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916.転売屋は抹茶ラテを飲む
しおりを挟む「うーん、何か違うんだよなぁ。」
「そう?私はこのままでも美味しいと思うけど。」
「いやまぁ、美味しいのは美味しいんだが俺が思っているのはもっとこうクリーミーな感じなんだよ。」
屋敷の厨房を借りてあれやこれやと試しては見るものの、中々思ったものが出来上がらない。
あまり好んで店に行ったりはしなかっただけに、作り方がよく思い出せないんだよなぁ。
とりあえず手を動かして考えてみるか。
俺は再びミルクを小鍋に入れて加熱しつつ、別に用意したカップにこの前買いつけた抹茶粉を少量加える。
さっきは甘味が少し足りなかったから砂糖を入れてみよう。
それも、白いのではなく少し雑味の入った三温糖的な奴をあえて選んで粉の入ったカップへ投入。
温まったミルクを少しだけ足してよく混ぜた後、もう少し加熱した奴を高いところから注いでみる。
空気が混ざって多少は何か変わるかもしれない。
そう期待して注いだ後、最後はスプーンで混ぜれば完成だ。
まずはエリザに飲んでもらい、次に俺も口をつける。
多少は変わったものの、まだまだ昔飲んだものとは程遠い。
抹茶ラテ。
一度、知り合いに連れられて若い子達の溢れるコーヒーショップで飲んだ記憶はあるのだが、どうしてもその味わいを再現することができないでいた。
今回も失敗か。
「もーだめ、お腹いっぱい!」
「悪いなつき合わせて。」
「それはいいんだけどね、ミルクも消費しちゃわなきゃダメなんでしょ?」
「あぁ、おっちゃんからかなりの量買い付けたからそれを消費する為にもなんとか形にしたいんだがなぁ。」
何度も味見してもらったのでとうとうエリザもギブアップしてしまった。
そもそも何でこんなことになっているのか、それは今日の昼前までさかのぼる。
「兄ちゃん、ちょうどいいところに来た。」
「ん?どうかしたのか?」
「実は無茶は承知で折り入って頼みたいことがあるんだ。」
「なんだよそんなにかしこまって、俺とおっちゃんの仲じゃないか。」
いつものように市場を見て回りおっちゃん達の所まで到着すると、待ってましたといわんばかりの勢いで話しかけられた。
いつものようにチーズなんかを買いに来ただけなんだがどうやらそれだけでは終わりそうにない。
「実はな、うちの牧場で子牛がたくさん生まれたんだがそのせいもあって、ミルクが大量にあまっているんだ。」
「あぁ、春先だしそんな時期か。でもそれらはチーズとかに加工されるんだろ?」
「いつもはそれで消費し終わるんだが今年は予定よりも三頭ほど多く生まれたせいで消費が追いついてないんだ。作るって言っても限度があるし、かといって絞らなかったら病気になっちまう。かといって川に流すのは忍びないしってことで、兄ちゃんの手を借りて消費できないかと思ってるんだ。頼む、協力してくれないか?」
両手をパンと顔の前で合わせ、頭を下げるおっちゃん。
その様子を横で見ていたおばちゃんがヤレヤレといった感じで横に首を振る。
まぁ、おっちゃんのお願いは今に始まったことじゃないし、過去に何度も手伝ってもらっているので助けになりたいのは山々なんだが。
うーん、ミルクかぁ。
ただ飲むだけじゃ売れるわけもなく、かといって加工するのにも限界はある。
少量ならともかくそれをメインでとなると単体でどうにかしなければならない。
じゃあ何をするか。
火を入れて飲む?それとも冷やす?ミルク寒天なんて手もあるが、売れなければ意味はない。
なんていうか、もっとこう若い子が好きそうな何かがあればいいんだが・・・。
そういやこの前抹茶粉を仕入れたんだったっけ。
抹茶と牛乳は比較的相性がいいし、それを加工して売り出すのはどうだろうか。
そうだ!あれだ!
若い子がよく飲んでいた暖かいミルクを使った飲み物。
『抹茶ラテ』。
元の世界でもアレだけ売れていたんだ、こっちでも同じように冒険者や若い子に人気が出るかもしれない。
買い付けたものの抹茶は量が出ないだけに、どうやって消費しようか困っていたんだ。
「他でもないおっちゃんの頼みだ、全部でどのぐらいあるんだ?」
「大きいミルクタンクに三つほどだ。魔道冷蔵庫に入れておけばそれなりに日持ちするから、少しずつ消費するって手もある。」
「三つか、まぁやるだけやってみるとしよう。」
「ありがとよ!」
ってな感じで急遽大量のミルクを消費することになったってわけだ。
ひとまず一本を屋敷の冷蔵庫にぶちこんで、残りは北の倉庫へ。
色々とチャレンジをしているものの、正直あまりいい成果は出来ていない。
うーん困ったなぁ。
「ただいま戻りました。」
「ミラにハワード、どこか言ってたのか?」
「ミラ様に頼まれてレレモンを探しに。」
「これ、お土産です。」
「ん?なんだこれ。」
「というのは冗談で、先ほどフール?様よりシロウ様に渡すよう頼まれました。何でも遺跡調査の時に手に入れたそうですが使い道がないそうでして。」
ミラから渡されたのは一本の細長い金属棒。
歯ブラシぐらいの太さで、だんだんと細くなった先端部分は突然500円玉を貼り付けたように平らになっている。
そして反対の太い部分意はなぞの突起。
どう見てもスイッチ、だよなぁ。
おそるおそる押してみると、『ビィィィィ!』という音共に平らになった部分が勢いよく回転し始めた。
『マシンアーム。ダンジョンの遺跡を守る防御機構は様々な形を取りながら侵入者に襲い掛かる。先端の平らな部分は高速で回転することで魔術防壁を展開、飛んでくる矢や魔法をはじいてしまうので注意が必要。最近の平均取引価格は銅貨30枚。最安値銅貨10枚、最高値銅貨50枚、最終取引日は本日と記録されています。』
音はそれほど大きくないものの、中々の回転速度で平らな部分が回っている。
しかしながら、鑑定結果に出ているような魔術防壁と呼ばれるものは再現できなかった。
とはいえ、中々の速度なので触れると怪我をするかもしれない。
「確かに高速で回りはするが、何に使うんだ?」
「さぁ。」
「マシンアームじゃない、久々に見たわ。」
「扇風機みたいに風が起きるわけでもなく、かといって羽をつけるような大きさはないか。」
「大きさ的に持ち歩き出来たら便利そうなのですが残念です。」
「せいぜい何かをかき回すぐらいにしか使えなさそうね、ほら卵白を泡立てるのに便利かも。」
確かにさほど大きくもないので小さなカップから大きめのボールまで、色々とかき回すのに使えるかもしれないが・・・。
「ん?」
ふと頭の中にこいつがカップに入った時の映像が鮮明に浮かび上がった。
これはあれだ、コーヒーショップで見た奴だ。
確か、温めたミルクにあんな感じの棒を突き刺して・・・。
そこまで思いついてからの行動は早かった。
再び厨房に入りミルクを小鍋で温めつつ、さっきの棒を突っ込んでみる。
すると中々の速度でミルクが回転を始め、さらには細かくあわ立っている。
コレだよコレ!
先ほどと同じ要領でコップに抹茶粉と砂糖を入れ、温めたミルクを上から注ぐ。
泡がとろりとカップに落ちて、昔見たのと同じ物が仕上がった。
えぇっと最後に泡の上にもう一度抹茶粉を振り掛ければ・・・。
「できた、これが俺の作りたかった抹茶ラテだ。」
「見た目にふわっとしていますね。」
「エリザ。」
「分かってるからちょっと待って。」
おなか一杯といっていたはずのエリザだが、仕上がったそれを口に含んだ瞬間に目を大きく見開き、ぐいっと残りを飲み干す。
結構な熱さだと思うんだが大丈夫だろうか。
「すごい!さっきとぜんぜん違う、こっちの方がふわふわで飲みやすいわ。粉っぽい感じもないし、絶対こっちの方が美味しい!」
「これだよこれ、ミラとハワードも飲んでみてくれ。」
同じ手順で三人分用意して飲んでみる。
うん、間違いないこの感じだ。
「泡を飲むなんてなんだか不思議な飲み物ですね。」
「抹茶の苦さがミルクと砂糖で中和され非常に飲みやすいです。」
「これなら新しい物好きの冒険者も気に入るんじゃないかしら、見た目も綺麗だし苦いだけじゃないし。」
「その上ミルクと抹茶、両方を消費できるというわけだな。ちなみに一杯銅貨15枚、どうだ。」
「え、安くありませんか?」
「コレが当たれば他の味でもいけるはずだ。それとこいつと一緒に抹茶味の菓子も売る、抹茶祭りといこうじゃないか。」
どの店も飲み物だけじゃなく菓子や食べ物を何種類か同時に出してまとめて利益を出していた。
せっかく安く手に入れたんだからしっかり売って利益を出さないともったいないだろ?
「抹茶ラテみっつ!お願いします!」
「今ミルク温めてる!」
「ではこちらの番号札を持って、左のテーブルでお待ちください。次の方どうぞ~。」
「えーっと、抹茶のチーズケーキにプリンをお待ちのお客様おまたせしました!」
翌日。
市場から少し外れた所を広めに貸し切った俺達は、人員を総動員してラテを売りまくっていた。
一杯銅貨10枚、デザートは一緒に注文すると銅貨3枚値引き。
物珍しさと新しさで開店早々に大行列が出来上がっていた。
まぁ、客の半分はドルチェの新作を食べに来たんだろうけど一緒に売れるなら大歓迎だ。
「あー、終わんないよぉ。」
「弱音を吐くな、ガンガンかき混ぜろ。」
「そんなこと言ったって、これ一本じゃ限界が・・・。」
「待たせたな、マシンアーム三本取って来たぜ!」
「でかした!」
エリザが弱音を吐き始めた所に、フールがすべりこんでくる。
よし、これでミルクの準備が一気に進む。
混雑も一気に解消だ。
「いやー、ドルチェさんのスイーツは大人気ですねぇ。」
「そっちかよ。」
「シロウさんのが人気なのはいつもの事じゃないですか。気を使って端の方を使って頂きありがとうございます。」
「いつも迷惑かけてるからたまにはな。」
「追加で言うのなら、事前に連絡もお願いします。」
「鉄は熱いうちに打てっていうだろ?」
「後々になって手配する方が大変なの知ってるじゃないですか。」
だからそういった迷惑がかからないよう今回はちゃんと配慮したじゃないか。
それでもまぁ中々の行列になりつつあるが、もう少しでそれも落ち着くはず。
抹茶が流行ればモーリスさんも、この間のオッサン達も大喜びだ。
気になるのは継続して仕入れることが出来るかだが・・・。
とりあえず今は目の前の客をさばくことだけを考えよう。
「いらっしゃい、注文は?」
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