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980.転売屋は宝くじを売る

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陛下が街を去り、またいつもの日常が戻ってきた。

いや、陛下が来ていても冒険者はいつもどおりだったが俺は仕事をセーブしていたのでその分が一気に押し寄せてきたって感じだ。

しかももうすぐ月末。

このまま仕事に殺されるんじゃないかって言う量をこなしながら、新たに舞い込んでくる依頼や仕事をこなす日々。

女達が居なかったらこんなにまじめに仕事することはなかっただろう。

一人で食っていくだけなら買取屋だけで十分だし、そもそもめんどくさがり屋の俺がこんなに仕事をしていること自体がおかしな話だ。

適度に働いて適度に休む、それを実現する為にあれこれと手を広げて不労所得を増やそうとしているのだが、現実はそうあまくないんだよなぁ。

やれやれだ。

「随分お疲れですね。」

「おかげさんで明日にも過労死しそうな勢いだよ。冒険者がまじめに働くとろくなことにならないな。」

「あら、いいじゃなたまにはまじめに働いても。」

「そう思うならギルドも買取価格を上げてくれ、いい加減うちだけで吸収しきるのには限界があるぞ。この前の改良計画はどうした。」

「もちろんやった上での結果がコレよ。買取の効率化はしているし、価格だって随分と高めに設定しているわ。でも結局はシロウさんのところにいっちゃうのよねぇ。」

それを仕事不足だといってやりたいのだが、冒険者にもギルドは仕事が遅くて価格が安いって思い込みがあるから、まずはその辺から変えていくしかないんだろうなぁ。

チャリティの結果が上がってきたということで仕事を切り上げてギルド協会へ。

オークションを含めかなり盛り上がっただけに、それなりの金額が集まったのは間違いないだろう。

そのほとんどを町の福祉に使うという約束だ、これで孤児院だけでなく他の部分にもお金を回すことができるはず。

セーフティーネットがあるからこそ人は安心して働けるというもの。

特に命の危険と隣り合わせの冒険者からしてみれば、もしもに備えられるというのは安心だよな。

「まぁまぁ、その辺は両者でしっかり話し合ってください。それじゃあ報告をはじめたいと思いますが、まずは手元の資料をご覧ください。」

参加者はいつもと同じくギルド協会から羊男、冒険者ギルドからニア、俺とミラ、そしてアナスタシア様。

他、各ギルドの関係者が大きめの会議室に集まっている。

コレだけの人数を集めるのは正直珍しい、それこそ年末に行われる感謝祭の打ち合わせのときぐらいじゃないだろうか。

「シロウ名誉男爵の発案で行われた今回の武闘大会とオークションですが、この街だけではなく近隣の村や町からも来訪頂き非常に多くの方々に楽しんでもらえたようです。大会中の出店売上げは平均して金貨1枚を超えており、店によっては金貨5枚を達成している店もございました。今回の出店に関しては、売上げの一割をチャリティとして街の福祉事業の資金に充てさせていただくことになっており、大会終了後のオークションも同様に落札価格の一割から二割をそちらの資金に回すことになっておりました。その結果がお手元の資料に記載されているのですが、なんていうか多すぎますよね。」

「これ、集金済みなのか?」

「もちろんです。」

「やりたいことを全部やっても余裕でお釣りが出てくる金額だな。」

4枚つづりの書類には、各出店の詳細な売上げ額と寄付額やオークションにて取引された商品の寄付額がこと細かく記載されていた。

お金に関わることだけにここまで徹底するのはむしろ当然なことではあるのだが、集計するほうも中々に大変だっただろう。

書類の最後に記載された合計額は総額金貨42枚。

その半分以上がオークションによってもたらされたものだ。

孤児院の不足金や婦人会への補助、保育所や病院への追加予算などを加味しても半分は残る感じだろうか。

残った金貨20枚もの大金をどうするか、それを決める為にコレだけの人数が集められたというわけだ。

「ローランド様にも確認を取りましたが、余剰分を街の予算に組み込むつもりはないとの事ですので、これを別の用途で消費しなければなりません。どこかの基金に入れれば他の場所にもという話にもなってしまいますので、気持ちよく使ってしまうのがいいでしょう。とはいえ集めた方法が方法なので、いい案が浮かばなくて。公平に使える方法をお考えいただけないでしょうか。」

「公平か、そこが面倒だな。」

「だが集金方法が集金方法だけの金を別の用途につぎ込むのはそれなりの理由が必要だぞ。」

「いっそのこと配ったらどうだ?」

「それは家族か?個人か?家族なら子供が多い家はどうなる。それは公平といえるのか?」

「そこに労働者は加えるのか?」

早速参加者が熱い議論を交わしている。

チャリティ名目で集められた金だけに冒険者の酒代に使うわけにはいかないし、かといって備蓄に回せば結局その金をプールすることになってしまう。

良い言い方をすれば棚ボタ、悪い言い方をすればあぶく銭。

本来あるはずのないお金だからこそ思い切った使い方をすればいいと思うんだが、公平という部分がむずかしいんだよなぁ。

「シロウ様。」

「どうした、ミラ。」

「食糧配給ではダメなんでしょうか。先にはなりますが冬になれば燃料も使いますし、そういったものを纏めて渡せば問題ないと思うんですが。」

「それが一番簡単なんだがやろうと思えばどんな金でも出来るんだよな。今回はチャリティで集まった金って部分が重要だから正直絶対公平じゃないとダメって訳ではないと思ってる。」

「え、どうしてですか?」

「そもそも最初の使用用途から公平じゃないんだよ。集めた金を孤児院や婦人会に回して、他の所には一切渡していない。もちろんそうする為に集めた金なんだからそれでいいんだが、つき詰めれば公平じゃないんだよな。」

確かに、とミラが小さくうなずく。

本末転倒な話になってしまうのだが、特定の人達の為に金を使うのは果たして公平といえるのか。

それなら給付金という形で一律の金額を配ったほうが確実だろう。

もちろん労働者にも配る。

ある一定の日付を対象に、この街に居る人全員に配ればひとまず公平という名目は達成できる。

でもそれだけじゃ面白くない。

金をばら撒くのは誰にでもできることだが、それならいっそのこと配る行為自体を遊びにしてしまえば良い。

「シロウさん、その顔は何か思いつきましたね。」

「相変わらず鋭いな。」

「そもそもこのお金を集めたのはシロウさんな訳ですし、何をするか決める権利はありますよね。それで、何するんです?」

「思いついたばかりで形にすらなってないんだが・・・。」

とりあえず思いついたまま発表してみる。

話しながらも悪くないのではと思っているのだが、他の人がどう思うかは未知数だ。

「宝くじ、ですか。」

「ようはこの金を消費すればいいんだろ?なら参加したい人たちから金を取って、当たった分を上乗せして返せば良い。購入すれば最低でも購入分プラスα帰ってくるとなれば、やりたい奴はやるだろうし興味がない奴は買わなければ良い。公平に金を配ったところでもらえる金額はたかが知れてる、それなら金が欲しい人は参加するやり方にすれば配れる金額も多くなるだろう。」

「確かに参加すればもらえるとなれば公平ではあります。でも、さっきの話じゃもっと高額が当たる人もいるんですよね?」

「そうじゃないとただの換金だし、なにより面白くない。もしかしたら当たるかもという気持ちでクジを買って、当たれば大喜び外れても最低限のプラスは確保できる。当たりの本数を増やすかそれとも金額を増やすかは今後の話し合いでいいだろう。ちなみに、当たったときに渡す金はチャリティで稼いだ分の金だけな。」

「え、購入分は違うの?」

さすがニア、そこにすぐ反応するとは流石だな。

スルーされたらどうしようかと思っていたところだ。

「今回の目的は余剰金をどうするかだろ?購入分を返還してたら消費するのにかなりの量が必要になる。だから、額が多かろうが少なかろうがそこから金を出せばちゃんと公平に金を使ったことになるだろう。だよな、シープさん。」

「確かにそこからお金を出せば参加者全員に公平な分配をしたといえるでしょう。じゃあクジを買った金はどうするんです?」

「そんなの決まってるさ、好きなことにパーッと使うのさ。」

「「「「「「えぇぇぇぇぇ!!!」」」」」

参加者全員が同じ反応をするのは中々に面白い。

もちろん横で話を聞いていたミラも同じ反応をしている。

「原点に戻るが、公平にってのはあくまでもチャリティで稼いだ金だからだろ?この考えに賛同してくれた人達から回収した金だけに使用用途はどうしても限られてしまう。だが、クジを買う金はあくまでもそれに参加するための費用であってチャリティに賛同したわけではない。例えば銅貨10枚でこのクジを買えるとして、それを買うときに貧困者への支援がなんて考えながら買うと思うか?」

「いえ、お金が当たったらいいなと思っているかと。」

「だろ?そんな崇高な理念で集めた金ではなく、もっと俗物的な思考で集められた金だ。それをどう使おうが誰も文句は言わないさ。まぁ、こっちもそれなりの額になりそうだから私利私欲の為に使うのは流石にまずいだろう。それなら、来るべき感謝祭で振舞う酒や肉代に使うとか最初から公言しておけば文句を言うやつも出てこないはず。買えば買うだけ感謝祭の時に食える肉のグレードが上がり、酒もよくなるとなればみんな喜んで買ってくれるに違いない。街は感謝祭の支出が減り、俺たちは買った以上の金を手に入れることが出来る。悪くない案だと思うんだがなぁ。」

「毎度の事ですがよくまぁそんなせこいこと考えられますよね。」

「誰がせこいだ、誰が。」

「シロウさんですよ。あ、一応褒め言葉ですから。」

絶対嘘だろ。

いきなり詰め込んだ案を発表したので参加者全員が一度で理解できたとは思っていないが、ここからもっと話を詰めていけば俺が思っていた以上の結果が生まれるかもしれない。

俺はあくまでも素案を出しただけ、ここからどれだけ肉付けしていけるかがみんなの喜びに繋がっていく。

もちろんやるからには俺も儲けさせてもらわないとなぁ。

流石にクジにかむ事はできないが別の部分でその金を得ることは出来る。

やることは簡単、グレードアップした酒を用意して集められた金で買ってもらえば良い。

そろそろ感謝祭で出す肉や酒のトレンドが発表される時期だし、その辺のアンテナをしっかりと張ってしかるべきときに備えるとしよう。

その後も話し合いは続いたが、ひとまず俺の宝くじ案が採用される運びとなった。

まずは一歩。

ここからどれだけの金を引っ張り出せるのか、楽しみだなぁ。
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