995 / 1,230
992.転売屋はクラゲ捕まえる
しおりを挟む
急ぎ向かった港町。
上空をぐるぐると旋回しながら状況を確認したのだが、俺の想像以上に大変な状況になっていた。
海が白く染まっている。
話に聞いた汽水域のあたりが一番色が濃く、そこから流れたやつが辺り一面に漂っている感じ。
台風の後に土砂が海に流れるテレビ映像と全く同じ光景が広がっていた。
あの白いのが全部クラゲと思うと正直気持ちの良い物じゃないな。
メルディ曰く毒のあるクラゲというわけではないそうだが、それでも使い道のない物はただのゴミ。
これだけの量ともなると廃棄するのも大変だろう。
ふと港の方に目を向けると、下で大きく手を振っている人たちが見える。
その横には見覚えのある船。
どうやらガレイは出港すら出来なかったようだ。
「バーン、あそこに降りるぞ。練習通り出来るな?」
「大丈夫!」
「失敗しても水に落ちるだけだ、安心してやれ。」
「うん!」
ポンポンとバーンの首を叩くと、体がぐんと下に落ち始める。
自由落下程ではないがグングンと海が近づいてきてもうすぐ着水というタイミングで一瞬体が浮かび上がる。
そのタイミングでさっきまで跨っていたバーンの体が無くなり空中に放り出される格好になった。
覚悟していたとはいえ想像以上のアップダウンに自分がどっちを向いているのかわからなくなるが、上昇していた体が再び落下し始める前に物凄い強い力で港の岸壁方面に体を持っていかれた。
そのまま華麗に着地、なんて出来るはずもなくゴロゴロと転がるように港の地面を転がっていく。
上空からの強引な着地。
翼竜の姿のままでは降りる場所が無いので、下降しながらバーンに人化してもらいつつ最後に上昇方向に放り投げてもらう事で落下速度を相殺。
廃鉱山近くの水場でなんども練習したので心配はしていなかったのだが、落下地点が若干海側にずれてしまったのでバーンが水に落ちないよう飛ばしてくれたんだろう。
「大丈夫ですかシロウ様!」
「大丈夫じゃない、バーンは?」
「トト!ごめんなさい!」
「ナイス着地、よくやった。」
駆け寄ってきたバーンの頭をなでてやるとやっと安心したような顔をする。
ケガがあるって言ってもかすり傷程度、ポーションを飲めばあっという間に完治してしまうのでケガをケガと思わなくなってきている。
骨折ぐらいなら何とかなるよなーとか思うあたりこの世界に馴染んできた証拠なのかもしれない。
「まさか上から落ちて・・・いえ、降りて来るとは思いませんでした。」
「わざわざ街の外に降りるのもめんどくさいから練習中なんだ。頭から行かなかったら案外何とかなるぞ。」
「シロウ様にしかできない技とはいえ、くれぐれもお気を付けください。」
「忠告感謝する。で、状況は?」
「見ての通りです。スタッククヴァーレが急に出まして、気付いた時には航行不可能な状況でした。今港町総出で駆除にあたっていますが、如何せん量が多く大型の船を使えないので難航しています。」
上から見ての通りか。
あの商人が街に来るまで三日、つまり三日間かけて何とか駆除したものの現状は芳しくないという事だ。
特に汽水域はあの白さから察するにとんでもない状況なんだろう。
見た感じ港はまだましなようだが、それでもよく見るとエチゼンクラゲぐらいの大きな奴が浮かんでいる。
盆を過ぎるとクラゲが出ると良く言ったもんだが、この量はちょいと多すぎだろう。
「王都からの船も足止めか。」
「生ものもありますので何とか今日中に港だけでも解放したいんですが、水の中のせいで焼き払う事も出来ず地道に回収するしかないんです。」
「うーむ、それはやばいな。」
このまま足止めが続けば港町にも王都からの商人も大きな損失が出てしまう。
それは決して他人事ではなく、俺の荷物も届けられないという事だ。
いくらバーンの足があるとはいえ、大量の荷物を運ぶとなるとガレイの魔導船が必要不可欠だ。
陸路もあるが安全と快適さを考えれば全然違うからなぁ。
「「シロウ様!」」
どうしたもんかと頭を悩ませていると、若い女の声で名前を呼ばれた。
あまり振り返りたくは無いがそういうわけにもいかないだろう。
「トリーヌ、それにポーラさんか。」
「どうしてトリーヌが先なんですか!」
「街の危機を察してわざわざ来て下さり感謝の言葉もありません、ありがとうございます。」
挨拶もそうだがしっかりお礼を言える事が違いだと思うぞ、とは絶対に教えてやらないわけだが、トリーヌからしてみれば屋台骨の海運業が大ピンチなだけに猫の手も借りたいという状況なんだろう。
状況を見に来ただけなのだが、これを見捨てるわけにはいかないよなぁ。
「状況はガレイから聞いた、港の駆除を最優先にしているそうだな。」
「はい。住民総出で作業にあたっていますが状況は思わしくありません。」
「焼いてもダメ、掬ってもダメ、街の外にはそれはもう山みたいにクラゲが積みあがっているんだよ。せめて食べられたらいいのに何にも使い道がないんだよね。」
せめて金になればモチベーションも違っただろうに、辺りを見回しても皆疲労の色が濃い。
三日間この状況じゃ仕方ないといえば仕方ないんだが。
「網を張って流入を防げないのか?」
「それをしたくても船が出せないんです。」
「まずはそこからか。」
「大きな網はあるんだけどそれを引っ張る船はなし。どうしよう、熱病以上の大ピンチだよ。」
「貴女はもう少し街長らしくどっしり構えられませんの?」
「構えてクヴァーレがいなくなったら苦労しないよ。」
ま、その通りだ。
とりあえず港を稼働させ、中に入ってこないように網を張る。
小型船ならともかく大型船になれば多少のクラゲで足止めされることは無い、まずは開港が最優先か。
船は無くても網はある。
なら、船代わりになるものを使えばいいわけで。
「バーン、せっかくここまで来たんだし美味しい魚食べたいよな?」
「食べたい!でも、お肉も食べたいな。」
「魚は生憎漁に出ていないのでお出しする事は出来ませんが、お肉でよろしければいくらでも用意できましてよ。」
「だそうだ、ちょっと大変だが一仕事して美味い肉を食おうじゃないか。とりあえずこの辺を片付けてバーンが元の姿に戻れるようにしてくれ、それと網の準備も頼む。バーンの足にくくりつけて一網打尽にしてやろう。」
「任せて!」
ってことで、急遽金魚すくいならぬクラゲすくいをすることになった。
船着き場の荷物が片付けられ、元の姿に戻ったバーンの足に網をしっかりと付ける。
低空で飛行しながら網を海中に落としクラゲをすくっては地上に落とす。
後片付けをする人間は山ほどいるので、そっちはお任せしてただひたすらにクラゲをすくい続けるというわけだ。
「さぁやるか。」
「うん!お肉いっぱい食べようね!」
「その為にはしっかり働かないとな、頑張れよ。」
「頑張る!」
俺はただバーンの背中に乗っているだけなのだが、本人は一人でやるよりも背中に乗ってもらっている方がやりやすいらしい。
すくっては落とし、すくっては落とし、いったいどれだけやったか数えられないぐらい繰り返すと港の中に入り込んでいたクラゲをあっという間に取り除くことが出来た。
もちろん放置すればすぐに入り込まれるので、その隙に小さな船を出し流入防止の網を投入。
港が綺麗になった後はクラゲの包囲網に穴をあけるように外に向かって駆除を進め、無事近くに停泊していた王都の船を港に迎え入れることが出来た。
一度道が出来れば、それに合わせて大きな船が外に出てクラゲの駆除を行う事も出来る。
流石にすべてを駆除することは出来ないが、バーンの頑張りのおかげで最低限の機能を維持できるぐらいには片づけることが出来たようだ。
流石のバーンも網を結んでいた部分が傷むようになってきたので、日暮れと共に作業を終え約束通り大量のお肉に囲まれて満面の笑みでそれを頬張っている。
ここにディーネがいれば焼き払ってもらえたかもしれないが、いない人を頼っても仕方がない。
バーンは本当によくやってくれたよ。
「お疲れさまでした。」
「俺は上に乗っていただけだが、とりあえず船が入れてよかった。」
「先程ドレイク船長がお礼を言いに来ていたのですが、荷物を降ろすとすぐにクヴァーレの駆除に出てくださったようです。」
「そうか、あれは船長の船だったか。」
港内に入ってくる時見たことある旗があるなと思っていたのだが、無視するような形になってしまい申し訳ない。
ガレイにお礼を言うようにお願いしておこう。
巨大な船舶が動くことでクラゲの包囲網がかき回され、少しずつだが外洋に出て行ってくれるはず。
外に行けばクヴァーレを食べる魔物が沢山いるので、自然にいなくなることだろう。
問題は汽水域、つまりは川との接続部分だがここは明日バーンにもうひと働きしてもらうしかないだろうなぁ。
「せめて何かに再利用できれば駆除する方も気分が違うんだが。」
港に船が入ってきたことで早くも活気が戻ってきている。
来たときは浮かない顔をした人ばかりだったのにそこらじゅうで飲めや歌えやのお祭り騒ぎ。
まだまだ解決したわけではないのだが、ここ数日気分が落ち込む状況だっただけにそれが一気に爆発したって感じなんだろう。
さっきから視界の端でポーラがちょこまかしているが、仕事を頼まれるのかすぐに役人に連れていかれている。
しっかり働け。
バーンを横目にお祭り騒ぎの港を眺めていると、ふと子供達が何かを被って走っていることに気が付いた。
「クヴァーレを被ってるのか?」
「私達にとっては邪魔物ですが子供達には格好の遊び道具の様で、水を入れて投げつけたりあのように帽子のようにかぶって遊んでいるようです。アレは多分空気を入れて膨らんだのを叩いて割ろうとしているんでしょう。」
ふむ。
俺は近場に転がってクラゲを手に取り子供のように被ってみた。
触り心地は店で見たのと同じ、海から上げたばかりだから少し磯臭いが塩抜きすれば匂いも取れるだろう。
そのまま頭を振ってみるも取れる気配はない。
空気が入って膨らむが、ヘリの部分に隙間を作ればそこから空気を抜けるので案外綺麗にフィットする。
あれ、これもしかして使えるんじゃないか?
「お似合いですよ。」
「ふふん、だろ?」
「日よけにはなりませんがね。」
「だが他の用途では使えそうだ。」
「まさか、投げるんですか?」
「それもある。」
投げるのもなかなか面白そうだ。
子供の頃水風船を投げまくってびしょびしょになったのを覚えている。
落としたぐらいでは割れそうにないが、思い切り投げつければ割れそうだし割れやすいように針をつけてやって無理矢理割る方法もある。
こういう遊びは大人になっても楽しいもんだ。
しかもそれに金が絡めば冒険者が喜ばないはずがない。
なんだ、この厄介者にも案外使い道があるじゃないか。
「ここの下水道ってもう完成したのか?」
「おおよそ完成していますがまだ使用されていませんよ。」
「ってことは水を張る事は出来るよな?」
「恐らくは。まさか、何かされるんですか?」
そのまさかだ。
これだけの量があれば原価なんて銅貨1枚以下、労力はかかるが駆除した恩もあるしそれを使ってお手伝いしてもらうとしよう。
なんだ、案外近くに最高の素材があるじゃないか。
俺はニヤリと笑うと、ガレイと肩を組み俺のたくらみをそっと耳打ちするのだった。
上空をぐるぐると旋回しながら状況を確認したのだが、俺の想像以上に大変な状況になっていた。
海が白く染まっている。
話に聞いた汽水域のあたりが一番色が濃く、そこから流れたやつが辺り一面に漂っている感じ。
台風の後に土砂が海に流れるテレビ映像と全く同じ光景が広がっていた。
あの白いのが全部クラゲと思うと正直気持ちの良い物じゃないな。
メルディ曰く毒のあるクラゲというわけではないそうだが、それでも使い道のない物はただのゴミ。
これだけの量ともなると廃棄するのも大変だろう。
ふと港の方に目を向けると、下で大きく手を振っている人たちが見える。
その横には見覚えのある船。
どうやらガレイは出港すら出来なかったようだ。
「バーン、あそこに降りるぞ。練習通り出来るな?」
「大丈夫!」
「失敗しても水に落ちるだけだ、安心してやれ。」
「うん!」
ポンポンとバーンの首を叩くと、体がぐんと下に落ち始める。
自由落下程ではないがグングンと海が近づいてきてもうすぐ着水というタイミングで一瞬体が浮かび上がる。
そのタイミングでさっきまで跨っていたバーンの体が無くなり空中に放り出される格好になった。
覚悟していたとはいえ想像以上のアップダウンに自分がどっちを向いているのかわからなくなるが、上昇していた体が再び落下し始める前に物凄い強い力で港の岸壁方面に体を持っていかれた。
そのまま華麗に着地、なんて出来るはずもなくゴロゴロと転がるように港の地面を転がっていく。
上空からの強引な着地。
翼竜の姿のままでは降りる場所が無いので、下降しながらバーンに人化してもらいつつ最後に上昇方向に放り投げてもらう事で落下速度を相殺。
廃鉱山近くの水場でなんども練習したので心配はしていなかったのだが、落下地点が若干海側にずれてしまったのでバーンが水に落ちないよう飛ばしてくれたんだろう。
「大丈夫ですかシロウ様!」
「大丈夫じゃない、バーンは?」
「トト!ごめんなさい!」
「ナイス着地、よくやった。」
駆け寄ってきたバーンの頭をなでてやるとやっと安心したような顔をする。
ケガがあるって言ってもかすり傷程度、ポーションを飲めばあっという間に完治してしまうのでケガをケガと思わなくなってきている。
骨折ぐらいなら何とかなるよなーとか思うあたりこの世界に馴染んできた証拠なのかもしれない。
「まさか上から落ちて・・・いえ、降りて来るとは思いませんでした。」
「わざわざ街の外に降りるのもめんどくさいから練習中なんだ。頭から行かなかったら案外何とかなるぞ。」
「シロウ様にしかできない技とはいえ、くれぐれもお気を付けください。」
「忠告感謝する。で、状況は?」
「見ての通りです。スタッククヴァーレが急に出まして、気付いた時には航行不可能な状況でした。今港町総出で駆除にあたっていますが、如何せん量が多く大型の船を使えないので難航しています。」
上から見ての通りか。
あの商人が街に来るまで三日、つまり三日間かけて何とか駆除したものの現状は芳しくないという事だ。
特に汽水域はあの白さから察するにとんでもない状況なんだろう。
見た感じ港はまだましなようだが、それでもよく見るとエチゼンクラゲぐらいの大きな奴が浮かんでいる。
盆を過ぎるとクラゲが出ると良く言ったもんだが、この量はちょいと多すぎだろう。
「王都からの船も足止めか。」
「生ものもありますので何とか今日中に港だけでも解放したいんですが、水の中のせいで焼き払う事も出来ず地道に回収するしかないんです。」
「うーむ、それはやばいな。」
このまま足止めが続けば港町にも王都からの商人も大きな損失が出てしまう。
それは決して他人事ではなく、俺の荷物も届けられないという事だ。
いくらバーンの足があるとはいえ、大量の荷物を運ぶとなるとガレイの魔導船が必要不可欠だ。
陸路もあるが安全と快適さを考えれば全然違うからなぁ。
「「シロウ様!」」
どうしたもんかと頭を悩ませていると、若い女の声で名前を呼ばれた。
あまり振り返りたくは無いがそういうわけにもいかないだろう。
「トリーヌ、それにポーラさんか。」
「どうしてトリーヌが先なんですか!」
「街の危機を察してわざわざ来て下さり感謝の言葉もありません、ありがとうございます。」
挨拶もそうだがしっかりお礼を言える事が違いだと思うぞ、とは絶対に教えてやらないわけだが、トリーヌからしてみれば屋台骨の海運業が大ピンチなだけに猫の手も借りたいという状況なんだろう。
状況を見に来ただけなのだが、これを見捨てるわけにはいかないよなぁ。
「状況はガレイから聞いた、港の駆除を最優先にしているそうだな。」
「はい。住民総出で作業にあたっていますが状況は思わしくありません。」
「焼いてもダメ、掬ってもダメ、街の外にはそれはもう山みたいにクラゲが積みあがっているんだよ。せめて食べられたらいいのに何にも使い道がないんだよね。」
せめて金になればモチベーションも違っただろうに、辺りを見回しても皆疲労の色が濃い。
三日間この状況じゃ仕方ないといえば仕方ないんだが。
「網を張って流入を防げないのか?」
「それをしたくても船が出せないんです。」
「まずはそこからか。」
「大きな網はあるんだけどそれを引っ張る船はなし。どうしよう、熱病以上の大ピンチだよ。」
「貴女はもう少し街長らしくどっしり構えられませんの?」
「構えてクヴァーレがいなくなったら苦労しないよ。」
ま、その通りだ。
とりあえず港を稼働させ、中に入ってこないように網を張る。
小型船ならともかく大型船になれば多少のクラゲで足止めされることは無い、まずは開港が最優先か。
船は無くても網はある。
なら、船代わりになるものを使えばいいわけで。
「バーン、せっかくここまで来たんだし美味しい魚食べたいよな?」
「食べたい!でも、お肉も食べたいな。」
「魚は生憎漁に出ていないのでお出しする事は出来ませんが、お肉でよろしければいくらでも用意できましてよ。」
「だそうだ、ちょっと大変だが一仕事して美味い肉を食おうじゃないか。とりあえずこの辺を片付けてバーンが元の姿に戻れるようにしてくれ、それと網の準備も頼む。バーンの足にくくりつけて一網打尽にしてやろう。」
「任せて!」
ってことで、急遽金魚すくいならぬクラゲすくいをすることになった。
船着き場の荷物が片付けられ、元の姿に戻ったバーンの足に網をしっかりと付ける。
低空で飛行しながら網を海中に落としクラゲをすくっては地上に落とす。
後片付けをする人間は山ほどいるので、そっちはお任せしてただひたすらにクラゲをすくい続けるというわけだ。
「さぁやるか。」
「うん!お肉いっぱい食べようね!」
「その為にはしっかり働かないとな、頑張れよ。」
「頑張る!」
俺はただバーンの背中に乗っているだけなのだが、本人は一人でやるよりも背中に乗ってもらっている方がやりやすいらしい。
すくっては落とし、すくっては落とし、いったいどれだけやったか数えられないぐらい繰り返すと港の中に入り込んでいたクラゲをあっという間に取り除くことが出来た。
もちろん放置すればすぐに入り込まれるので、その隙に小さな船を出し流入防止の網を投入。
港が綺麗になった後はクラゲの包囲網に穴をあけるように外に向かって駆除を進め、無事近くに停泊していた王都の船を港に迎え入れることが出来た。
一度道が出来れば、それに合わせて大きな船が外に出てクラゲの駆除を行う事も出来る。
流石にすべてを駆除することは出来ないが、バーンの頑張りのおかげで最低限の機能を維持できるぐらいには片づけることが出来たようだ。
流石のバーンも網を結んでいた部分が傷むようになってきたので、日暮れと共に作業を終え約束通り大量のお肉に囲まれて満面の笑みでそれを頬張っている。
ここにディーネがいれば焼き払ってもらえたかもしれないが、いない人を頼っても仕方がない。
バーンは本当によくやってくれたよ。
「お疲れさまでした。」
「俺は上に乗っていただけだが、とりあえず船が入れてよかった。」
「先程ドレイク船長がお礼を言いに来ていたのですが、荷物を降ろすとすぐにクヴァーレの駆除に出てくださったようです。」
「そうか、あれは船長の船だったか。」
港内に入ってくる時見たことある旗があるなと思っていたのだが、無視するような形になってしまい申し訳ない。
ガレイにお礼を言うようにお願いしておこう。
巨大な船舶が動くことでクラゲの包囲網がかき回され、少しずつだが外洋に出て行ってくれるはず。
外に行けばクヴァーレを食べる魔物が沢山いるので、自然にいなくなることだろう。
問題は汽水域、つまりは川との接続部分だがここは明日バーンにもうひと働きしてもらうしかないだろうなぁ。
「せめて何かに再利用できれば駆除する方も気分が違うんだが。」
港に船が入ってきたことで早くも活気が戻ってきている。
来たときは浮かない顔をした人ばかりだったのにそこらじゅうで飲めや歌えやのお祭り騒ぎ。
まだまだ解決したわけではないのだが、ここ数日気分が落ち込む状況だっただけにそれが一気に爆発したって感じなんだろう。
さっきから視界の端でポーラがちょこまかしているが、仕事を頼まれるのかすぐに役人に連れていかれている。
しっかり働け。
バーンを横目にお祭り騒ぎの港を眺めていると、ふと子供達が何かを被って走っていることに気が付いた。
「クヴァーレを被ってるのか?」
「私達にとっては邪魔物ですが子供達には格好の遊び道具の様で、水を入れて投げつけたりあのように帽子のようにかぶって遊んでいるようです。アレは多分空気を入れて膨らんだのを叩いて割ろうとしているんでしょう。」
ふむ。
俺は近場に転がってクラゲを手に取り子供のように被ってみた。
触り心地は店で見たのと同じ、海から上げたばかりだから少し磯臭いが塩抜きすれば匂いも取れるだろう。
そのまま頭を振ってみるも取れる気配はない。
空気が入って膨らむが、ヘリの部分に隙間を作ればそこから空気を抜けるので案外綺麗にフィットする。
あれ、これもしかして使えるんじゃないか?
「お似合いですよ。」
「ふふん、だろ?」
「日よけにはなりませんがね。」
「だが他の用途では使えそうだ。」
「まさか、投げるんですか?」
「それもある。」
投げるのもなかなか面白そうだ。
子供の頃水風船を投げまくってびしょびしょになったのを覚えている。
落としたぐらいでは割れそうにないが、思い切り投げつければ割れそうだし割れやすいように針をつけてやって無理矢理割る方法もある。
こういう遊びは大人になっても楽しいもんだ。
しかもそれに金が絡めば冒険者が喜ばないはずがない。
なんだ、この厄介者にも案外使い道があるじゃないか。
「ここの下水道ってもう完成したのか?」
「おおよそ完成していますがまだ使用されていませんよ。」
「ってことは水を張る事は出来るよな?」
「恐らくは。まさか、何かされるんですか?」
そのまさかだ。
これだけの量があれば原価なんて銅貨1枚以下、労力はかかるが駆除した恩もあるしそれを使ってお手伝いしてもらうとしよう。
なんだ、案外近くに最高の素材があるじゃないか。
俺はニヤリと笑うと、ガレイと肩を組み俺のたくらみをそっと耳打ちするのだった。
13
お気に入りに追加
360
あなたにおすすめの小説
役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~
延野 正行
ファンタジー
第七王子ルヴィンは王族で唯一7つのギフトを授かりながら、謙虚に過ごしていた。
ある時、国王の代わりに受けた呪いによって【料理】のギフトしか使えなくなる。
人心は離れ、国王からも見限られたルヴィンの前に現れたのは、獣人国の女王だった。
「君は今日から女王陛下《ボク》の料理番だ」
温かく迎えられるルヴィンだったが、獣人国は軍事力こそ最強でも、周辺国からは馬鹿にされるほど未開の国だった。
しかし【料理】のギフトを極めたルヴィンは、能力を使い『農業のレシピ』『牧畜のレシピ』『おもてなしのレシピ』を生み出し、獣人国を一流の国へと導いていく。
「僕には見えます。この国が大陸一の国になっていくレシピが!」
これは獣人国のちいさな料理番が、地元食材を使った料理をふるい、もふもふ女王を支え、大国へと成長させていく物語である。
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
裏でこっそり最強冒険者として活動していたモブ職員は助けた美少女にめっちゃ見られてます
木嶋隆太
ファンタジー
担当する冒険者たちを育てていく、ギルド職員。そんなギルド職員の俺だが冒険者の依頼にはイレギュラーや危険がつきものだ。日々様々な問題に直面する冒険者たちを、変装して裏でこっそりと助けるのが俺の日常。今日もまた、新人冒険者を襲うイレギュラーから無事彼女らを救ったが……その助けた美少女の一人にめっちゃ見られてるんですけど……?
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。
ちょす氏
ファンタジー
あ~めんどくせぇ〜⋯⋯⋯⋯。
不登校生徒である神門創一17歳。高校生である彼だが、ずっと学校へ行くことは決してなかった。
しかし今日、彼は鞄を肩に引っ掛けて今──長い廊下の一つの扉である教室の扉の前に立っている。
「はぁ⋯⋯ん?」
溜息を吐きながら扉を開けたその先は、何やら黄金色に輝いていた。
「どういう事なんだ?」
すると気付けば真っ白な謎の空間へと移動していた。
「神門創一さん──私は神様のアルテミスと申します」
'え?神様?マジで?'
「本来呼ばれるはずでは無かったですが、貴方は教室の半分近く体を入れていて巻き込まれてしまいました」
⋯⋯え?
つまり──てことは俺、そんなくだらない事で死んだのか?流石にキツくないか?
「そんな貴方に──私の星であるレイアースに転移させますね!」
⋯⋯まじかよ。
これは巻き込まれてしまった高校17歳の男がのんびり(嘘)と過ごす話です。
語彙力や文章力が足りていない人が書いている作品の為優しい目で読んでいただけると有り難いです。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
俺の召喚獣だけレベルアップする
摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話
主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った
しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった
それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する
そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった
この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉
神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく……
※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!!
内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません?
https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる