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928.転売屋はコインの取引をする
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「シロウさん、このコインはいくらになる?」
「これは・・・そうだな、銀貨3枚って所か。」
「マジか!この間銀貨1枚だったのに、これで美味い酒が飲めそうだぜ。」
「で、売るのか?」
「もう少し置いて値が上がるのを待ってみる、ありがとな!」
まったく、俺を鑑定マシーンか何かだと勘違いしていないか?
今度来たら鑑定料取ってやろうか。
そんな事を考えながら、青空の下でいつものように店を構える。
おばちゃんは仕入れの兼ね合いで休み、おっちゃんは朝一番で大口の販売があったようで昼過ぎには帰ってしまった。
いつもは暇になると話しかけてくれる人がいるだけに、誰もいないのは少し寂しい感じだ。
うちにも朝から客は来るものの、そのほとんどはさっきのようにコインの買取か値段の確認ばかりで装備品があまり売れていない。
港町なんかで広まっていた旧王朝時代のコインブームは無事にこの街にも到達し、今や誰もが家のタンスをひっくり返してコインを探し出しお互いに交換したり売買したりしている。
コインの種類は非常に多く物によっては金貨で取引されるようなものもあるのだが、そのほとんどは銅貨数枚から数十枚程度の価値しかない。
銀貨以上の価値があるのは全体の一割、そのさらに一割が俗にいうレア品という分類になっている。
他にも元の世界と同じくエラー品もそれなりの値段で取引されているようで、鋳造する時の切れ端や刻印漏れなんかは高値で取引されいるし、記念コイン的な物も同じく高い。
旧王朝第4代皇帝の結婚記念コインなんかは中々凝った作りになっているうえに、貴族間でしか配られなかった事もあって金貨10枚を超える値段がついていたりする。
こういうのに価値を見出すのはどの世界でも同じ、という事なんだろう。
まぁ、絵画を高値で売り買いする文化があるんだからこういうのに通常以上の価値を見出すのも当然か。
幸いにも俺はこのブームが来る前に大量に買い付けることが出来たのでそれなりの価値の物を保有することが出来た上に、例の強盗犯が大量に所有していたレア物を多数手に入れることができた。
もっとも、そのレアものに関してはやはりギルド協会からケチが付いたため、当時の相場の半値を支払うことになったわけだが。
それでも今ではその価値も上がり、転がすだけで十分な利益が出る。
個人的なコレクションも増えつつあるので俺的にはこのブームは非常にありがたい限りだ。
「失礼、シロウ名誉男爵とお見受けいたしますがお間違いありませんか?」
「まぁそういう称号を持っていたりもするが、アンタは?」
「骨董品を主に収集しております、メッダー=ルーと申します。気軽にルーと及び下さい。」
暇だし、露店でも見て回ろうかと思ったその時だった。
店の前に現れた小柄な男性が敬称付きで俺の名前を呼ぶ。
年は50前後か、人生の酸いも甘いも経験済みという落ち着いた雰囲気を感じるな。
この街で俺を畏まって呼ぶ人間は限られているので、間違いなく街の外からやって来た人だろう。
で、そんな人間が俺に何の用だろうか。
相手が貴族であれ商人であれ、普通は屋敷でアポを取ってから来るものだと思うんだが?
「メッダーさんか。で、俺に何の用だ?買取なら店の方に行ってもらえると助かるんだが。」
「いえ、この度はシロウ名誉男爵が多数お持ちになっている旧王朝時代のコインについてお話させて頂けないかと。」
「その話をどこで聞いた?」
「この街の冒険者は皆さん親切ですね、一杯のエールで色々と教えてくださいました。なんでも、コインを持ち込めばおおよその値段を教えてくれるのだとか。先日、大量に買い付けられたという話もお聞きしたのですが、是非一度コレクションを拝見させて頂けませんでしょうか。」
ふむ、どうやら事前調査は済んでいるようだ。
別に隠しているわけじゃないし、この街の住人なら俺がコインを蒐集していることは誰でも知っている。
骨董品を扱っていると言っていたが、十中八九その話を聞きつけてここにやってきただろう。
俺からしてみればやっと餌に食いついたかって感じだ。
いくら高価なコインを複数所持していても現金化できなければ宝の持ち腐れ。
もちろんオークションで纏めて手放す手もあるが、流行が終わってしまったら一気に価値が低下してしまうので今のうちに手放したかったというのが本音の所。
もちろんコレクションを手放すつもりはないが、余っている分は金になるのであれば喜んで手放そう。
なんせ俺は転売屋、右から左に転がして利益を出すのが仕事だからな。
仕入れだけしていたって金が生まれるわけじゃない、仕入れ値以上の値段で売ってこその商売だ。
「断ると言ったら?」
「自分で言うのもなんですが私もそれなりの数を収拾しております。もし、お持ちでないものがあるのであればお譲りする事も吝かではありません。」
「ほぉ、なんで俺が集めているって思うんだ?」
「そうでなければ大量に集める必要がないからです。価値のある物ほど、そうでないものに埋もれていることは多いですから。」
なるほど、よくわかってるじゃないか。
どの世界でもそうだが、価値の高い物が単品で取引されている時は大抵は偽物か相場以上の値段で取引されている。
そして、そういった物ほど価値の無い物に埋もれてわからなくなっている事の方が多い。
それがどれだけの価値を持っているかなんてのを持ち主が知らない事の方が多いんだよな。
ネットオークションでお目当ての品を探すよりも、フリーマーケットなんかで投げ売りされている物を見つけた時の方が何倍もテンションが上がる。
『マジか!こんな所にこんなものが!』ってな感じだ。
それをしっているからこそ、俺は大量に仕入れをしてその中からお宝を見つけ出したんだ。
どうやらこのブームにのっかってって感じではなく、本気でコインを蒐集しているんだろう。
なるほど、簡単に金儲け出来る相手ではなさそうだがむしろそれは好都合。
向こうのコレクションも気になるところだしな。
「なるほど。だが、生憎と商売の最中でね。夕方俺の屋敷まで来てもらえるか?」
「かしこまりました、夕方お伺いいたします。突然失礼いたしました。」
流石にこの場で高額商品を取り出すわけにもいかないので、ひとまず屋敷に来てもらうとしよう。
早々に露店を閉め、俺も屋敷へと戻り準備をする。
そして夕方。
今度は屋敷の応接室でその男と対峙する事になった。
「わざわざ悪いな、ここまで来てもらって。」
「とんでもありません、突然の訪問にも関わらず歓迎していただきありがとうございます。」
「俺にも実入りのある話のようだし歓迎するのは当然だろう。この時間だし、早速話を詰めようじゃないか。」
「ではまずはこちらをご覧いただけますでしょうか。」
ソファーの横に置かれたカバンから長方形の平べったい木箱が二つ机の上に置かれる。
金具が外され、恭しく持ち上げられた木箱には布が敷き詰められており、専用のくぼみには何枚かの硬貨がはめ込まれていた。
全部で10枚納められる木箱のようだが、右の箱には7枚、左の箱には5枚しかおさめられていない。
「見事なコレクションだな。」
「ありがとうございます。どれも私が長年かけて手に入れてきた逸品ばかりです。」
「で?」
「見て頂いた通り、この中にはめ込むべきコインが後8枚あるのですが、未だ見つけることが出来ておりません。もし、シロウ名誉男爵のコレクションの中にそれがあるのであればと思い参りました。第六王朝第三婦人ルイズをモチーフにした記念コイン、第五王朝復興記念コイン、一番求めておりますのは、第一王朝皇帝即位記念のコインです。もちろん、どれも高価な物ではありますが、もしお持ちであれば是非譲っていただけますでしょうか。」
並んでいるコインはどれも一枚金貨5枚以上するレア物。
そしてこの人が求めているのは金貨10枚を軽く超える超レア物と言える代物だ。
因みに三枚共持っている。
その内の一枚は俺のコレクション品なので譲る事は出来ないのだが、残りの二枚については値段次第で譲ってもいいと思っている。
もちろん値段次第だが。
「とりあえず俺の持っているものを見せた方が早いだろう。もしその中に希望の物があるのであれば、駆け引き無しで値段を提示してくれると嬉しいね。ここまで来て面倒な取引は必要ないだろ。」
「お心遣い有難うございます。」
「ちょっとまってくれ。」
コインを取りに一度自室へと戻り、再び応接室へ。
途中でグレイスに香茶を頼んでおいたので、いい頃合いで持って来てくれるだろう。
メッダーさんのように特注の木箱は持ち合わせていないので、トレイにのせて持っていくことにした。
「これは・・・!」
「生憎と格好のいい入れ物は持ち合わせていなくてな、トレイの上で勘弁してくれ。」
「このコインを覆っているのはいったい・・・。」
「あぁ、クリアスライムの核を保護用に使っているんだ。劣化も傷も防げる上に見た目を阻害しないから重宝している。」
「そんなものが・・・。」
「必要ならいくつか融通できるが?」
「宜しいのですか!」
「こっちに食いついてくれるのは嬉しいが、まずは本命の方を確認してくれ。」
すみません、と謝った後、真剣な面持ちでメッダー氏は運んできたコインを一枚一枚丁寧に調べていく。
表裏だけでなく、上下左右、回転させて、明かりに照らして等様々な方法でコインを調べる。
ちょうどグレイスが香茶を運んできてくれたので、邪魔をしないよう静かにその様子を見守る事にした。
そして、最後の一枚をトレイに戻した後大きく息を吐く。
「どうだ?」
「非常に素晴らしい物ばかりでした。年代的に傷などは致し方ありませんが、それでも思った以上の痛みは無くどれも状態は素晴らしい物ばかりです。正直、全て頂きたいところですが残念ながら持ち合わせが無くてですね。」
「俺としてはここに出したものは全て売っていいと思っているものだ。悪いが、見せられないものもあるんでね。」
「それは・・・いえ、やめておきましょう。欲しくなってしまいます。」
「それがいいだろうな。で?どれを所望だ?」
別に自慢したいわけではないので、もっと持っているぞとだけにおわせておいて話を切り上げた。
メッダーさんが選んだのは全部で7枚。
もちろんその中には例の二枚も含まれている。
「こちらをズバリ金貨50枚でお譲りいただけますでしょうか。」
「ふむ。」
「決して悪い値段ではないと思います。名誉男爵が仰るように駆け引き無し、私に出せる限界の値段になります。これ以上は・・・。」
「いや、その値段でいいぞ。」
「本当ですか!」
バンと机に手をつき、身を乗り出してくる。
年甲斐もなくまるで子供のように目を輝かせる姿に思わず笑ってしまったぐらいだ。
「これは、失礼致しました。」
「いや、それだけ喜んでもらえるならこいつらも本望だろう。ただし、一つだけ条件がある。」
「なんでしょう。」
「ここに用意したのは次の引き取り手を探している者達だ。良ければふさわしい相手を紹介してもらいたい。」
「これだけの物が不要だと?」
「不要ではないが欲しい物はもう手元に揃っている。残念ながら俺の欲しい物は持っていないようだから、持っていそうな相手を紹介してもらえれば助かる。」
この人もかなりのコレクターなんだろうけど、生憎と俺が求めているコインは持っていなかった。
俺が欲しいのは二枚。
魔王が生きていた時代に彼らが使っていたと言われる特別なコインと、魔王討伐を記念して作られたといわれる特別なコイン。
正直後者はすぐに手に入ると思ったのだが、中々それを見つけることが出来ていない。
コレクターならもしかすると持っているかもしれないので、それに期待するとしよう。
しかし、金貨50枚か。
まさかそんな高値で売れるとはなぁ。
「そういう事であれば、喜んでお手伝いさせて頂きます。」
「宜しく頼む。こちらも望みの物が手に入ったら声を掛けさせてもらう。どこに声を駆ければいい?」
「でしたら王都の西方ギルドに連絡を頂ければ。」
「西方関係者なのか?」
「昔の話ですが、色々と縁がありまして。」
含みを持たせた言い方だが、王都に籍があるのであれば声をかけやすい。
取引成立として書類を作製し、現金とコインをトレードする。
他にもまだまだ在庫はあるのだが、それ系はブームのあるうちに放出してしまった方がいいかもしれないな。
10枚セットとかにして何セットかに一つ当たりを混ぜてもいいかもしれない。
当たりがあるとわかれば皆こぞって買ってくれることだろう。
纏めて売る事で俺も在庫を処分できるし、皆の手元にも目的のものが残るかもしれない。
まぁ、その後の買取は遠慮したい所なので一気に値段を下げるしかないがそれでも持ち込まれるんだろうなぁ。
買取業の難しい所はその辺の線引きをどうするかだ。
ま、それはそれで考えるとしよう。
「これからもいい取引を期待してる。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
固い握手を交わし、俺は次の取引の準備をするのだった。
ちなみにクリアスライムの核は別枠で100個ほど購入してくれた。
全部で金貨1枚、毎度ありってね。
「これは・・・そうだな、銀貨3枚って所か。」
「マジか!この間銀貨1枚だったのに、これで美味い酒が飲めそうだぜ。」
「で、売るのか?」
「もう少し置いて値が上がるのを待ってみる、ありがとな!」
まったく、俺を鑑定マシーンか何かだと勘違いしていないか?
今度来たら鑑定料取ってやろうか。
そんな事を考えながら、青空の下でいつものように店を構える。
おばちゃんは仕入れの兼ね合いで休み、おっちゃんは朝一番で大口の販売があったようで昼過ぎには帰ってしまった。
いつもは暇になると話しかけてくれる人がいるだけに、誰もいないのは少し寂しい感じだ。
うちにも朝から客は来るものの、そのほとんどはさっきのようにコインの買取か値段の確認ばかりで装備品があまり売れていない。
港町なんかで広まっていた旧王朝時代のコインブームは無事にこの街にも到達し、今や誰もが家のタンスをひっくり返してコインを探し出しお互いに交換したり売買したりしている。
コインの種類は非常に多く物によっては金貨で取引されるようなものもあるのだが、そのほとんどは銅貨数枚から数十枚程度の価値しかない。
銀貨以上の価値があるのは全体の一割、そのさらに一割が俗にいうレア品という分類になっている。
他にも元の世界と同じくエラー品もそれなりの値段で取引されているようで、鋳造する時の切れ端や刻印漏れなんかは高値で取引されいるし、記念コイン的な物も同じく高い。
旧王朝第4代皇帝の結婚記念コインなんかは中々凝った作りになっているうえに、貴族間でしか配られなかった事もあって金貨10枚を超える値段がついていたりする。
こういうのに価値を見出すのはどの世界でも同じ、という事なんだろう。
まぁ、絵画を高値で売り買いする文化があるんだからこういうのに通常以上の価値を見出すのも当然か。
幸いにも俺はこのブームが来る前に大量に買い付けることが出来たのでそれなりの価値の物を保有することが出来た上に、例の強盗犯が大量に所有していたレア物を多数手に入れることができた。
もっとも、そのレアものに関してはやはりギルド協会からケチが付いたため、当時の相場の半値を支払うことになったわけだが。
それでも今ではその価値も上がり、転がすだけで十分な利益が出る。
個人的なコレクションも増えつつあるので俺的にはこのブームは非常にありがたい限りだ。
「失礼、シロウ名誉男爵とお見受けいたしますがお間違いありませんか?」
「まぁそういう称号を持っていたりもするが、アンタは?」
「骨董品を主に収集しております、メッダー=ルーと申します。気軽にルーと及び下さい。」
暇だし、露店でも見て回ろうかと思ったその時だった。
店の前に現れた小柄な男性が敬称付きで俺の名前を呼ぶ。
年は50前後か、人生の酸いも甘いも経験済みという落ち着いた雰囲気を感じるな。
この街で俺を畏まって呼ぶ人間は限られているので、間違いなく街の外からやって来た人だろう。
で、そんな人間が俺に何の用だろうか。
相手が貴族であれ商人であれ、普通は屋敷でアポを取ってから来るものだと思うんだが?
「メッダーさんか。で、俺に何の用だ?買取なら店の方に行ってもらえると助かるんだが。」
「いえ、この度はシロウ名誉男爵が多数お持ちになっている旧王朝時代のコインについてお話させて頂けないかと。」
「その話をどこで聞いた?」
「この街の冒険者は皆さん親切ですね、一杯のエールで色々と教えてくださいました。なんでも、コインを持ち込めばおおよその値段を教えてくれるのだとか。先日、大量に買い付けられたという話もお聞きしたのですが、是非一度コレクションを拝見させて頂けませんでしょうか。」
ふむ、どうやら事前調査は済んでいるようだ。
別に隠しているわけじゃないし、この街の住人なら俺がコインを蒐集していることは誰でも知っている。
骨董品を扱っていると言っていたが、十中八九その話を聞きつけてここにやってきただろう。
俺からしてみればやっと餌に食いついたかって感じだ。
いくら高価なコインを複数所持していても現金化できなければ宝の持ち腐れ。
もちろんオークションで纏めて手放す手もあるが、流行が終わってしまったら一気に価値が低下してしまうので今のうちに手放したかったというのが本音の所。
もちろんコレクションを手放すつもりはないが、余っている分は金になるのであれば喜んで手放そう。
なんせ俺は転売屋、右から左に転がして利益を出すのが仕事だからな。
仕入れだけしていたって金が生まれるわけじゃない、仕入れ値以上の値段で売ってこその商売だ。
「断ると言ったら?」
「自分で言うのもなんですが私もそれなりの数を収拾しております。もし、お持ちでないものがあるのであればお譲りする事も吝かではありません。」
「ほぉ、なんで俺が集めているって思うんだ?」
「そうでなければ大量に集める必要がないからです。価値のある物ほど、そうでないものに埋もれていることは多いですから。」
なるほど、よくわかってるじゃないか。
どの世界でもそうだが、価値の高い物が単品で取引されている時は大抵は偽物か相場以上の値段で取引されている。
そして、そういった物ほど価値の無い物に埋もれてわからなくなっている事の方が多い。
それがどれだけの価値を持っているかなんてのを持ち主が知らない事の方が多いんだよな。
ネットオークションでお目当ての品を探すよりも、フリーマーケットなんかで投げ売りされている物を見つけた時の方が何倍もテンションが上がる。
『マジか!こんな所にこんなものが!』ってな感じだ。
それをしっているからこそ、俺は大量に仕入れをしてその中からお宝を見つけ出したんだ。
どうやらこのブームにのっかってって感じではなく、本気でコインを蒐集しているんだろう。
なるほど、簡単に金儲け出来る相手ではなさそうだがむしろそれは好都合。
向こうのコレクションも気になるところだしな。
「なるほど。だが、生憎と商売の最中でね。夕方俺の屋敷まで来てもらえるか?」
「かしこまりました、夕方お伺いいたします。突然失礼いたしました。」
流石にこの場で高額商品を取り出すわけにもいかないので、ひとまず屋敷に来てもらうとしよう。
早々に露店を閉め、俺も屋敷へと戻り準備をする。
そして夕方。
今度は屋敷の応接室でその男と対峙する事になった。
「わざわざ悪いな、ここまで来てもらって。」
「とんでもありません、突然の訪問にも関わらず歓迎していただきありがとうございます。」
「俺にも実入りのある話のようだし歓迎するのは当然だろう。この時間だし、早速話を詰めようじゃないか。」
「ではまずはこちらをご覧いただけますでしょうか。」
ソファーの横に置かれたカバンから長方形の平べったい木箱が二つ机の上に置かれる。
金具が外され、恭しく持ち上げられた木箱には布が敷き詰められており、専用のくぼみには何枚かの硬貨がはめ込まれていた。
全部で10枚納められる木箱のようだが、右の箱には7枚、左の箱には5枚しかおさめられていない。
「見事なコレクションだな。」
「ありがとうございます。どれも私が長年かけて手に入れてきた逸品ばかりです。」
「で?」
「見て頂いた通り、この中にはめ込むべきコインが後8枚あるのですが、未だ見つけることが出来ておりません。もし、シロウ名誉男爵のコレクションの中にそれがあるのであればと思い参りました。第六王朝第三婦人ルイズをモチーフにした記念コイン、第五王朝復興記念コイン、一番求めておりますのは、第一王朝皇帝即位記念のコインです。もちろん、どれも高価な物ではありますが、もしお持ちであれば是非譲っていただけますでしょうか。」
並んでいるコインはどれも一枚金貨5枚以上するレア物。
そしてこの人が求めているのは金貨10枚を軽く超える超レア物と言える代物だ。
因みに三枚共持っている。
その内の一枚は俺のコレクション品なので譲る事は出来ないのだが、残りの二枚については値段次第で譲ってもいいと思っている。
もちろん値段次第だが。
「とりあえず俺の持っているものを見せた方が早いだろう。もしその中に希望の物があるのであれば、駆け引き無しで値段を提示してくれると嬉しいね。ここまで来て面倒な取引は必要ないだろ。」
「お心遣い有難うございます。」
「ちょっとまってくれ。」
コインを取りに一度自室へと戻り、再び応接室へ。
途中でグレイスに香茶を頼んでおいたので、いい頃合いで持って来てくれるだろう。
メッダーさんのように特注の木箱は持ち合わせていないので、トレイにのせて持っていくことにした。
「これは・・・!」
「生憎と格好のいい入れ物は持ち合わせていなくてな、トレイの上で勘弁してくれ。」
「このコインを覆っているのはいったい・・・。」
「あぁ、クリアスライムの核を保護用に使っているんだ。劣化も傷も防げる上に見た目を阻害しないから重宝している。」
「そんなものが・・・。」
「必要ならいくつか融通できるが?」
「宜しいのですか!」
「こっちに食いついてくれるのは嬉しいが、まずは本命の方を確認してくれ。」
すみません、と謝った後、真剣な面持ちでメッダー氏は運んできたコインを一枚一枚丁寧に調べていく。
表裏だけでなく、上下左右、回転させて、明かりに照らして等様々な方法でコインを調べる。
ちょうどグレイスが香茶を運んできてくれたので、邪魔をしないよう静かにその様子を見守る事にした。
そして、最後の一枚をトレイに戻した後大きく息を吐く。
「どうだ?」
「非常に素晴らしい物ばかりでした。年代的に傷などは致し方ありませんが、それでも思った以上の痛みは無くどれも状態は素晴らしい物ばかりです。正直、全て頂きたいところですが残念ながら持ち合わせが無くてですね。」
「俺としてはここに出したものは全て売っていいと思っているものだ。悪いが、見せられないものもあるんでね。」
「それは・・・いえ、やめておきましょう。欲しくなってしまいます。」
「それがいいだろうな。で?どれを所望だ?」
別に自慢したいわけではないので、もっと持っているぞとだけにおわせておいて話を切り上げた。
メッダーさんが選んだのは全部で7枚。
もちろんその中には例の二枚も含まれている。
「こちらをズバリ金貨50枚でお譲りいただけますでしょうか。」
「ふむ。」
「決して悪い値段ではないと思います。名誉男爵が仰るように駆け引き無し、私に出せる限界の値段になります。これ以上は・・・。」
「いや、その値段でいいぞ。」
「本当ですか!」
バンと机に手をつき、身を乗り出してくる。
年甲斐もなくまるで子供のように目を輝かせる姿に思わず笑ってしまったぐらいだ。
「これは、失礼致しました。」
「いや、それだけ喜んでもらえるならこいつらも本望だろう。ただし、一つだけ条件がある。」
「なんでしょう。」
「ここに用意したのは次の引き取り手を探している者達だ。良ければふさわしい相手を紹介してもらいたい。」
「これだけの物が不要だと?」
「不要ではないが欲しい物はもう手元に揃っている。残念ながら俺の欲しい物は持っていないようだから、持っていそうな相手を紹介してもらえれば助かる。」
この人もかなりのコレクターなんだろうけど、生憎と俺が求めているコインは持っていなかった。
俺が欲しいのは二枚。
魔王が生きていた時代に彼らが使っていたと言われる特別なコインと、魔王討伐を記念して作られたといわれる特別なコイン。
正直後者はすぐに手に入ると思ったのだが、中々それを見つけることが出来ていない。
コレクターならもしかすると持っているかもしれないので、それに期待するとしよう。
しかし、金貨50枚か。
まさかそんな高値で売れるとはなぁ。
「そういう事であれば、喜んでお手伝いさせて頂きます。」
「宜しく頼む。こちらも望みの物が手に入ったら声を掛けさせてもらう。どこに声を駆ければいい?」
「でしたら王都の西方ギルドに連絡を頂ければ。」
「西方関係者なのか?」
「昔の話ですが、色々と縁がありまして。」
含みを持たせた言い方だが、王都に籍があるのであれば声をかけやすい。
取引成立として書類を作製し、現金とコインをトレードする。
他にもまだまだ在庫はあるのだが、それ系はブームのあるうちに放出してしまった方がいいかもしれないな。
10枚セットとかにして何セットかに一つ当たりを混ぜてもいいかもしれない。
当たりがあるとわかれば皆こぞって買ってくれることだろう。
纏めて売る事で俺も在庫を処分できるし、皆の手元にも目的のものが残るかもしれない。
まぁ、その後の買取は遠慮したい所なので一気に値段を下げるしかないがそれでも持ち込まれるんだろうなぁ。
買取業の難しい所はその辺の線引きをどうするかだ。
ま、それはそれで考えるとしよう。
「これからもいい取引を期待してる。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
固い握手を交わし、俺は次の取引の準備をするのだった。
ちなみにクリアスライムの核は別枠で100個ほど購入してくれた。
全部で金貨1枚、毎度ありってね。
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