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912.転売屋はわざと買い占める

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遺跡探索は無事に終了。

残念ながら二つ目の遺跡からはお目当ての品は見つからなかったものの、アネットが喜びそうな薬草類が多く発見されたそうだ。

植物園というんだろうか、巨大なドーム状の建屋の中は複数のブロックに分かれており、そこには種類の違う薬草が生えていたのだとか。

もっとも、生えていたのも一本一本ではなく雑草の如く地面を埋め尽くすぐらいにあったらしいから当分は薬草に困ることはなさそうだ。

無くなればまたその遺跡に行けば勝手に生えているだろうし。

しばらくは薬草価格が落ち着かないだろうけど、固定買取制度があるからそれで生計を立てているような冒険者は大丈夫だろう。

「シロウさんこれはどうですか!」

「そうだな、効果的には申し分ないし銀貨30枚って所か。」

「うぉぉぉマジか!」

「じゃあこっちはどうっすか!」

「お、保存状態は良い感じだな。それなら銀貨40枚出してもよさそうだ。」

「すげぇこれ一個で40枚だってよ!」

買取金額を提示するたびに冒険者から歓声が上がり、次は俺だと新しい品がカウンターにのせられる。

遺跡探索が終わった翌日。

遺跡から発見された品は一度調査に回されることになったのだが、調査終了後冒険者ギルドから冒険者に返却され、正式に彼らの物になった。

一つ目の遺跡は何かの研究施設だったんだろうか、黒水晶をはじめとした魔術関係の品が多く発見されている。

二つ目ほどの数は無かったもののそれでも各冒険者に一つずつわたるぐらいの品々が発見されたようだ。

効果は調査済みなので、それを必要とする冒険者はそのまま手元に残すのだがそうでない冒険者はというとこんな感じで俺の所に群がっているという状況だな。

『導きの鐘。本人が望む品が近くにある場合に限り涼やかな音を鳴らして知らせてくれる。ただしそれがどこにあるかまではわからない。最近の平均取引価格は銀貨25枚。最安値銀貨17枚、最高値銀貨50枚、最終取引日は190日前と記録されています。』

『騎馬の笛。この笛を鳴らすと、どこからともなく一角馬が現れその背にのせてくれる。ただし、使用者の魔力が一定量を下回ると再びどこかへと去って行ってしまう。非常に状態がいい。最近の平均取引価格は銀貨39枚。最安値銀貨30枚最高値、金貨1枚、最終取引日は257日前と記録されています。』

どれも珍しい品ばかり。

発見されるとしたらダンジョンや遺跡の宝箱しかない品々なので、比較的高値で取引されている。

いつもならばそれを相場よりも安く仕入れるのだが、今回は訳あって買取価格にある程度の上乗せをして買取ると告知しておいた。

それでも売ればある程度の利益は出る。

いや、絶対に出す。

その為に今回発見されたほとんどを買い占める勢いで買い取っているんだから。

「「「「ありがとうございました!!!!」」」」

やれやれ、やっと終わったか。

怒涛の買取ラッシュを終え、流石の俺も疲れてしまった。

後ろには大量の魔術道具が無造作に積み上げられている。

あぁ、もちろん危険な奴は別に保管しているから大丈夫だ。

ここにあるのはこうやって転がしても無害な奴だけ。

しっかし、よくまぁこんなに買い込んだものだ。

一個当たり最低でも銀貨20枚はするから、金貨10枚近く使っただろう。

一回でこの金額は久々かもしれない。

もっとも、それだけの余裕はあるしなによりこれを売るあてがあるだけに何の不安もないけどな。

さて、今のうちに帳簿をつけて片づけをしておかないと・・・。

一気に買い取ったので何を買い取ったのかのリスト化も出来ていない。

いつもはメルディかキキがいるんだが、今日は無理を言って休んでもらうことにした。

一から十まで一人でやるのは久しぶりかもしれない。

この世界に来た当初は、店なんて持っていなかったので露店で地道に買い取りし続けていた。

アレはちょうど寒くなる時期。

でもその下積みがあったからこそ、こうやって自分で店を構えることが出来たわけで。

頑張ったよなぁ、俺。

そんな事を考えながら作業をしていると、しばらくして再びドアのベルが鳴った。

「いらっしゃ・・・なんだ、あんたらか。」

「お久しぶりです、シロウ名誉男爵。」

「お邪魔します!」

前と同じく深緑のローブに身を包んだ二人が、フードを外し挨拶をする。

相も変わらずの凸凹コンビだ。

「買い取りか?そうじゃないなら今忙しいんだが。」

「お時間は取らせません。聞けば随分と魔術道具を買い込んでおいでだとか、もしや後ろのもの全てが?」

「あぁ、ダンジョンの未解錠遺跡が開いたって話は聞いただろ、そこで見つかった奴が持ち込まれたんだ。まったく、自分に扱えないからって何でもかんでも押し付けやがって。」

「そんなに買い取って大変ではありませんか?」

「まぁ売るあてはあるからな、使えそうな奴だけ拝借して残りはそこに売るつもりだ。で、話ってのは?」

忙しいんだぞというオーラを前面に出しつつ、出来るだけ自然な感じで様子を伺う。

ここにこの二人が来たのは偶然ではない。

ほぼ必然といっていいだろう。

遺跡で大量の魔術道具が見つかったという情報は掴んでいるだろうから、何がどこにあるのかを突き止めるために来るのはごく自然なことだ。

そもそも魔術師ギルドの仕事はそういった魔術関係の品を管理すること。

場合によっては買取だけでなく接収を行うこともあるらしい。

今回、色々と目を付けられている俺の所に魔術関係の道具が大量に持ち込まれると分かり、急いで確認に来たって感じなんだろうか。

場合によっては魔術道具を接収することもあるそうだが、はてさてどう出てくるのやら。

「それは僕からお話しさせてもらいます。まずシロウ名誉男爵はそんなにも大量の魔術道具をどうされるおつもりなのでしょう。色々と調べさせてもらったのですが、この間の魔力水だけでなく黒水晶を取り扱っているそうですね。欠片はともかく大きいものは市場にも出回らない非常に希少な物です。それを一体どこで手に入れ、どうするつもりなのかズバリ!教えていただけますでしょうか。」

「断ったら?」

「断らないといけないようなことをされている、と判断いたします。」

「随分と暴論じゃないか。こっちは健全な商売をしているだけだってのにあらぬ嫌疑をかけられた上、飯の種でものある取引先の情報まで言わされるんだぞ。それも何の見返りもなしに。」

「でも、言わないと牢屋に入れられちゃいますけど。」

「一体どういう権利と権力で俺を牢屋にぶち込むんだ?名誉男爵である、この俺を。」

ジロリとワトソン君を睨みつけてやると、怯えたように肩をすくめスミスさんの後ろに隠れてしまった。

だがそんな助手の反応にも動じることもなく、冷たい微笑を浮かべたまま彼女は俺をまっすぐに見つめてくる。

その程度の脅しには屈しない、ということだろう。

「投獄する権利は魔術師ギルドより一任されており、その権力は貴族にも及びます。もちろん、無実の罪で投獄することはあってはなりませんが疑わしい人を野放しにする必要はありませんから。」

「疑わしきは罰せず、じゃないのか?」

「疑わしい目で見られるような事をするのがそもそもいけないんです。無実だというであれば、黒水晶の出所を言うことなど簡単ではありませんか?」

本当にそういったことが出来ることは、事前にキキから聞いていたので別に驚くことはない。

あれから魔術師ギルドについて俺も色々と調べさせてもらった。

そして、その上で今回の大量買付けを行ったんだ。

さぁ舞台は整った。

「出所?そんなのダンジョンに決まってるだろうが。」

「それは嘘ですね、今までダンジョンから黒水晶が発見されたという記録は冒険者ギルドに残されていませんでした。」

「そんなのギルドを通したらの話だろ?何でわざわざ買取の安いギルドに黒水晶なんてお宝を売らなきゃならないんだよ。冒険者だって命がけでアレを探してきたんだ、高いところに売るのは当然だろう。」

「つまり、後ろに転がる魔術道具のように冒険者から直接買い付けたと?」

「それ以外にあると思うか?」

なら帳簿を出せといわれても、完璧に帳簿をつける義務はないので記載がなくても罰せられることはない。

だが、それでは俺の疑いは晴れないまま今以上に監視や警戒が厳しくなってしまう。

ならどうするか。

「失礼します!シロウさん見てください!冒険者ギルドにすっごいのがもちこまれ・・・ってあれ、貴女方は魔術師ギルドの。」

視線が絡み合いバチバチと見えない火花が散っていたタイミングで、血相を変えた二人が店に飛び込んできた。
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