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937.転売屋は栄養のあるものを食す
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うーん。
16月最終日。
明日から季節は夏、それを先取りするように太陽はいつも以上の輝きで降り注いでいる。
俺はというと書類の山に埋もれながら、セラフィムさんの説明を受けつつ決済を続けている。
あぁ、夏だ。
この春は例年以上に早く過ぎ去った気がする。
それもこれもあれこれと忙しく働いたせいではあるんだけども、ちょっとやり過ぎた感がある。
夏を前に早くも息切れ状態だ。
「はぁ。」
「お疲れですね、休憩されますか?」
「いや、とりあえず報告だけは済ませておきたい。残りは?」
「先程ビアンカ様が参られまして今月の売上と、工事現場への納品書を置いていかれました。」
「ビアンカ来てたのか。」
「今はアネット様の製薬室におられますがお呼びしますか?」
「いや、せっかく楽しく話しているのを邪魔する必要も無いだろう。」
今頃年頃の娘同士仲良く話し込んでいるに違いない。
いつもと同じならそのまま今日は泊って明日戻るはずだし、話をするなら夕食の時でいいだろう。
報告書を受け取りサッと目を通す。
ハッグさんがポーションを偉く気に入ってくれたおかげで、ポーションの売上数は過去最多を更新。
もちろん売上額も過去最多を超え、俺へのマージンももかなりの額だ。
うーん過労死しないか心配になる量だなこれは。
「薬草の消費がかなり多くなっているからもう一度ビアンカへの搬入数を確認しておいてくれ。仕事に慣れてくればポーションの使用も減ってくるが、当分はこの量が出ると考えていいだろう。」
「かしこまりました、冒険者ギルドに追加発注できるか確認しておきます。」
「それとビアンカには追加の報酬を出す。特別給付として銀貨20枚支出しておいてくれるか、会計は俺の個人口座で。」
「そちらでよろしいのですか?」
「個人的な報酬だからな。」
俺の儲け、っていうか俺が関係している仕事で得られた収益は一度一カ所にまとめられ、それから個人用と仕事用、それと生活用の口座に分けて管理している。
殆どは仕事用と生活用に入れられてそれぞれの支払いや買い付け費用に充てられるのだが、およそ0.1%程は個人的な口座に入れてもらい俺の好きなように使わせてもらっている。
といっても、今回のように個人的に追加で報酬を出したり外で買い食いしたり、趣味の物や皆へのお土産を買う程度なのだが、稼いでいる額が額なだけに0.1%とはいえ毎月銀貨数十枚単位になっている。
小遣いとしては多すぎる量ではあるんだが、この前のようにコインとかを買うと一気に無くなってしまうんだよなぁ。
「わかりました、別途支給させて頂きます。」
「報告書はそれぐらいか。」
「今月は皆さま早めに提出いただけましたのでこれで終わりです。」
「あー、とりあえず一区切りだなぁ。はぁ、疲れた。」
大きく伸びをして胸に溜まった空気を一気に吐き出す。
いつも朝食後すぐ取り掛かっても昼過ぎまでかかってしまうので、昼食は片手で持てるような奴で簡単に済ませてしまった。
早く終わったとはいえ疲労感は強い。
いや、むしろいつもよりひどいかもしれない。
早くも夏バテだろうか。
「シロウ、おわった?」
「エリザか。とりあえず報告書は終わった。」
「今日はいつもよりちょっと早かったわね。」
「ちょっとだけな。それは?」
「あぁ、シロップさんからはちみつを分けてもらったの。それと、とっておきもあるわよ。」
そう言いながらエリザが持ち上げたのははちみつのように見えるものの、白く濁ったような物が入ったボトルだった。
はちみつなら琥珀色をした透明な液体で満たされているはずだが、それは酷く濁ったような感じがする。
何だろうとっておきっぽくは見えないんだが。
エリザが部屋に入ってきた代わりに、セラフィムさんが気を聞かせて書類の束を手に執務室を出て行った。
「それがとっておきなのか?」
「そうよ。最近いつも以上に疲れた顔してるでしょ?夏前に倒れられても困るし特別に分けてもらったの。ローヤルジェリー、前に話していたじゃない。忘れちゃたの?」
「あぁ!そういえばそんな話もしてたな。」
「やっぱり忘れてたのね。」
養蜂家であるシロップさんが特別な客にだけ提供しているという『ローヤルゼリー』ならぬ『ローヤルジェリー』。
機会があったら分けてあげるとは言われていたのだが、まさか自分用に提供されるとは思っていなかった。
見た目は白濁したはちみつ。
だが、トロトロ感は無くなんていうかベチャっとした感じのようだ。
「これをそのまま食べるのか?」
「うーん、そのままだと結構酸味があるからはちみつと混ぜるのをお勧めするわ。」
「え、酸っぱいのか?」
「食べたらわかるわよ。」
ローヤルジェリーの入ったボトルを机の上に置き、どこからか取り出した木製のスプーンで中身を掬う。
見た目はあまり宜しくないが、味は・・・。
「え、すっぱ!」
「でしょ?」
「レモンとは違うが、え、なんだこれ。」
はちみつ=甘いという方程式が出来上がっているから余計に違和感を感じてしまう。
酸っぱさはもちろんレモン以下なんだが、思い込みのせいか非常に酸っぱく感じてしまった。
『ローヤルジェリー。ホワイトビーの巣から回収されたローヤルジェリーは滋養強壮に効果があり、酸味が少ないのが特徴。ホワイトビーから得られるローヤルジェリーは他の物よりも強壮成分が強く女性にも効果がある為、娼館等でも好んで用いられている。ただし取り過ぎには注意が必要。最近の平均取引価格は銀貨30枚、最安値銀貨18枚、最高値銀貨45枚、最終取引日は41日前と記録されています。』
「ふふ、面白い顔。」
「仕方ないだろ。あー、酸っぱかった。」
「どう?元気になりそう?」
「生憎とすぐに結果は出ないようだ。ってか、よくこんなもの手に入ったな。」
「そりゃー、シロップさんと私の仲だもの。働きすぎなのよ、シロウは。」
「わかってるんだがこの時期はどうしてもな。」
「この時期だけじゃなくてずっとでしょ?この前休むって約束したのに全然守ってないんだけど?」
確かに約束はした。
とはいえ陛下が来るとなれば休んでいるわけにはいかないし、自分から企画しておいて全部丸投げってわけにはいかないだろう。
まぁ、武闘大会に関してはアニエスさんと冒険者ギルドがやる気になってくれているのでほぼ丸投げなんだが、もう一つの方は俺主導で行わなければならない。
せっかくお膳立てしたんだからしっかり結果を残さないとな。
「善処すると言いたいところだが、ぶっちゃけ陛下が帰るまでは難しいな。ネイルの販売もあるし、夏は畑も忙しい。ビープルニールだってまだまだ数が足りない上に冷感パットや冷化のタオルも売らないといけないんだ。」
「はぁ、それをするなっていうのは無理な話よね。」
「これも金儲けの為、とはいえやりすぎなのは自分でもわかってる。わかってるんだがなぁ。」
「それを止められないんでしょ。仕方ないわよ、シロウだもの。でもあまりにもひどすぎると無理矢理休ませるからね。」
俺もこの前の二の舞になるのはごめんだ。
女達には無理をするなと言いながら自分はしていたんじゃ説得力があったもんじゃないしな。
「ん?」
「どうしたの?」
「いや、何ていうか腹の中が熱いような。」
「え、もう?」
「もう?」
「ううん、何でもない。お腹空いたんじゃない?」
「確かに昼は軽めだったが・・・。そういえば腹が減っている気もする。」
なんとなく空腹とは違う感じもするが、酸っぱい物を食べたせいか唾液が口の中にあふれている。
それに甘いものが食べたい。
いや、甘い物じゃなくて肉でもいいかもしれない。
なんていうかがっつり食べた方が元気になれる気がする。
疲れたときほど肉を食えとは良く言ったもんだ。
え、言わない?
ともかくだ、休憩を兼ねてエリザと共に食堂へ。
なぜか食堂には女達が集まっており、なにやら作っている。
またお菓子でも作ってるんだろう。
「ハワード、肉を焼いてもらえるか?」
「え、今から肉ですか?」
「がっつりじゃなくていい、一仕事終えたら小腹が空いてきた。」
「わかりました、すぐに準備しますんで。付け合わせはトポテでいいですか?」
「あぁ、それで頼む。」
こんな時間に肉を食うのが珍しいのか、ハワードが驚いた顔で俺を見てきたがすぐに調理に取り掛かってくれた。
確かに時間的にはおやつの時間だし夕食を考えれば、普段の俺なら我慢しただろう。
だが、なんとなく肉が来たい気分なんだ。
「で、そこは何をしてるんだ?」
「ゼリーを作っているんです、まだ固まっていないのでお出汁出来るのは夕食後になりそうですけど。」
「ゼリーか、夜も暑くなってきたしさっぱりしていいかもな。」
見た目に涼しげな青色をしたゼリー。
何を材料にしているかはわからないが、涼しげでいい感じだ。
だが、ゼリーを作るにしては人数が多いような。
手を動かしているのはアネットとアニエスさんだけで、他の面々は真剣な面持ちでそれを見つめている。
「なんだか暑いな。」
「そう?」
「あぁ、明日から夏だし一気に気温も上がるんだろうなぁ。」
「そうかもね。上、脱いだら?どうせ私達しかいないんだし。」
「いやまぁ、そうなんだが。」
何故そんな期待するような眼で俺を見るんだ?
さっきまでゼリーづくりを見つめていた女達がまるで獲物をみつけた肉食獣のようにギラギラとした目で俺を見てくる。
「お待たせしました、ワイルドカウのもも肉です。」
「お、いいねぇこの赤身。」
「肉といえばやっぱりここでしょう。岩塩と、お水もどうぞ。」
「すまん、助かる。」
素晴らしいミディアムレアの焼き加減、真ん中の憎々しい部分を見ていると更に体が火照ってしまい、羽織っていたシャツを脱いで半袖一枚になる。
暑い、美味い、暑い。
岩塩とペパペッパーの効いた肉にかぶりつき、血と肉汁と一緒に胃に落とす。
飢えた獣の如くあっという間に平らげてしまった。
「そんなにお腹空いていたんですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが・・・。」
小腹は満たされたはずなのにまだ腹の中、いや主に下半身に違和感を感じる。
違和感っていうか、元気なんだよ。
息子が。
確かに疲れると元気になる事はあるが、これはなんていうかそういうのと違う。
おかしい。
絶対におかしい。
そう思った時、ふとさっき食べたローヤルジェリーの鑑定結果を思い出した。
まさか、あれか?
「エリザ、お前謀ったな。」
「何の事かしら。」
「嘘つけ、その顔はどう考えても犯人だろうが。おい、まさか皆もそうなのか?」
オリンピアはさすがに目をそらしたが、他の面々は違う。
抱いた事のある女達が、飢えた獣、いや欲情した目で俺を見てくる。
それを知らないハワードではあるまい。
くそ、あいつもグルだったか。
「休んでくださいと言っても休んでくださらないので、無理やり休んでもらうことにしました。」
「報告書関係はもう終わられたんですよね?なら残りは明日でも問題ないはずです。」
「いや、問題ないって。そうか、セラフィムさんもそれをわかって・・・。」
「そういう事です。すみません、少々強引ですが私達も色々我慢の限界で。」
「それで全員一緒とか、絶対休めないだろ。」
「そのためにこれを作ったんです。私お手製の精力剤にローヤルジェリーも配合してありますから、今から一晩余裕で持ちます。」
いや、余裕で持ちますじゃないっての。
あの時妙にセラフィムさんが素直に引き下がったと思ったらこういう事だったのか。
少し離れた所で涼やかな顔で俺達の様子を見守るセラフィムさん他、屋敷の面々。
年頃の生娘もいるんだぞ、まったく教育に悪すぎるだろ。
「ほら、食べるもの食べたんだし早く部屋に行くわよ。」
「ご安心ください、アナタはただ身を任せて下さればいいんです。」
「旦那様は頑張り過ぎなんです、お父様が来る前に疲れを取ってくださいね。」
絶対疲れなんて取れる気がしない。
そのまま引きずられるようにして女達と共に日の高いうちから寝室へと移動。
俺がはっきりと覚えているのはそこまでなのだが、一つだけ言えるのはスッキリしたそれだけだ。
16月最終日。
明日から季節は夏、それを先取りするように太陽はいつも以上の輝きで降り注いでいる。
俺はというと書類の山に埋もれながら、セラフィムさんの説明を受けつつ決済を続けている。
あぁ、夏だ。
この春は例年以上に早く過ぎ去った気がする。
それもこれもあれこれと忙しく働いたせいではあるんだけども、ちょっとやり過ぎた感がある。
夏を前に早くも息切れ状態だ。
「はぁ。」
「お疲れですね、休憩されますか?」
「いや、とりあえず報告だけは済ませておきたい。残りは?」
「先程ビアンカ様が参られまして今月の売上と、工事現場への納品書を置いていかれました。」
「ビアンカ来てたのか。」
「今はアネット様の製薬室におられますがお呼びしますか?」
「いや、せっかく楽しく話しているのを邪魔する必要も無いだろう。」
今頃年頃の娘同士仲良く話し込んでいるに違いない。
いつもと同じならそのまま今日は泊って明日戻るはずだし、話をするなら夕食の時でいいだろう。
報告書を受け取りサッと目を通す。
ハッグさんがポーションを偉く気に入ってくれたおかげで、ポーションの売上数は過去最多を更新。
もちろん売上額も過去最多を超え、俺へのマージンももかなりの額だ。
うーん過労死しないか心配になる量だなこれは。
「薬草の消費がかなり多くなっているからもう一度ビアンカへの搬入数を確認しておいてくれ。仕事に慣れてくればポーションの使用も減ってくるが、当分はこの量が出ると考えていいだろう。」
「かしこまりました、冒険者ギルドに追加発注できるか確認しておきます。」
「それとビアンカには追加の報酬を出す。特別給付として銀貨20枚支出しておいてくれるか、会計は俺の個人口座で。」
「そちらでよろしいのですか?」
「個人的な報酬だからな。」
俺の儲け、っていうか俺が関係している仕事で得られた収益は一度一カ所にまとめられ、それから個人用と仕事用、それと生活用の口座に分けて管理している。
殆どは仕事用と生活用に入れられてそれぞれの支払いや買い付け費用に充てられるのだが、およそ0.1%程は個人的な口座に入れてもらい俺の好きなように使わせてもらっている。
といっても、今回のように個人的に追加で報酬を出したり外で買い食いしたり、趣味の物や皆へのお土産を買う程度なのだが、稼いでいる額が額なだけに0.1%とはいえ毎月銀貨数十枚単位になっている。
小遣いとしては多すぎる量ではあるんだが、この前のようにコインとかを買うと一気に無くなってしまうんだよなぁ。
「わかりました、別途支給させて頂きます。」
「報告書はそれぐらいか。」
「今月は皆さま早めに提出いただけましたのでこれで終わりです。」
「あー、とりあえず一区切りだなぁ。はぁ、疲れた。」
大きく伸びをして胸に溜まった空気を一気に吐き出す。
いつも朝食後すぐ取り掛かっても昼過ぎまでかかってしまうので、昼食は片手で持てるような奴で簡単に済ませてしまった。
早く終わったとはいえ疲労感は強い。
いや、むしろいつもよりひどいかもしれない。
早くも夏バテだろうか。
「シロウ、おわった?」
「エリザか。とりあえず報告書は終わった。」
「今日はいつもよりちょっと早かったわね。」
「ちょっとだけな。それは?」
「あぁ、シロップさんからはちみつを分けてもらったの。それと、とっておきもあるわよ。」
そう言いながらエリザが持ち上げたのははちみつのように見えるものの、白く濁ったような物が入ったボトルだった。
はちみつなら琥珀色をした透明な液体で満たされているはずだが、それは酷く濁ったような感じがする。
何だろうとっておきっぽくは見えないんだが。
エリザが部屋に入ってきた代わりに、セラフィムさんが気を聞かせて書類の束を手に執務室を出て行った。
「それがとっておきなのか?」
「そうよ。最近いつも以上に疲れた顔してるでしょ?夏前に倒れられても困るし特別に分けてもらったの。ローヤルジェリー、前に話していたじゃない。忘れちゃたの?」
「あぁ!そういえばそんな話もしてたな。」
「やっぱり忘れてたのね。」
養蜂家であるシロップさんが特別な客にだけ提供しているという『ローヤルゼリー』ならぬ『ローヤルジェリー』。
機会があったら分けてあげるとは言われていたのだが、まさか自分用に提供されるとは思っていなかった。
見た目は白濁したはちみつ。
だが、トロトロ感は無くなんていうかベチャっとした感じのようだ。
「これをそのまま食べるのか?」
「うーん、そのままだと結構酸味があるからはちみつと混ぜるのをお勧めするわ。」
「え、酸っぱいのか?」
「食べたらわかるわよ。」
ローヤルジェリーの入ったボトルを机の上に置き、どこからか取り出した木製のスプーンで中身を掬う。
見た目はあまり宜しくないが、味は・・・。
「え、すっぱ!」
「でしょ?」
「レモンとは違うが、え、なんだこれ。」
はちみつ=甘いという方程式が出来上がっているから余計に違和感を感じてしまう。
酸っぱさはもちろんレモン以下なんだが、思い込みのせいか非常に酸っぱく感じてしまった。
『ローヤルジェリー。ホワイトビーの巣から回収されたローヤルジェリーは滋養強壮に効果があり、酸味が少ないのが特徴。ホワイトビーから得られるローヤルジェリーは他の物よりも強壮成分が強く女性にも効果がある為、娼館等でも好んで用いられている。ただし取り過ぎには注意が必要。最近の平均取引価格は銀貨30枚、最安値銀貨18枚、最高値銀貨45枚、最終取引日は41日前と記録されています。』
「ふふ、面白い顔。」
「仕方ないだろ。あー、酸っぱかった。」
「どう?元気になりそう?」
「生憎とすぐに結果は出ないようだ。ってか、よくこんなもの手に入ったな。」
「そりゃー、シロップさんと私の仲だもの。働きすぎなのよ、シロウは。」
「わかってるんだがこの時期はどうしてもな。」
「この時期だけじゃなくてずっとでしょ?この前休むって約束したのに全然守ってないんだけど?」
確かに約束はした。
とはいえ陛下が来るとなれば休んでいるわけにはいかないし、自分から企画しておいて全部丸投げってわけにはいかないだろう。
まぁ、武闘大会に関してはアニエスさんと冒険者ギルドがやる気になってくれているのでほぼ丸投げなんだが、もう一つの方は俺主導で行わなければならない。
せっかくお膳立てしたんだからしっかり結果を残さないとな。
「善処すると言いたいところだが、ぶっちゃけ陛下が帰るまでは難しいな。ネイルの販売もあるし、夏は畑も忙しい。ビープルニールだってまだまだ数が足りない上に冷感パットや冷化のタオルも売らないといけないんだ。」
「はぁ、それをするなっていうのは無理な話よね。」
「これも金儲けの為、とはいえやりすぎなのは自分でもわかってる。わかってるんだがなぁ。」
「それを止められないんでしょ。仕方ないわよ、シロウだもの。でもあまりにもひどすぎると無理矢理休ませるからね。」
俺もこの前の二の舞になるのはごめんだ。
女達には無理をするなと言いながら自分はしていたんじゃ説得力があったもんじゃないしな。
「ん?」
「どうしたの?」
「いや、何ていうか腹の中が熱いような。」
「え、もう?」
「もう?」
「ううん、何でもない。お腹空いたんじゃない?」
「確かに昼は軽めだったが・・・。そういえば腹が減っている気もする。」
なんとなく空腹とは違う感じもするが、酸っぱい物を食べたせいか唾液が口の中にあふれている。
それに甘いものが食べたい。
いや、甘い物じゃなくて肉でもいいかもしれない。
なんていうかがっつり食べた方が元気になれる気がする。
疲れたときほど肉を食えとは良く言ったもんだ。
え、言わない?
ともかくだ、休憩を兼ねてエリザと共に食堂へ。
なぜか食堂には女達が集まっており、なにやら作っている。
またお菓子でも作ってるんだろう。
「ハワード、肉を焼いてもらえるか?」
「え、今から肉ですか?」
「がっつりじゃなくていい、一仕事終えたら小腹が空いてきた。」
「わかりました、すぐに準備しますんで。付け合わせはトポテでいいですか?」
「あぁ、それで頼む。」
こんな時間に肉を食うのが珍しいのか、ハワードが驚いた顔で俺を見てきたがすぐに調理に取り掛かってくれた。
確かに時間的にはおやつの時間だし夕食を考えれば、普段の俺なら我慢しただろう。
だが、なんとなく肉が来たい気分なんだ。
「で、そこは何をしてるんだ?」
「ゼリーを作っているんです、まだ固まっていないのでお出汁出来るのは夕食後になりそうですけど。」
「ゼリーか、夜も暑くなってきたしさっぱりしていいかもな。」
見た目に涼しげな青色をしたゼリー。
何を材料にしているかはわからないが、涼しげでいい感じだ。
だが、ゼリーを作るにしては人数が多いような。
手を動かしているのはアネットとアニエスさんだけで、他の面々は真剣な面持ちでそれを見つめている。
「なんだか暑いな。」
「そう?」
「あぁ、明日から夏だし一気に気温も上がるんだろうなぁ。」
「そうかもね。上、脱いだら?どうせ私達しかいないんだし。」
「いやまぁ、そうなんだが。」
何故そんな期待するような眼で俺を見るんだ?
さっきまでゼリーづくりを見つめていた女達がまるで獲物をみつけた肉食獣のようにギラギラとした目で俺を見てくる。
「お待たせしました、ワイルドカウのもも肉です。」
「お、いいねぇこの赤身。」
「肉といえばやっぱりここでしょう。岩塩と、お水もどうぞ。」
「すまん、助かる。」
素晴らしいミディアムレアの焼き加減、真ん中の憎々しい部分を見ていると更に体が火照ってしまい、羽織っていたシャツを脱いで半袖一枚になる。
暑い、美味い、暑い。
岩塩とペパペッパーの効いた肉にかぶりつき、血と肉汁と一緒に胃に落とす。
飢えた獣の如くあっという間に平らげてしまった。
「そんなにお腹空いていたんですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが・・・。」
小腹は満たされたはずなのにまだ腹の中、いや主に下半身に違和感を感じる。
違和感っていうか、元気なんだよ。
息子が。
確かに疲れると元気になる事はあるが、これはなんていうかそういうのと違う。
おかしい。
絶対におかしい。
そう思った時、ふとさっき食べたローヤルジェリーの鑑定結果を思い出した。
まさか、あれか?
「エリザ、お前謀ったな。」
「何の事かしら。」
「嘘つけ、その顔はどう考えても犯人だろうが。おい、まさか皆もそうなのか?」
オリンピアはさすがに目をそらしたが、他の面々は違う。
抱いた事のある女達が、飢えた獣、いや欲情した目で俺を見てくる。
それを知らないハワードではあるまい。
くそ、あいつもグルだったか。
「休んでくださいと言っても休んでくださらないので、無理やり休んでもらうことにしました。」
「報告書関係はもう終わられたんですよね?なら残りは明日でも問題ないはずです。」
「いや、問題ないって。そうか、セラフィムさんもそれをわかって・・・。」
「そういう事です。すみません、少々強引ですが私達も色々我慢の限界で。」
「それで全員一緒とか、絶対休めないだろ。」
「そのためにこれを作ったんです。私お手製の精力剤にローヤルジェリーも配合してありますから、今から一晩余裕で持ちます。」
いや、余裕で持ちますじゃないっての。
あの時妙にセラフィムさんが素直に引き下がったと思ったらこういう事だったのか。
少し離れた所で涼やかな顔で俺達の様子を見守るセラフィムさん他、屋敷の面々。
年頃の生娘もいるんだぞ、まったく教育に悪すぎるだろ。
「ほら、食べるもの食べたんだし早く部屋に行くわよ。」
「ご安心ください、アナタはただ身を任せて下さればいいんです。」
「旦那様は頑張り過ぎなんです、お父様が来る前に疲れを取ってくださいね。」
絶対疲れなんて取れる気がしない。
そのまま引きずられるようにして女達と共に日の高いうちから寝室へと移動。
俺がはっきりと覚えているのはそこまでなのだが、一つだけ言えるのはスッキリしたそれだけだ。
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