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952.転売屋は朝顔を愛でる
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夏。
冬と比べておおよそ二時間ほど日の出が早くなる時期。
いつもならまだベッドの中にいる時間なのだが、ここ最近はこれを見るために日の出前に起き出している。
「さすがにこの時間は涼しいな。」
地平線がほんのりと明るくなってきた。
足元に絡んでくるルフが眠そうに大きく欠伸をしていた。
眠いなら寝てていいのに、律儀に毎朝付き合ってくれるんだよなぁ。
それともう一羽。
コッコが今か今かとソワソワしながらその時を待っていた。
「コケ?」
「まだ早いって。」
「コケ。」
「今日は・・・どうやら何か来たらしいな。」
畑の北側に移動すると、俺に気付いたカニバフラワー達が手?を大きく動かして朝の挨拶をしてくれる。
足元の地面は血に染まり、メロンメロンの実が鮮血を浴びたまま転がっていた。
また夜のうちにメロンに魅了された魔物が畑に近づき、カニバフラワー達の餌食になったんだろう。
合掌。
「カカカカ。」
「ババババ。」
「はいはい今日も元気だな。そして新入りも。」
新入り。
そう、俺はこいつを見に早起きしてここに来たんだ。
だんだんと空が明るくなり、地平線にオレンジ色の光が姿を現す。
「コケコッコー!」
光を浴び、コッコが大声で朝を知らせる。
今日も一日が始まった。
その時だ。
血に濡れた地面が陽の光を浴びて輝き始める。
が、それもつかの間、鮮血はみるみるうちに地面に吸い込まれてしまった。
ずずずず、という音が幻聴で聞こえたぐらいの減りの速さ。
そして、間髪を置かずカニバフラワーに絡んでいた何かが動き出した。
「カカカ!」
「おー、今日も見事なもんだ。」
「ワフ!」
「コケ!」
カニバフラワーの葉の部分には長い蔓が絡みついており、その蔓が見る見るうちに赤く染まっていく。
地面の鮮血を吸い込んだのは間違いなくこいつ。
その証拠に蔦の先にある蕾が見る見るうちに開き、鮮血のような赤い花を咲かせた。
『ブラッティーヴォリュビリス。魔物の血液を吸って花を咲かせる寄生植物の一種。魔物の巣や狩場に生息する事が多いので冒険者の中では危険を知らせる花としても知られている。太陽の光を浴びて目を覚まし地面の血を吸って鮮やかな赤い花を咲かせる事から、鮮血花とも呼ばれる。夏の間のみ種を作り、血を吸った種は多量の魔素を含んでいるので製薬用の素材として重宝される。最近の平均取引価格は銅貨50枚、最安値銅貨30枚、最高値銅貨88枚、最終取引日は本日と記録されています。』
鮮血花とは中々カッコいい名前だが、確かにこの色はカニバフラワー同様に美しい。
見た目は完全に朝顔。
夏の間に種をつけるという部分も元の世界と似たような感じだ。
小学生の頃夏休みの宿題で朝顔の観察をした記憶があるのだが、今も同じことをしているんだろうか。
あっちは綺麗な青紫色だが、もしこれと同じ色が咲いたらどう考えてもホラーだよなぁ。
泣くぞ、子供達。
「うーん、今日も綺麗だなぁ。」
「「「「カカカカ!」」」」
「わかったわかった、お前達も十分綺麗だって。」
これが最近の楽しみ。
太陽の光を浴びて一斉に花開くこいつを見る為に、わざわざ早起きをしているんだ。
まぁ、健康の為ってのもあるんだけど、あまりにも別の花を褒める物だから上のカニバフラワーが嫉妬して威嚇するように歯を鳴らしてくる。
まったく花の癖に嫉妬するなんてって、魔物だからそう言うのもあるのか。
「ワフ。」
「ルフも綺麗だぞ。」
ブンブン。
「コケ?」
「お前は綺麗っていうか可愛いの部類だよな。個人的にはもうすこし卵を量産してもらいたい所だが、仲間を増やすのも大変だしなぁ。というか、これ以上朝に鳴かれると近所迷惑だ。」
コッコだけでもかなりの音量なのに、これが複数になるとどうなってしまうんだろうか。
朝なんだから起きるのは当たり前と言われればそこまでだが、まぁこれはおいおい考えるとしよう。
カニバフラワーをなだめつつ朝顔の周りを確かめると地面に赤い種がいくつか落ちていた。
これこれ、これを探しに来たんだよ。
ヴォリュビリス種は一定量の魔素を吸収しないと種を作らないのだが、ここは毎日のように新鮮な魔物の血を吸収できるようでこうやって毎朝いくつかの種を回収できる。
この種がまた珍しく、そして金になるんだよなぁ。
「今日もご苦労さん、明日もよろしくな。」
ポンポンとカニバフラワー越しに花に触れて日課を終える。
「おはようございますシロウ様。」
「早いなアグリ。」
「陽の光を浴びると目が覚めてしまうものですから。」
倉庫まで戻ると大きく伸びをしながらアグリが家から出て来た。
俺が言うのも何だが毎朝早起きだよなぁ。
日の出と共に目を覚まし、日の入りと共に眠りに・・・は流石に言い過ぎだが、他の人に比べると眠るのも早い。
イメージとしては午後9時までには眠る感じだろうか。
「植物と同じだな。」
「あはは、違いありません。今日も落ちていたんですか?」
「あぁ、綺麗な花と一緒にな。しかしあいつら何処から来たんだ?」
「さぁ。図書館の本によりますと魔物の巣などに生えると書いてありましたが、どこから来るかまではわかりませんでした。種を産み出しますから何かに運ばれて来たと考えるべきでしょう。メロンメロンのおかげで様々な魔物が来るようになりましたから、餌食になった魔物の腹にあったのかもしれません。」
「ふむ、それはあり得るか。」
これまでは二・三日に一度のペースで魔物が餌食になっていたが、メロンメロンが来てからはほぼ毎日のように魔物が餌食になっている。
そのおかげでカニバフラワー達も艶々、産み出される種もいつも以上に多くなっているのはどれも金になるのでありがたい限りなのだが、大繁殖しないか心配でもある。
一応仲間?として認識されているので襲われる心配はないのだが、他の人間はそうじゃないだけに一般人に被害が出る可能性もある。
拡張計画後は人口も増えるし、今以上に囲いをしっかりする必要があるよなぁ。
「種は増血薬の材料になるんでしたね。」
「あぁ、持ち帰ったらアネットが大喜びしていた。値段が高いわけではないんだが、中々数が手に入らないらしい。それに、今は需要が増えているんだそうだ。」
「あまりうれしくありませんね。」
「だな。こっちは何か動きがあるのか?」
「日持ちする野菜や乾燥野菜の注文が前よりも増えています。とはいえ、微々たるものですのでうちみたいな畑ではあまり問題はないかと。それよりもダンジョン産の肉が結構な量買われていると聞きましたが。」
そうなんだよなぁ。
この二日ほど前に外からやってきた商人がダンジョン産の肉を根こそぎ買っていってしまった。
それだけでなく、継続して仕入れをしたいとの申し出もあったようだがその辺はギルドが上手くお断りを入れたらしい。
理由は一つしかない。
西方国の封鎖、それにともなう武器の買い付け、そこから導き出される答えは・・・そう、戦争だ。
流石にそこまで発展することはないだろうというのが、マリーさんとオリンピアの見立てではあるのだが世の中には絶対という言葉はない。
陛下にその気がなくても何かのきっかけで事が起きる可能性もゼロではないだけに、それを不安に思う人々が日持ちする肉を買い漁っていると考えることも出来る。
もちろん何もなければそれで良し、でも何かあった場合はそれが一気に金に化ける。
戦争の時に一番消費されるのは、武具でも燃料でもない、食料だ。
戦いが行われてもそうでなくても唯生きているだけで腹は減ってしまう。
何とも燃費の悪い生き物だが、空腹は士気に直結するだけにないがしろに出来ないんだよな。
なのでまずはじめに確保されるのが食料というわけだ。
俺も一応いつもより多めに氷室へ食料を運び込んではいるが、まぁ『ダンジョン』という巨大な冷蔵庫が足元にあるので何が起きても食い物に困ることはないだろう。
「確かに買われたがそれ以上は拒否したそうだ。」
「そうでしたか。」
「とりあえずこっちでも何か違和感を感じたら教えてくれ。」
「かしこまりました。それではよい一日をお過ごしください。」
アグリに見送られて屋敷へと戻る。
出たときはドーラさんしか起きていなかったが、もう皆起きてきているようだ。
「あ、薄情者が帰ってきたわよ。」
「なんだよ藪から棒に。」
「自分の可愛い子供よりも先に花を愛でに行くなんて、どういうつもりなのかしら。」
「様子を見に行って起きたら困るだろ。っていうか花に嫉妬するなよ。」
食堂に入って早々にエリザがめんどくささ全開で絡んできた。
なんだよ、朝っぱらから飲んでるのか?
「別に嫉妬なんてしてないわよねぇ、ルカ。」
「まぁまぁエリザ様、ご主人様は私の材料をとりにいってくださっただけですから。」
「そういうこと。コレが今日の分な。」
「ありがとうございます。今日のもしっかり魔素が詰まってますね。」
「いいのか悪いのか、ここ毎日獲物をしとめているようだ。」
「いい薬が出来そうです。」
種を受け取りアネットがやる気に満ちた顔をする。
相変わらず仕事が好きだなぁって、俺が言えた言葉ではないか。
「ちなみに、ハーシェさんとマリーさんはどう思う?」
「嫉妬はしませんが顔は見に来て欲しいです。」
「起きてもちゃんと寝かしますから。あ、でも寝顔を見られるのは恥ずかしいです。」
「お姉様今更では?」
オリンピアの鋭いツッコミを受けマリーさんが黙り込んでしまった。
裸もその他諸々も全て見られているというのに、今更寝顔がはずがしいとは。
乙女だなぁ。
とはいえ、母親三人全員が同じ意見、
うーむ、まさかエリザの嫉妬がこうなってしまうとは。
「わかった、明日からちゃんと顔を見てから行くようにする。」
「それでいいのよ。」
「だが起きたらどうする?」
「そんなの決まってるじゃない、一緒に行けばいいのよ。」
「朝の散歩も楽しそうですね。」
「私は起きられるかどうか、頑張ります。」
花を愛でに行くはずが、何故か子供たちまで愛でることになってしまった。
というか子供は毎日愛でているのだが、どうやら花と子供だけではなく自分たちも愛でろということなのだろう。
そうなると母親だけでなくアネットやアニエスさん達も同時に愛でる必要があるわけで。
女の嫉妬恐るべし、だな。
「なら明日は日の出前に食堂に集合、遅れたら置いていくからそのつもりで宜しく。」
「とか言いながら置いていかないのよ、シロウは。」
「そんなことないぞ。」
「置いていったらすねてやるから。」
「おまえなぁ。」
こうして翌日の日課は全員でゾロゾロと向かうことになったわけだが、その更に翌日は何事もなかったように俺一人で花を愛でていたのだった。
ま、そうなるよな。
冬と比べておおよそ二時間ほど日の出が早くなる時期。
いつもならまだベッドの中にいる時間なのだが、ここ最近はこれを見るために日の出前に起き出している。
「さすがにこの時間は涼しいな。」
地平線がほんのりと明るくなってきた。
足元に絡んでくるルフが眠そうに大きく欠伸をしていた。
眠いなら寝てていいのに、律儀に毎朝付き合ってくれるんだよなぁ。
それともう一羽。
コッコが今か今かとソワソワしながらその時を待っていた。
「コケ?」
「まだ早いって。」
「コケ。」
「今日は・・・どうやら何か来たらしいな。」
畑の北側に移動すると、俺に気付いたカニバフラワー達が手?を大きく動かして朝の挨拶をしてくれる。
足元の地面は血に染まり、メロンメロンの実が鮮血を浴びたまま転がっていた。
また夜のうちにメロンに魅了された魔物が畑に近づき、カニバフラワー達の餌食になったんだろう。
合掌。
「カカカカ。」
「ババババ。」
「はいはい今日も元気だな。そして新入りも。」
新入り。
そう、俺はこいつを見に早起きしてここに来たんだ。
だんだんと空が明るくなり、地平線にオレンジ色の光が姿を現す。
「コケコッコー!」
光を浴び、コッコが大声で朝を知らせる。
今日も一日が始まった。
その時だ。
血に濡れた地面が陽の光を浴びて輝き始める。
が、それもつかの間、鮮血はみるみるうちに地面に吸い込まれてしまった。
ずずずず、という音が幻聴で聞こえたぐらいの減りの速さ。
そして、間髪を置かずカニバフラワーに絡んでいた何かが動き出した。
「カカカ!」
「おー、今日も見事なもんだ。」
「ワフ!」
「コケ!」
カニバフラワーの葉の部分には長い蔓が絡みついており、その蔓が見る見るうちに赤く染まっていく。
地面の鮮血を吸い込んだのは間違いなくこいつ。
その証拠に蔦の先にある蕾が見る見るうちに開き、鮮血のような赤い花を咲かせた。
『ブラッティーヴォリュビリス。魔物の血液を吸って花を咲かせる寄生植物の一種。魔物の巣や狩場に生息する事が多いので冒険者の中では危険を知らせる花としても知られている。太陽の光を浴びて目を覚まし地面の血を吸って鮮やかな赤い花を咲かせる事から、鮮血花とも呼ばれる。夏の間のみ種を作り、血を吸った種は多量の魔素を含んでいるので製薬用の素材として重宝される。最近の平均取引価格は銅貨50枚、最安値銅貨30枚、最高値銅貨88枚、最終取引日は本日と記録されています。』
鮮血花とは中々カッコいい名前だが、確かにこの色はカニバフラワー同様に美しい。
見た目は完全に朝顔。
夏の間に種をつけるという部分も元の世界と似たような感じだ。
小学生の頃夏休みの宿題で朝顔の観察をした記憶があるのだが、今も同じことをしているんだろうか。
あっちは綺麗な青紫色だが、もしこれと同じ色が咲いたらどう考えてもホラーだよなぁ。
泣くぞ、子供達。
「うーん、今日も綺麗だなぁ。」
「「「「カカカカ!」」」」
「わかったわかった、お前達も十分綺麗だって。」
これが最近の楽しみ。
太陽の光を浴びて一斉に花開くこいつを見る為に、わざわざ早起きをしているんだ。
まぁ、健康の為ってのもあるんだけど、あまりにも別の花を褒める物だから上のカニバフラワーが嫉妬して威嚇するように歯を鳴らしてくる。
まったく花の癖に嫉妬するなんてって、魔物だからそう言うのもあるのか。
「ワフ。」
「ルフも綺麗だぞ。」
ブンブン。
「コケ?」
「お前は綺麗っていうか可愛いの部類だよな。個人的にはもうすこし卵を量産してもらいたい所だが、仲間を増やすのも大変だしなぁ。というか、これ以上朝に鳴かれると近所迷惑だ。」
コッコだけでもかなりの音量なのに、これが複数になるとどうなってしまうんだろうか。
朝なんだから起きるのは当たり前と言われればそこまでだが、まぁこれはおいおい考えるとしよう。
カニバフラワーをなだめつつ朝顔の周りを確かめると地面に赤い種がいくつか落ちていた。
これこれ、これを探しに来たんだよ。
ヴォリュビリス種は一定量の魔素を吸収しないと種を作らないのだが、ここは毎日のように新鮮な魔物の血を吸収できるようでこうやって毎朝いくつかの種を回収できる。
この種がまた珍しく、そして金になるんだよなぁ。
「今日もご苦労さん、明日もよろしくな。」
ポンポンとカニバフラワー越しに花に触れて日課を終える。
「おはようございますシロウ様。」
「早いなアグリ。」
「陽の光を浴びると目が覚めてしまうものですから。」
倉庫まで戻ると大きく伸びをしながらアグリが家から出て来た。
俺が言うのも何だが毎朝早起きだよなぁ。
日の出と共に目を覚まし、日の入りと共に眠りに・・・は流石に言い過ぎだが、他の人に比べると眠るのも早い。
イメージとしては午後9時までには眠る感じだろうか。
「植物と同じだな。」
「あはは、違いありません。今日も落ちていたんですか?」
「あぁ、綺麗な花と一緒にな。しかしあいつら何処から来たんだ?」
「さぁ。図書館の本によりますと魔物の巣などに生えると書いてありましたが、どこから来るかまではわかりませんでした。種を産み出しますから何かに運ばれて来たと考えるべきでしょう。メロンメロンのおかげで様々な魔物が来るようになりましたから、餌食になった魔物の腹にあったのかもしれません。」
「ふむ、それはあり得るか。」
これまでは二・三日に一度のペースで魔物が餌食になっていたが、メロンメロンが来てからはほぼ毎日のように魔物が餌食になっている。
そのおかげでカニバフラワー達も艶々、産み出される種もいつも以上に多くなっているのはどれも金になるのでありがたい限りなのだが、大繁殖しないか心配でもある。
一応仲間?として認識されているので襲われる心配はないのだが、他の人間はそうじゃないだけに一般人に被害が出る可能性もある。
拡張計画後は人口も増えるし、今以上に囲いをしっかりする必要があるよなぁ。
「種は増血薬の材料になるんでしたね。」
「あぁ、持ち帰ったらアネットが大喜びしていた。値段が高いわけではないんだが、中々数が手に入らないらしい。それに、今は需要が増えているんだそうだ。」
「あまりうれしくありませんね。」
「だな。こっちは何か動きがあるのか?」
「日持ちする野菜や乾燥野菜の注文が前よりも増えています。とはいえ、微々たるものですのでうちみたいな畑ではあまり問題はないかと。それよりもダンジョン産の肉が結構な量買われていると聞きましたが。」
そうなんだよなぁ。
この二日ほど前に外からやってきた商人がダンジョン産の肉を根こそぎ買っていってしまった。
それだけでなく、継続して仕入れをしたいとの申し出もあったようだがその辺はギルドが上手くお断りを入れたらしい。
理由は一つしかない。
西方国の封鎖、それにともなう武器の買い付け、そこから導き出される答えは・・・そう、戦争だ。
流石にそこまで発展することはないだろうというのが、マリーさんとオリンピアの見立てではあるのだが世の中には絶対という言葉はない。
陛下にその気がなくても何かのきっかけで事が起きる可能性もゼロではないだけに、それを不安に思う人々が日持ちする肉を買い漁っていると考えることも出来る。
もちろん何もなければそれで良し、でも何かあった場合はそれが一気に金に化ける。
戦争の時に一番消費されるのは、武具でも燃料でもない、食料だ。
戦いが行われてもそうでなくても唯生きているだけで腹は減ってしまう。
何とも燃費の悪い生き物だが、空腹は士気に直結するだけにないがしろに出来ないんだよな。
なのでまずはじめに確保されるのが食料というわけだ。
俺も一応いつもより多めに氷室へ食料を運び込んではいるが、まぁ『ダンジョン』という巨大な冷蔵庫が足元にあるので何が起きても食い物に困ることはないだろう。
「確かに買われたがそれ以上は拒否したそうだ。」
「そうでしたか。」
「とりあえずこっちでも何か違和感を感じたら教えてくれ。」
「かしこまりました。それではよい一日をお過ごしください。」
アグリに見送られて屋敷へと戻る。
出たときはドーラさんしか起きていなかったが、もう皆起きてきているようだ。
「あ、薄情者が帰ってきたわよ。」
「なんだよ藪から棒に。」
「自分の可愛い子供よりも先に花を愛でに行くなんて、どういうつもりなのかしら。」
「様子を見に行って起きたら困るだろ。っていうか花に嫉妬するなよ。」
食堂に入って早々にエリザがめんどくささ全開で絡んできた。
なんだよ、朝っぱらから飲んでるのか?
「別に嫉妬なんてしてないわよねぇ、ルカ。」
「まぁまぁエリザ様、ご主人様は私の材料をとりにいってくださっただけですから。」
「そういうこと。コレが今日の分な。」
「ありがとうございます。今日のもしっかり魔素が詰まってますね。」
「いいのか悪いのか、ここ毎日獲物をしとめているようだ。」
「いい薬が出来そうです。」
種を受け取りアネットがやる気に満ちた顔をする。
相変わらず仕事が好きだなぁって、俺が言えた言葉ではないか。
「ちなみに、ハーシェさんとマリーさんはどう思う?」
「嫉妬はしませんが顔は見に来て欲しいです。」
「起きてもちゃんと寝かしますから。あ、でも寝顔を見られるのは恥ずかしいです。」
「お姉様今更では?」
オリンピアの鋭いツッコミを受けマリーさんが黙り込んでしまった。
裸もその他諸々も全て見られているというのに、今更寝顔がはずがしいとは。
乙女だなぁ。
とはいえ、母親三人全員が同じ意見、
うーむ、まさかエリザの嫉妬がこうなってしまうとは。
「わかった、明日からちゃんと顔を見てから行くようにする。」
「それでいいのよ。」
「だが起きたらどうする?」
「そんなの決まってるじゃない、一緒に行けばいいのよ。」
「朝の散歩も楽しそうですね。」
「私は起きられるかどうか、頑張ります。」
花を愛でに行くはずが、何故か子供たちまで愛でることになってしまった。
というか子供は毎日愛でているのだが、どうやら花と子供だけではなく自分たちも愛でろということなのだろう。
そうなると母親だけでなくアネットやアニエスさん達も同時に愛でる必要があるわけで。
女の嫉妬恐るべし、だな。
「なら明日は日の出前に食堂に集合、遅れたら置いていくからそのつもりで宜しく。」
「とか言いながら置いていかないのよ、シロウは。」
「そんなことないぞ。」
「置いていったらすねてやるから。」
「おまえなぁ。」
こうして翌日の日課は全員でゾロゾロと向かうことになったわけだが、その更に翌日は何事もなかったように俺一人で花を愛でていたのだった。
ま、そうなるよな。
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