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1016.転売屋はよくない噂を聞く
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「シロウ様、少しお時間よろしいでしょうか。」
「どうしたセーラさん、そんなに改まって。」
「少々よろしくない情報が入ってきまして。」
「よろしくない?」
20月に入り、夏の総決算よろしくいつもより多めの報告書と格闘していた時だった。
普段ならもう少し明るい口調で部屋に入ってくるセーラさんなのだが、今日は何というか重苦しい感じの雰囲気をまとっている。
そのただならぬ気配にサインをする手を止め、そのよろしくない情報というものを受け入れる準備をする。
その時だった、再び扉が開き今度はラフィムさんが執務室に入ってくる。
同じ顔で向き合って、お互いにニコリと微笑みあった。
「お待たせしました、ケイゴ様ハルカ様の到着です。」
「ラフィムさん?まさか朝から姿が見えなかったのは二人を呼びに行っていたのか。」
「何も言わず申し訳ありません、どうしてもお二人の意見が必要でして呼びに行っておりました。」
「別にそれはいいんだが、呼びにいかないといけないぐらいの内容なのか。」
「残念ながら。」
夏も終わりもうすぐ実りの秋がやってくるというのに、面倒ごとは勘弁してほしいんだけどなぁ。
ひとまず執務室を出てすぐ隣の応接室へ。
席に着くとほぼ同時に二人がグレイスと共に入ってきた。
「二人共、遠いところ呼び出してすまない。」
「いや、西方国の問題となれば私たちが呼ばれて当然だろう。」
「まさかこんなに早く動き出すとは思っていませんでしたけど、私たちに出来る事でしたらなんでもおっしゃってください。」
よくわからないが二人の反応から察するに西方国がらみの問題のようだ。
しかも元国王を呼び出さないといけないレベルの案件。
ひとまず向かい合うように座ってもらうと、いつの間に同化したのかセラフィムさんが俺たちに向かって恭しく頭を下げた。
「お忙しい中お呼び立てして申し訳ありません。改めまして、こちらにお呼びした経緯をご説明させていただきます。」
涼やかなセラフィムさんの口から語られる内容は、それとは正反対のひどく重苦しいものだった。
俺に伝える前に然るべき所に報告するべきだとも思ったのだが、この人がそれを怠るはずがない。
すべて終わらせたうえで最後の報告をしてくれているのだろう。
「・・・現在わかっている情報は以上です。」
「マジか。」
「ナベルナ様からも同様の情報を得ています、間違いないと判断して言いでしょう。」
ナベルナさん通称ナベさんとは、デビットの情報を買ってからの付き合いだ。
あちらこちらに出入りする情報屋だが、あの後も色々と情報を買わせてもらっている。
やはりというかやっぱりというか、セラフィムさんとも顔見知りだったようだ。
「まず先に謝らせてほしい、うちの馬鹿が本当に申し訳ないことをやらかしそうだ。」
「いやいやケイゴさんが謝ることじゃないし、というか俺に謝っても意味ないし。それよりも今はどう対処するかってほうが重要だろう。西方国がこの国に宣戦布告する、それが本当なら今から準備しておかないと大変なことになるぞ。」
「幸いこの地が戦地になる可能性は限りなくゼロに近いでしょう。しかしながら物資の高騰や冒険者の徴収等それに伴う余波がどのぐらいか計り知れません。」
この地が戦争に巻き込まれることはない。
妻や子供を持つ身としては不謹慎ながら非常にうれしいことだが、それに伴って別の問題が出てくるのは間違いない。
さっきセラフィムさんが言ったように物資の高騰や労働力ならびに戦力の徴収は必至。
ただでさえ冒険者が少なくなって大変なことになったのに、さらに人が減るなんてことになれば日常生活に制約が出てくるのは間違いない。
「最初に聞いたときは耳を疑いましたが、彼の性格を考えると何か策があってのことなのでしょう。西方国の封鎖もその一環、ただ閉じこもるのではなく相手の国を脅かそうなんて、いったい何を目指しているのでしょうか。」
「目指すことは一つしかない、西方国の成長と領土の拡大。国民の生活を豊かにするために必要な手段だとあいつが判断しただけだ。それによってどれだけ多くの血が流れるか、魔物との戦いならまだしも人同士の争いで無用な血が流れるなどあるまじき事だ。」
「盗賊ならともかく戦争でなければ争うことがない相手だもんなぁ。」
「早くも情報を得た諸侯や貴族が武具を買い集め始めているという話も聞かれます、しばらくすればこの街にも同様の問い合わせが入ってくることでしょう。マートン様からすれば実入りのいい話ですが、市場に出回る武具が減るのは冒険者にとって痛手。それは結果としてシロウ様の損失につながります。」
「それを回避するためにどうするかって事だな。」
そう聞くとセラフィムさんは静かに頷いた。
戦争に直接関係なくても、その余波は間違いなくこの街に襲い掛かる。
争うにはまず武器、そして兵站が必要だ。
わざわざ食糧が増える秋を待つことはないだろうから、それよりも早く仕掛けてくる可能性が高い。
そうなる前にせめて自分達の食い扶持ぐらいは確保しておかなければ。
この冬は寒くなるって話もあるのに、倉庫がいくらあっても足りやしない。
「西方国は自給自足が可能な国、食糧不足になることはまずないだろう。武具に関しても自国で生産しているし、鉱石も十分に算出できる。不足するものがあるとすれば魔石ぐらいなものか。」
「魔石は出ないのか?」
「出ないわけではありませんが魔石鉱山がありませんので、基本は魔物から回収するよりありません。もっとも魔石がなくても生活できるようになっていますので微々たる問題だとは思いますが。」
「心配するべきは自分達の方ってことか。食料はまぁ何とかなるかもしれないが、武具に関しては国中で製造しているものの輸送するのに時間がかかる。国土が広いっていうのも考え物だよなぁ。」
「再生産を考えれば既存の武器を集めるのが一番手っ取り早い。同じく食糧も一気に買い付けると考えるべきだ。」
「だな、まずはそうなるよりも先に麦を確保。ついで、冒険者用の武器も事前に買い付けておこう。」
本来こういう仕事は町長であるローランド様がすることだ。
もちろん情報はいっているだろうから今頃羊男が大慌てで同じことをしているに違いない。
ならなぜ俺たちが同じことを考えているのか。
理由は一つしかないだろう。
「マートン様との交渉はシロウ様にお任せします。購入後倉庫の武器は問い合わせがあるまでお売りにならないようお願いします。」
「了解した。」
「食料はどうする、そっちの倉庫にも限界はあるだろう。」
「アイルさんにお願いして空き倉庫を貸してもらえるか聞いてもらえるか?あくまでも個人的な備蓄としておけば問題はないはずだ。残りは廃鉱山に押し込んでおけば何とかなる。」
「わかった、そっちの交渉は任されよう。」
「戦争が始まれば高騰してから販売、そうでなければ備蓄として放出。どちらにせよ俺が損をしなければ問題ない。せっかく貯めた金だ、たまには使ってやらないとな。」
戦争は金になる。
こんな言い方をすると悪徳商人のようだが、本当にそうなのだから致し方ない。
もちろん半分は自分たちの生活が困らないようにするためだが、残りの半分は転売して利益を出すための買い付けだ。
普段は買い占めなどしない主義なのだがこういう状況になるとそうもいっていられない。
とはいえ、自国で買い付けるといろいろと問題が出てきてしまうので南方の方に手を伸ばして確保してもらうつもりだ。
またジャニスさんの手を借りる形になるが、この間の補強材の貸しもあるし向こうの懐も温かくなる。
断る理由はないだろう。
あまり情報を拡散したくないので、その辺はくぎを刺しておくつもりだ。
「お酒はどうしますか?こちらの皆さんはお酒好きですし、高騰して量が仕入れられないとなると士気にかかわるのでは?」
「こちらも備蓄しておくべきでしょう。感謝祭があることを考えれば、値上がり前に仕入れておくべきです。」
「ならそれはマスターと交渉してからだな。どうせ情報は行っているだろうし、向こうの買い付けに便乗する形で量を確保しつつ値段を下げる。あとは考えられるだけの素材を改めてチェックか。」
「武器や防具、それと防衛用に流用できる素材は高くなりそうだな。」
「ケイゴさんには悪いが西方国がどの辺に攻め込みそうか教えてもらいつつ、そこで不足するであろう素材を確保。あとはダンジョン内で武具用の素材を調達って感じか。」
金になるネタは山ほどある。
だが、そのすべてに手を出すことはできないので取捨選択しつつ必要な素材を買い付ける。
それを見極めるには情報が必要だ。
20月にもなれば夏がもうすぐ終わり実りの秋がやってくる。
だが、今回はいつものようにわくわくした秋を迎えられそうにない。
出来る事ならば何もないのがいいんだが、今になってディーネが向こうに行った理由がわかった気がする。
あれは間違いなくガルグリンダム様を助けに行ったんだろう。
戦争ともなれば国を守護する古龍として色々と忙しくなる。
エドワード陛下の身にも危険が及ぶ可能性もあるだけに、それを守ってほしいとか言われたのかもなぁ。
はぁ、いやだいやだ。
何事も平和が一番なんだけどなぁ。
「どうしたセーラさん、そんなに改まって。」
「少々よろしくない情報が入ってきまして。」
「よろしくない?」
20月に入り、夏の総決算よろしくいつもより多めの報告書と格闘していた時だった。
普段ならもう少し明るい口調で部屋に入ってくるセーラさんなのだが、今日は何というか重苦しい感じの雰囲気をまとっている。
そのただならぬ気配にサインをする手を止め、そのよろしくない情報というものを受け入れる準備をする。
その時だった、再び扉が開き今度はラフィムさんが執務室に入ってくる。
同じ顔で向き合って、お互いにニコリと微笑みあった。
「お待たせしました、ケイゴ様ハルカ様の到着です。」
「ラフィムさん?まさか朝から姿が見えなかったのは二人を呼びに行っていたのか。」
「何も言わず申し訳ありません、どうしてもお二人の意見が必要でして呼びに行っておりました。」
「別にそれはいいんだが、呼びにいかないといけないぐらいの内容なのか。」
「残念ながら。」
夏も終わりもうすぐ実りの秋がやってくるというのに、面倒ごとは勘弁してほしいんだけどなぁ。
ひとまず執務室を出てすぐ隣の応接室へ。
席に着くとほぼ同時に二人がグレイスと共に入ってきた。
「二人共、遠いところ呼び出してすまない。」
「いや、西方国の問題となれば私たちが呼ばれて当然だろう。」
「まさかこんなに早く動き出すとは思っていませんでしたけど、私たちに出来る事でしたらなんでもおっしゃってください。」
よくわからないが二人の反応から察するに西方国がらみの問題のようだ。
しかも元国王を呼び出さないといけないレベルの案件。
ひとまず向かい合うように座ってもらうと、いつの間に同化したのかセラフィムさんが俺たちに向かって恭しく頭を下げた。
「お忙しい中お呼び立てして申し訳ありません。改めまして、こちらにお呼びした経緯をご説明させていただきます。」
涼やかなセラフィムさんの口から語られる内容は、それとは正反対のひどく重苦しいものだった。
俺に伝える前に然るべき所に報告するべきだとも思ったのだが、この人がそれを怠るはずがない。
すべて終わらせたうえで最後の報告をしてくれているのだろう。
「・・・現在わかっている情報は以上です。」
「マジか。」
「ナベルナ様からも同様の情報を得ています、間違いないと判断して言いでしょう。」
ナベルナさん通称ナベさんとは、デビットの情報を買ってからの付き合いだ。
あちらこちらに出入りする情報屋だが、あの後も色々と情報を買わせてもらっている。
やはりというかやっぱりというか、セラフィムさんとも顔見知りだったようだ。
「まず先に謝らせてほしい、うちの馬鹿が本当に申し訳ないことをやらかしそうだ。」
「いやいやケイゴさんが謝ることじゃないし、というか俺に謝っても意味ないし。それよりも今はどう対処するかってほうが重要だろう。西方国がこの国に宣戦布告する、それが本当なら今から準備しておかないと大変なことになるぞ。」
「幸いこの地が戦地になる可能性は限りなくゼロに近いでしょう。しかしながら物資の高騰や冒険者の徴収等それに伴う余波がどのぐらいか計り知れません。」
この地が戦争に巻き込まれることはない。
妻や子供を持つ身としては不謹慎ながら非常にうれしいことだが、それに伴って別の問題が出てくるのは間違いない。
さっきセラフィムさんが言ったように物資の高騰や労働力ならびに戦力の徴収は必至。
ただでさえ冒険者が少なくなって大変なことになったのに、さらに人が減るなんてことになれば日常生活に制約が出てくるのは間違いない。
「最初に聞いたときは耳を疑いましたが、彼の性格を考えると何か策があってのことなのでしょう。西方国の封鎖もその一環、ただ閉じこもるのではなく相手の国を脅かそうなんて、いったい何を目指しているのでしょうか。」
「目指すことは一つしかない、西方国の成長と領土の拡大。国民の生活を豊かにするために必要な手段だとあいつが判断しただけだ。それによってどれだけ多くの血が流れるか、魔物との戦いならまだしも人同士の争いで無用な血が流れるなどあるまじき事だ。」
「盗賊ならともかく戦争でなければ争うことがない相手だもんなぁ。」
「早くも情報を得た諸侯や貴族が武具を買い集め始めているという話も聞かれます、しばらくすればこの街にも同様の問い合わせが入ってくることでしょう。マートン様からすれば実入りのいい話ですが、市場に出回る武具が減るのは冒険者にとって痛手。それは結果としてシロウ様の損失につながります。」
「それを回避するためにどうするかって事だな。」
そう聞くとセラフィムさんは静かに頷いた。
戦争に直接関係なくても、その余波は間違いなくこの街に襲い掛かる。
争うにはまず武器、そして兵站が必要だ。
わざわざ食糧が増える秋を待つことはないだろうから、それよりも早く仕掛けてくる可能性が高い。
そうなる前にせめて自分達の食い扶持ぐらいは確保しておかなければ。
この冬は寒くなるって話もあるのに、倉庫がいくらあっても足りやしない。
「西方国は自給自足が可能な国、食糧不足になることはまずないだろう。武具に関しても自国で生産しているし、鉱石も十分に算出できる。不足するものがあるとすれば魔石ぐらいなものか。」
「魔石は出ないのか?」
「出ないわけではありませんが魔石鉱山がありませんので、基本は魔物から回収するよりありません。もっとも魔石がなくても生活できるようになっていますので微々たる問題だとは思いますが。」
「心配するべきは自分達の方ってことか。食料はまぁ何とかなるかもしれないが、武具に関しては国中で製造しているものの輸送するのに時間がかかる。国土が広いっていうのも考え物だよなぁ。」
「再生産を考えれば既存の武器を集めるのが一番手っ取り早い。同じく食糧も一気に買い付けると考えるべきだ。」
「だな、まずはそうなるよりも先に麦を確保。ついで、冒険者用の武器も事前に買い付けておこう。」
本来こういう仕事は町長であるローランド様がすることだ。
もちろん情報はいっているだろうから今頃羊男が大慌てで同じことをしているに違いない。
ならなぜ俺たちが同じことを考えているのか。
理由は一つしかないだろう。
「マートン様との交渉はシロウ様にお任せします。購入後倉庫の武器は問い合わせがあるまでお売りにならないようお願いします。」
「了解した。」
「食料はどうする、そっちの倉庫にも限界はあるだろう。」
「アイルさんにお願いして空き倉庫を貸してもらえるか聞いてもらえるか?あくまでも個人的な備蓄としておけば問題はないはずだ。残りは廃鉱山に押し込んでおけば何とかなる。」
「わかった、そっちの交渉は任されよう。」
「戦争が始まれば高騰してから販売、そうでなければ備蓄として放出。どちらにせよ俺が損をしなければ問題ない。せっかく貯めた金だ、たまには使ってやらないとな。」
戦争は金になる。
こんな言い方をすると悪徳商人のようだが、本当にそうなのだから致し方ない。
もちろん半分は自分たちの生活が困らないようにするためだが、残りの半分は転売して利益を出すための買い付けだ。
普段は買い占めなどしない主義なのだがこういう状況になるとそうもいっていられない。
とはいえ、自国で買い付けるといろいろと問題が出てきてしまうので南方の方に手を伸ばして確保してもらうつもりだ。
またジャニスさんの手を借りる形になるが、この間の補強材の貸しもあるし向こうの懐も温かくなる。
断る理由はないだろう。
あまり情報を拡散したくないので、その辺はくぎを刺しておくつもりだ。
「お酒はどうしますか?こちらの皆さんはお酒好きですし、高騰して量が仕入れられないとなると士気にかかわるのでは?」
「こちらも備蓄しておくべきでしょう。感謝祭があることを考えれば、値上がり前に仕入れておくべきです。」
「ならそれはマスターと交渉してからだな。どうせ情報は行っているだろうし、向こうの買い付けに便乗する形で量を確保しつつ値段を下げる。あとは考えられるだけの素材を改めてチェックか。」
「武器や防具、それと防衛用に流用できる素材は高くなりそうだな。」
「ケイゴさんには悪いが西方国がどの辺に攻め込みそうか教えてもらいつつ、そこで不足するであろう素材を確保。あとはダンジョン内で武具用の素材を調達って感じか。」
金になるネタは山ほどある。
だが、そのすべてに手を出すことはできないので取捨選択しつつ必要な素材を買い付ける。
それを見極めるには情報が必要だ。
20月にもなれば夏がもうすぐ終わり実りの秋がやってくる。
だが、今回はいつものようにわくわくした秋を迎えられそうにない。
出来る事ならば何もないのがいいんだが、今になってディーネが向こうに行った理由がわかった気がする。
あれは間違いなくガルグリンダム様を助けに行ったんだろう。
戦争ともなれば国を守護する古龍として色々と忙しくなる。
エドワード陛下の身にも危険が及ぶ可能性もあるだけに、それを守ってほしいとか言われたのかもなぁ。
はぁ、いやだいやだ。
何事も平和が一番なんだけどなぁ。
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