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1005.転売屋は鰻を食す
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少しずつだがダンジョンに冒険者が戻りつつある。
まだまだ品薄の状況は続いているが、最低限の需要は満たせるぐらいに冒険者が依頼をこなしてくれるようになってきた。
もちろんこの間の怨霊騒動を完全に克服したわけではないのだが、彼らも生きていくためにはダンジョンに潜るしかないわけで。
この街はそんな冒険者達によって成り立っていると改めて気づかされた事件だった。
「やれやれ、なんとかなったな。」
「ほんとアニエスさんやウーラさん、ケイゴさんご夫婦がいなかったらどうなっていたか。」
「おいおい、俺やエリザの頑張りは無駄だったってのか?」
「そういうわけじゃないけど、ダンジョンの奥で戦い続けられる人って限られているじゃない?エリザも実力はあるけどルカ君がある程度大きくなるまではムチャさせられないし、とりあえず実力者の確保が当面の問題ね。」
「その辺は地道に育てていくしかないんだろうなぁ。」
「手っ取り早いのは装備の拡充だけど、それを満たすのも結局はお金なのよね。」
ダンジョンの休憩所に設けられた臨時の冒険者ギルド出張所。
今日も今日とて日課をこなすべくエリザと共にダンジョンに潜ったのだが、どうやらそれも終わりのようだ。
いつものように依頼をこなして戻ると、ニアから『人員が確保できたから明日から来なくていい』と言われてしまった。
それはそれでいい事なのだがもっと言い方ってものがあった気がする。
まぁ今に始まったことじゃないけどさぁ。
「それじゃあ晴れてクビになったわけだし、最後の一仕事と行きますか。」
「別にクビってわけじゃないんだけど。」
「そんな言い方だっただろ。」
「こっちとしては明日も来てもらえるとありがたいけど、シロウさんも忙しいでしょ?エリザには新人のフォローもしてもらいたいし。だからこっちの事は気にせず元の仕事に戻ってね。」
「最初からそういう言い方をすればいいんだよ。」
まぁ本気で怒っているわけではないし、都合のいい戦力としてダラダラと使われるよりかは何倍もマシだ。
とはいえ仕事量はある程度セーブしているので、しばらくはのんびりさせてもらうとしよう。
最後の仕事といってもいつものようにパラライヒュドラを退治するだけ。
遠距離から一気にボムツリーの実をスリングで打ち込み焼き払うだけの簡単なお仕事。
こんな仕事でもちゃんと意味があり、喜ばれるんだからありがたい話だよなぁ。
なんて事を考えながら目的の通路に行くと、三人の冒険者がヒュドラの巣を前に立ち往生していた。
おっと、先客がいたか。
慌てて駆け寄ると三人が驚いた顔でこちらを振り向いた。
「あ、シロウさん!」
「驚かせてすまない。まだそこのヒュドラは駆除してないんだ、ちょっと待ってくれ。」
「え、ここの駆除ってシロウさんがやってくれてたんですか?」
「てっきり魔術師が適当に焼き払ってると思ってた。」
「俺も。」
まぁ、普段上で買取屋やってる俺がまさかヒュドラの駆除をしているとは思わないだろうなぁ。
いつものようにボムツリーの実をスリングに装填し、通路の奥でうごめくヒュドラの中心部に向かって狙いを定める。
力の限りゴムを引き、ギリギリとしなる音を耳元で聞きながら後は手を離す。
すると、通路の奥が爆発するかのように燃え上がり炎が天井付近まで吹き上がった。
「すげぇ!」
「スリングでこの威力、魔術師の魔法なんて目じゃないよな。」
「さすがシロウさん、はんぱねぇす。」
いやいや、普通こんなに激しく燃えないから。
爆発するって言っても着弾地点で実が爆ぜてパラライヒュドラを爆散させる程度。
あんなふうに炎が燃え上がるような威力はないはずだ。
何かがおかしい。
ある程度炎が治まったのを確認してから様子を見に行くと、いつもなら酸っぱい様な刺激のあるにおいがするはずの通路に、なんとも香ばしい香が充満していた。
なんだこれ、むちゃくちゃ腹が減るんだが。
「さっき飯食ったのにまた食いたくなってきた。」
「俺も。」
「なんでこんないい匂いがするんだ?」
「さぁなぁ・・・。」
いつもは爆散したヒュドラの死骸がそこらじゅうに落ちているはずなのに、今日は全て燃え尽きてしまって天井まで真っ黒。
前はそういう燃料と一緒に燃やしていたので、今回も誰かが可燃性の燃料をぶちまけていたという可能性はゼロではないが、それなら着火していない理由が分からない。
ここを通りたいから燃料を撒いたんだよな?
うーむ、わからん。
「うわ、オイルヒュドラだ!どっから出てきやがった。」
「こいつぬるぬるしてて気持ち悪いんだよなぁ、刃もすべるし。」
「群れる前にさっさと行こうぜ。」
ひとまず三人組と共にこげた通路の先へと進むと、少し行った所に白いヒュドラが一匹だけわいていた。
他のヒュドラ同様群れを成すが、ヒュドラとは名ばかりで実際は目のない蛇のような魔物だ。
オイルヒュドラという名前の通り全身ぬるぬるしたオイルで覆われており、刃物で切りかかると滑って切れ味が悪くなる為矢や魔法で駆除するのを推奨されている。
危険性は低いが見た目とめんどくささから毛嫌いされている魔物だ。
もしかしてさっきの過剰な爆発はこいつらのオイルのせいだったのか?
「あ、シロウさんそいつはやばいっすよ。」
「わかってる。こっちはいいからさっさと奥にいって、生きて帰ってこいよ。」
「了解っす!」
「いい感じの見つけて戻るんで高く買い取ってくださいね!」
三人組を先に行かせ、一匹だけで勇敢に立ち向かってくるヒュドラと対峙する。
噛まれたら間違いなく怪我をするであろう鋭い刃を見せながら、見えないはずの目でまっすぐこっちへと向かってくる。
とはいえ動きは遅くすばやく後ろに回りこみ頭と思われる部分から口に向かって短剣を突き刺した。
さすがマートンさんお手製ダマスカス鋼、オイルヒュドラとはいえ滑らせることは出来なかったか。
地面に短剣で突き刺さっている見た目は何かを髣髴とさせるんだよなぁ。
それに加えて、あの香ばしい香りは・・・そうだ鰻だ!
捌くときに頭部を突き刺してから一気に捌いている映像が頭の中に流れる。
そういえば鰻もぬるぬるしてるし見た目に食べたいとは思わないのが、実際食ってみると美味いんだよなぁ。
あぁ、腹が減ってきた。
「で、持って帰ってきたの?」
「だって美味そうだろ?」
「まったくそうは見えないんだけど。」
「オイルヒュドラに毒が有るって話は聞いたことないし、もしダメでもおなかを下すぐらいじゃない?」
オイルヒュドラを短剣で突き刺したままスタッククヴァーレの帽子に放り込み休憩所へと戻ると、エリザが信じられないという顔で迎えてくれた。
分かりきっていた反応ではあるがコレを今から食おうかって奴の前でする顔じゃないよな。
『オイルヒュドラ。ヒュドラという名前だがれっきとした蛇の魔物。目は退化し頭部に仕込まれてい感熱器官で獲物を察知する。群れで生活していることが多くオイルは可燃性が高い為、見た目の不快さからしばしば焼き払われる事がある。見た目の割りに身は柔らかく、食用として飼育している地域もある。最近の平均取引価格は銅貨25枚、最安値銅貨20枚、最高値銅貨47枚、最終取引日は20日前と記録されています。』
鑑定結果では食用として飼育されていると出るし、食えるのは間違いない。
問題は食べ方だが、この見た目であの匂いならやる方法は一つ。
まずは木桶にヒュドラを入れて塩でオイルをはがし、綺麗になったところで台の上に先ほどのように頭を突き刺して腹と思われる部分を捌く。
体内構造は非常に単純で、内臓らしい内臓はほぼなくすぐに開くことが出来た。
思っていた以上に肉厚、そして外のオイルに負けないぐらいに脂が乗っている。
うーむこれは思っている以上に美味いのかもしれない。
簡易のコンロを設置し、開いたヒュドラに串をさして火にかける。
骨らしい骨は見当たらなかったので骨切りなんかは必要なさそうだ。
「わ、すっごいいい匂い!」
「さっきこんなの食うの?なんて言ってたやつが何しに来た。」
「えへへ、匂いに釣られて。そのまま食べるの?」
「塩焼きでもありだと思うが、この見た目ならやっぱりタレだな。」
食堂で貰ってきた醤油に砂糖を多めに混ぜ、出汁で少し割る。
本当はみりんがあれば最高なんだが生憎とこの世界ではまだお目にかかっていない。
調理酒でも代用できるんだが清酒がやっと手に入る段階なだけに代用品の代用品を探すのは流石にムリだ。
ま、今ある物でも十分に美味くなるはず。
脂が落ち、香ばしい香が辺りに広がる。
程よく火が通ったところで特製のタレをかけ、それが滴り焼けた香りが更に食欲をそそる。
気づけば俺の周りには大勢の冒険者が群がっていた。
「最後にこいつを米の上に乗せて、ヒュドラ丼の出来上がりだ。」
「いただきます!」
「あ、コラ食うな!」
「ん~~~~~!!!フワフワで甘くて美味しい!なにこれ!お米にむちゃくちゃ合うじゃない!」
さぁ食べるかと手を伸ばすよりも先に横からエリザが丼を掻っ攫い、記念すべき一口目を取っていってしまった。
この反応を見るに俺の想像通りの味になったようだな。
「返せよ。」
「やだ!」
「もう作ってやらねぇぞ。」
「あーー嘘嘘!返すから怒らないで!」
「ったく、欲しいならちゃんと言え・・・美味いな。」
「でしょ!」
なんでエリザが自慢げなのかはさておき、奪い返した丼の中身を口に入れた途端に思考がすべてそっちに持っていかれてしまった。
香ばしいタレの味に負けないぐらいにホクホクの身が旨味と共に主張してくる。
それが米と絡み合い更にはタレも相成っていくらでも食べれてしまいそうだ。
二口三口と食べた所で再びエリザに奪われ、更に奪い返してを繰り返している間にあっという間に中身は空になってしまった。
「二人のやり取りを見て美味しいのは分かったんだけど、それを見せられた私達のこの空腹はどうすればいいのかしら。」
「そんなの自分で探して来たらいいだろ。持ってきさえすれば銅貨20枚で調理してやる。」
「買取じゃないの?」
「それだともっと食うときの金額が跳ね上がるが構わないよな?」
調理法は難しくないしタレだって奥様方ならすぐに同じような味付けを考案できるだろうけど、今この場でそれを作れるのは俺だけだ。
我先にとダンジョンに走り出し、普段は見向きもしない魔物を探し始める冒険者達。
残暑厳しいこの夏に相応しい食べ物が今日新たに発見された。
その名もオイルヒュドラ。
その後、カニの如く乱獲され冒険者ギルドから規制がかかるほどになったのは、また別の話だ。
まだまだ品薄の状況は続いているが、最低限の需要は満たせるぐらいに冒険者が依頼をこなしてくれるようになってきた。
もちろんこの間の怨霊騒動を完全に克服したわけではないのだが、彼らも生きていくためにはダンジョンに潜るしかないわけで。
この街はそんな冒険者達によって成り立っていると改めて気づかされた事件だった。
「やれやれ、なんとかなったな。」
「ほんとアニエスさんやウーラさん、ケイゴさんご夫婦がいなかったらどうなっていたか。」
「おいおい、俺やエリザの頑張りは無駄だったってのか?」
「そういうわけじゃないけど、ダンジョンの奥で戦い続けられる人って限られているじゃない?エリザも実力はあるけどルカ君がある程度大きくなるまではムチャさせられないし、とりあえず実力者の確保が当面の問題ね。」
「その辺は地道に育てていくしかないんだろうなぁ。」
「手っ取り早いのは装備の拡充だけど、それを満たすのも結局はお金なのよね。」
ダンジョンの休憩所に設けられた臨時の冒険者ギルド出張所。
今日も今日とて日課をこなすべくエリザと共にダンジョンに潜ったのだが、どうやらそれも終わりのようだ。
いつものように依頼をこなして戻ると、ニアから『人員が確保できたから明日から来なくていい』と言われてしまった。
それはそれでいい事なのだがもっと言い方ってものがあった気がする。
まぁ今に始まったことじゃないけどさぁ。
「それじゃあ晴れてクビになったわけだし、最後の一仕事と行きますか。」
「別にクビってわけじゃないんだけど。」
「そんな言い方だっただろ。」
「こっちとしては明日も来てもらえるとありがたいけど、シロウさんも忙しいでしょ?エリザには新人のフォローもしてもらいたいし。だからこっちの事は気にせず元の仕事に戻ってね。」
「最初からそういう言い方をすればいいんだよ。」
まぁ本気で怒っているわけではないし、都合のいい戦力としてダラダラと使われるよりかは何倍もマシだ。
とはいえ仕事量はある程度セーブしているので、しばらくはのんびりさせてもらうとしよう。
最後の仕事といってもいつものようにパラライヒュドラを退治するだけ。
遠距離から一気にボムツリーの実をスリングで打ち込み焼き払うだけの簡単なお仕事。
こんな仕事でもちゃんと意味があり、喜ばれるんだからありがたい話だよなぁ。
なんて事を考えながら目的の通路に行くと、三人の冒険者がヒュドラの巣を前に立ち往生していた。
おっと、先客がいたか。
慌てて駆け寄ると三人が驚いた顔でこちらを振り向いた。
「あ、シロウさん!」
「驚かせてすまない。まだそこのヒュドラは駆除してないんだ、ちょっと待ってくれ。」
「え、ここの駆除ってシロウさんがやってくれてたんですか?」
「てっきり魔術師が適当に焼き払ってると思ってた。」
「俺も。」
まぁ、普段上で買取屋やってる俺がまさかヒュドラの駆除をしているとは思わないだろうなぁ。
いつものようにボムツリーの実をスリングに装填し、通路の奥でうごめくヒュドラの中心部に向かって狙いを定める。
力の限りゴムを引き、ギリギリとしなる音を耳元で聞きながら後は手を離す。
すると、通路の奥が爆発するかのように燃え上がり炎が天井付近まで吹き上がった。
「すげぇ!」
「スリングでこの威力、魔術師の魔法なんて目じゃないよな。」
「さすがシロウさん、はんぱねぇす。」
いやいや、普通こんなに激しく燃えないから。
爆発するって言っても着弾地点で実が爆ぜてパラライヒュドラを爆散させる程度。
あんなふうに炎が燃え上がるような威力はないはずだ。
何かがおかしい。
ある程度炎が治まったのを確認してから様子を見に行くと、いつもなら酸っぱい様な刺激のあるにおいがするはずの通路に、なんとも香ばしい香が充満していた。
なんだこれ、むちゃくちゃ腹が減るんだが。
「さっき飯食ったのにまた食いたくなってきた。」
「俺も。」
「なんでこんないい匂いがするんだ?」
「さぁなぁ・・・。」
いつもは爆散したヒュドラの死骸がそこらじゅうに落ちているはずなのに、今日は全て燃え尽きてしまって天井まで真っ黒。
前はそういう燃料と一緒に燃やしていたので、今回も誰かが可燃性の燃料をぶちまけていたという可能性はゼロではないが、それなら着火していない理由が分からない。
ここを通りたいから燃料を撒いたんだよな?
うーむ、わからん。
「うわ、オイルヒュドラだ!どっから出てきやがった。」
「こいつぬるぬるしてて気持ち悪いんだよなぁ、刃もすべるし。」
「群れる前にさっさと行こうぜ。」
ひとまず三人組と共にこげた通路の先へと進むと、少し行った所に白いヒュドラが一匹だけわいていた。
他のヒュドラ同様群れを成すが、ヒュドラとは名ばかりで実際は目のない蛇のような魔物だ。
オイルヒュドラという名前の通り全身ぬるぬるしたオイルで覆われており、刃物で切りかかると滑って切れ味が悪くなる為矢や魔法で駆除するのを推奨されている。
危険性は低いが見た目とめんどくささから毛嫌いされている魔物だ。
もしかしてさっきの過剰な爆発はこいつらのオイルのせいだったのか?
「あ、シロウさんそいつはやばいっすよ。」
「わかってる。こっちはいいからさっさと奥にいって、生きて帰ってこいよ。」
「了解っす!」
「いい感じの見つけて戻るんで高く買い取ってくださいね!」
三人組を先に行かせ、一匹だけで勇敢に立ち向かってくるヒュドラと対峙する。
噛まれたら間違いなく怪我をするであろう鋭い刃を見せながら、見えないはずの目でまっすぐこっちへと向かってくる。
とはいえ動きは遅くすばやく後ろに回りこみ頭と思われる部分から口に向かって短剣を突き刺した。
さすがマートンさんお手製ダマスカス鋼、オイルヒュドラとはいえ滑らせることは出来なかったか。
地面に短剣で突き刺さっている見た目は何かを髣髴とさせるんだよなぁ。
それに加えて、あの香ばしい香りは・・・そうだ鰻だ!
捌くときに頭部を突き刺してから一気に捌いている映像が頭の中に流れる。
そういえば鰻もぬるぬるしてるし見た目に食べたいとは思わないのが、実際食ってみると美味いんだよなぁ。
あぁ、腹が減ってきた。
「で、持って帰ってきたの?」
「だって美味そうだろ?」
「まったくそうは見えないんだけど。」
「オイルヒュドラに毒が有るって話は聞いたことないし、もしダメでもおなかを下すぐらいじゃない?」
オイルヒュドラを短剣で突き刺したままスタッククヴァーレの帽子に放り込み休憩所へと戻ると、エリザが信じられないという顔で迎えてくれた。
分かりきっていた反応ではあるがコレを今から食おうかって奴の前でする顔じゃないよな。
『オイルヒュドラ。ヒュドラという名前だがれっきとした蛇の魔物。目は退化し頭部に仕込まれてい感熱器官で獲物を察知する。群れで生活していることが多くオイルは可燃性が高い為、見た目の不快さからしばしば焼き払われる事がある。見た目の割りに身は柔らかく、食用として飼育している地域もある。最近の平均取引価格は銅貨25枚、最安値銅貨20枚、最高値銅貨47枚、最終取引日は20日前と記録されています。』
鑑定結果では食用として飼育されていると出るし、食えるのは間違いない。
問題は食べ方だが、この見た目であの匂いならやる方法は一つ。
まずは木桶にヒュドラを入れて塩でオイルをはがし、綺麗になったところで台の上に先ほどのように頭を突き刺して腹と思われる部分を捌く。
体内構造は非常に単純で、内臓らしい内臓はほぼなくすぐに開くことが出来た。
思っていた以上に肉厚、そして外のオイルに負けないぐらいに脂が乗っている。
うーむこれは思っている以上に美味いのかもしれない。
簡易のコンロを設置し、開いたヒュドラに串をさして火にかける。
骨らしい骨は見当たらなかったので骨切りなんかは必要なさそうだ。
「わ、すっごいいい匂い!」
「さっきこんなの食うの?なんて言ってたやつが何しに来た。」
「えへへ、匂いに釣られて。そのまま食べるの?」
「塩焼きでもありだと思うが、この見た目ならやっぱりタレだな。」
食堂で貰ってきた醤油に砂糖を多めに混ぜ、出汁で少し割る。
本当はみりんがあれば最高なんだが生憎とこの世界ではまだお目にかかっていない。
調理酒でも代用できるんだが清酒がやっと手に入る段階なだけに代用品の代用品を探すのは流石にムリだ。
ま、今ある物でも十分に美味くなるはず。
脂が落ち、香ばしい香が辺りに広がる。
程よく火が通ったところで特製のタレをかけ、それが滴り焼けた香りが更に食欲をそそる。
気づけば俺の周りには大勢の冒険者が群がっていた。
「最後にこいつを米の上に乗せて、ヒュドラ丼の出来上がりだ。」
「いただきます!」
「あ、コラ食うな!」
「ん~~~~~!!!フワフワで甘くて美味しい!なにこれ!お米にむちゃくちゃ合うじゃない!」
さぁ食べるかと手を伸ばすよりも先に横からエリザが丼を掻っ攫い、記念すべき一口目を取っていってしまった。
この反応を見るに俺の想像通りの味になったようだな。
「返せよ。」
「やだ!」
「もう作ってやらねぇぞ。」
「あーー嘘嘘!返すから怒らないで!」
「ったく、欲しいならちゃんと言え・・・美味いな。」
「でしょ!」
なんでエリザが自慢げなのかはさておき、奪い返した丼の中身を口に入れた途端に思考がすべてそっちに持っていかれてしまった。
香ばしいタレの味に負けないぐらいにホクホクの身が旨味と共に主張してくる。
それが米と絡み合い更にはタレも相成っていくらでも食べれてしまいそうだ。
二口三口と食べた所で再びエリザに奪われ、更に奪い返してを繰り返している間にあっという間に中身は空になってしまった。
「二人のやり取りを見て美味しいのは分かったんだけど、それを見せられた私達のこの空腹はどうすればいいのかしら。」
「そんなの自分で探して来たらいいだろ。持ってきさえすれば銅貨20枚で調理してやる。」
「買取じゃないの?」
「それだともっと食うときの金額が跳ね上がるが構わないよな?」
調理法は難しくないしタレだって奥様方ならすぐに同じような味付けを考案できるだろうけど、今この場でそれを作れるのは俺だけだ。
我先にとダンジョンに走り出し、普段は見向きもしない魔物を探し始める冒険者達。
残暑厳しいこの夏に相応しい食べ物が今日新たに発見された。
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その後、カニの如く乱獲され冒険者ギルドから規制がかかるほどになったのは、また別の話だ。
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