920 / 1,243
917.転売屋は貝を売る
しおりを挟む
「お館様、ジャニス様が参られました。」
「予定より早かったな、すぐに行くから応接室で待ってもらってくれ。飲み物はそうだな抹茶を出してもらっていいか?」
「かしこまりました。」
この間の抹茶ラテは大盛況だったが、それでも買い付けた抹茶粉が少し残っている。
液体のミルクと違って粉は場所を取らないのだが如何せん量が多い。
十分元は取れたし、嫌いではないので毎日飲んでも惜しくはない。
書類整理を切り上げ、セーラさんと共に応接室へ。
「シロウ様が参られました。」
「どうぞ!」
「失礼します。」
先にセーラさんが中に入り、それから少し間をおいて俺も中へ。
応接室には初めて会うセーラさんに若干ビビリぎみのジャニスさんが俺を見てほっとした顔をしていた。
「久しぶりだなジャニスさん。」
「お久しぶりですシロウ名誉男爵。えっと、そちらの方は・・・。」
「セーラと申します。シロウ様の秘書として同席させて頂いておりますので、どうぞご容赦ください。」
「そうでしたか。てっきりハーシェ様が来られるとばかり。」
南方担当はハーシェさんだったのでそう思うのも無理はない。
今回来てもらったのも声掛けはハーシェさん経由だったしな。
「今日は子供の成長を見てもらうために先生に診てもらっているんだ、悪かったな。」
「いえいえ、大丈夫です。それで今日はどういったご用件で?ご注文頂いていました南方の果物はもう少し先になりそうですが・・・。」
「実は19月頃に南方を旅行しようと思っているんだが、何処かいい場所知らないか?子連れだし如何せん南方は初めてでな。」
「そういう事でしたら喜んでお手伝いさせて頂きます。お屋敷の皆様とですか?」
「あぁ、大型馬車二台ってところか。妊婦もいるしあまり悪い道は通れないんだが、南方は高低差がない上に街道も整備されているそうじゃないか。是非お勧めの場所を教えてくれ。」
この間出た休暇の話で南方に行こうという話になったので、その件も含めてジャニスさんには来てもらったわけだ。
注文しておいた果物の他にいくつか工事に使えそうな素材を仕入れる事ができ、加えていい感じの場所も教えて貰うことが出来た。
抹茶も気に入ってもらえ、お互いに利のある話し合いだっただけに終始穏やかに商談は進んだのだが・・・。
「ん?」
「どうされました?」
「いや、珍しい髪飾りだと思ってな。」
「あぁ、これですか。」
前髪を押さえていた髪飾りがパチンと外され、机の上に置かれる。
見た感じ花弁のようにも見えるがよく見るとどうやら違うようだ。
「石、いや違うな。」
「花貝といいまして、花弁のような形をした貝殻なんです。南方では男女を問わずこれを付けているので、こちらで付けている人を見ると同郷だとすぐわかります。」
「そういえば工事に来ている労働者の中にも付けている人がいたが、成程そういう物なのか。」
「女性はともかく男性で付ける人はこちらにあまりおられませんので変な目で見られることもありますが、まぁ目印みたいなものです。」
「この貝は髪飾りにしか使えないのか?」
「そういうわけではないですが、あまり強度がないのでぶつかったりすると壊れてしまうのが難点でして。」
なるほどなぁ、ブローチとかにすると綺麗かと思ったんだが、人にぶつかった時に割れるのは困る。
その点髪飾りとかは余程の頃が無いとぶつからない場所だけに、使用できるわけか。
なるほどなぁ。
「ふむ、衝撃には弱いわけか。」
「それさえなければ色々と使い道があるのですが、勿体ない限りです。」
一声かけてから髪飾りに手を伸ばす。
『花貝の髪飾り。南方でのみ採れる花貝は見た目の華やかさから海中花とも呼ばれている。南方では男女問わずこの髪飾りを身に着けており、同郷の証としても使われている。衝撃に弱く取り扱いには注意が必要。最近の平均取引価格は銅貨70枚。最安値銅貨39枚、最高値銀貨1枚、最終取引日は二日前と記録されています。』
ふむ、髪飾りでこの値段ってことは花貝そのものの値段はさほど高くなさそうだ。
ルティエのアクセサリーにと思ったんだが、強度的に不安があるだけに作れてもせいぜいネックレス程度だろう。
それも衝撃から守るために別の加工を施さなければならない。
うーむ、良さげな素材だと思ったんだがあぁ。
「手に入れる事は出来るのか?」
「髪留めですか?」
「いや、花貝を仕入れてみたい。」
「もちろん可能ではありますが、量が多いとどうしても割れてしまうものが出てしまいます、構いませんでしょうか?」
「むしろ割れていいんだが。」
「「え?」」
後ろで控えているセーラさんまでもが素っ頓狂な声を出したのはちょっと面白い。
いや、割れてしまって後悔するぐらいなら初めから割れているものを手配すればと思ったんだ。
この色使いなら割れても綺麗だろうし、むしろそれをうまく使うことが出来れば良い物を安く手に入れられるというわけで。
「シロウ様、割れているものを仕入れるのですか?」
「この色なら割れていても綺麗だろうし、無事な物と割れた物両方買うといえば向こうも安心して出荷できるだろ。割れる事前提の値段設定だろうし、値下げ交渉にも使えるはず、そうだよな?」
「お、仰る通りです。」
「でも無事な物はともかく割れた物をどうされるのでしょう。」
二人ともそれが疑問のようで、前で話を聞いているジャニスさんまでウンウンと力強く頷いている。
「装飾に使うんだ。ほら、この前使ったシャドウプラントの樹液があるだろ?ルティエはアレをアクセサリーの仮固定に使っていたって話なんだが、それを普通に固定材として使ってしまえばいい。お湯に触れれば接着は取れてしまうが、ようはお湯につけなければいいだけの話だし。気温の変化では問題ないそうだからいけると思うんだがなぁ。」
「装飾ですか、それは思いつきませんでした。」
「ま、何をどうするかは出来上がってのお楽しみってね。それで、手配できそうか?」
「もちろんです、喜んで手配させて頂きます。」
よし、とりあえず仕込みは一つ出来そうだ。
後でルティエに話を持ち掛けてみるとしよう。
でもなぁ、せっかく仕入れるのであればもう少しバリエーションが欲しい物だが。
「他に珍しい貝とかはないか?出来れば色鮮やかでアクセサリーなんかに使えるものがいいんだが。」
「色鮮やか、ですか。そうですね・・・。」
ジャニスさんは腕を組み少し俯いて思案している。
その間に後ろを見てセーラさんに声をかけ、持って来てほしい物を伝える。
返事の代わりに小さく頷いてセーラさんは静かに部屋を出て行った。
「花貝の他に、いくつか候補はございますが私も現物をあまり見たことが無くて。もう一度こちらに来るときに現物を持ち込む感じでよろしいでしょうか。」
「あぁ、とりあえずどれも急ぎはしないから今度果物と一緒に持って来てくれ。」
「かしこまりました。」
南方にはまだまだ使えそうな素材が山ほどありそうなだけに、実際に現地に行って確認してみたいものだ。
その為にもジャニスさんには最高の旅行コースを提案してもらわないとなぁ。
商談終了後、屋敷の外までジャニスさんを見送り大きく深呼吸をする。
気温が上がり少し汗ばむような気候になって来た。
いよいよ夏。
夏といえば今準備しているネイルの発売も待っている。
今回仕入れる予定の花貝はそれに使うつもりだ。
問題は入れ物の方なんだよなぁ。
何かいい物ないものか。
「シロウ様、準備が整いました。」
「早いな。」
「屋敷に使えそうな素材がございましたので。あの、見学してもよろしいですか?」
「もちろん構わないぞ、意見は多い方がいいからな。」
「ありがとうございます。」
準備をしてくれていたセーラさんと共に裏口から地下の製薬室へと移動する。
アネットは不在のようだが中央のテーブルには手配してもらっていた素材が置いてあった。
「シャドウプラントの樹液にプロボックス、それと宝石の屑石です。」
「それじゃあ早速始めるとしよう。まずは箱の上に樹液を多めに流してコーティングして、さらにその上から屑石をちりばめる。」
「上からちりばめることで流れ出るのを防ぐわけですね。」
「側面に流れた分はヘラで落としてしまって、ひとまずこのまま外へ出る。」
爪を乾かすとき同様、日光に当たると樹液が固まりひっくり返しても落ちなくなった。
同じ要領で上部だけでなく側面にも屑石をちりばめて固定。
多めに垂らした事で爪のときよりもしっかりと硬くコーティングされているようだ。
上から触ってもそんなにごつごつしていない。
「ひっくり返しても落ちませんね。」
「とりあえずこの箱なら問題ないか。個人的にはもう少し高級感のある箱を使いたいんだが、それは後で布張りでもすればいいだろう。どう思う?」
「これは何に使う箱でしょう。」
「そうだな、化粧品やネイルを仕舞う為の箱につかうのはどうだ?この感じでも綺麗ではあるが、さっき見た花貝ならより華やかな感じになると思うんだが。」
「ようは宝石箱ですね。」
「そんな感じだ。せっかくなら楽しい気分になるのがいいよな、異国感って言うかあの感じはダンジョンの花にも出せそうにない。」
「確かにあの鮮やかな色使いは素敵でした。」
豪華な宝石をあしらった宝石箱なんてのはよく聞くが、鮮やかな貝をあしらった箱ってのは残念ながら聞いたことがない。
強度的に問題はありそうだが、コーティングすることで衝撃に多少強くなる上に宝石箱を無碍に使う人はいないだろう。
樹液もお湯には反応するが高温や湿度では溶け出したりしないので、部屋の中で大事に仕舞われるようなものなら問題ないはずだ。
化粧品や爪のケア商品が市場に出回っている中で、それを収納できる綺麗な箱が売りに出されたら間違いなく売れる。
その自信がある。
もちろん貝をあしらうだけでなくルティエ達に頼んで、それ用に何かデザインしてもらってもいいかもしれない。
宝石箱なら自分達も使える道具だけに色々と知恵を貸してくれるだろう。
あとは、花貝のほかにどんな物が見つかるかだが・・・。
「アクセサリーに出来る貝があればいいんだけどなぁ。」
「夢が膨らみますね。」
「だな。とりあえず固まることは確認できたから後は内側をどうするか考えるとしよう。ちなみにセーラさんは蓋を開けた時にどんな見た目ならうれしい?」
「そうですね・・・。」
女性が使うものだけに女性の意見はとても大切だ。
まずは屋敷全員の意見を集約して、それから娼館でアンケートをとるのもいいかもしれない。
彼女達にとって宝石は武器のようなものだ。
それを仕舞う為の箱なんだし、いい感じの答えが聞けるかもしれない。
たかが貝と侮るなかれってね。
「予定より早かったな、すぐに行くから応接室で待ってもらってくれ。飲み物はそうだな抹茶を出してもらっていいか?」
「かしこまりました。」
この間の抹茶ラテは大盛況だったが、それでも買い付けた抹茶粉が少し残っている。
液体のミルクと違って粉は場所を取らないのだが如何せん量が多い。
十分元は取れたし、嫌いではないので毎日飲んでも惜しくはない。
書類整理を切り上げ、セーラさんと共に応接室へ。
「シロウ様が参られました。」
「どうぞ!」
「失礼します。」
先にセーラさんが中に入り、それから少し間をおいて俺も中へ。
応接室には初めて会うセーラさんに若干ビビリぎみのジャニスさんが俺を見てほっとした顔をしていた。
「久しぶりだなジャニスさん。」
「お久しぶりですシロウ名誉男爵。えっと、そちらの方は・・・。」
「セーラと申します。シロウ様の秘書として同席させて頂いておりますので、どうぞご容赦ください。」
「そうでしたか。てっきりハーシェ様が来られるとばかり。」
南方担当はハーシェさんだったのでそう思うのも無理はない。
今回来てもらったのも声掛けはハーシェさん経由だったしな。
「今日は子供の成長を見てもらうために先生に診てもらっているんだ、悪かったな。」
「いえいえ、大丈夫です。それで今日はどういったご用件で?ご注文頂いていました南方の果物はもう少し先になりそうですが・・・。」
「実は19月頃に南方を旅行しようと思っているんだが、何処かいい場所知らないか?子連れだし如何せん南方は初めてでな。」
「そういう事でしたら喜んでお手伝いさせて頂きます。お屋敷の皆様とですか?」
「あぁ、大型馬車二台ってところか。妊婦もいるしあまり悪い道は通れないんだが、南方は高低差がない上に街道も整備されているそうじゃないか。是非お勧めの場所を教えてくれ。」
この間出た休暇の話で南方に行こうという話になったので、その件も含めてジャニスさんには来てもらったわけだ。
注文しておいた果物の他にいくつか工事に使えそうな素材を仕入れる事ができ、加えていい感じの場所も教えて貰うことが出来た。
抹茶も気に入ってもらえ、お互いに利のある話し合いだっただけに終始穏やかに商談は進んだのだが・・・。
「ん?」
「どうされました?」
「いや、珍しい髪飾りだと思ってな。」
「あぁ、これですか。」
前髪を押さえていた髪飾りがパチンと外され、机の上に置かれる。
見た感じ花弁のようにも見えるがよく見るとどうやら違うようだ。
「石、いや違うな。」
「花貝といいまして、花弁のような形をした貝殻なんです。南方では男女を問わずこれを付けているので、こちらで付けている人を見ると同郷だとすぐわかります。」
「そういえば工事に来ている労働者の中にも付けている人がいたが、成程そういう物なのか。」
「女性はともかく男性で付ける人はこちらにあまりおられませんので変な目で見られることもありますが、まぁ目印みたいなものです。」
「この貝は髪飾りにしか使えないのか?」
「そういうわけではないですが、あまり強度がないのでぶつかったりすると壊れてしまうのが難点でして。」
なるほどなぁ、ブローチとかにすると綺麗かと思ったんだが、人にぶつかった時に割れるのは困る。
その点髪飾りとかは余程の頃が無いとぶつからない場所だけに、使用できるわけか。
なるほどなぁ。
「ふむ、衝撃には弱いわけか。」
「それさえなければ色々と使い道があるのですが、勿体ない限りです。」
一声かけてから髪飾りに手を伸ばす。
『花貝の髪飾り。南方でのみ採れる花貝は見た目の華やかさから海中花とも呼ばれている。南方では男女問わずこの髪飾りを身に着けており、同郷の証としても使われている。衝撃に弱く取り扱いには注意が必要。最近の平均取引価格は銅貨70枚。最安値銅貨39枚、最高値銀貨1枚、最終取引日は二日前と記録されています。』
ふむ、髪飾りでこの値段ってことは花貝そのものの値段はさほど高くなさそうだ。
ルティエのアクセサリーにと思ったんだが、強度的に不安があるだけに作れてもせいぜいネックレス程度だろう。
それも衝撃から守るために別の加工を施さなければならない。
うーむ、良さげな素材だと思ったんだがあぁ。
「手に入れる事は出来るのか?」
「髪留めですか?」
「いや、花貝を仕入れてみたい。」
「もちろん可能ではありますが、量が多いとどうしても割れてしまうものが出てしまいます、構いませんでしょうか?」
「むしろ割れていいんだが。」
「「え?」」
後ろで控えているセーラさんまでもが素っ頓狂な声を出したのはちょっと面白い。
いや、割れてしまって後悔するぐらいなら初めから割れているものを手配すればと思ったんだ。
この色使いなら割れても綺麗だろうし、むしろそれをうまく使うことが出来れば良い物を安く手に入れられるというわけで。
「シロウ様、割れているものを仕入れるのですか?」
「この色なら割れていても綺麗だろうし、無事な物と割れた物両方買うといえば向こうも安心して出荷できるだろ。割れる事前提の値段設定だろうし、値下げ交渉にも使えるはず、そうだよな?」
「お、仰る通りです。」
「でも無事な物はともかく割れた物をどうされるのでしょう。」
二人ともそれが疑問のようで、前で話を聞いているジャニスさんまでウンウンと力強く頷いている。
「装飾に使うんだ。ほら、この前使ったシャドウプラントの樹液があるだろ?ルティエはアレをアクセサリーの仮固定に使っていたって話なんだが、それを普通に固定材として使ってしまえばいい。お湯に触れれば接着は取れてしまうが、ようはお湯につけなければいいだけの話だし。気温の変化では問題ないそうだからいけると思うんだがなぁ。」
「装飾ですか、それは思いつきませんでした。」
「ま、何をどうするかは出来上がってのお楽しみってね。それで、手配できそうか?」
「もちろんです、喜んで手配させて頂きます。」
よし、とりあえず仕込みは一つ出来そうだ。
後でルティエに話を持ち掛けてみるとしよう。
でもなぁ、せっかく仕入れるのであればもう少しバリエーションが欲しい物だが。
「他に珍しい貝とかはないか?出来れば色鮮やかでアクセサリーなんかに使えるものがいいんだが。」
「色鮮やか、ですか。そうですね・・・。」
ジャニスさんは腕を組み少し俯いて思案している。
その間に後ろを見てセーラさんに声をかけ、持って来てほしい物を伝える。
返事の代わりに小さく頷いてセーラさんは静かに部屋を出て行った。
「花貝の他に、いくつか候補はございますが私も現物をあまり見たことが無くて。もう一度こちらに来るときに現物を持ち込む感じでよろしいでしょうか。」
「あぁ、とりあえずどれも急ぎはしないから今度果物と一緒に持って来てくれ。」
「かしこまりました。」
南方にはまだまだ使えそうな素材が山ほどありそうなだけに、実際に現地に行って確認してみたいものだ。
その為にもジャニスさんには最高の旅行コースを提案してもらわないとなぁ。
商談終了後、屋敷の外までジャニスさんを見送り大きく深呼吸をする。
気温が上がり少し汗ばむような気候になって来た。
いよいよ夏。
夏といえば今準備しているネイルの発売も待っている。
今回仕入れる予定の花貝はそれに使うつもりだ。
問題は入れ物の方なんだよなぁ。
何かいい物ないものか。
「シロウ様、準備が整いました。」
「早いな。」
「屋敷に使えそうな素材がございましたので。あの、見学してもよろしいですか?」
「もちろん構わないぞ、意見は多い方がいいからな。」
「ありがとうございます。」
準備をしてくれていたセーラさんと共に裏口から地下の製薬室へと移動する。
アネットは不在のようだが中央のテーブルには手配してもらっていた素材が置いてあった。
「シャドウプラントの樹液にプロボックス、それと宝石の屑石です。」
「それじゃあ早速始めるとしよう。まずは箱の上に樹液を多めに流してコーティングして、さらにその上から屑石をちりばめる。」
「上からちりばめることで流れ出るのを防ぐわけですね。」
「側面に流れた分はヘラで落としてしまって、ひとまずこのまま外へ出る。」
爪を乾かすとき同様、日光に当たると樹液が固まりひっくり返しても落ちなくなった。
同じ要領で上部だけでなく側面にも屑石をちりばめて固定。
多めに垂らした事で爪のときよりもしっかりと硬くコーティングされているようだ。
上から触ってもそんなにごつごつしていない。
「ひっくり返しても落ちませんね。」
「とりあえずこの箱なら問題ないか。個人的にはもう少し高級感のある箱を使いたいんだが、それは後で布張りでもすればいいだろう。どう思う?」
「これは何に使う箱でしょう。」
「そうだな、化粧品やネイルを仕舞う為の箱につかうのはどうだ?この感じでも綺麗ではあるが、さっき見た花貝ならより華やかな感じになると思うんだが。」
「ようは宝石箱ですね。」
「そんな感じだ。せっかくなら楽しい気分になるのがいいよな、異国感って言うかあの感じはダンジョンの花にも出せそうにない。」
「確かにあの鮮やかな色使いは素敵でした。」
豪華な宝石をあしらった宝石箱なんてのはよく聞くが、鮮やかな貝をあしらった箱ってのは残念ながら聞いたことがない。
強度的に問題はありそうだが、コーティングすることで衝撃に多少強くなる上に宝石箱を無碍に使う人はいないだろう。
樹液もお湯には反応するが高温や湿度では溶け出したりしないので、部屋の中で大事に仕舞われるようなものなら問題ないはずだ。
化粧品や爪のケア商品が市場に出回っている中で、それを収納できる綺麗な箱が売りに出されたら間違いなく売れる。
その自信がある。
もちろん貝をあしらうだけでなくルティエ達に頼んで、それ用に何かデザインしてもらってもいいかもしれない。
宝石箱なら自分達も使える道具だけに色々と知恵を貸してくれるだろう。
あとは、花貝のほかにどんな物が見つかるかだが・・・。
「アクセサリーに出来る貝があればいいんだけどなぁ。」
「夢が膨らみますね。」
「だな。とりあえず固まることは確認できたから後は内側をどうするか考えるとしよう。ちなみにセーラさんは蓋を開けた時にどんな見た目ならうれしい?」
「そうですね・・・。」
女性が使うものだけに女性の意見はとても大切だ。
まずは屋敷全員の意見を集約して、それから娼館でアンケートをとるのもいいかもしれない。
彼女達にとって宝石は武器のようなものだ。
それを仕舞う為の箱なんだし、いい感じの答えが聞けるかもしれない。
たかが貝と侮るなかれってね。
14
お気に入りに追加
361
あなたにおすすめの小説
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる