転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

文字の大きさ
上 下
936 / 1,294

933.転売屋は芋虫を見にいく

しおりを挟む
「ふぅ、到着っと。」

「トト!荷物はここに置いとくね!」

「あぁ、後は俺がやるから気をつけてな。また夕方にまた迎えに来てくれ。」

「わかった!」

人化することで足につけていた荷物はするりと解き少し離れた所で再び龍化することで、すばやく荷降ろしする技を覚えたバーンはあっという間に街へと戻ってしまった。

焦っているのには理由がある。

出発前に陛下に出す料理に使うとっておきの肉がもうすぐ地上に戻ってくると聞いてしまったからだ。

その場に残るとゴネるバーンを何とか宥め、最高記録の速度でここまで飛んできた。

慣れてきたとはいえバーンの本気飛行はさすがにきつい。

いまだに地面がふわふわと揺れてしまっている。

「これはボス、お早いお着きで。おや、バーン様は?」

「野暮用で急ぎとんぼ返りした。そこにおいてあるのが今月の食料だ、確認してくれ。」

「いつもありがとうございます。お疲れのようですし、少し中で休まれますか?」

「いや、ここで休むから大丈夫だ。」

適当な岩に腰掛けて視界が落ち着くのを待つ。

その間に廃鉱山の奥からワラワラと鼠人族出てきて、あっという間に荷物を中へと運び込んでしまった。

今頃生鮮食品は氷室へ、そうでないものは住居へと運ばれて分配されていることだろう。

空いた木箱には魔力水を詰め込んでもらって、それを持って帰るのがいつもの流れ。

だが、今回から新たな仕事が追加されている。

「よし、もう大丈夫だ。マウジー案内してくれ。」

「本当に大丈夫ですか、ボス。」

「大丈夫だ問題ない。」

「では、参りましょう。」

気分も落ち着いたところで、マウジーに連れられて廃鉱山の中を進む。

氷室や倉庫は左、住居は右、だが今回向かうのは真正面の通路だ。

他の道と違って道幅は広く勾配もさほどきつくない。

ゆっくりとした坂道を進むこと数分、突然青臭い草の香りが鼻を刺激してきた。

「これは、結構きついな。」

「そうですか?掃除はしているのですが・・・。」

「まぁ閉鎖空間だし致し方ないだろうけど、気にならないのか。」

「確かに匂いはきついですが、便などに比べたら可愛いものです。」

「うーむ、まぁそうか。」

「順調に生育しております。どうぞ、その奥をご覧ください。」

マウジーに指定された通路をそっと覗き込むと、巨大な芋虫が俺の気配を感じのそりと顔を上げる。

バッチリと目が合ってしまい思わす声が出そうになったが、よく見ると中々につぶらな瞳をしていた。

可愛いかと聞かれれば何ともいえないが、よく見ると悲鳴を上げるほどではないな。

「でかいな。」

「捕獲したときよりも一回りほど成長しております。よく食べ、よく糸を出してくれるいい子です。」

「もう糸を出してるのか。」

「少量ではありますが、予定通り魔素を纏った糸を吐き出してくれています。」

「現物は?」

「ここに。」

待ってましたといわんばかりのタイミングで、さっとマウジーが何かを差し出す。

背後の魔灯に照らされて彼の手の上でキラキラと何かが光っていた。

手を伸ばしその一本を掴んでみる。

『ケイブワームの糸。えさを食べたケイブワームは体内で糸を生成し口から糸を吐き出す。野生下では自分の寝床や頭上の葉を採るために糸を吐くが、飼育下ではエサのお礼のような形で吐き出すことが多い。エサに含まれる魔素の量に応じて糸そのものにも魔素が移る。ふんだんに魔素を含んでいる。最近の平均取引価格は銀貨2枚。最安値銀貨1枚、最高値銀貨5枚、最終取引日は12日前と記録されています。』

一本一本は細くてかろうじて手の上に乗っているのが分かる程度だが、これがそれなりの金を生み出しているのは間違いない。

しかし、わざわざ『ふんだんに』と表示が出る当たり、かなりの含有量なんだろう。

「見事な糸だ。かなり魔素を含んでいるようだが、普通のえさやりではこうはならないよな。」

「外で採れる葉っぱに地下から回収した魔力水をふりかけて与えています。」

「原液をかけてるのか、そりゃ濃くなるわけだ。」

「最初はそこまでの含有量ではなかったのですがいまや半分以上に魔素が含まれるほどになりました。魔力伝達能力は非常に高く、コレを用いて服を作れば素晴らしい魔道服に仕上がること請け合いです。」

「紡げば魔糸としても使えるなぁ。なるほど、コレは予想以上の仕上がりだ。」

最初にケイブワームを紹介されたときはどうなることかと思ったが、実際にこうやって生成されたものを見るとやってよかったと思う。

なんせ元手はほぼゼロ。

エサは外に生えている草で、上からかけている魔力水だって汲めばいくらでも手に入る。

供給量をわざとセーブしている状況なので本当はまだまだ汲み上げることが出来るのだが、また魔術師ギルドに目を付けられても困るからこれ以上増やすのは難しいんだよなぁ。

もちろん回収したこの糸をただ売るのではなく、自分達で何か加工してしまえば追及することも出来なくなるだろう。

まさに無から有を生み出した最高の素材。

金のなる木、ならぬ金を生み出す芋虫というわけだな。

ルフとかならわしゃわしゃと撫で回してやるところなのだが、芋虫にもして大丈夫なんだろうか。

っていうか喜ぶのか?

「一月でどのぐらい回収できそうだ?」

「月半ば頃からの回収ですのでおおよそにはなりますが、大木箱一つ分はいけると思います。」

「え、そんなに?」

「こちらである程度紡いだ状態で出荷しますので満杯というほどではないと思いますが、中木箱では足りないかと。」

「紡いでもらえるの非常に助かるが・・・、こりゃ大目に報酬を支払う必要があるな。」

「え、報酬ですか?」

「そりゃそうだろう。飼育だけじゃなく紡ぎまでしてもらえるんだぞ、どう考えたって食料だけじゃ割に合わない。前に話した様に糸を俺が買い付ければ金を稼げる。現金があれば生活もより豊かになるんじゃないか?」

「それはそうですが・・・。」

なにやら快く受け入れられない理由があるようだ。

もちろんそれを強制するつもりもないし、報酬が要らないとなれば俺の儲けが丸々増えることになる。

とはいえ、不満があるのであればそれを解消するべきだし、俺だって搾取したいわけじゃない。

もちろん何か考えがあるんだろうけど。

「あまり外の刺激を与えたくないってか?」

「よくお分かりですね。今の所は問題ありませんが、生活が豊かになったことで新しい刺激に飢えている若いのも居るんです。」

「それは悪いことなのか?」

「悪くはありません。ですが、不必要な外出は我らの生活を脅かします。」

「ここはもう俺の所有物だ、そうそう悪さは出来ないはずだが。」

「それでもわざわざ危険を冒す必要は無いでしょう。魔力水は外ではかなり貴重な物だと伺っています、秘密が漏れればそれを狙って何者かが我らの集落を襲うとも限りません。我らには力は無く、何かあれば滅ぼされるのは一瞬ですから。もちろん死ぬ気で抵抗はしますがね。」

そういってマウジーは腰にぶら下げた剣に手を乗せた。

子供ほどの背丈しかないものの、その実力はロングホーンを容易くしとめるほど。

地の利もあるし早々にやられることは無いと思うのだが、何かあったときの緊急連絡方法とかも無いんだよなぁ。

月末に様子を見にきたら全滅してましたなんて勘弁してもらいたい。

今は誰にも知られていなくても、外の世界に出れば彼の言うようにそれを漏らしてしまう危険が付きまとう。

かといって、押し込んでしまうのはどうなんだろうか。

「あとはミヌレさんがなんていうかだな。」

「今の所は静観という感じです、押さえ込めばどうしても反発しますので様子を見ているというべきでしょうか。」

「ま、そっちの問題だし俺がとやかく口を出すことじゃない。」

「ちなみに簡単な加工に関しては準備が整っています。必要であれば糸にするだけでなく織物にも加工しておきますが。」

「そこまでここで出来るのか?」

糸にしてもらえるだけでも十分にありがたいのだが、その上反物にまでしてもらえるとなると製品化するのに一気に時間を短縮できる。

「追加の織り機さえあれば可能です。小さいものをいくつか手配していただけますでしょうか。」

「そのぐらいはお安い御用だ。」

「それとは別に、いくつか用意してもらいたいものがあるのですが・・・。」

どうやら彼は彼なりに自分達の将来について考えているようだ。

さっきも言ったようにそれに対して口出しをする気はないが、彼らの貢献もあるので協力を惜しむつもりは無い。


「ボス、無理を聞いてくださりありがとうございます。」

「すぐに準備は出来ないが、来月までには必要数を手配できるだろう。とはいえ、ムチャはするなよ。」

「もちろんです。」

「トト!早く帰ろう!お肉が待ってるよ!」

「分かったからせかすな。」

「ではボス、バーン様、お気をつけて。」

「マウジーまたね!」

合図を出すと、体が一気に空へと持っていかれる。

オレンジ色に染まった空の上には、藍色の夜が迫っていた。

街に戻ればとっておきの肉が俺達を待っていることだろう。

それを食べながら、ケイブワームの糸をどうするか話し合おうじゃないか。

加工次第ではものすごい利益を出すに違いない。

サンプル代わりに持ち帰った糸を見て女達がどんな顔をするか、楽しみだな。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

1001部隊 ~幻の最強部隊、異世界にて~

鮪鱚鰈
ファンタジー
昭和22年 ロサンゼルス沖合 戦艦大和の艦上にて日本とアメリカの講和がなる 事実上勝利した日本はハワイ自治権・グアム・ミッドウエー統治権・ラバウル直轄権利を得て事実上太平洋の覇者となる その戦争を日本の勝利に導いた男と男が率いる小隊は1001部隊 中国戦線で無類の活躍を見せ、1001小隊の参戦が噂されるだけで敵が逃げ出すほどであった。 終戦時1001小隊に参加して最後まで生き残った兵は11人 小隊長である男『瀬能勝則』含めると12人の男達である 劣戦の戦場でその男達が現れると瞬く間に戦局が逆転し気が付けば日本軍が勝っていた。 しかし日本陸軍上層部はその男達を快くは思っていなかった。 上官の命令には従わず自由気ままに戦場を行き来する男達。 ゆえに彼らは最前線に配備された しかし、彼等は死なず、最前線においても無類の戦火を上げていった。 しかし、彼らがもたらした日本の勝利は彼らが望んだ日本を作り上げたわけではなかった。 瀬能が死を迎えるとき とある世界の神が彼と彼の部下を新天地へと導くのであった

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

初体験が5歳という伝説の「女使い」冒険者の物語 〜 スキル「優しい心」は心の傷ついた女性を虜にしてしまう極悪のモテスキルだった

もぐすけ
ファンタジー
美女を見ると本能で助けてしまう男リンリンに「優しい心」Lv9999のスキルを与えて、異世界に転生させてしまった女神ラクタ。 彼女は責任を取って神界から毎日リンリンを監視するが、規定により監視できるのは1日5分間のみ。 スキル「優しい心」は凶悪で、優しさに飢えている女性は、最短1分でリンリンにメロメロになってしまう。 ラクタが監視で降りてくるたびに、リンリンは5歳で初体験を済ませていたり、毎日違う女の子と寝ていたり、やりたい放題。 もっと、世のため人のためにこのスキルを使ってほしい、と切に願う女神ラクタと本能に負けがちなリンリンの物語。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル
ファンタジー
——1つの星に1つの世界、1つの宙《そら》に無数の冒険—— 帰り道に拾った蒼い石がなんか光りだして、なんか異世界に飛ばされた…。 しかもその石、喋るし、消えるし、食べるしでもう意味わからん! そんな俺の気持ちなどおかまいなしに、突然黒いドラゴンが襲ってきて—— 不思議な力を持った宝石たちを巡る、異世界『転移』物語! 星の命運を掛けた壮大なSFファンタジー!

目が覚めたら奇妙な同居生活が始まりました。気にしたら負けなのでこのまま生きます。

kei
ファンタジー
始まりは生死の境を彷徨い目覚めたあと…‥ 一度目の目覚めは高級感溢れるお部屋で。二度目の目覚めは薄汚れた部屋の中。「あれ?」‥…目覚めれば知らない世界で幼児の身体になっていた。転生?スタートからいきなり人生ハードモード!? 生活環境改善を目標に前世の記憶を頼りに奮闘する‥…が、身に覚えのない記憶。自分の身に何が起こったのか全く分からない。生まれ変わったはずなのに何かが変。自分以外の記憶が、人格が…。 設定その他いろいろ緩いです。独自の世界観なのでサラッと読み流してください。 『小説なろう』掲載中

処理中です...