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994.転売屋は水風船を投げる

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塩抜きをしたクラゲの帽子は今回アンケートをお願いした人たちに改めて使ってもらい、更なる改善点を出してもらうことになった。

港町で塩抜きしている枚数はざっと数えても10万枚以上。

殆どが駆除されたとはいえまだまだ漂着するのは間違いないので、その都度回収して塩抜きしてもらう予定でいる。

因みに購入単価は中型木箱満杯で銀貨5枚。

今回とりあえず満杯にした分を勘定したらおよそ2000枚入っていたので一枚単価は銅貨0.25枚ほどになるだろう。

この金額なら無料で配っても全く問題ないし、それ以外の使い方をしても銅貨1枚で売るだけで利益が出る。

重たい物は無理だが、濡れているものや軽い物をさっと入れて口を縛るだけで血や水分が他の物につかないという優れもの。

海辺ではごく当たり前に使われている素材でも、基本は厄介者として扱われているだけにわざわざ商品化されてこなかったんだろう。

塩抜きというめんどくささはあるものの、素材を入れるだけならそれすらせずに使えそうな気もするのでその辺は要検証という所だろうか。

「で、こっちが塩抜きしなかった方なんだけどこれをどうするの?」

「まぁ見てろって。」

くしゃくしゃになった帽子を親指と人差し指でつまんだまま、エリザがそれを見て首をかしげる。

それを横目に適当なグラスに水を入れ、そこにフェルさん用に仕入れておいた顔料を混ぜて着色。

赤青黄色緑の色水を作り、それぞれ持ち帰った帽子に入れてひもで縛る。

水を入れる量によって大きさは変わるが、三分の一程入れるとソフトボールぐらいの大きさになった。

手の中で水がくるくると回り夏の日差しを受けて光り輝いている。

これでよしっと。

「それじゃあジョン、ソラ、準備できたか?」

「出来た!」「出来ました!」

「よし、これから三分間この色水を投げ合ってもらう。各自持てるのは五個まで、一分毎に二個まで追加できるから取りに来い。どれだけ相手の服に色を付けられるかで勝敗が決まるから避けてもいいし防いでもいい。ただし防ぐのはこの釘付きの鍋板を使わなきゃならない。防いだらどうなる?」

「割れる!」「割れます!」

「ってことで簡単には防げないから頑張れ。それじゃあ欲しいやつをもって、スタート位置に移動してくれ。」

真っ白いゼッケンにそでを通した二人が抱えるようにして水風船を持ち、裏庭の端と端に移動する。

その間には簡易の障害物がいくつも置かれており、二人の身長なら隠れるのも容易だろう。

年の近い二人、ソラは亜人という事もあり運動能力にアドバンテージがあるが、ジョンはあぁみえて中々ずるがしこい。

いい試合になるんじゃないだろうか。

「それでは、はじめ!」

掛け声とともに真っ先に動き出したのはソラ。

赤い水風船を右手に持ち、パルクール宜しく障害物を華麗に飛び越えていく。

だがそれを見てもジョンが慌てる様子はなく、近くの障害物に移動して身を伏せた。

もちろん隠れるだけでは狙い撃ちなのでそのまま移動して様子をうかがうようだ。

先程までジョンがいた場所にソラが到達するもその姿はない。

「それ!」

予想外の展開にソラが驚いたすきを見逃さず、すぐ近くまで移動したジョンが横から青い水風船を投げつけた。

だが狙いは外れ近くの障害物にあたるも、色水が勢いよく溢れて白い服をわずかに濡らす。

中々やるじゃないか。

とはいえ、ソラの手にはまだ水風船が握られており動揺せずにジョンの背中に投げつけ鮮やかな模様を作りあげた。

その後もお互いに盾を使ったり身を隠したりするものの、最初の直撃が影響してソラの勝利で幕を閉じる。

中々白熱した試合で見ている方も面白かったようで、いつの間にか上の窓からハーシェさん達がのぞき込んでいたぐらいだ。

「ってな感じの遊びなんだが、どうだった?」

「楽しかったけど悔しいからまたやりたい。」

「一人よりも二人、二人よりも三人だとより面白いだろうな。」

「そうね、冒険者なら盛り上がっていいんじゃないかしら。」

「夏ですし大人の水遊びと触れ込めば売れるんじゃないでしょうか。」

反応は上々、元々勝負事が好きな冒険者にもすんなり受け入れられそうだし色水にしなければ服が汚れる心配もない。

なんなら作業中の労働者に当てて体を冷やすなんて荒業も使えそうだ。

「100枚入りで銀貨1枚、子供の場合はその半値。ゴミは散らかるだろうからその辺は掃除するように言い聞かせればいいだろう。塩抜きしてないやつはまだまだあるから在庫が切れる心配はない。」

「銅貨1枚でも十分利益が出るってすごい事よね。」

「まぁ利益が出てもたかが知れてるけどな。1万枚売ったところで金貨1枚、輸送コストとそれを売る労力を考えればその半分も儲けが出ればいい方だ。もっとも、俺は別の方法で利益を出すけど。」

「それが今の遊びですね。」

「その通り、賞金と賞品それに加えて名誉も手に入るとなれば冒険者が飛びつかないはずがないからな。」

早速冒険者ギルドに大会の告知を出し、武闘大会会場が無くなってすっきりした空き地を貸してもらう。

やはり広い土地があるってのは便利でいいなぁ。

街づくりの計画はもう練りあげられているが、どこかにそこそこ広めの広場を作ってもらえるかどうか今度聞いておこう。

街の外にいくらでも土地があるんだからそれにこだわる必要は無いのだが、街の中という安心感は何物にも代えがたい物がある。

のんびりと準備をしていると、早速話を聞きつけた暇な冒険者達が参加証を手に空き地に集まって来た。

「シロウさん、見たぜ!」

「手伝えば参加費ただなんだよな!」

「それでいて参加賞もあるんだろ?実質だだじゃねぇか、やらない理由は無いって。」

「だよな、何でも言ってくれ。」

大会概要の一番下の欄に事前準備を手伝ってくれたら当日の参加費と打ち上げ参加費用をタダという一文を書いておいたんだが、思っていた以上に読まれていたようでかなりの人数が集まってしまった。

でもまぁ人手はいくらあっても困らないし、やらなきゃならないことはたくさんある。

参加費分を含めしっかり働いてもらうとしよう。


そんなこんなで迎えた翌日。

いつもと変わらない青空の下、総勢100人、30チームを超える冒険者が今か今かとその時を待ってた。

「これより第一回水風船投げ大会開催する!ルールは事前に掲示した通りだが制限時間は三分、それまでにどれだけ相手のゼッケンに色を塗れるかで勝敗が決まる。各自最初の持ち球は五個までで一分ごとに二個、中央の台に追加が補充される。もちろん相手の玉を使用するのは構わないが、補助魔法を含めたスキルの使用は禁止する。あくまでも正々堂々相手のゼッケンに色を塗ってくれ。顔にあてても足に当てても意味ないからな、そこは間違えないように。」

「質問良いですか!!」

「なんだ?」

「もし誰も色を塗れなかった場合はどうなるんです?」

「休憩をはさんだ後一分の延長戦だ。それでも勝敗が付かなかった場合は・・・両者敗退、だから死ぬ気で当てに行けよ。逃げまくって終わりなんてそんな面白くない姿見たくないからな。」

「まじかー。」

相手の持ち球が無くなるまで逃げるのも手だが、ただひたすらに逃げるだけでは面白くない。

お互いに命を取り合うように向かい合うのを見るからこそ、観戦する方も盛り上がるんだ。

昨日告知したばかりにもかかわらず、会場付近には複数の出店が店を連ねている。

それを目当てに客もたくさんやってきているので、面白くない試合をしようものなら大ブーイングが飛んでくるだろう。

冒険者としての名誉を守るためにも、そんな姿見せられないよなぁ。

「ちなみに子供の参加者もいるから、その場合は向こうの持ち球は倍こっちは半分だから頑張れ。」

「噓でしょ!」

「嘘じゃないっての、まさか子供相手に同じ条件で勝って楽しいか?」

「でも勝負は勝負ですよね。」

「大人の厳しさを教えるのも大人の役目、とはいえ大人げない戦いをすれば今後の他人の目が変わると思えよ。」

子供の参加は5チーム。

トーナメントではなく総当たりで行われるので子供に足をすくわれるチームも多々出てくることだろう。

すばしっこい子供に翻弄される大人になるのか、それとも大人の実力を見せつけるのか。

今回も止められるのはどれだけゼッケンに色を付けられるか。

子供だからハンデになるとは限らないわけだ。

「コートは全部で4面あるから、自分が次にどこで対戦するのか確認しながら各自動くように。名前を呼ばれて5分来なかったら不戦勝だからな。もちろん、対戦中の場合は除く、その時は次のチームが繰り上げだ。午前は予選、昼休憩を経て午後から決勝トーナメント。昼飯は出るからしっかり食ってくれ。」

「あざっす!」

「夕方に表彰式、それから商品と参加賞を配って夜はお楽しみの飲み会だ。」

「そのために参加費払ったようなもんだよな。」

「あぁ、参加賞も欲しいけどそっちの方が嬉しいよな。」

「ただ酒だからって飲み過ぎるなよ、子供の目もあるんだからな。」

「うぃーっす。」

事前準備に参加しなかったチームの参加費は一チーム銀貨5枚、子供は銀貨1枚。

参加賞として一人に付きビアンカお手製ポーション一個とその他探索用の道具が提供される。

優勝賞金は銀貨10枚、その他5位までには参加賞の他に賞品が授与される予定だ。

参加費だけで金貨1枚近く回収しているうえに賞品の殆どは自前の在庫からの放出なのでお財布的には全く痛くない。

むしろプラスが出ていると言っていいだろう。

子供の参加賞は玩具やお菓子の予定だが、5位までに入る事があればその辺は別途考えればいいだろう。

可能性はゼロじゃない。

なんせ畑で鍛えられたガキ共の足腰は初心者冒険者を上回るからな、チームワークもあるし侮っていたら痛い目を見るだろう。

因みにうちからもミミィ、ソラ、ジョンの三人がエントリーしている。

大人はエリザとキキ、アネットの三人だ。

「それじゃあ10分後に試合開始だ、水分補給をしっかりして思いっきり楽しんでくれ!」

使い道も少なく捨てられるはずだった素材がこんなにも人を楽しませることもある。

ようは使いようというやつだ。

これからもそんな素材を探しながらがっつり金儲けさせてもらうとしよう。

「旦那様、早速私達の番みたいですよ。」

「おぅ、いっちょやってやるか。」

「頑張りましょうねお姉様!」

俺もマリーさんとオリンピア様と一緒に参加する。

もちろん主催者枠ではなく参加賞を払う一般参加だ。

王族の時はこんなイベントにも参加できなかっただろうからいい思い出になるに違いない。

参加するからには当然優勝は狙わせてもらうつもりだ。

大人しそうな二人だが、元々おてんばだったオリンピアに加えてマリーさんもアニエスさんの訓練は受けている。

ポテンシャルはそれなりにあるだけに俺も足を引っ張らないよう気を付けなければ。

「それでは第一試合を開始します、両チーム前へ!」

水風船を手に相手チームと向かい合う。

お祭りはこうでなくっちゃ。

空に響く笛の音。

さぁ、いっちょやったりますか!
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