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970.転売屋は魔物の襲撃を受ける

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「第一部隊は東門に整列!第二部隊は南門、その他は巡回の上防衛に当たれ。一匹たりとも街の中に入れるな!」

「「「「はっ!」」」」

「冒険者は東門に集合、畑と門を死守するわよ!」

「「「「おぅ!」」」」

聖騎士団と冒険者達の勇ましい声が夏の空へと響き渡る。

斥候の情報によると魔物の到着まで後30分程。

この世界じゃ魔物の襲撃なんてよくある話で、この世界に来てもう二度程魔物の襲撃を受けそれを撃退している。

普通の農村とかならともかくここは魔物との戦いを常にしているダンジョン街。

魔物と戦い慣れている冒険者だけでなく、今回は聖騎士団まで駐在しているんだ。

今回も問題なく対処しきってしまうだろう。

なんせ楽しみにしていた武闘大会を邪魔されたんだ、その鬱憤は計り知れる物ではない。

それでも、まるでこの日を狙ったかのような魔物の襲撃に思わず大きなため息が出てしまう。

はぁ、なんでこうなるんだまったく。

忙しそうに騎士団員と冒険者が動き回るのを、臨時の詰所で陛下と共に静かに見守る。

「この襲撃もお前が手配した物ではあるまいな。」

「まさか。」

「冗談だ許せ。」

「襲って来るのはごくありふれた魔物、ドラゴン種の姿もありませんのでこの街の冒険者だけでも対処できますが今回は聖騎士団もおりますので問題なく対処できるかと。」

「と、元団長は言っているし問題はないんだろう。」

「むしろ魔物との集団戦闘など手配できるものではありません、良い経験になるでしょう。」

普通魔物の大群に襲われるというととてつもなく大変な事になりそうなものだが、アニエスさんに言わせれば訓練の一環として扱われてしまうようだ。

拡張工事のおかげで簡易とはいえ新しい防壁が作られているし、そこを破られても武闘大会の会場や従来の城壁などがあるので西門と南門は守りやすいと言える。

いや、戦いやすいと言うべきかもしれないな。

問題があるとすれば東門の方だろう。

情報に寄れば魔物の数は少ないものの、ここには畑もあるし城壁は一枚だけ。

特に畑は夏野菜が大量に実っているだけでなく、貸し畑の方もあるので守る範囲がどうしても広くなってしまう。

北側はまぁカニバフラワー達がいるのでそこまで守る必要はないかもしれないが。

「この前みたいにディーネがいてくれたら薙ぎ払ってくれるんだが、こんな時に限っていないんだよなぁ。バーンの姿も見えないし地下にいるのか?」

「ガルグリンダムの姿も見えんな。まったく、国主の一大事だというのに女にうつつを抜かしをって。」

「元々恋仲だったらしいし積もる話もあるんだろう。それに彼らに頼らなくても十分に対処できるとのお墨付きもある。まぁ、負傷者はそれなりに出るだろうが幸いポーションなんかの備蓄は豊富にあるから、安心して戦ってもらってくれ。アニエスさん陛下の警護は任せた、俺は冒険者達の様子を見て来る。」

「では陛下参りましょう。」

「なんだ、奥に引っ込むのか?」

「いえ、シロウ様所有の北側倉庫に移動します。あそこであれば戦場も良く見えるでしょう。」

「わかっているではないか。」

何度も満足げな顔をして陛下はアニエスさんと共に街の北側へと移動を始めた。

街が魔物に襲われるというのに国王陛下は高みの見物ですか。

まぁ、あそこは頑丈だし何かあっても命を守ることは出来るけどさぁ。

今回襲って来るのはこの辺で見かけるごくありふれた魔物、城壁を突破されることは無いと思うのだが念のために住民達にも北側へ避難するようにお願いしている。

陛下の近くには近衛兵も多いし、街の中に残っている冒険者もそれなりの数がいる。

仮に突破されたとしても壊滅することはまずないだろう。

人の少なくなった大通りをつっきり、東門へ。

そこには溢れんばかりの冒険者達が武器を手に戦いの時を待ちわびていた。

魔物の集団に怯えることなくむしろ待ち構えているなんて、相変らず血気盛んな連中だなあ。

「あ、シロウじゃない。こっちに来てくれたんだ。」

「陛下の警護にはアニエスさんがついてくれているし、それに俺がいた方が気合が入るだろ?」

「ふふ、わかってるじゃない。」

「お、ウーラさんも来てくれたのか。」

「ウヒサルビサフニウウデルガフナウリルマフス。」

自前の武器を手に目をキラキラさせたウーラさんがエリザの隣で頭を下げる。

ギラギラじゃなくてキラキラな。

よほど戦えるのがうれしいと見える。

エリザ同様脳筋かつ戦闘狂の二人が居る上にこれだけの人数がいれば畑まで侵入されることは無いだろう。

冒険者と言っても前衛職ばかりではなく、城壁の上には多数の弓使いや魔術師をはじめ遠距離武器の遣い手が待ち構えている。

おそらくは最初の斉射で半数以上を撃退できるはず。

後ろを振り返ると、並んでる冒険者の列の中にキキとハルカの姿も見えた。

手を振ると元気よく手を振り返してくる。

なんていうか、魔物が襲ってくる悲壮感なんてまったくなくてどっちかっていうとお祭りのような騒ぎだなこれは。

ならばそれを盛り上げるのもまた俺の仕事か。

門を出てそのまま冒険者を追い越し、くるりと反転。

突然現れた俺に彼らの視線がまっすぐ突き刺さる。

「みんなよく聞いてくれ、こっちに向かってきているのはワイルドボアとロングホーンの集団だ。動きはそんなに早くなくてもその巨体に踏まれればひとたまりもない事は分かっていると思う。」

俺の言葉を聞いて『何をいまさら』、そんな風に思っているだろう。

確かにその通りだ。

ここに集まった精鋭たちは普段からダンジョンの中でもっと強い魔物と戦っているんだから。

「だが、彼らは肉だ。巨大な肉の塊であり、ついでに売れば金になる角と皮を持っている。俺達の大会をダメにした腹いせに今日は肉祭りと行こうじゃないか。それと、素材はいつもの二割増しで買い取りさせてもらおう。金と肉が自分からやってきているんだ、さっさと終わらせて聖騎士団の分も分捕ってやろうぜ!」

「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」

そうだ、これはお祭りだ。

祭り好きの冒険者がそれを聞いて燃えないわけがない。

さっき以上にテンションを上げた冒険者達の声が夏の空に響き渡る。

全く都合のいい話ではあるのだが、折角こんなイベントを用意してくれたのならばそれに乗っからない理由はないだろう。

肉の食べ放題に加えて素材の二割り増しは火に油どころかガソリンを投入した勢いで、冒険者達をたきつけることに成功したようだ。

ここが終わればまだ南と西にも獲物が待っている。

あれ、聖騎士団が剥ぎ取った分は個人に金を支払っていいんだろうか。

一応給金的なものは出ているはずだが、一度回収して聖騎士団に支払いするとかそういう縛りがあるのかもしれない。

後でホリアに確認しておこう。

今頃向こうで陣頭指揮を取っているはずだ。

まったく、向こうもまた戦闘狂みたいなもんだな。

地平線の向こうに土煙が見える。

南門西門の方からも騎士団員の鬨の声が聞こえて来た。

さぁ、お祭り騒ぎを始めようじゃないか!


「第四射、後方集団に向かって・・・放て!」

「素材は欲しいが今は数を減らすことが先決だ!消し炭にしてもいい、範囲魔法でぶっ飛ばせ!」

「弾幕薄いぞ!何やってんだ!」

「うるせぇ!文句があるならさっさと残党を潰しやがれ!」

手元の砂時計を確認するに魔物の襲来からはや10分が経過した。

当初の予定通り、第一波は遠距離攻撃により大多数が被弾。

それでも足を止めなかった残党を近接職が悠々処理するという最高の流れで第一波を処理することが出来た。

この分だと早々に肉祭りだなと誰もが思ったのもつかの間、第一波を上回る数の魔物が地平線の向こうから姿を現したのだ。

もちろんそれも織り込み済みなので、第一波同様に迎撃してからの殲滅を行えばいいだけだったのだが、数が違いすぎた。

最初の倍、いや三倍はあろうかという魔物が波のように押し寄せ続ける。

流石にそのぐらいで終わるだろうと思っていた冒険者は慌てたものの、前線で踊るように武器を振るうエリザとウーラさんに鼓舞されて何とか体制を立ちなおすことに成功した。

聖騎士団の伝令が何度か状況報告をしに城壁の上を走ってくるが、どうやら向こうも同じ状況のようだ。

まったく、なんでこんな数の魔物が襲って来るんだよ。

てっきり集団暴走(スタンピート)かと思ったのだが、どうやらそういう感じでもない。

気が狂っているわけでもなく、どちらかというと何かに追われて突っ込んできているという感じがするんだよなぁ。

なんていうか街を襲いにきたっていう感じじゃない。

なぜなら、何匹か取り逃した奴が城壁に突っ込んでくるわけでもなくそのまま壁に沿うように走っていってしまったからだ。

まぁ、上からの攻撃で処理はされていたが逃げた先にこの街があったっていう感じは否めない。

うーむ、わからん。

「まずいな。」

「まずいですね。」

「アニエスさんは?」

「陛下のそばを離れて西門に向かわれたそうです。向こうはブラックウルフの群れが襲ってきているようですので、アニエスさんが居ればある程度対処できます。」

「あぁ、だからルフとレイも走って行ったのか。」

さっき畑の北のほうへ走っていくのが見えたのでてっきり魔物がきたのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。

なんとか魔物を押しとどめてはいるものの、状況が改善しなければジリ貧だ。

機械でも傷みが出るように人間にも疲労が存在する。

幸い死者は報告されていないが、けが人が増えていることから疲れが出ているのは間違いないだろう。

治癒魔法の使い手とポーションの運搬が途絶えれば最悪の事態も起こりかねない。

誰だよ、楽勝とか言ったやつ。

俺か?

「第四射着弾を確認!敵数半減、後続は・・・見えません!」

「今がチャンス、全員気合入れるわよ!」

「「「「おぅ!」」」」

エリザの声に反応して冒険者の動きが再び勢いを増す。

なんとかやり過ごすことが出来そうだが、ほかの所は大丈夫だろうか。

「伝令!南門に第四波到達予定、至急応援を!」

「動ける奴はそのまま南門へ走れ!エリザ、死ぬなよ!」

「まっかせといて!」

こっちは何とかなりそうだ。

城壁の上を走って移動し、冒険者と共に南門へと移動する。

どうやらこっちの魔物はサバンナコボレートの集団だったようだ。

こいつら肉も皮も使い物にならないから街道を移動するときもよく放置されるんだが、その分が襲ってきているのかもしれない。

あたり一面血と死骸の山。

流石聖騎士団というべきだろうか、ある一定ラインよりも後ろには死骸も血も広がっていないのだが、その動きには緩慢さが出てきている。

疲労の色は濃いようだ。

「全員準備が出来次第、第四波に向かって攻撃を始めてくれ、出し惜しみは無しだぞ!」

「「「「はい!」」」」

俺もスリングを取り出し、広範囲を攻撃できるボムツリーの実を襲い来る魔物の群れに向かって打ち続ける。

当てる必要なんてない、数を減らすことだけを優先しなければ。

到着が若干遅れた為、波の先陣を削ることは出来なかったが、後方はあらかた処理できた。

後は到達した分を処理してしまえば・・・。

「ん?おい、あそこに誰か居るぞ!」

冒険者の誰かが戦場となった南門の一箇所を指差した。

そこにいたのは騎士団員・・・ではなく、長い棒を持ったおそらく男性。

しかし、その体は騎士団員が身につけているはずの鎧に守られていなかった。

おそらく冒険者だろうか、襲いくる魔物をすさまじい棒捌きでいなしてはいるもののいかんせん数が多すぎる。

周りを囲まれ、後ろから飛び出してきた一匹への対処が遅れてしまった。

「危ない!」

そういうよりも早く、俺の横から目にも留まらぬ速さで何かが飛び出し、その魔物の頭を横から貫いた。

慌ててそっちを見ると、ハルカが次の矢を番えている。

戦いはまだ終わっていない。

気付けば、もうお祭り騒ぎとはいえない状況になってしまっていた。
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