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948.転売屋は覚悟をして迎え入れる

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夏祭りは大盛況のまま幕を閉じ、子供達の為にというよりも住民の楽しみの為に毎月末に行われることになった。

毎度のことながら祭り好きだからこの街の住民は。

焼きそばも大人気だったし、今後はソースを使った料理を新たに開発していきたいところだ。

次のねらい目はトンカツソース。

中濃でもいいんだが俺は濃い方が好きだ。

なんて事を考えながら仕事に没頭しているとあっという間に時間が過ぎ、気付けば17月も10日が過ぎようとしていた。

例の期限まであと五日。

レイブさんは催促してくるような人ではないのであれから何の音沙汰もないのだが、いい加減俺も覚悟を決めなければならないだろう。

「シロウ様。」

「ラフィムさん、戻って来たか。」

「お時間がかかってしまい申し訳ありません。ですが頼まれていた情報は無事に仕入れることが出来ました。」

執務室で仕事をしていると、荷物を抱えたラフィムさんが入って来た。

恐らくというか間違いなくアレはお土産だな。

行くときにエリザやオリンピアから色々と頼まれていたのを見てしまった。

急な依頼にもかかわらず土産まで買ってきてもらって、申し訳ないなぁ。

「悪いな、何から何まで任せてしまって。」

「新しい情報程甘美な物はありませんから。ご報告前にセーラと同化させて頂いてもよろしいでしょうか。」

「あぁ、問題ない。確か今は・・・。」

「お帰りラフィム。」

「ただいまセーラ。」

流石というかなんというか、戻ってきたのを感じ取ったのか先程まで裏庭にいたはずのセーラさんが息を切らしてやってきた。

二人で一人を地で行くのがこの二人。

まるで合わせ鏡のように向かい合ったまま胸の前で両手を握り合い静かにおでこをくっつけると、そのままずぶずぶとお互いの体がめり込んでいく様はぶっちゃけホラーそのものなんだが、暫くすると一人に合体してセラフィムさんとして形を成した。

因みに見分けるポイントはおさげがどちらに垂れているか。

今は両方垂れているので、同化するのを見ていなくても把握することは出来る。

「「ふぅ。」」

「どんな感じだ?」

「「こちらは色々と楽しかったようですね。この夏は虫関係に縁があるんでしょうか。」」

「それは勘弁願いたいなぁ。」

「「祭りも盛況、後で焼きそばを食べさせて頂けますか?」」

「お安い御用だ。」

同期してすぐは声が二重になるような不安定さがあるが、暫くするとすぐに馴染んでくるんだからすごいよなぁ。

記憶の同化。

二つの記憶が存在するって言うのはどんな感じなのか見当もつかない。

「では、シロウ様に頼まれました西方国封鎖宣言後の状況についてお話しさせて頂きます。」

「宜しく頼む。」

「まず、国内の西方商人ですがおおよそ八割が帰国、二割は賛同できないと帰国を拒否しこちらでの商売を模索しておられるようです。また、国内の商人ならびに職人についてですが、キョウ様シュウ様のように国外に出て行こうとする人が予想以上に多かったのか、引き止めが行われたとの事で出てこれた人は限りなく少ないと考えられます。私が確認できただけで8人、その内の二人がこちらに来られた事になります。」

「うーん、想像以上に強引なやり方だな。」

「元々西方国は国内だけで経済や生活を回せるような特殊な国ですので、前王のオープンなやり方が特異だったとも言えます。それにより多額の資金が流入し、より豊かになったところで国を閉鎖。エドワード陛下を含め諸外国は対話を求めておりますが返事は無いとの事です。」

「それでいて自国民の売買を禁止させ、自国品の取引を停止しろと行ってきているのか。無茶苦茶すぎるだろう。」

ここまで強引に国を閉じる理由はいったい何なんだろうか。

ぶっちゃけ国同士の問題なんてのには全く興味が無いのだが、それに伴って商売に影響が出ているのが気に食わない。

西方製品はそれなりの利益を出していただけに勿体ない限りだ。

それに加えて醤油や味噌、なんかの調味料が安定して手に入らないかもしれないというのはよろしくない。

幸いコメに関しては西方に近い別の場所で栽培されている物が同程度の品質だったので事なきを得たが、それについても西方が文句を言わないとも限らないしなぁ。

「それともう一つ。前王が退任する原因となった元王妃ですが、やはり国内におられるのは間違いないようです。前王も国内に入っておられますので、王妃を探しに来たと考えるのが自然でしょう。」

「王妃を探すために王の座を退き国を捨てたと?」

「さぁ、そこまでは。足取りに関しては申し訳ありませんが辿る事は出来ませんでした。」

「いや、それだけわかれば十分だ。ゆっくり休む・・・よりも食う方か?」

「アイスと焼きそばを所望いたします。」

「アイスは昨日作った奴が残ってるからまずはそれからだな。」

報告は終了。

ラフィムさんの頑張りに報いつつ今後について改めて考えるとしよう。

とはいえ、話を聞いて覚悟は決まったけどな。


「ようこそお越しくださいました。」

「用件は言わなくてもわかるよな?」

「すぐに呼んで参りますので、どうぞ応接室でお待ちください。」

前回同様ミラとハーシェさんを連れてレイブさんの店へ。

俺の顔を見るなり営業スマイル全開で出迎えてくれた。

別の奴隷に応接室まで案内してもらい、勝手に席に着く。

彼女もなかなかの美人さんではあったが、今日の目的は彼女じゃないんだよなぁ。

待つこと10分ほど。

「お待たせいたしました。ハルカ、入りなさい。」

「失礼いたします。」

ノックの後レイブさんに先に入るよう促され、西方国の服に身を包んだ黒髪美人が応接室に現れた。

思わず三人同時に感嘆の声が漏れてしまう。

「綺麗。」

「有難うございます、ミラ様。」

「和服美人とは良く言ったもんだ。この服はどこで?」

「ハルカが私に買われた時に身に着けていた服です。他にも何枚か所有しておりますので、買われた時には一緒に持たせる約束となっております。本来奴隷は物を持ちませんが、彼女に関してはご容赦いただけますようお願い致します。」

「この前の服もお似合いでしたが、やはり自国の服が一番素敵ですね。」

ハーシェさんも和服を着たら似合うと思うんだけどなぁ。

エリザは骨格的に合わないが、ミラやアネットは案外行けると思う。

王都の三兄妹に頼んで仕立ててもらうって手もあるが、西方製の布が入ってこないんじゃそれも難しいだろう。

正面のソファーにレイブさんが座り、その後ろにハルカさんが静かに立つ。

立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、だったか?

さすが元王妃、立ち姿はマリーさんやオリンピアに匹敵する美しさだ。

「さて、世辞はそのぐらいにして商売の話をしようじゃないか。レイブさんには悪いがこちらでもいろいろと調べさせてもらった。」

調べた。

その言葉にレイブさんが珍しく反応する。

反応といっても一瞬だけ右の目尻がピクリと上がっただけで、笑顔を崩したわけではない。

が、変化は変化だ。

今まではその場で買うことが多かったが、今回はある程度の時間を貰えたのでラフィムさんに西方を調べてもらいながら彼女についても調査させてもらった。

そして導き出された結論は一つ。

「彼女、ハルカだったか。レイブさんが西方で買い付けたって話だったが、実際は国に入った後直接ここに来て自分を売ったそうだな。売って得られた金はとある人物を通じて西方国のある村にもたらされた。ぶっちゃけそれはどうでもいいんだが、気になるのはその正体。アンタ、西方国の元王妃だろ?」

「・・・。」

「沈黙は肯定也ってね。まさかそんな人物だとは思わなかったが、ひとつ聞きたい。なんでここに売られに来た?」

「シロウ様それは。」

「俺が買えば所有権は俺に移り、必要であればその首輪を使って聞き出す事も出来る。だが俺は本人の口からききたい、何故なんだ?」

なぜ彼女は国を出なければならなかったのか。

前王が退位したのも彼女を探してって噂になっていたが、あながち間違いはないんだろう。

彼女は何かの理由があって国を出て、自分を売り、その金を国に送った。

それはなぜか。

どう考えても訳アリな相手を買う以上、最低限の歩み寄りはしてもらいたいんだが。

「・・・言えません。」

「そうか。」

「でも、言える時が来たら必ずお伝えします。一つ言えるのは、決して名誉男爵様にご迷惑をかけるような理由ではないという事です。もちろん、買ってもらった以上は言えない分も含めて一生懸命働かせて頂きます。レイブ様から名誉男爵様は西方の食べ物がお好きだと伺いました、私なら材料があればどのような物でもお作りしてご覧に入れます。どうかそれでお許しいただけませんでしょうか。」

自分勝手な事と承知のうえで彼女は言えないと言い切った。

その時点で余程の理由なんだろう。

俺に迷惑はかけないというものの、絶対にそうだという保証はない。

それをわかって彼女を買わなければならないわけだ。

もちろんミラやハーシェさんも含め皆にはそのことは伝えてある。

にもかかわらず、誰一人彼女を買う事を止めなかった。

むしろ推奨したぐらいだ。

女達が迎え入れると決めた以上俺がそれを拒む理由は無い。

なんせ彼女の知識は金になり、なにより俺達のためになるのだから。

「私からもお願いいたします。事情を隠すような形でお売りする事はまことに申し訳なく思います、ですが仮に何かあったとしても私が責任を持って対処いたしますので、どうかこの場は目を瞑っていただけませんでしょうか。」

「レイブさんにはミラやアネットをはじめ女達を紹介してもらった恩がある。隠していたことに事情があるのも分かっている。それでも尚、俺に買わせたいそういうわけなんだな?」

「仰るとおりです。金額が合わないのであればお詫びも兼ねて相応の値引きを・・・。」

「それは結構だ。代金は金貨150枚、間違いないな?」

「え?金貨100枚では?」

「それは仕入れ値の話だろ?俺達は商売人だ、利益ナシには始まらない。レイブさんには悪いがその辺はきっちりさせてもらうつもりだ。ミラ、出してくれ。」

俺の合図にミラは金貨の詰まった革袋を机の上に置き、横に備えてあった皮製のトレーの上に中身を出して金貨を10枚単位で積み上げていく。

机の上には全部で15本の束が摘み上がった。

「金貨150枚、それであんたを買おうじゃないか。事情は聞かない、だが言えるタイミングになったら聞かせてくれ。」

「ありがとうございます。このご恩は一生をかけてお返しを・・・。」

「あ、そういうのいいから。元王妃だろうが今はただの平民であり、更には奴隷まで落ちた身だ。俺が主人になった以上その頭の中にある知識は全て俺の金儲けの為に使ってもらう。わかったな?」

「はい。何なりとお申し付けください。」

「ってことでレイブさん、金貨150枚確かめてくれ。」

元は王妃かもしれないが、俺の前に居るのは唯の西方人。

俺が欲しいのはその知識であってそれ以外はぶっちゃけどうでもいいんだよな。

確かに美人だしスタイルもいいかもしれないが、生憎女には困っていないんでね。

ぶっちゃけ抱きたいとは思わないんだよなぁ。

悪いけど。

「確かに頂戴いたしました。シロウ様、このご恩は別の形でお返しさせていただきます。」

「レイブさんもそういうのいいから、マジで。」

「そういうわけには行きません。次はもっと喜んでいただける奴隷をご準備いたしましょう。」

「それ、ご恩とか言いながらも買うの俺だよな?」

「ははは、ばれましたか。」

ばれましたかじゃないっての。

まったくこの人は油断も隙もありゃしない。

こうして訳アリも訳アリ、とんでもない前歴を持つ新しい奴隷が俺達の元へと来ることになったのだった。
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