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966.転売屋はパインを売りまくる

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「さぁ、珍しいパパパインアップルの大安売りだ。食べてよし、飲んでよし、今までの常識が一気に変わるぞ。これを期に新しい世界を見てみないか?」

パンパンと手を叩き近くを歩く人たちの視線を集める。

店先に置いたのはまだ何も手を加えていないパパパインアップル。

一見すればダンジョンで見つかるものと同じだが、俺が店を出しているというだけでぞろぞろと人が集まってくる。

この世界にいた時は客寄せにもずいぶんと苦労したものだが、まぁそれだけ街に顔が売れたってことだな。

「ただのパパパインアップルだろ?何が違うんだ?」

「デカさだろ。」

「ただデカいだけじゃないか、あれ不味いよな。」

「そうなのか?」

「なんだよ食った事ないのかよ。」

早速現物を見たことがある冒険者から指摘が入る。

そう、この街・・・というか、この地域での常識では小さくてあまり美味しくない。

しかしそれもここまでだ。

彼らの目の前でそれを一気に変え、勢いで売りさばくのが今回の作戦。

その為に二日も掛けて準備したからな、失敗は許されない訳じゃないが売れると豪語したからには売らなければならない。

隣では目を輝かせて彼が俺を見つめている。

「ただのパパパインアップルだと思うなよ、ダンジョンで手に入るのは偽物とは言わないが本来の姿じゃない。野菜に旬があるように果物にも旬がある、それがこの姿ってわけだ。まぁ見てもらった方が早そうだな。エリザ、やってくれ。」

「おっけー!みんな離れた方がいいわよ、すっごいから。」

店頭のブツを横に寝かせ、処刑執行人の如くエリザが斧を振りかぶる。

気合一閃、降り下ろされた斧は的確にパインの頭から数センチの所を切り落とした。

途端に噴き出す多量の果汁。

これが西瓜的な奴であれば真っ赤な果汁に卒倒する人もいただろうが、少し黄色味掛かった透明なもの。

地面に軽く水たまりを作ったのち、そこから一気に甘い香りが広がっていく。

「何だこの甘い香り!」

「凄い水分、ダンジョンのやつとは全然違うぞ。」

「でも美味いのか?」

「なんか、水っぽいだけな気がする。」

「まぁまぁ、そう思うのはもちろんだ。とりあえず切り分けるから一口食べてみろって。」

お尻の部分も切り落としてもらい、この二日で随分と慣れた手つきで切り分けていく。

今切り分けている一個は客寄せのためのエサ。

銀貨4枚を使ってその何倍もの利益を出すためには必要な経費だ。

何事も体験しない事には始まらない。

マグロの解体ショーもそうだが、切り身がただ並んでいるよりも実際に目の前で切り分けた方が同じ値段でも何倍も売り上げが変わってくるんだから不思議だよな。

つまようじを刺して目の前に集まった客にふるまっていく。

さぁ、どんな反応してくれるんだ?

「美味い!なんだこれ!」

「甘いのに酸っぱくて唾液が中からあふれてくる!」

「最高の食レポどうも有難う。まだ食べたいか?」

「食べたい!」

「ちなみにこれ一房で銀貨1枚だ。」

「え、高・・・。」

まぁ、そういう反応だよな。

ある程度金が回っているとはいえ、8個しかのっていない一房が銀貨1枚。

俺からすれば倍の値段で売れるのでもう少し値下げする事も出来るのだが、これはあくまでも餌。

それもさらに利益を上げる為の重要な餌だ。

「まぁ、そう思うよな。美味いがあまり冷えてないしこの量でこの値段。だが、これを食べると別物になるぞ。」

「別物?」

「キキ、保冷箱から冷凍したやつを持って来てくれ。」

今回の店番は俺とエリザそれとキキの三人。

冒険者相手の商売になりそうなので、顔が知れている二人にお願いすることにした。

ヒートゴーレムの装甲で作られた特製保冷箱。

本来は保冷用の木箱に組み込んだ大型のを運用しているのだが、色々と使い道があるので今は小型化に取り組んでいる。

本来は小さくした装甲を張り合わせる事は難しいのだが、前回偶然手に入れた金の針。

バーンの鱗をも貫通するあの針を使えばゴーレムの装甲もまるで布を縫うようにして簡単に張り合わせることが出来た。

冷気が逃げないようにアイススライムの核を間に噛ませ、更に縫い糸にアラクネの糸を使うという豪華仕様だがそのおかげで雪妖精の結晶が無くても氷を入れているだけである程度冷やすことに成功。

今回クーラーボックスサイズの保冷箱を実戦投入したというわけだ。

キキが持ってきたのは通称棒パイン。

ただ単にパインを切り出して真ん中に棒を差しただけのシンプルな奴だが、加工した後ダンジョン冷凍庫と化した氷壁でカチンコチンに凍らせてある。

保冷箱がかなり優秀なのでいまだカチコチのままだ。

「この暑さの中カチコチに冷えたこいつは最高に美味い。ちなみにこっちも銀貨1枚だが、どうする?」

「そっちをくれ!」

「俺もだ!」

「毎度あり、まだまだ在庫はあるから並んでくれ。」

まだ昼前とはいえ太陽は高く上り、上からだけではなく地面からもじりじりと熱が上がってくる。

そんな中でこんな冷たいものを出されたら我慢できるはずがないよなぁ。

ちなみに、一個のパパパインアップルから棒パインが12本取れる。

加工の関係上一房で食べるよりも量が少なくその分本数が取れるので、今回のメインはこっちの方。

冷凍庫から運んでくる費用もさほど高くないので、普通に売るよりも十分利益を出すことが出来る。

とはいえ、これだけでは面白くないのでもう一手間加えてみよう。

見た感じ並んでいるのは男性冒険者がほとんど、女性もちらほら居るが彼女達は冷たさとかよりも別の部分で攻めた方が反応がいいんだよなぁ。

「こっちには、切ったパインとマジックチェリーの詰め合わせもあるわよ。中にメロンメロンの果汁が入ったゼリーが入っているから個人的にはこっちがお勧めね。」

「それください!」

「あ、私も!」

「一杯あるからこっちも並んでね。」

エリザの売込みに女性冒険者がごそっとそっちに並びだした。

棒パインを作る過程で出来る端切れに同じく旬のマジックチェリーを組み合わせて小さなプロボックスに入れてある。

量で言えばこっちの方が大分少なく、チェリーの方が原価が安い。

なので同じ銀貨1枚でもこっちの方が利益は多いのだが、箱代とかを考えればとんとんってかんじだろうか。

それでも獲得できない女性客をしっかり確保できていると思えばプラスは大きい。

結局どちらの在庫も昼前には完売してしまった。

冷凍パインが30個分、ノーマルが5個に詰め合わせが10個分。

残り5個は自宅用と研究用で消費してしまった。

とはいえ買い付け費用が金貨2枚に対して、今回の売上げはしめて金貨5枚。

そこから加工や搬送の経費を差し引いても金貨4枚は残るので、利益は金貨2枚って所か。

大儲けをするにはちょいとばかし数が足りなかったが、三日でこの利益ならぼちぼちって感じだろうか。

買えなかった客に頭を下げながら最後の客を見送る。

「あー、疲れた。」

「お疲れ様でした。」

「それで?どうだった?」

「流石といいますか、仰っておられましたように私には真似できそうにありません。」

「シロウのやり方はなんていうか、突拍子もないから。だから真似するのは難しいわよ。」

「だと思います。ですが、真似できる部分もありましたので今後の参考にさせてもらおうと思います。」

終始目を輝かせたまま俺達の販売を眺めていたが、一応得るものがあったようだ。

後は彼がそれをどう活用するのか。

そこは俺の関知する部分ではないので好きにしてもらえればいい。

「それは何よりだ。ちなみに、こいつらを追加で仕入れることは出来るか?」

「今が旬ですからもちろん可能です。」

「なら追加で100個頼みたい。南方商人の知り合いは他に居るんだがせっかくなら縁のある人の方が何かと都合がいいだろう。その馬車なら出来るよな?」

「ありがとうございます!」

めんどくさい訪問を仕事だからという理由でスルー出来ただけでなく、こうやって金を運んできてくれただけで十分リピートする理由になる。

この反応なら倍、いや三倍仕入れても十分に売りさばくことが出来るだろう。

もちろんそれを加工するのは大変だが、幸いにも冷凍してしまえばそれなりに日持ちさせることが出来るので無駄になることはない。

なんせ俺が好きだからいつでも食べられるという安心感は絶大だ。

保冷箱が優秀だからこそ出来る技、いやー技術の進歩ってのは偉大だなぁ。

「お姉ちゃん片付け終わったよ。」

「二人共ご苦労さん、後は俺がやるから後は好きにしていいぞ。これ、報酬な。」

「こんなにたくさんいいんですか?」

「いいのよ、シロウが決めたんだから。」

「じゃあ遠慮なく。お姉ちゃん、あっちに串焼きのお店が出来ているんだって。」

「いいわね、行きましょ。」

報酬は銀貨10枚。

たった数時間でこの儲けは中々なものだろう。

まぁ、身内だからってのもあるが今後は外注も視野に入れるつもりだ。

期間限定とはいえ、稼げるときに稼ぐのが俺のやり方。

加工は簡単だし氷壁からの運搬もさほど難しくないのでやろうと思えば冒険者でも出来る。

材料の供給と保冷箱のレンタル代だけでもそれなりの儲けをだせるだけに、どこまで首を突っ込むかが問題だな。

丸投げすれば儲けは少なく、首を突っ込めば手間が増える。

さぁてどうしたもんかなぁ。
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