが大喜びで駆け寄り、手や顔を興味深そうにのぞき込んだりつついたりしている。
小さい子供たちは、なんていうかあまりの大きさに存在をうまく理解できないのかキョトンとした顔をしていた。
まぁ、怖いかどうかは感覚の問題だもんなぁ。
しっかしなんでまたこんなデカいのをわざわざ持ち帰ってきたんだろうか。
大変だっただろうに。
「これは今日の晩飯か?」
「アウノサルムサフニハウコノルクマフガワウガイルチフバウンルデフス。」
「寒いのには、これがいいそうです。」
「これって、この毛皮か?」
ソラの通訳でなんとなく持ち帰った意図が分かった気がする。
俺も近くに行きドスンと横たわったクマの死骸に手を伸ばす。
『ツンドラベア。ダンジョンの氷壁や付近や北方の山奥に生息する真っ白い熊の魔物。白っぽく見える毛は実は透明で、光が反射することで白く見え雪や氷に紛れて獲物を狩る。その毛皮は非常に保温性に優れまた断熱性能も高い為、北方では日常的に着用されている為需要が高い。最近の平均取引価格は銀貨30枚、最安値銀貨27枚、最高値銀貨44枚、最終取引日は本日と記録されています。』
なるほど、確かにこの毛皮ならどんな寒さにも耐えれそうな気がする。
毛の繊維は細かくそれでいて密度が高い。
それでいて皮は分厚く、押すと反発するぐらいだ。
恐らくは保温の為に皮下脂肪がしっかりとついているんだろう。
確かにこの大きさならエリザが言うように身体をすっぽりと覆うぐらいの毛皮が確保できるな。
「これを教えるためにわざわざ取りにいってくれたのか、ありがたい。」
「ニクもオイシイ。」
「へぇ、そりゃ楽しみだ。クマといえば少し生臭いイメージがあるんだがその辺はハワードの腕の見せ所か?」
「俺よりもドーラさんの方が適任ですよ。さっきから目をキラキラさせていますし、前に調理したことあるんじゃないですかね。」
ハワードの後ろに控えるドーラさんが、まるでアイドルに出会った乙女のように両手を胸の前で組んで目をキラキラと輝かせている。
あれはクマを持ち帰った旦那にときめいているんじゃない、獲物の方だ。
「ちなみにどうやって食べるんだ?」
「ウニコルンダフラヤウワラルカクフテトロトロウニツナフル、ウヤイルテモフイイ、ウテガルイチフバンウオイルシフイ。」
「とりあえずトロトロになるのはわかった。」
とりあえず食堂で解体されても困るので、ひとまず外に運んでもらってタープの下で慎重にバラしてもらう。
この世界に来てすぐの頃は目の前で解体されるのに若干気持ち悪さを感じていたんだが、それが当たり前になると寧ろ美味そうに見えてしまうから不思議なものだ。
毛皮をはがされた下から現れたのは分厚い脂肪と色鮮やかな肉の塊。
内臓を傷つけないようにろっ骨を外し、中身をタライに詰め込んでいく。
ダンジョンならそのまま吸収されるのだが、ここではそういうわけにもいかないのでカニバフラワーたちのご飯になってもらおう。
普段お目にかからないだけに喜ぶ姿が目に浮かぶ。
肉をばらす傍らエリザが器用に毛皮を広げていく。
流石にこのままでは着用出来ないので、これはブレラの所にもっていって処理してもらうとしよう。
しっかし見事なものだなぁ。
うつぶせて両手足を広げたような見た目は、映画や本でよく書かれていたのとまったく同じ。
これを飾る趣味はないのだが、確かに床に敷けばあったかいだろうなぁ。
タープの下とはいえまだまだ外気温は高く、そのうえこんな毛皮をバラしているもんだから全員汗だく。
あぁ、プールに入りたい。
「あっついなぁ。」
「寒いよりかはマシよ。」
「でも寒さは服を着れば何とかなるだろ?でも暑いときは脱ぐのにも限界がある。」
「でもシロウはそのほうが嬉しいんじゃない?」
「それとこれとは話が別だっての。まぁ、その通りだけどさ。」
着ぶくれした女たちよりも薄着で色々と見える女たちの方が見ていて何倍も楽しいのは事実だ。
『子供を産んだら嫁が母親にしか見えなくなった』とか元の世界では色々と聞いていたが、有難い事に全くそんなことはない。
いつ見ても女たちは綺麗だし、もちろんそれを維持する為に努力しているのを知っている。
もちろん自分の為だろうけど、その中に俺も含まれるのが誇らしいというか自慢できるというか。
まぁ、そんな話はいいとして。
問題はこの毛皮をどう扱うか。
ダンジョンを行くには毛皮がいる、でもそれをタダで貸すなんて事はしない。
これは商売だ、慈善事業じゃない。
ウーラさんは簡単に持って帰ってきたが実際同じ物を用意するとなるとかなりの危険と労力を要するだろう。
つまりそれに見合うだけの報酬を支払わなければならないわけで。
それを簡単にはいどうぞというわけにはいかないよなぁ。
「そうか、やっぱり数は手に入らないか。」
「氷壁の近くで冷凍作業して今の今まで遭遇しなかったレベルよ?そりゃあ場所を変えれば遭遇するかもしれないけど、それでも良くて10頭が限界じゃないかしら。」
「でも時間をかければもう少し集まるよな?」
「狩ろうと思う人がいればね。」
相場スキルから逆算して買取するとしたら銀貨30枚で高いぐらい。
出来れば銀貨25枚ぐらいに抑えたいが、わざわざリスクを冒して狩ってきた魔物がその金額にしかならないのならもっと安全に同じ金額を稼ぐことが可能なだけに、追加で毛皮を集められるかは未知数だ。
となると最初に集めた分を流用するしかないわけで。
「となるとしばらくは貸出で対応するしかないか。いつもならギルドに買い取ってもらうところだが、今後どうなるかわからないだけにギルドもそこまでお金を出してくれるかわからないしな。」
「いくらぐらいで行きますか?」
「一往復銀貨5枚。エリザの話じゃ魔物に追われる心配はなさそうだし、脱げば間違いなく凍えるだけに紛失するリスクはないと考えられる。一応六回で元は取れるし、もし北方との行き来が多くなればそのたびにお金が生まれる事になる。その間に数を増やせれば万々歳だ。」
「後はどこでそれを行うか、ですね。」
「なんなら同時に発熱素材の服や下着も提供して小銭を稼ぎたいところだが、そうなると場所は一つしかないわけで。」
北の大山脈に一番近くてそして交易路が出来上がっている場所。
本来ならそこには誰も近づけさせないほうがいいのだが、何の因果かそこが金を生み出すことになってしまいそうだ。
とはいえ持ち主とはいえそれを勝手に決めるわけにはいかないわけで。
マウジーの話もあったし、一回真剣に話し合う必要はあるだろう。
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