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949.転売屋は新しい仕事を割り振る

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「と、言うことで今日から俺達の仲間に加わったハルカだ。とりあえず自己紹介を・・・って、どうかしたのか?」

「あ、いえ、オリンピア王女に似た方がおられたので。」

「あ、やっぱりハルカ王妃でしたか。お久しぶりです。」

「え!?まさかご本人様!?」

静かになった食堂にハルカの声が響き渡る。

元西国の王妃だけあってやっぱり面識はあったようだ。

そりゃ貴族の家とはいえ、まさか第三王女が居るとは思わないよなぁ普通は。

買われてからここに来るまでも比較的冷静でどっちかというとミラと同じタイプかと思ったのだが、リアクションはアネットに似ている気がする。

クールビューティーというよりも、大人しさを演じている方なんだろう。

年齢はハーシェさんと同じぐらいの30代、女性として成熟して輝きを増してくる頃。

見た目も綺麗だしスタイルもいいんだが、やっぱりそそられないんだよなぁ。

何でだろうか。

「あぁ、彼女はオリンピア第三王女本人だ。訳あって一年間ここで暮らしながら庶民の生活に慣れる事になっていて、今は街の化粧品屋で働いている。店主は妻のマリアンナ、彼女もまぁ王族関係者だと思ってくれ。」

「え、でもエドワード陛下のご家族ににこのような方は・・・。」

「色々ありまして。ハルカ王妃とも実はお会いしたことあるんですよ。」

「えぇ、一体どこで。すみません覚えていなくて。」

「いえいえ覚えていなくて当然です。どうぞ宜しくお願いしますね。」

元王子だと知ったらどんな顔するのか非常に興味があるのだが、流石に来てすぐの人に秘密を漏らすわけにはいかない。

いくら隷属の首輪をつけているとはいえ、もしもということがあるからな。

その後も自己紹介を順番に済ませ、ささやかながら歓迎の食事会が行われた。

これはもううちの恒例行事みたいなものだな。

例え身分は奴隷でも、その人を下に見ることはよろしくない。

一人の人として歓迎するぞっていう自分達の意思表示でもある。

元王妃とはいえ今は庶民だからな、へりくだる必要がないのは非常にらくだ。

もっとも、現役王族に対してもこんな感じでへりくだることをしない俺が言うのもおかしな話だが。

「とりあえず自己紹介も済んだし食事も程ほどに取れたところで、今後について話し合おうじゃないか。」

「今後ですか。」

「レイブさんからどんな風に聞いているかは知らないが、俺は金が好きだ。」

「ちょっと言い方。」

「いやいや本当の事だろ?俺は金が好き、だから金儲けも好きだ。オリンピアも含めてここに居る全員が何かしら俺の為に金を運んできてくれている。だからハルカにもしっかり働いてもらって金を運んできてもらうつもりだ。」

女達だけじゃなくグレイスやハワード、ミミィたちも屋敷の仕事をしっかりとこなす事で俺に貢献してくれている。

それが回りまわって金儲けに繋がっているというわけだ。

なので彼女にもその知識をふんだんに使ってもらって俺に金を運んできてもらう。

なんせ金貨150枚だからな、元をとるのはなかなかに大変だぞ。

「具体的になにをしていただきますか?」

「まずは西方について色々と教えてもらうつもりだ。」

「情報収集ね。」

「あー、誤解がないように言っておくが俺は西方国がどうなろうと知ったこっちゃないし、さらにはこの国が向こうとどうしたいかなんかにも興味は無い。だから向こうの情報を仕入れて国に売るなんて事をする気もない。それは覚えておいてくれ。」

「わかりました。では、私はどんな情報をお伝えすればいいんでしょうか。」

「今考えているのは醤油と味噌なんかの、主に調味料の作成に関わる知識だ。向こうから仕入れられなくなる以上、いずれは自前で何とかする必要がある。それを行うに当たって必要な素材についてとそれを作る方法についてそれらの情報を提供してもらいたい。」

別にスパイになって欲しいわけでもないし情報を売って欲しいわけでもない。

西国は戦争を仕掛けてきているわけじゃないんだ、そんな事をして何の利がある。

それよりも俺達の生活を改善し、更には金を生み出すほうがよっぽど大事じゃないだろうか。

「それだけ、ですか?」

「むしろそのために買ったんだ。醤油と味噌、とりあえずこの二つが無いことには俺達の食事が成り立たなくなる。なんとしてでも一年以内に形にしてもらうのが一番の仕事だ。正直それにどれだけの金がかかっても構わない。どうせ後でいくらでも回収できるからな。」

「この街でこの二つを欲しがらない人はいませんから。今後住民が増えれば尚の事需要は膨れ上がります、個人への販売で得られる利益は小額でも人数が増えれば大きくなります。」
「そういうことだ。ハーシェさんの言うように今後需要が増えるのは間違いないからこそ、今から準備しないと間に合わない。今後西国が国を開く可能性もあるが、態々輸入するコストを考えればここで作るほうが何倍も安くなる。それなりの利益を乗せたとしても今よりも安くなるのであれば皆こぞって買ってくれるだろうさ。」

「どうしたの?そんな顔して。」

「いえ、なんていうか拍子抜けしてしまいまして。」

覚悟して奴隷となったわけだし、色々とマイナスな想像をしていたのかもしれないが現実はこんなもんだ。

というか俺に何をされると思っていたんだろうか。

そんなに鬼畜じゃないぞ俺は。

「ちなみに、醤油や味噌はどうやって作るんですか?」

「大豆、こちらではミートビーンズと呼ばれる豆を発酵させて作ります。今後を考えればかなりの量が必要になるようですので、それを加工保存する為の場所が必要になるでしょう。後はお水です、酒を造るぐらいに綺麗で美味しい水がある場所でなければ作れません。」

「じゃあ隣町ね。」

「だな、酒蔵の横に作れば水の融通はしやすいだろう。とはいえ、シュウ達の工房も向こうにお願いするわけだし、アイルさんには当分頭が上がらないなぁ。」

「え、こちらに酒蔵があるのですか?」

「あぁ、ここではなく隣町だが西方の職人を雇って清酒を製造してもらっている。そろそろ火入れをするはずだから陛下の到着には何とか間に合うんじゃないか。」

本日何度目かの驚いた表情を浮かべたまま固まってしまった。

国外に流出しないはずの清酒がここで作られ、それも製品化寸前と聞けばそうなるだろう。

この場にシュウ達がいなくてよかった。

さらには西方ガラスまで流出したと知ったらどうなってしまうか見当もつかない。

もっとも、違法でもなんでもないので知られたところで何の問題もないだけど。

「レイブ様からシロウ名誉男爵の話を聞いたときは冗談だと思い半分ほどしか信じていなかったのですが、本当に西方の出ではないのですか?何故そんなにもわが国の品を知っておられるのでしょう。」

「企業秘密だ。」

「こんなので驚いていてはダメですよ。旦那様はもっともっとすごいことをしてしまう方ですから。」

「マリーさん、ハードルを上げないでくれ。」

「ふふ、だって本当の事ですもの。」

「そうよねぇ。私も最初は驚いたけど、今はもう感覚が麻痺しちゃってるわ。」

別に俺は国を救おうとか何か大それた事をしようとしているわけじゃない。

俺がしたいのはただの金儲け。

その結果それに関わった人が幸せになるのであればそれは結構な話だが、ぶっちゃけ金さえ稼げたらその辺はどうでもいいんだよなぁ。

皆からしたらすごいことなのかもしれないが、俺からしてみれば金儲けをするための作業の一つに過ぎない。

「奴隷としてシロウ様に買っていただいた以上、私達はそのご恩に報いるだけです。」

「好きなことをしてそれで喜んでもらえるわけですからね。私も買ってもらったときはびっくりしましたけど、最近じゃ自分が奴隷だなんて忘れてしまっているぐらいです。」

「好きなことをするのはいいことだがアネットは働きすぎだ、少しは仕事量をセーブしろ。いくら薬局が出来て楽になたっとはいえ、他にも多くの製薬を抱えているんだからな。」

「は~い、気をつけます。」

「奴隷というともっとつらくてしんどいものを想像していました。でも、皆さんを見ているとそういうわけではないんですね。」

「とてもお優しい人ですから。私も今は妻の座についていますが、その前はこの人にお金を貸してもらって助けてもらったんですよ。」

うーん、本人を前にしてそんなに褒めまくらないでもらえるかな。

恥ずかしくて仕方がない。

離れたところで話を聞いていたグレイス達もハーシェさんの言葉にウンウンと大きくうなずいている。

別に優しいとかそういうんじゃないんだって。

俺達はなんていうかもっと平等な利害関係の一致の元に関係が成立しているんだ。

「悪いがそのぐらいにしてくれ。」

「あ、恥ずかしいんだ。」

「恥ずかしすぎて背中がかゆくなってきた。ともかくだ、ハルカには俺達の知らない西方の知識を色々と提供してもらって、それを利用して金儲けをする。わかったな?」

「はい、よく分かりました。」

「でだ、ミートビーンズってのはどこでも手に入るのか?」

「向こうでは一般的に取引されている食材でしたが、こちらではどうなのでしょう。」

大豆の事を畑の肉とはよく言ったものだがまさか名前もそのまんまとは。

名前があるって事はこの国でも存在していると考えられるわけだが、大量に仕込むとなるとかなりの量が必要になるはず。

それならば畑で栽培するよりもダンジョン内で手に入れるほうが収穫時期や作付面積に左右されないので最高なんだけどなぁ。

「それならダンジョンで手に入るんじゃないかしら。用はあのデカイ豆よね?」

「どのデカイ豆かは知らないがダンジョンで手に入るのならばありがたい。だが、本当にそれなんだろうな。」

「・・・多分。」

「はぁ、脳筋に聞いたのが間違いだった。ミラ、時間があるときに取引所で取引履歴を確認してきてくれ。俺は図書館で調べてみる。」

「ぜんぜん信じてくれないじゃない!」

信じたいのは山々だが、それを信じて失敗するのはよろしくない。

何をするにしても正しい情報が手に入らないことには始まらないからなぁ。

「ちなみに聞くが、大豆があるって事は豆腐もあるのか?」

「もちろんです。にがりさえ手に入ればこちらでも製造は可能かと思います。」

「トーフ?」

「ヘルシーなのに腹持ちのいい食い物だ。脂質がないから夜でも気にせず食えるんだよな。にがり、にがりかぁ。コレに関しては港町で探すしかないか。」

西方が元の世界とまったく同じ食生活だとは言わないが、それでもかなり似通っているのは再現しない手はないだろう。

後思いつくのは納豆なんだが、俺は好きだが間違いなく受け入れられそうもないので保留で。

「はぁ、話には聞いていましたがこんなにすごい人だったなんて・・・。私、やっていけるかな。」

さっきまでのやる気はどこへやら、急に不安になったのか心の声が小さく漏れる。

そんなに不安にならなくても大丈夫だと思うんだがなぁ。

「大丈夫ですよハルカさん。」

「そうそう、すごいと思うのは今だけだから。」

「どういうことだよ。」

「それが当たり前になるって事!もう、悪く言ってるんじゃないんだから突っかかってこないでよね。」

お前の言い方が悪いんだって。

とりあえず彼女には西方製食品の製造に注力してもらうことで話がまとまった。

すぐにどうこうできる内容ではないので、ひとまず月末までにある程度の事業計画を提出してもらうとしよう。

もしコレが成功すれば食生活だけでなく儲けの面でもかなりのプラスが出るはず。

色々と気になるところはあるが、買ったからには頑張ってもらうしかないよな。

願わくば何もありませんように。
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