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929.転売屋は訳あり品を買い付ける
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コインブームは未だ継続中。
予定通り銅貨で取り引きされるようなコインをいくつか纏めて、銀貨1枚と銀貨3枚と銀貨5枚のセットを作りそれぞれに当たりを忍ばせるというやり方で売り出すことにした。
これがもう大当たり。
最初に用意した分は朝一番の開店と同時にあっという間に売れてしまい、急遽第二弾を夕方前に追加。
それも瞬く間に売れてしまい見事俺の手元から在庫をすべてなくすことに成功した。
悪いが銀貨以下のコインは今後買取しない事も一緒に周知しているので、これで在庫に悩まされる心配はないだろう。
銀貨以上のコインもいずれは下火になると思われるので、それよりも先に港町に持ち込んで売りさばく予定だ。
あそこで売れば、わざわざここまで買取に持って来られることもないだろう。
在庫が軽くなれば身動きもしやすくなる、それはどの商売でもいえる事だ。
「うーむ。」
「珍しいな、そんな難しい顔するなんて。」
「誰が怖い顔だ。」
「ンなこと言って無いっての。で、どうしたんだ?」
「いやな、在庫していたワインがそろそろ限界を迎えそうなんだ。」
「ワインが?あぁ、あまり寝かせないやつか。」
「この前の冬に仕入れたんだが、あまり人気が無くてなぁ。」
恐らくはボジョレー何とかっていうワインとかと同じで、フレッシュさが売りのワインなんだろう。
あぁいうのは寝かせてもあまり美味くならないらしいから、ようは賞味期限切れ間近って感じなんだろう。
マスターがそんなワインを仕入れるなんて珍しいが、まぁ誰にでも失敗はあるしな。
「そりゃ残念だ。」
「ってことで、仕入れ値でいいから買え。」
「いや、何で俺に言うんだよ。人気がないのに売れないだろ。」
「確かに人気は無いが、それはこの店の格に合わなかっただけの話だ。多分な。」
「つまり安くすれば売れると?」
「それをうちの店でするわけにはいかないんでな、儲けはお前の取り分でいい。」
うーむ、酒の原価を知っているだけに値引きして売れるのであればそれなりの儲けになるんだが、正直本当に売れるんだろうか。
まぁ、売れ残っても消費する先はあるから無駄にはならないんだろうけど。
肉を食いに行ったはずなのに何故か酒を無理やり買わされた帰り道、ハワードに頼まれた食材を買いにモーリスさんの店へと向かう。
「むむむむ。」
「・・・ここもか。」
「これはシロウ様!すみません、考え事してたものですから。」
「一応聞くが、何かあったのか?」
「食材が売れないうちに古くなってしまいまして。腐っているわけではないのですが、このままだと廃棄になりそうです。はぁ、やってしまいました。」
どうやら個々でも同じことが起きているようだ。
確かに在庫を抱える以上廃棄のリスクは付きまとう。
特に飲食関係はその辺シビアだからな、食べられる状態であっても捨てざるを得ない事も多いだろう。
俺だってこれまでに買い付けた素材を何度もダメにして来ているので、その辛さは痛いほどわかる。
気付けばカビだらけとか前まではしょっちゅうあったもんだ。
今はメルディがしっかり管理してくれているのでそういうロスは減ったものの、ゼロではないんだよなぁ。
「何がやばそうなんだ?」
「主に乾物です。この間作って頂いた乾燥剤のおかげで殆どは何とかなりましたが、はやり助からないものもありまして。他にもピクルスや干物関係もそろそろ期限が来そうです。」
「干物はともかくピクルスはなぁ・・・。安く売れないのか?」
「値段を下げるのは簡単ですがあまり下げてばかりだと他の物が売れなくなりますので、値下げは極力避けたいところです。」
「確かに店の適正価格を保つには必要な事ではある、か。とはいえ捨てるのはもったいないよなぁ。」
「どれも自信を持って仕入れた物だけに、悔しいやら申し訳ないやら。何度経験しても落ち込んでしまいます。」
値段を下げるのは一番簡単な売り方なのだが、それをしてしまうと下がった値段が記憶に残ってしまいどうしても普通の価格で売れにくくなってしまう。
一度下がった価格をもとに戻すのは難しい。
それをわかっているからこそ、マスターもモーリスさんも値下げを拒んでいるんだ。
とはいえそのままでは廃棄になってしまう。
せっかく仕入れた物が日の目を見る事無く捨てられるのは気分も良くない。
なら、どうするべきか。
「気持ちはわかる。そこで相談があるんだが、手を貸してもらえないか?」
俺はニヤリと笑い、モーリスさんに今思いついたばかりのネタを相談した。
これは俺一人で出来る話じゃない。
でも、色んな人の助けがあればできるし、なによりそれによって儲けが出れば最高だ。
誰もが損をしない形で、金儲けができるかもしれない。
そんな新しいやり方を形にしてみようじゃないか。
「いらっしゃい、ちょっと訳アリの商品だがその分安くなってるよ!物はどれも間違いのないいいものばかり、さぁ買って行かないか。」
モーリスさんに準備を頼んだその日の夕方。
人も疎らになって来た市場の一角で、俺は大量の商品を背に声を張っていた。
売っているのが俺だと気づき、さっそく冒険者が集まってくる。
「訳あり?傷んでるのか?」
「いやいやそこまではいってない。とはいえ、このままだと捨てられる運命なんだがその分安く提供させてもらってる。どうだ、このワイン通常一本銀貨2枚するやつが今なら半値の銀貨1枚だ、今日明日で飲むならまだまだいけるぞ。」
瓶を一本開け、コップに中身を注いで手渡す。
客寄せに使うんだ、ケチケチしてちゃ意味は無い。
「え、この味で銀貨1枚!?買う買う!」
「浮いた金でこっちの干し肉をつまみはどうだ?少ししょっぱいが、ワインと良く合うぞ。これも普通なら銀貨1枚はするが今回は銅貨60枚で売ってるんだ。パンにはさんでも美味いぞ。」
「確かにツマミは欲しいよなぁ。それを買っても、元の値段よりかは安いんだろ?それも一緒にくれ。」
「毎度あり。」
早速ワンセット販売っと。
因みにワインの仕入れ値は銅貨80枚で、干し肉の仕入れ値は銅貨40枚。
二つ合わせても儲けは銅貨40枚にしかならないが、廃棄されたらそれもゼロ。
むしろ原価が丸々損失になるんだから店側としては大儲けといえるかもしれない。
後ろに積まれているのはそんな感じのワケあって売れ残った商品達だ。
廃棄が近い、味付けが濃い、人気がない。
そんな理由で売れ残っていた俗にいうアウトレット品的なやつを一同に集め、ここでならお得にものが買えると認知してもらう。
もちろん店の名前は出さないので、その商品がどこの物かよほど詳しくないとわからないだろう。
店は廃棄を減らせて、俺は安く仕入れて利益を出すことが出来る。
俺にしては珍しく薄利多売ではあるがモデルケースとしてはありだろう。
もちろん仕入れた以上は全て売らないといけないわけだけど。
「なぁ、その剣は?傷んでるのか?」
「そういうわけじゃないんだが、持ち手の部分が少しずれてるんだ。切れ味なんかは保障するが商品には向いてないってんでここに持ち込まれた。」
「へぇ、予備に使うぐらいなら問題なさそうだ。いくら?」
「元値は銀貨9枚、今は銀貨4枚って所か。」
「半値なら買う価値ありだ、売ってくれ。」
「ねぇシロウさん、そのグローブは?」
「こっちは甲の部分に傷が入ってるだけだ。銀貨6枚が銀貨3枚、格安だぞ。」
飲食物と違い武器や防具には時間的な制約はないものの、製品として売れるか売れないかという部分で傷や不良などがあって基準を満たさないものもそれなりの数がある。
工房としては職人が中途半端な仕事をしたとなったら大変なので、そういう物は今まで表舞台にあがることはなかった。
が、傷物程度なら実用には十分問題ないし規格が少しずれているものも、使うには差し支えないものがほとんどだ。
さすがに折れているとか普通に使用できないものは持ち込まれていないので、あくまでも通常の規格から外れたものという位置づけになる。
こっちがまさにアウトレット品、ようはB級品という扱いになるんだろう。
剣は仕入れ値銀貨2枚、グローブは銀貨1枚。
飲食物よりも価格が高い分仕入れ値も高くなるが、その分実入りも多くなる。
とはいえ一品物が多いので数を捌けないのが難点だな。
ちなみに、うちの店で買い付けたものの売れ残った品なんかも多数持ち込んでいる。
こちらに関してはB級品というわけではないのだが、やはり現金化できないのは俺の商売上死活問題だからな。
この前のセール同様しっかりと売らせてもらわないと。
最初は冒険者ばかりだったものの、何事かと集まってきた一般の人達も商品を見ては安さに驚き二つ三つと次々買っていってくれたおかげで、日が暮れる前には各店舗から持ち込まれた商品のほとんどが売れてしまった。
とりあえず在庫を抱えすぎるという危機は回避できたようだ。
「よぉ。」
「マスター、預かった品はしっかり売り切ったぞ。」
「まさか渡したその日のうちに売り切るとはなぁ。もう少し高く売りつければよかった。」
「そこはお礼を言うところじゃないのか?」
「お前の懐をあっためる為に渡したわけじゃないんでね。でもまぁ、売り切ってくれたおかげで新しい酒を仕入れることが出来そうだ、ありがとうな。」
まったく、素直にお礼を言えばいいのに。
冷やかしにきたつもりがまさか売り切っているとは思っていなかったんだろうけど、なんだろう非常に嫌な予感がする。
「どういたしまして。で、まだ何か用があるのか?」
「せっかく労ってやろうかってのに、その言い方は無いんじゃないか?」
「絶対に嘘だ、その顔は『そんな簡単に売れるなら売れ残った酒も一緒に売ってもらうか』って言ってるぞ。」
「おかしいな、そんな顔してないと思うが。」
「否定するのはそこかよ。」
そんなこと思ってないぞ、ではなくそんな顔してないぞって言うあたりマスターらしい。
っていうか隠す気がサラサラ無いんだよなこの人は。
「いいじゃないか、お前は儲かって俺は在庫がはける。美味い酒飲みたいだろ?」
「そりゃな。」
「ちょうど王都のほうからいい酒が手に入りそうなんだが、いかんせん倉庫が手狭で困っていたんだ。売値の七掛けでいい、かわりに売ってくれないか。」
「七掛けじゃ利益でないっての。せめて六掛けぐらいしてくれよ、それでも利益出るだろ?」
「バカヤロウ、それじゃ買い付ける金が足りなくなるだろうが。」
「新しい酒を仕入れたらいくらでも儲けが出せるだろ。」
人を在庫処分のダシに使うんだからそれぐらいやってくれてもいいのに。
儲けが出ているようで結構リスキーなことやってるだからな、こっちは。
なんて思いながらも結局は押し切られるような形で酒のアウトレットセールを引き受けることになったのだが、そのまま終わる俺じゃない。
その代わりにと上等な酒を何本か言い値で譲ってもらったのだった。
エリザがまた酒を飲めるようになるまで、それまで隠しておくとしよう。
さて、酒を売るとなればまたつまみが必要なわけだが、今度は何をあわせて売ってやろうか。
正直こういうのを考えている時が一番楽しいんだよな。
予定通り銅貨で取り引きされるようなコインをいくつか纏めて、銀貨1枚と銀貨3枚と銀貨5枚のセットを作りそれぞれに当たりを忍ばせるというやり方で売り出すことにした。
これがもう大当たり。
最初に用意した分は朝一番の開店と同時にあっという間に売れてしまい、急遽第二弾を夕方前に追加。
それも瞬く間に売れてしまい見事俺の手元から在庫をすべてなくすことに成功した。
悪いが銀貨以下のコインは今後買取しない事も一緒に周知しているので、これで在庫に悩まされる心配はないだろう。
銀貨以上のコインもいずれは下火になると思われるので、それよりも先に港町に持ち込んで売りさばく予定だ。
あそこで売れば、わざわざここまで買取に持って来られることもないだろう。
在庫が軽くなれば身動きもしやすくなる、それはどの商売でもいえる事だ。
「うーむ。」
「珍しいな、そんな難しい顔するなんて。」
「誰が怖い顔だ。」
「ンなこと言って無いっての。で、どうしたんだ?」
「いやな、在庫していたワインがそろそろ限界を迎えそうなんだ。」
「ワインが?あぁ、あまり寝かせないやつか。」
「この前の冬に仕入れたんだが、あまり人気が無くてなぁ。」
恐らくはボジョレー何とかっていうワインとかと同じで、フレッシュさが売りのワインなんだろう。
あぁいうのは寝かせてもあまり美味くならないらしいから、ようは賞味期限切れ間近って感じなんだろう。
マスターがそんなワインを仕入れるなんて珍しいが、まぁ誰にでも失敗はあるしな。
「そりゃ残念だ。」
「ってことで、仕入れ値でいいから買え。」
「いや、何で俺に言うんだよ。人気がないのに売れないだろ。」
「確かに人気は無いが、それはこの店の格に合わなかっただけの話だ。多分な。」
「つまり安くすれば売れると?」
「それをうちの店でするわけにはいかないんでな、儲けはお前の取り分でいい。」
うーむ、酒の原価を知っているだけに値引きして売れるのであればそれなりの儲けになるんだが、正直本当に売れるんだろうか。
まぁ、売れ残っても消費する先はあるから無駄にはならないんだろうけど。
肉を食いに行ったはずなのに何故か酒を無理やり買わされた帰り道、ハワードに頼まれた食材を買いにモーリスさんの店へと向かう。
「むむむむ。」
「・・・ここもか。」
「これはシロウ様!すみません、考え事してたものですから。」
「一応聞くが、何かあったのか?」
「食材が売れないうちに古くなってしまいまして。腐っているわけではないのですが、このままだと廃棄になりそうです。はぁ、やってしまいました。」
どうやら個々でも同じことが起きているようだ。
確かに在庫を抱える以上廃棄のリスクは付きまとう。
特に飲食関係はその辺シビアだからな、食べられる状態であっても捨てざるを得ない事も多いだろう。
俺だってこれまでに買い付けた素材を何度もダメにして来ているので、その辛さは痛いほどわかる。
気付けばカビだらけとか前まではしょっちゅうあったもんだ。
今はメルディがしっかり管理してくれているのでそういうロスは減ったものの、ゼロではないんだよなぁ。
「何がやばそうなんだ?」
「主に乾物です。この間作って頂いた乾燥剤のおかげで殆どは何とかなりましたが、はやり助からないものもありまして。他にもピクルスや干物関係もそろそろ期限が来そうです。」
「干物はともかくピクルスはなぁ・・・。安く売れないのか?」
「値段を下げるのは簡単ですがあまり下げてばかりだと他の物が売れなくなりますので、値下げは極力避けたいところです。」
「確かに店の適正価格を保つには必要な事ではある、か。とはいえ捨てるのはもったいないよなぁ。」
「どれも自信を持って仕入れた物だけに、悔しいやら申し訳ないやら。何度経験しても落ち込んでしまいます。」
値段を下げるのは一番簡単な売り方なのだが、それをしてしまうと下がった値段が記憶に残ってしまいどうしても普通の価格で売れにくくなってしまう。
一度下がった価格をもとに戻すのは難しい。
それをわかっているからこそ、マスターもモーリスさんも値下げを拒んでいるんだ。
とはいえそのままでは廃棄になってしまう。
せっかく仕入れた物が日の目を見る事無く捨てられるのは気分も良くない。
なら、どうするべきか。
「気持ちはわかる。そこで相談があるんだが、手を貸してもらえないか?」
俺はニヤリと笑い、モーリスさんに今思いついたばかりのネタを相談した。
これは俺一人で出来る話じゃない。
でも、色んな人の助けがあればできるし、なによりそれによって儲けが出れば最高だ。
誰もが損をしない形で、金儲けができるかもしれない。
そんな新しいやり方を形にしてみようじゃないか。
「いらっしゃい、ちょっと訳アリの商品だがその分安くなってるよ!物はどれも間違いのないいいものばかり、さぁ買って行かないか。」
モーリスさんに準備を頼んだその日の夕方。
人も疎らになって来た市場の一角で、俺は大量の商品を背に声を張っていた。
売っているのが俺だと気づき、さっそく冒険者が集まってくる。
「訳あり?傷んでるのか?」
「いやいやそこまではいってない。とはいえ、このままだと捨てられる運命なんだがその分安く提供させてもらってる。どうだ、このワイン通常一本銀貨2枚するやつが今なら半値の銀貨1枚だ、今日明日で飲むならまだまだいけるぞ。」
瓶を一本開け、コップに中身を注いで手渡す。
客寄せに使うんだ、ケチケチしてちゃ意味は無い。
「え、この味で銀貨1枚!?買う買う!」
「浮いた金でこっちの干し肉をつまみはどうだ?少ししょっぱいが、ワインと良く合うぞ。これも普通なら銀貨1枚はするが今回は銅貨60枚で売ってるんだ。パンにはさんでも美味いぞ。」
「確かにツマミは欲しいよなぁ。それを買っても、元の値段よりかは安いんだろ?それも一緒にくれ。」
「毎度あり。」
早速ワンセット販売っと。
因みにワインの仕入れ値は銅貨80枚で、干し肉の仕入れ値は銅貨40枚。
二つ合わせても儲けは銅貨40枚にしかならないが、廃棄されたらそれもゼロ。
むしろ原価が丸々損失になるんだから店側としては大儲けといえるかもしれない。
後ろに積まれているのはそんな感じのワケあって売れ残った商品達だ。
廃棄が近い、味付けが濃い、人気がない。
そんな理由で売れ残っていた俗にいうアウトレット品的なやつを一同に集め、ここでならお得にものが買えると認知してもらう。
もちろん店の名前は出さないので、その商品がどこの物かよほど詳しくないとわからないだろう。
店は廃棄を減らせて、俺は安く仕入れて利益を出すことが出来る。
俺にしては珍しく薄利多売ではあるがモデルケースとしてはありだろう。
もちろん仕入れた以上は全て売らないといけないわけだけど。
「なぁ、その剣は?傷んでるのか?」
「そういうわけじゃないんだが、持ち手の部分が少しずれてるんだ。切れ味なんかは保障するが商品には向いてないってんでここに持ち込まれた。」
「へぇ、予備に使うぐらいなら問題なさそうだ。いくら?」
「元値は銀貨9枚、今は銀貨4枚って所か。」
「半値なら買う価値ありだ、売ってくれ。」
「ねぇシロウさん、そのグローブは?」
「こっちは甲の部分に傷が入ってるだけだ。銀貨6枚が銀貨3枚、格安だぞ。」
飲食物と違い武器や防具には時間的な制約はないものの、製品として売れるか売れないかという部分で傷や不良などがあって基準を満たさないものもそれなりの数がある。
工房としては職人が中途半端な仕事をしたとなったら大変なので、そういう物は今まで表舞台にあがることはなかった。
が、傷物程度なら実用には十分問題ないし規格が少しずれているものも、使うには差し支えないものがほとんどだ。
さすがに折れているとか普通に使用できないものは持ち込まれていないので、あくまでも通常の規格から外れたものという位置づけになる。
こっちがまさにアウトレット品、ようはB級品という扱いになるんだろう。
剣は仕入れ値銀貨2枚、グローブは銀貨1枚。
飲食物よりも価格が高い分仕入れ値も高くなるが、その分実入りも多くなる。
とはいえ一品物が多いので数を捌けないのが難点だな。
ちなみに、うちの店で買い付けたものの売れ残った品なんかも多数持ち込んでいる。
こちらに関してはB級品というわけではないのだが、やはり現金化できないのは俺の商売上死活問題だからな。
この前のセール同様しっかりと売らせてもらわないと。
最初は冒険者ばかりだったものの、何事かと集まってきた一般の人達も商品を見ては安さに驚き二つ三つと次々買っていってくれたおかげで、日が暮れる前には各店舗から持ち込まれた商品のほとんどが売れてしまった。
とりあえず在庫を抱えすぎるという危機は回避できたようだ。
「よぉ。」
「マスター、預かった品はしっかり売り切ったぞ。」
「まさか渡したその日のうちに売り切るとはなぁ。もう少し高く売りつければよかった。」
「そこはお礼を言うところじゃないのか?」
「お前の懐をあっためる為に渡したわけじゃないんでね。でもまぁ、売り切ってくれたおかげで新しい酒を仕入れることが出来そうだ、ありがとうな。」
まったく、素直にお礼を言えばいいのに。
冷やかしにきたつもりがまさか売り切っているとは思っていなかったんだろうけど、なんだろう非常に嫌な予感がする。
「どういたしまして。で、まだ何か用があるのか?」
「せっかく労ってやろうかってのに、その言い方は無いんじゃないか?」
「絶対に嘘だ、その顔は『そんな簡単に売れるなら売れ残った酒も一緒に売ってもらうか』って言ってるぞ。」
「おかしいな、そんな顔してないと思うが。」
「否定するのはそこかよ。」
そんなこと思ってないぞ、ではなくそんな顔してないぞって言うあたりマスターらしい。
っていうか隠す気がサラサラ無いんだよなこの人は。
「いいじゃないか、お前は儲かって俺は在庫がはける。美味い酒飲みたいだろ?」
「そりゃな。」
「ちょうど王都のほうからいい酒が手に入りそうなんだが、いかんせん倉庫が手狭で困っていたんだ。売値の七掛けでいい、かわりに売ってくれないか。」
「七掛けじゃ利益でないっての。せめて六掛けぐらいしてくれよ、それでも利益出るだろ?」
「バカヤロウ、それじゃ買い付ける金が足りなくなるだろうが。」
「新しい酒を仕入れたらいくらでも儲けが出せるだろ。」
人を在庫処分のダシに使うんだからそれぐらいやってくれてもいいのに。
儲けが出ているようで結構リスキーなことやってるだからな、こっちは。
なんて思いながらも結局は押し切られるような形で酒のアウトレットセールを引き受けることになったのだが、そのまま終わる俺じゃない。
その代わりにと上等な酒を何本か言い値で譲ってもらったのだった。
エリザがまた酒を飲めるようになるまで、それまで隠しておくとしよう。
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