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935.転売屋は薬莢を仕入れる
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夏まで残り一週間。
この春も色々と新しい物を買い付けそして開発してきたのだが、夏に売り出そうと決めていたとある物について大きな進展がないままこの時を迎えてしまった。
言い訳になってしまうが、実際に忙しすぎて調査をするようなタイミングなんてなかったし、いい素材も見つからなかった。
ひとまず第一段階は成功しているので遅れても多少問題は無いのだが、化粧品という大きな屋台骨が揺らいでいる以上早急に準備を行わなければならない。
だが、焦ってもいい案は浮かばず今の今まで来てしまったというわけだ。
「候補はこれだけか。」
「色がねぇ・・・。」
「仕方ありません、太陽から降り注ぐ目に見えない光を遮断するためにはこういった色が一番なんです。」
店のカウンターの上に並べられた茶色いガラス瓶達。
どれも日光を遮断するという効果を持つガラスなのだが、残念ながら華やかさがどこにも無かった。
どうしても色目的に重たい感じがしてしまう。
別に茶色は茶色で嫌いではないんだけど、今回はネイルに使う塗料の入れ物候補なのでやはり華やかさが欲しいところだ。
とはいえ、色鮮やかなガラスでは日光を透過してしまうのでシャドウプラントの樹液がそれに反応して硬化してしまう。
そうならない為の素材を一応は探してみたのだが、このような結果になってしまったというわけだ。
「そういや病院とかに置かれている薬瓶もこんな色だったが、そういう理由だったんだなぁ。」
「薬の中には日光で変質してしまうものもありますから、それを避けるためにはこういう入れ物も必要になります。とはいえ、見た目が可愛くないんですよね。」
「そう、そこなんだよ。せっかく楽しい気分で爪を塗るのに入れ物がコレじゃ楽しさも半減するってもの。とはいえじゃあ何に入れるんだよって話だ。使用場所に気をつけてさえくれればここまでしなくてもいいんだが、やっぱり輸送のリスクもあるから万全を期しておきたい。」
「気分が上がるぐらいに綺麗で、それでいて日光を通さないような素材で、かつ大量生産できるものかぁ・・・。ないわね。」
「だよな。」
素材に精通しているキキをはじめ、アネットとエリザを加えた大人四人が雁首揃えて知恵を絞ってもこのざまだ。
コレは売れる!そう分かっていても、形に出来なければ意味は無い。
もっと別の材料から考え直すか、それともアプローチを変えるのか。
素材が無ければ作ればいいじゃないか、と考えはしたものの作るほうも中々に大変だ。
まず日光を遮断する素材が少ない。
まぁ、日光って言うか正式には紫外線なんだろうけど、それでもそれだけをどうにかする素材をこの世界ではまだ見つけられていない。
元の世界なら眼鏡レンズや窓ガラスですらUVカットになっていたものだが、一体アレはどうやって作られていたんだろうか。
わからんなぁ。
「ただいま戻りました!」
「メルディお帰り。」
「ギルドからの呼び出しだってな、何かあったのか?」
「孤児院で使う食器が足りなくなったそうで、あまっているものが無いかという問い合わせでした。生憎と余剰はありませんでしたのでそうお答えしています。」
「孤児院か、何かあったのかもしれないな。」
この前教会に遊びに言ったときには食器が足りなくなるなんて話は聞いていなかったのだが、まとめて割れてしまったとかだろうか。
やんちゃ坊主ばかりだからなぁ。
そういう事故も起きるだろう。
「とりあえず店番は終わったし、一度屋敷に戻るか。このままここに居てもいい案は浮かびそうに無い。」
「まだ見つかりませんか。」
「残念ながらな。」
メルディも戻ってきたしここで話し合う必要はもう無くなった。
店の倉庫にも該当する素材は無し、生き字引に聞いても該当しそうなものは見当たらない八方塞というわけだ。
さぁ帰ろうか、そう思ったタイミングに限って店の扉が開くんだよなぁ。
カランという音を立てて入ってきたのは、馴染みの女性冒険者。
手にはキラキラとした何かを握り締めている。
「あれ、シロウさんがいる。え!エリザ様まで!?」
「俺はさん付けでエリザは様付けなのか。」
「ふふん当然でしょ。あれ、その素材って。」
「クリスタルマシンの薬莢です。綺麗なので買取してないかなって持ってきたんですけど、エリザ様はもちろんご存知ですよね。」
「知ってるも何も過去に何度も戦ったわ。見た目は綺麗だしうまくいけば宝石も手に入るけど、あの弾幕の中を移動するのは今の私には正直ちょっときついわね。」
彼女の手に握られていたのは小指ほどの太さと長さをした筒状の入れ物。
薬莢の名の如く上部はぽっかりと口を開いているが、外側はまるで宝石のようなカッティングが施されており、光を浴びてキラキラと輝いている。
これで蓋があれば彼女の言うように何かに使えたのかもしれないが、生憎とそういうものは無い。
『クリスタルマシンの薬莢。クリスタルマシンが両指の先から射出する弾丸が入っていた入れ物。薬莢の中に複数の粒のような弾が仕込まれており、発射と同時に対外に排出される。クリスタルマシンの外見と同じく光を全て反射して光り輝く為、薬莢はアクセサリーに加工して販売されることもある。最近の平均取引価格は銅貨15枚。最安値銅貨10枚、最高値銅貨33枚、最終取引日は一昨日と記録されています。』
クリスタルマシンはその名の如く全身がピカピカと光り輝く遺跡を守る二足歩行のロボットのような魔物だ。
見た目は綺麗なのに攻撃方法はえげつなく、両指の先から大量の弾丸を射出し近づくものを容赦なく打ち抜いていく。
弾丸も直線的なものもあれば散弾のようなものもあり、今回の薬莢はその散弾が撃たれた後に排出される物だろう。
現物を見るのは初めてだが、香水の入れ物といわれても信じてしまうような見事なカッティングが施されている。
程よい大きさの空洞は、ガキ共が水を入れて遊ぶのにはちょうどよさそうだ。
コレで蓋があれば入れ物として完璧に機能したのになぁ。
「買取できますか?」
「出来るのは出来るが、一個単位だとせいぜい銅貨5枚がいいところだ。」
「大丈夫です!百個集めてきました!」
「え、百個?」
「あいつ一体倒すだけで山のような薬莢出てくるもの。こんなにキラキラしてるのにもったいないわよねぇ。」
「とりあえずそれだけあったらルティエ達が何かに加工してくれるだろうし、銀貨6枚でどうだ?」
「お願いします!」
こうして冒険者は山のように薬莢を置いて去っていった。
残されたのはカウンターの上に綺麗に整列して並べられた薬莢たち。
おもむろに一つ手に取りくるくると回転させてみる。
弾丸が入っていた部分は真っ暗でそれほど長くないのに真上からの覗き込まないと底が見えなかった。
「あ。」
くるくると回していると手が滑ってしまい薬莢が床に落ちてしまった。
「あ、壊れた。」
「思ったよりも強度が無いのか?」
「割れたというよりも外れたというほうが正しい感じですね、これは。」
床に落とした薬莢は底の部分と筒の部分が簡単に外れてしまった。
とはいえ、他のやつを指で押してみてもそう簡単に取れる感じは無い。
「どうなってるんだ?」
「衝撃に弱いのかもね。落としたりしなかったら問題ないんじゃない?」
「うーん、入れ物にするなら何かで固着させるべきなんだろうけど・・・。」
分離した底の部分を他の薬莢にかぶせるとピタリとはまってしまった。
魔物から得られる素材、特に無機系の魔物から得られる素材のいいところは規格が統一されていることだ。
今回の薬莢もそれに違わず、すべて同じ規格で作られているらしい。
外れた部分がまるで初めからあった蓋のように隙間無く重なっている。
そう、隙間無く。
「アネット、シャドウプラントの樹液持ってきてたよな。」
「はい、瓶の性能を確保する為に一応は。」
「ちょっと貸してくれ。」
日光の当たらないカウンター裏にしゃがみこみ、薬莢の中に持ってきた樹液を入れその上に蓋をかぶせる。
かぶせただけではすぐにズレて仕舞いそうなので、蓋の周りに樹液を塗ってから今度は窓辺へ移動する。
太陽の光を浴び塗った樹液がすぐに固まってしまった。
「何してるの?」
「こいつを鑑定すると光を通さないって出るんだ。実際上から見ないと底のほうは見えなかったし、もしかすると完全に遮光しているのかもしれない。」
「もしそうなら中の樹液は固まっていませんよね。」
「そのはずだ。」
しっかりと樹液が固まったのを確認して再びカウンターの裏へ。
メルディに台所からお湯を持ってきてもらって、薬莢の上にかけると固まっていた奴が溶け出した。
女達がカウンターの上に身を乗り出して覗き込んでくる。
「さぁ、どうなっているのかな。」
蓋をずらして薬莢を傾けると、中から樹液がどろっと流れ出てきた。
お湯には触れていないはずなので、つまりは中にまで光ならびに紫外線は届いていなかったと考えられる。
実験は成功といえるだろう。
「すごい、固まってない。」
「つまりその容器は完全に光を遮断しているんですね。」
「どういう原理かは分からないがそうなるな。同じ遮光性でもこの見た目なら十分にありだろう。問題はどうやって蓋を固定するか。毎回樹液につけるんじゃめんどくさいし、せめて瓶のようにまわして固定できるぐらいにしないとなぁ。」
「それに落としたぐらいで外れてもらったら困るわ。外側はしっかり固める必要があるわね。」
「それよりもどうやって分解できたのか確認しないと。」
どうやら女たちもこの薬莢の可能性に気がついたようだ。
まだまだ荒削りではあるが、ひとまず入れ物の可能性が新たに生まれた。
この見た目ならテンションも上がるし、なにより安い上に大量確保が可能だ。
蓋がもしこのまま使えるとしても、製造個数の倍量は必要になる。
100個作るなら200個、1000個作るなら2000個の薬莢を確保しなければならない。
大量確保が可能とはいえその数を間違いなく手に入れることが出来るのかも調べておかないと。
残り一週間でそれを全て確認するのはさすがに難しいだろうけど、それでも夏に売り出すめどは立つはず。
このキラキラと輝く薬莢がネイル溶液の入れ物に生まれ変わるなんて誰が想像しただろうか。
まさかこんな形でこんな素材に出会えるとは。
魔物の素材は無限の可能性を秘めているといえるだろう。
ほんとありがたい話だ。
「キキ、急いでこれを持ってルティエの所に向かってくれ。薬莢の分解と蓋の加工を依頼して欲しい。エリザは冒険者ギルドに言って薬莢と樹液の確保、アネットは染色用の成分を抽出する準備をはじめてくれ。夏までに間に合わなくても半ばまでには何とか形にしてしまいたい、それこそ陛下が来るまでにはな。」
「わかりました。」
「数はどのぐらい要るの?」
「とりあえず一万個。」
「まぁそれぐらい要るわよねぇ、任せといて。」
「抽出液はパックに使っていた奴が流用できますので、新しいのを探しておきます。」
「宜しく頼む。さぁ、忙しくなるぞ!」
夏はもう目の前。
さぁ、ラストスパートといこうじゃないか。
この春も色々と新しい物を買い付けそして開発してきたのだが、夏に売り出そうと決めていたとある物について大きな進展がないままこの時を迎えてしまった。
言い訳になってしまうが、実際に忙しすぎて調査をするようなタイミングなんてなかったし、いい素材も見つからなかった。
ひとまず第一段階は成功しているので遅れても多少問題は無いのだが、化粧品という大きな屋台骨が揺らいでいる以上早急に準備を行わなければならない。
だが、焦ってもいい案は浮かばず今の今まで来てしまったというわけだ。
「候補はこれだけか。」
「色がねぇ・・・。」
「仕方ありません、太陽から降り注ぐ目に見えない光を遮断するためにはこういった色が一番なんです。」
店のカウンターの上に並べられた茶色いガラス瓶達。
どれも日光を遮断するという効果を持つガラスなのだが、残念ながら華やかさがどこにも無かった。
どうしても色目的に重たい感じがしてしまう。
別に茶色は茶色で嫌いではないんだけど、今回はネイルに使う塗料の入れ物候補なのでやはり華やかさが欲しいところだ。
とはいえ、色鮮やかなガラスでは日光を透過してしまうのでシャドウプラントの樹液がそれに反応して硬化してしまう。
そうならない為の素材を一応は探してみたのだが、このような結果になってしまったというわけだ。
「そういや病院とかに置かれている薬瓶もこんな色だったが、そういう理由だったんだなぁ。」
「薬の中には日光で変質してしまうものもありますから、それを避けるためにはこういう入れ物も必要になります。とはいえ、見た目が可愛くないんですよね。」
「そう、そこなんだよ。せっかく楽しい気分で爪を塗るのに入れ物がコレじゃ楽しさも半減するってもの。とはいえじゃあ何に入れるんだよって話だ。使用場所に気をつけてさえくれればここまでしなくてもいいんだが、やっぱり輸送のリスクもあるから万全を期しておきたい。」
「気分が上がるぐらいに綺麗で、それでいて日光を通さないような素材で、かつ大量生産できるものかぁ・・・。ないわね。」
「だよな。」
素材に精通しているキキをはじめ、アネットとエリザを加えた大人四人が雁首揃えて知恵を絞ってもこのざまだ。
コレは売れる!そう分かっていても、形に出来なければ意味は無い。
もっと別の材料から考え直すか、それともアプローチを変えるのか。
素材が無ければ作ればいいじゃないか、と考えはしたものの作るほうも中々に大変だ。
まず日光を遮断する素材が少ない。
まぁ、日光って言うか正式には紫外線なんだろうけど、それでもそれだけをどうにかする素材をこの世界ではまだ見つけられていない。
元の世界なら眼鏡レンズや窓ガラスですらUVカットになっていたものだが、一体アレはどうやって作られていたんだろうか。
わからんなぁ。
「ただいま戻りました!」
「メルディお帰り。」
「ギルドからの呼び出しだってな、何かあったのか?」
「孤児院で使う食器が足りなくなったそうで、あまっているものが無いかという問い合わせでした。生憎と余剰はありませんでしたのでそうお答えしています。」
「孤児院か、何かあったのかもしれないな。」
この前教会に遊びに言ったときには食器が足りなくなるなんて話は聞いていなかったのだが、まとめて割れてしまったとかだろうか。
やんちゃ坊主ばかりだからなぁ。
そういう事故も起きるだろう。
「とりあえず店番は終わったし、一度屋敷に戻るか。このままここに居てもいい案は浮かびそうに無い。」
「まだ見つかりませんか。」
「残念ながらな。」
メルディも戻ってきたしここで話し合う必要はもう無くなった。
店の倉庫にも該当する素材は無し、生き字引に聞いても該当しそうなものは見当たらない八方塞というわけだ。
さぁ帰ろうか、そう思ったタイミングに限って店の扉が開くんだよなぁ。
カランという音を立てて入ってきたのは、馴染みの女性冒険者。
手にはキラキラとした何かを握り締めている。
「あれ、シロウさんがいる。え!エリザ様まで!?」
「俺はさん付けでエリザは様付けなのか。」
「ふふん当然でしょ。あれ、その素材って。」
「クリスタルマシンの薬莢です。綺麗なので買取してないかなって持ってきたんですけど、エリザ様はもちろんご存知ですよね。」
「知ってるも何も過去に何度も戦ったわ。見た目は綺麗だしうまくいけば宝石も手に入るけど、あの弾幕の中を移動するのは今の私には正直ちょっときついわね。」
彼女の手に握られていたのは小指ほどの太さと長さをした筒状の入れ物。
薬莢の名の如く上部はぽっかりと口を開いているが、外側はまるで宝石のようなカッティングが施されており、光を浴びてキラキラと輝いている。
これで蓋があれば彼女の言うように何かに使えたのかもしれないが、生憎とそういうものは無い。
『クリスタルマシンの薬莢。クリスタルマシンが両指の先から射出する弾丸が入っていた入れ物。薬莢の中に複数の粒のような弾が仕込まれており、発射と同時に対外に排出される。クリスタルマシンの外見と同じく光を全て反射して光り輝く為、薬莢はアクセサリーに加工して販売されることもある。最近の平均取引価格は銅貨15枚。最安値銅貨10枚、最高値銅貨33枚、最終取引日は一昨日と記録されています。』
クリスタルマシンはその名の如く全身がピカピカと光り輝く遺跡を守る二足歩行のロボットのような魔物だ。
見た目は綺麗なのに攻撃方法はえげつなく、両指の先から大量の弾丸を射出し近づくものを容赦なく打ち抜いていく。
弾丸も直線的なものもあれば散弾のようなものもあり、今回の薬莢はその散弾が撃たれた後に排出される物だろう。
現物を見るのは初めてだが、香水の入れ物といわれても信じてしまうような見事なカッティングが施されている。
程よい大きさの空洞は、ガキ共が水を入れて遊ぶのにはちょうどよさそうだ。
コレで蓋があれば入れ物として完璧に機能したのになぁ。
「買取できますか?」
「出来るのは出来るが、一個単位だとせいぜい銅貨5枚がいいところだ。」
「大丈夫です!百個集めてきました!」
「え、百個?」
「あいつ一体倒すだけで山のような薬莢出てくるもの。こんなにキラキラしてるのにもったいないわよねぇ。」
「とりあえずそれだけあったらルティエ達が何かに加工してくれるだろうし、銀貨6枚でどうだ?」
「お願いします!」
こうして冒険者は山のように薬莢を置いて去っていった。
残されたのはカウンターの上に綺麗に整列して並べられた薬莢たち。
おもむろに一つ手に取りくるくると回転させてみる。
弾丸が入っていた部分は真っ暗でそれほど長くないのに真上からの覗き込まないと底が見えなかった。
「あ。」
くるくると回していると手が滑ってしまい薬莢が床に落ちてしまった。
「あ、壊れた。」
「思ったよりも強度が無いのか?」
「割れたというよりも外れたというほうが正しい感じですね、これは。」
床に落とした薬莢は底の部分と筒の部分が簡単に外れてしまった。
とはいえ、他のやつを指で押してみてもそう簡単に取れる感じは無い。
「どうなってるんだ?」
「衝撃に弱いのかもね。落としたりしなかったら問題ないんじゃない?」
「うーん、入れ物にするなら何かで固着させるべきなんだろうけど・・・。」
分離した底の部分を他の薬莢にかぶせるとピタリとはまってしまった。
魔物から得られる素材、特に無機系の魔物から得られる素材のいいところは規格が統一されていることだ。
今回の薬莢もそれに違わず、すべて同じ規格で作られているらしい。
外れた部分がまるで初めからあった蓋のように隙間無く重なっている。
そう、隙間無く。
「アネット、シャドウプラントの樹液持ってきてたよな。」
「はい、瓶の性能を確保する為に一応は。」
「ちょっと貸してくれ。」
日光の当たらないカウンター裏にしゃがみこみ、薬莢の中に持ってきた樹液を入れその上に蓋をかぶせる。
かぶせただけではすぐにズレて仕舞いそうなので、蓋の周りに樹液を塗ってから今度は窓辺へ移動する。
太陽の光を浴び塗った樹液がすぐに固まってしまった。
「何してるの?」
「こいつを鑑定すると光を通さないって出るんだ。実際上から見ないと底のほうは見えなかったし、もしかすると完全に遮光しているのかもしれない。」
「もしそうなら中の樹液は固まっていませんよね。」
「そのはずだ。」
しっかりと樹液が固まったのを確認して再びカウンターの裏へ。
メルディに台所からお湯を持ってきてもらって、薬莢の上にかけると固まっていた奴が溶け出した。
女達がカウンターの上に身を乗り出して覗き込んでくる。
「さぁ、どうなっているのかな。」
蓋をずらして薬莢を傾けると、中から樹液がどろっと流れ出てきた。
お湯には触れていないはずなので、つまりは中にまで光ならびに紫外線は届いていなかったと考えられる。
実験は成功といえるだろう。
「すごい、固まってない。」
「つまりその容器は完全に光を遮断しているんですね。」
「どういう原理かは分からないがそうなるな。同じ遮光性でもこの見た目なら十分にありだろう。問題はどうやって蓋を固定するか。毎回樹液につけるんじゃめんどくさいし、せめて瓶のようにまわして固定できるぐらいにしないとなぁ。」
「それに落としたぐらいで外れてもらったら困るわ。外側はしっかり固める必要があるわね。」
「それよりもどうやって分解できたのか確認しないと。」
どうやら女たちもこの薬莢の可能性に気がついたようだ。
まだまだ荒削りではあるが、ひとまず入れ物の可能性が新たに生まれた。
この見た目ならテンションも上がるし、なにより安い上に大量確保が可能だ。
蓋がもしこのまま使えるとしても、製造個数の倍量は必要になる。
100個作るなら200個、1000個作るなら2000個の薬莢を確保しなければならない。
大量確保が可能とはいえその数を間違いなく手に入れることが出来るのかも調べておかないと。
残り一週間でそれを全て確認するのはさすがに難しいだろうけど、それでも夏に売り出すめどは立つはず。
このキラキラと輝く薬莢がネイル溶液の入れ物に生まれ変わるなんて誰が想像しただろうか。
まさかこんな形でこんな素材に出会えるとは。
魔物の素材は無限の可能性を秘めているといえるだろう。
ほんとありがたい話だ。
「キキ、急いでこれを持ってルティエの所に向かってくれ。薬莢の分解と蓋の加工を依頼して欲しい。エリザは冒険者ギルドに言って薬莢と樹液の確保、アネットは染色用の成分を抽出する準備をはじめてくれ。夏までに間に合わなくても半ばまでには何とか形にしてしまいたい、それこそ陛下が来るまでにはな。」
「わかりました。」
「数はどのぐらい要るの?」
「とりあえず一万個。」
「まぁそれぐらい要るわよねぇ、任せといて。」
「抽出液はパックに使っていた奴が流用できますので、新しいのを探しておきます。」
「宜しく頼む。さぁ、忙しくなるぞ!」
夏はもう目の前。
さぁ、ラストスパートといこうじゃないか。
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