上 下
965 / 1,027

962.転売屋はトトマトを食べる

しおりを挟む
「いやー、なんていうか今回も壮観だな。」

「恐れ入ります。」

アグリに呼び出され畑へいくと、そこにあったのはたわわに実った夏野菜。

どれも自重で倒れてしまうんじゃないかってぐらいに巨大な実をつけ、収穫の時を今か今かと待っている。

いつものことだが、ここの畑はまじでヤバいな。

いくら肥料を与えているとはいえ作物を植えればどれも豊作。

まぁ芋の病気とかは確かにあったが、それでも大きな被害は出ていない。

農業を生業にしているアグリも最初は驚いていたのだが、いまじゃ当たり前のようにそれを受け入れているようだ。

豊作なのはもちろんありがたいことなんだが、いったい何がどうなっているのやら。

「で、これ全部消費できるのか?」

「葉ものに関しては労働者が増えたことにより7割をここで消費出来る見通しです。残りに関しても氷を積めた保冷箱に入れて港町まで出荷できることがわかりましたのでそちらで引き取ってもらうことになっています。鮮度がいいと喜んでいたとガレイ様が仰っていました。」

「だから保冷箱が少なかったのか、相変わらず仕事が早いな。」

「今後は同じやり方で野菜を出荷する予定となっております。新たな販路を確保できましたので、更なる作付の増加も含めてシープ様を通じてローランド様に上申中です。また返答があり次第書面にてご報告いたします。」

何をさせても完璧なアグリだが、最近はいつにもましてやる気に満ち溢れている。

嫁さんを貰って家族も増えたから当然なのかもしれないが、ここを農業で繁栄させるつもりなんだろうか。

街が大きくなれば労働者も増えるし、そうなればアグリの計画も現実のものとなるだろう。

あまりに大きくなり過ぎてこの春から税金を掛けられるようになってしまったそうだが、むしろそれがスイッチになってしまった気もする。

それならどんどん大きくして更に儲けを出してやる!みたいな感じで。

「ルフとレイが居れば食害の心配もないからな。とはいえあまり大きくしすぎて失敗・・・はしないか、この畑なら。」

「そうなんですよねぇ。」

「ま、程程にたのむ。俺にできることがあるのなら遠慮なく言ってくれ。」

「有難うございます。では、早速お知恵をお借りできますでしょうか。」

待ってましたと言わんばかりの反応に思わず笑ってしまいそうになる。

まったくこの男と来たら、俺が次に何を言うかすら計画のうちってか。

アグリの相談と言うのは葉もの以外の夏野菜。

特にトトマトの出荷についてだった。

他の野菜と違って冷蔵での輸送と相性が悪いようで、ためしに送ったやつの中で唯一使えなかったそうだ。

街での消費も思ったように伸びず大量に在庫が余ってしまいそうなんだとか。

それにも関わらず畑では一番生育がよく、今後どんどん実が生っていくのは間違いない。

俺は好きだがあの青臭い感じがダメな人も確かにいる。

日持ちさせようと思ったら乾燥させるしかないんだが 

ただおいておくだけでは痛んでしまうしなぁ。

さて、どうしたもんか。

「それで、どうするの?」

「食べるしかないんだが、そのままじゃどう考えても消費しきれな
いんだよなぁ。みんなトトマト好きだったよな。」

「ジョンが苦手かもです。」

「た、食べられます!でもいっぱいはイヤかも・・・。」

シュンと俯いてしまったジョンの頭をキルシュが優しく撫でてやる。

別に無理矢理食べる必要はないんだぞとフォローしつつ皆でイロイロと案を出し合うのだがなかなかこれと言うものは出てこなかった。

強いて言えば煮込むぐらいだが、この暑い時期にスープは売れないだろうなぁ。

うーむ。

「シロウ様、少しよろしいでしょうか。」

「ローラさん、どうしたんだ?」

「冷凍用の肉ですが、風蜥蜴の皮膜を巻く際にかなりの端切れが出ているそうです。現状ではそのまま廃棄していただいているのですが、加工している奥様方から持ち帰っていいかとの問い合わせが来ておりまして。如何いたしましょう。」

「端切れかぁ。」

「廃棄するのももったいないですし、不要であれば賃金にプラスしてお渡ししても問題ないとは思います。」

確かに捨てるだけだし、使って貰えるのならば肉も喜ぶだろう。

そのまま炒めてもいいしミンチにすればハンバーグにもなる、端切れとはいえ色々使い道はあるしな。

「それでいいと奥様方に伝えてくれ。ただし喧嘩にならないように均等分するように。」

「その辺りはぬかり無いように致します。」

「よろしく頼む。」

それよりも今はトトマトをどう処理するかだ。

煮込むだけじゃ物足りないし、生のままは難しい。

いっそどこぞの祭りみたいに投げ合うかとかも考えたのだが、さすがにそれはもったいないので没になった。

食べ物を粗末にするのはよろしくないよな、やっぱり。

となると加工する必要があるわけだが・・・。

「セーラさん、ちょっと待ってくれ。」

「どうしました?」

「今日の分の端切れはまだ残ってるんだよな?」

「はい、まだ分けておりませんので。何かに使われますか?」

「とりあえず今日の分は回収して、明日から分けると伝えてくれ。」

ちょうどいいところにちょうどいいものがあるじゃないか。

回収した端切れはなかなかの量があり、運び込まれたトトマトと共に厨房にこんもりと山を作る。

これだけあればなかなかの量を作れるだろう。

「何を作るんですか?」

「せっかくトトマトがあるんだし、ミートソースパスタを作ろうと思ってな。」

「え、パスタ?てっきりシチューとかスープと思ったんだけど。」

「この時期にシチューはまだ早いだろ。それにこれなら大量生産できるから労働者の昼食にちょうどいいし、塩分もそれなりに摂れる。この時期は塩分不足で倒れることも多いし、肉を食べて元気を出してもらうつもりだ。」

トマトソースのパスタは数あれど、大量のトトマトと肉を消費するとなればこれしか思い付かなかった。

ミンチにしてしまえば端切れだろうが全く関係ないからな。

ストロングガーリックをエリヤから抽出した油で炒めて香りを出し、それにオニオニオンのみじん切りを投入。

色づいたところでミンチにした端切れをぶちこみ塩とペパペッパーで味を整えてからおまちかねのトトマトを投入。

火を入れるとなかなかの水分が出てきたので、ほぼ水無しでふつふつと煮込めるようになった。

さすがうちの畑で採れたトトマトだけあるな。

後は醤油を入れたり香辛料を加えて味を整えていくのだが、今回はここにとっておきを投入する。

「え、ソースですか。」

「あぁ、これをいれるとコクが出るんだ。まぁこっちは任せてそろそろパスタを茹で始めてくれ。もちろん少し芯が残るぐらいでな。」

「スパルティアですね。」

「まーあそんな感じで。」

それがアルデンテと同義語なのかは不明だが、芯が残るぐらいで伝わっているんだから大丈夫だろう。

パスタがゆで上がったところでエリヤ油を上から回しがけ、よく馴染ませてから最後にソースをかける。

上に乾燥させたオレガルニーノをかけたら完成だ。

「「「おいしい!」」」」

「大袈裟だなぁ。」

「食べたことあるのに食べたことない味になってる。」

「いやいや、ミートソースは前からあっただろ?」

味はもとの世界とは違うが前に何度か食べたことあるし、パスタそのものはごくあり触れたものだ。

確かに入れているものなんかは独特かもしれないが、決して珍しいものじゃない。

「でもスッゴい美味しいです。トトマトがあんなに入っているのに全然酸っぱくないですし、お肉もいっぱい入ってます。」

「僕これなら食べられる!」

「いやー、相変わらず料理人なんじゃないかっていう手際ですね。あのソースひとつでここまで変わりますか。」

「ウ、スゴイ。」

「誉めてもらって光栄だが、ただの料理好き程度だ。明日になれば二人がもっと美味しくしてくれるって。」

「これなら冒険者にも売れるわよ、ダンジョンの休憩所で出したらすぐに食べられるし喜ぶんじゃない?」

確かにダンジョンに中ならいくらでも肉を調達できるから端切れがなくても調理は可能だ。

冒険者はせっかちだし座ってすぐ食べられると嬉しいだろうなぁ。

問題は労働者用の肉か。

端切れは奥様方にって約束してしまったので別に用意しないと。

まぁなんとでもなるか。

「ご主人様、売り出すとしたらいくらにするんですか?」

「そうだなぁ
、トトマトはただみたいなもんだし他の食材と肉を買ったとしても一人前の原価はは銅貨5枚ぐらいか。なら15枚だな。」

「えぇ、とりすぎじゃない?」

「いいんだよそれぐらいで。」

高ければ売れないだけだし、そうなったらゆっくり下げればいい。

労働者はともかく冒険者はただの客。

そもそもこの街の物価から考えれば安いもんだ。

慈善事業じゃないんだしわざわざ安売りはしないぞ、俺は。

「では明日の昼までにパスタを用意しておきます。」

「じゃあお皿も要りますよね、あとフォークとスプーンも!」

「オリンピア、随分張り切っているのね。」

「だってお姉様、こんなに美味しいものが明日も食べられるんですよ!」

「気に入ってもらって何よりだ。そんじゃま明日に向けて準備をしていくとしよう。」

俺の急な思い付きにも女達は嫌な顔ひとつせず付き合ってくれる。

本当にありがたいことだ。

その応援に報いるためにもしっかり準備していかないとな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

処理中です...