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908.転売屋は片付けの準備をする
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嵐は無事に過ぎ去った。
休憩所での缶詰生活を終え、地上に戻った俺達を待っていたのは至る所で行われている復旧作業だった。
ある程度の被害は覚悟していたが、まさかコレほどまでに大きな被害が出るとはちょっと想像してなかったな。
幸いにも窓ガラスの破損などは少なかったようだが、屋根が吹き飛ばされたり雨漏りがしたりと何かしら小さい破損が出ているらしい。
なによりゴミの量がすごい。
一体どこから飛んできたのかと言いたくなるぐらいの草や葉っぱが、風と雨によってそこらじゅうにくっついている。
これは色々と大変そうだ。
ひとまず労働者には現場に戻ってもらい掃除の後簡易天幕やベッドの再設置をお願いして、俺はギルド協会に顔を出す。
待ってましたといわんばかりの羊男に捕まり、そのまま被害状況を確認。
しばらくは復旧作業に追われそうな感じだが・・・。
「そういった細かいことは全部丸投げってね。」
俺はというと屋敷の無事を確認すると言ってギルド協会から逃げ出した後、早々にバーンの背に乗り街を飛び出していた。
事前準備から休憩所での仕込までここ数日缶詰だったからな、その上さらに復旧作業まで押し付けられたんじゃたまったもんじゃない。
さすがにアナスタシア様に捕まると逃げられないので、屋敷に戻るという口実を使ってその場から退散したというわけだ。
今頃羊男が悲壮な顔をしているだろうけど、俺の知ったことではない。
俺は便利屋じゃないんだ、何でもかんでも押し付けられちゃ困る。
そんなわけでバーンと共に街を脱出し、向かったのは港町。
嵐の直撃を受けたと聞いていたのだが、同じく直撃を受けたうちよりも被害は少ないように見える。
うーむ、意外だ。
「やっぱりシロウ様でしたか。」
「ポーラさん、相変わらず気づくのが早いな。」
「それはもう、シロウ様の事ですから。」
街から離れたところに着陸し、歩いて街中に入ってすぐのタイミングでポーラさんが息を切らせてやってきた。
事前にいくとは一言も言ってないんだが、どうやって気づいたんだろか。
「嵐が直撃したって聞いていたんだが、思っていた以上に被害が少なかったんだな。」
「おかげさまで、事前に知ることが出来ましたので早めに対策を立てられました。」
「どうやって知ったんだ?」
「ドレイク船長がこちらに向かう際に不気味な雨雲を見られたそうで、すぐに報告してくださったんです。他の船乗りからも過去の嵐と似ているという話が出たので準備をしたって感じでしょうか。」
「よくまぁその情報で信じられたな。」
「何もしないよりも、無駄に終わったほうが気分が楽じゃないですか?」
確かにその通りだ。
何もせずに大きな被害を出すぐらいなら、空振りでもいいから対策をしておいたほうが何かあったときの安心感が違う。
例え無駄になったとしても次の教訓として生かせばいいだけ。
失敗を恐れずむしろ受け入れられるだけの器のデカさがこの人にはあるんだろうなぁ。
いろいろあって今の地位に落ち着いてはいるが、案外適任だったのかもしれない。
「その通りだ。」
「それよりもシロウ様の方がどうだったんですか?ここにおられるということは嵐は去ったんですよね。」
「あぁ、こっちも前もって教えてもらったおかげで大きな被害は出ていない。が、まったくないわけじゃない。だから先に復旧作業をしているこっちの様子を見て何が必要かを確認しに来たわけなんだが、正直あまり参考になりそうもない。」
「そんな事いわないでくださいよ。」
「悪い悪い、被害がないのはいい事なんだがちょっと拍子抜けしているだけだ。」
こっちでの復旧状況を見てから必要素材を大量に買いつけ、街に戻ってからそれらを売りさばくつもりだったんだが、コレじゃ何を仕入れればいいかわからない。
マスクといい消毒液といい、需要が高いものは高値で売れる。
今回もそれを狙ったつもりなんだがアテが外れてしまった。
「見た目には変わらないかもしれませんが、結構被害が出たんですよ。高潮で港のほうは水没してしまいましたし屋根だって結構飛んじゃったんですから。」
「浸水って港は大丈夫なのか?」
「浸水を全部製作中の下水道に誘導したおかげで大きな被害は出ませんでした。」
「なるほど、その手があったか。」
「ほんと先に作っておいてよかったです。排水には時間が掛かるそうですけど、街の被害を考えれば問題のない範囲ですから。あの、シロウ様は修繕用の素材を買い付けに来られたんですよね?」
話し終えたところでポーラさんが急に上目遣いで俺を見てきた。
俺はこの目を知っている。
目的の為に男を利用しようとする女豹の目。
何かを企んでいるときに見せるやつだ。
「あぁ、予定ではな。」
「それでしたらうちで使わなかった分を安くお譲りしましょうか。ここに置いておいても痛むだけですし、必要としている人に使ってもらうほうがいいと思うんです。」
「そして街は不良在庫を放出して復興資金を稼ぐ。」
「その通りです。お金がないと何も出来ませんから。あ、もちろん不要であれば断っていただいてもかまいませんが。」
「別にいらないとは言っていない。だが、他の目的を隠すのはどうかと思うぞ。狙いは何だ?」
「そんなの決まっているじゃないですか!シロウ様に恩を売ってあわよくば再びデートを!」
「却下。」
まったく油断も隙もありゃしない。
っていうか街の資産を自分の私利私欲のために使うってのはどうなんだ?
街長として一番やっちゃいけないことだと思うんだが。
「えぇぇぇぇどうしてですかぁぁぁぁぁ?」
「やり方がせこすぎる、そんな奴との取引なんざこっちからお断りだ。」
「うぅ、冗談だったのに。」
「冗談に聞こえないんだよ。まったく、今まで自分が何をしてきたか胸に手を当てて考えてみたらどうだ。」
「あまり大きくないんですよね。」
いや、そういうのいいから。
自分の胸を両手で鷲掴みにするポーラさん。
うちの女達が同じ事をしたなら少しはそそられたかもしれないが、生憎とこの人からそれを感じることはありえない。
むしろ危険しか感じないんだよ、マジで。
とはいえ復旧用の資材を安く仕入れられるのはありがたい話。
こっちでは需要がなくなっても、向こうでは今一番必要としている物だけに高く売れるのは間違いない。
それが安価に手に入るのはうれしい限りだ。
これだから転売はやめられないんだよなぁ。
「とりあえずこっちに流せる素材の値段と量を教えてくれ、その間に俺は別の買い付けを済ませてくる。一時間もあれば準備できるだろ?」
「問題ありません。」
「場所は・・・港でいいか。」
「え~、美味しいお菓子のお店ができたんですけどそこじゃダメですか?」
「むしろそんな場所でする話じゃないだろ?営業妨害になるぞ。」
「大丈夫ですって、貸切にするので。」
だから、そういうのが営業妨害だって言ってるんだ。
いまだ文句を言うポーラさんを放っておいて俺は俺の用事を済ませる。
それからきっかり一時間後、ちょうどガレイが入港したので急遽同席してもらうことにした。
一人よりも二人の方が安心だ。
ちなみにバーンには果樹園に飛んで貰って果物と一緒に例の物を回収してもらっている。
追加の塩を持って行ったので大丈夫だろう。
「お待たせ致しました。」
「種類、多すぎないか?」
「過去の被害状況から推測して多めに準備していたので。正直、シロウ様に買い付けて貰えなかったら大赤字になるところでした。」
「まぁそのおかげでうちはたいした苦労をせずに素材を確保できるわけだな。ガレイ、一緒に確認してくれ。」
「わかりました。」
二人で手分けして資料に目を通し、必要そうな素材にチェックを入れていく。
元々修復用に用意していただけあってそのほとんどを流用できそうな感じだ。
量は問題無し、多少多すぎても今は建築ラッシュなので何かしらに流用できるだろう。
最悪冒険者ギルドに買い取ってもらうという手もある。
ブルービープルニールの革にタイガーウィップの蔓は屋根の修繕用、雨漏りにも使えるのでこれからの時期を考えると大量に手に張るのは有難い。
外壁の補修用にウォールジャイアントの粉末、それとガムスライムの体液。
他にも大小さまざまな素材が修繕用に用いられるのだが、そのほとんどを網羅しているんじゃないだろうか。
「安いな。」
「はい、頑張りました。」
「いやいや、街の資産だろうがこんな所で頑張るなよ。」
「とはいえここに置いておいてもお金は生み出しませんし。それに、シロウ様にお譲りするわけですから。やっぱり安くしたいのが女心です。」
そんな女心要らねぇよと言いたいところだが、安ければ安いだけ俺の利益が増えるわけで。
その代償がこの前のようなデートってのがちょっとなぁ。
「相場の半値、というところでしょうか。」
「概ねそんな感じだ。全部運べそうか?」
「このぐらいでしたら何とか、明後日の昼までには運び込めるかと。」
「それだけ早ければ上々だな、請求は別途まわしてくれ。」
「毎度ありがとうございます。」
二日もあればおおよその被害も把握して掃除も終わっているだろう。
本格的な修繕はそれからでも問題ないはずだ。
「どうですか?ご満足いただけました?」
「まぁ、それなりにだな。」
「それなりにですか~。」
「別の目的がなかったら完璧だったんだが・・・。とりあえず提示されたものは全部買おう。金貨5枚で問題ないな。」
有無を言わさずポーラさんに代金を突きつける。
口を尖らしながらも、渋々といった感じでそれを受け取ってくれた。
これで受け取らなかったらどうしようかと思ったがとりあえずは納得してくれたようだ。
「多くありませんか?」
「むしろ少ないぐらいだ。」
提示された価格は金貨4枚。
いくら格安とはいえ相場の半値以下はさすがによろしくないので、足りない分を足しておいた。
それでも相場の半値。
そのまま売っても十分な利益が出るのだが、果たして買い付けた品を見て羊男がいくらの額を提示してくるだろうか。
楽しみだ。
「トト!」
「お、ナイスタイミング。」
「おつかい、終わったよ。」
代金を受け渡し、さぁどうやって解散しようかと悩んでいたとことにちょうどいいタイミングでバーンが空から降ってきた。
中々の衝撃と共に地面が揺れる。
恐らくは空中でこの姿に戻ったんだろうが、かなりの高さから落ちてきたはずなのに本人はけろっとした顔をしている。
「荷物は?」
「最初の場所においてきた。」
「なら急いで戻らないとな。」
「え、もう帰っちゃうんですか?」
突然バーンが降ってきたにも関わらず、ポーラさんは平常運行だ。
いや、普通は驚くなり悲鳴を上げるなりするだろうになんでそんな普通に出来るんだよ。
俺ならびびってるぞ。
「買い付けた品をすぐに持ち帰りたいからな。積み込みはガレイがやるから素材を運んでやってくれ。」
「宜しくお願いします。」
「はぁ、シロウさんは忙しいですし仕方ないかぁ。あ!でもデートの約束は忘れないでくださいね!」
「それはさっき多めに払ったんでチャラだぞ。」
「えぇ!じゃあ返します!」
慌てて金貨を突き出すポーラさんの手を華麗に避け、バーンと共に船着場の広いところへ移動する。
さぁ、目的は果たしたしさっさとおさらばするとしよう。
バーンに合図をして元の姿に戻ってもらい、すばやくその背中に飛び乗る。
さすがのポーラさんもワイバーン姿には驚きを隠せないようだ。
そりゃそうだよな、普通こんな至近距離でお目にかかることなんてないだろうし。
騒ぎが大きくなる前に一気に速度を上げ上空へと飛び立つ。
それから荷物の置いてある場所まで移動して、俺達の街に帰るとしよう。
早く戻らないと羊男からどんなめんどくさいことを頼まれるかわからないからなぁ。
もっとも、買い付けた品を見せてやれば文句も言えないだろうけど。
休憩所での缶詰生活を終え、地上に戻った俺達を待っていたのは至る所で行われている復旧作業だった。
ある程度の被害は覚悟していたが、まさかコレほどまでに大きな被害が出るとはちょっと想像してなかったな。
幸いにも窓ガラスの破損などは少なかったようだが、屋根が吹き飛ばされたり雨漏りがしたりと何かしら小さい破損が出ているらしい。
なによりゴミの量がすごい。
一体どこから飛んできたのかと言いたくなるぐらいの草や葉っぱが、風と雨によってそこらじゅうにくっついている。
これは色々と大変そうだ。
ひとまず労働者には現場に戻ってもらい掃除の後簡易天幕やベッドの再設置をお願いして、俺はギルド協会に顔を出す。
待ってましたといわんばかりの羊男に捕まり、そのまま被害状況を確認。
しばらくは復旧作業に追われそうな感じだが・・・。
「そういった細かいことは全部丸投げってね。」
俺はというと屋敷の無事を確認すると言ってギルド協会から逃げ出した後、早々にバーンの背に乗り街を飛び出していた。
事前準備から休憩所での仕込までここ数日缶詰だったからな、その上さらに復旧作業まで押し付けられたんじゃたまったもんじゃない。
さすがにアナスタシア様に捕まると逃げられないので、屋敷に戻るという口実を使ってその場から退散したというわけだ。
今頃羊男が悲壮な顔をしているだろうけど、俺の知ったことではない。
俺は便利屋じゃないんだ、何でもかんでも押し付けられちゃ困る。
そんなわけでバーンと共に街を脱出し、向かったのは港町。
嵐の直撃を受けたと聞いていたのだが、同じく直撃を受けたうちよりも被害は少ないように見える。
うーむ、意外だ。
「やっぱりシロウ様でしたか。」
「ポーラさん、相変わらず気づくのが早いな。」
「それはもう、シロウ様の事ですから。」
街から離れたところに着陸し、歩いて街中に入ってすぐのタイミングでポーラさんが息を切らせてやってきた。
事前にいくとは一言も言ってないんだが、どうやって気づいたんだろか。
「嵐が直撃したって聞いていたんだが、思っていた以上に被害が少なかったんだな。」
「おかげさまで、事前に知ることが出来ましたので早めに対策を立てられました。」
「どうやって知ったんだ?」
「ドレイク船長がこちらに向かう際に不気味な雨雲を見られたそうで、すぐに報告してくださったんです。他の船乗りからも過去の嵐と似ているという話が出たので準備をしたって感じでしょうか。」
「よくまぁその情報で信じられたな。」
「何もしないよりも、無駄に終わったほうが気分が楽じゃないですか?」
確かにその通りだ。
何もせずに大きな被害を出すぐらいなら、空振りでもいいから対策をしておいたほうが何かあったときの安心感が違う。
例え無駄になったとしても次の教訓として生かせばいいだけ。
失敗を恐れずむしろ受け入れられるだけの器のデカさがこの人にはあるんだろうなぁ。
いろいろあって今の地位に落ち着いてはいるが、案外適任だったのかもしれない。
「その通りだ。」
「それよりもシロウ様の方がどうだったんですか?ここにおられるということは嵐は去ったんですよね。」
「あぁ、こっちも前もって教えてもらったおかげで大きな被害は出ていない。が、まったくないわけじゃない。だから先に復旧作業をしているこっちの様子を見て何が必要かを確認しに来たわけなんだが、正直あまり参考になりそうもない。」
「そんな事いわないでくださいよ。」
「悪い悪い、被害がないのはいい事なんだがちょっと拍子抜けしているだけだ。」
こっちでの復旧状況を見てから必要素材を大量に買いつけ、街に戻ってからそれらを売りさばくつもりだったんだが、コレじゃ何を仕入れればいいかわからない。
マスクといい消毒液といい、需要が高いものは高値で売れる。
今回もそれを狙ったつもりなんだがアテが外れてしまった。
「見た目には変わらないかもしれませんが、結構被害が出たんですよ。高潮で港のほうは水没してしまいましたし屋根だって結構飛んじゃったんですから。」
「浸水って港は大丈夫なのか?」
「浸水を全部製作中の下水道に誘導したおかげで大きな被害は出ませんでした。」
「なるほど、その手があったか。」
「ほんと先に作っておいてよかったです。排水には時間が掛かるそうですけど、街の被害を考えれば問題のない範囲ですから。あの、シロウ様は修繕用の素材を買い付けに来られたんですよね?」
話し終えたところでポーラさんが急に上目遣いで俺を見てきた。
俺はこの目を知っている。
目的の為に男を利用しようとする女豹の目。
何かを企んでいるときに見せるやつだ。
「あぁ、予定ではな。」
「それでしたらうちで使わなかった分を安くお譲りしましょうか。ここに置いておいても痛むだけですし、必要としている人に使ってもらうほうがいいと思うんです。」
「そして街は不良在庫を放出して復興資金を稼ぐ。」
「その通りです。お金がないと何も出来ませんから。あ、もちろん不要であれば断っていただいてもかまいませんが。」
「別にいらないとは言っていない。だが、他の目的を隠すのはどうかと思うぞ。狙いは何だ?」
「そんなの決まっているじゃないですか!シロウ様に恩を売ってあわよくば再びデートを!」
「却下。」
まったく油断も隙もありゃしない。
っていうか街の資産を自分の私利私欲のために使うってのはどうなんだ?
街長として一番やっちゃいけないことだと思うんだが。
「えぇぇぇぇどうしてですかぁぁぁぁぁ?」
「やり方がせこすぎる、そんな奴との取引なんざこっちからお断りだ。」
「うぅ、冗談だったのに。」
「冗談に聞こえないんだよ。まったく、今まで自分が何をしてきたか胸に手を当てて考えてみたらどうだ。」
「あまり大きくないんですよね。」
いや、そういうのいいから。
自分の胸を両手で鷲掴みにするポーラさん。
うちの女達が同じ事をしたなら少しはそそられたかもしれないが、生憎とこの人からそれを感じることはありえない。
むしろ危険しか感じないんだよ、マジで。
とはいえ復旧用の資材を安く仕入れられるのはありがたい話。
こっちでは需要がなくなっても、向こうでは今一番必要としている物だけに高く売れるのは間違いない。
それが安価に手に入るのはうれしい限りだ。
これだから転売はやめられないんだよなぁ。
「とりあえずこっちに流せる素材の値段と量を教えてくれ、その間に俺は別の買い付けを済ませてくる。一時間もあれば準備できるだろ?」
「問題ありません。」
「場所は・・・港でいいか。」
「え~、美味しいお菓子のお店ができたんですけどそこじゃダメですか?」
「むしろそんな場所でする話じゃないだろ?営業妨害になるぞ。」
「大丈夫ですって、貸切にするので。」
だから、そういうのが営業妨害だって言ってるんだ。
いまだ文句を言うポーラさんを放っておいて俺は俺の用事を済ませる。
それからきっかり一時間後、ちょうどガレイが入港したので急遽同席してもらうことにした。
一人よりも二人の方が安心だ。
ちなみにバーンには果樹園に飛んで貰って果物と一緒に例の物を回収してもらっている。
追加の塩を持って行ったので大丈夫だろう。
「お待たせ致しました。」
「種類、多すぎないか?」
「過去の被害状況から推測して多めに準備していたので。正直、シロウ様に買い付けて貰えなかったら大赤字になるところでした。」
「まぁそのおかげでうちはたいした苦労をせずに素材を確保できるわけだな。ガレイ、一緒に確認してくれ。」
「わかりました。」
二人で手分けして資料に目を通し、必要そうな素材にチェックを入れていく。
元々修復用に用意していただけあってそのほとんどを流用できそうな感じだ。
量は問題無し、多少多すぎても今は建築ラッシュなので何かしらに流用できるだろう。
最悪冒険者ギルドに買い取ってもらうという手もある。
ブルービープルニールの革にタイガーウィップの蔓は屋根の修繕用、雨漏りにも使えるのでこれからの時期を考えると大量に手に張るのは有難い。
外壁の補修用にウォールジャイアントの粉末、それとガムスライムの体液。
他にも大小さまざまな素材が修繕用に用いられるのだが、そのほとんどを網羅しているんじゃないだろうか。
「安いな。」
「はい、頑張りました。」
「いやいや、街の資産だろうがこんな所で頑張るなよ。」
「とはいえここに置いておいてもお金は生み出しませんし。それに、シロウ様にお譲りするわけですから。やっぱり安くしたいのが女心です。」
そんな女心要らねぇよと言いたいところだが、安ければ安いだけ俺の利益が増えるわけで。
その代償がこの前のようなデートってのがちょっとなぁ。
「相場の半値、というところでしょうか。」
「概ねそんな感じだ。全部運べそうか?」
「このぐらいでしたら何とか、明後日の昼までには運び込めるかと。」
「それだけ早ければ上々だな、請求は別途まわしてくれ。」
「毎度ありがとうございます。」
二日もあればおおよその被害も把握して掃除も終わっているだろう。
本格的な修繕はそれからでも問題ないはずだ。
「どうですか?ご満足いただけました?」
「まぁ、それなりにだな。」
「それなりにですか~。」
「別の目的がなかったら完璧だったんだが・・・。とりあえず提示されたものは全部買おう。金貨5枚で問題ないな。」
有無を言わさずポーラさんに代金を突きつける。
口を尖らしながらも、渋々といった感じでそれを受け取ってくれた。
これで受け取らなかったらどうしようかと思ったがとりあえずは納得してくれたようだ。
「多くありませんか?」
「むしろ少ないぐらいだ。」
提示された価格は金貨4枚。
いくら格安とはいえ相場の半値以下はさすがによろしくないので、足りない分を足しておいた。
それでも相場の半値。
そのまま売っても十分な利益が出るのだが、果たして買い付けた品を見て羊男がいくらの額を提示してくるだろうか。
楽しみだ。
「トト!」
「お、ナイスタイミング。」
「おつかい、終わったよ。」
代金を受け渡し、さぁどうやって解散しようかと悩んでいたとことにちょうどいいタイミングでバーンが空から降ってきた。
中々の衝撃と共に地面が揺れる。
恐らくは空中でこの姿に戻ったんだろうが、かなりの高さから落ちてきたはずなのに本人はけろっとした顔をしている。
「荷物は?」
「最初の場所においてきた。」
「なら急いで戻らないとな。」
「え、もう帰っちゃうんですか?」
突然バーンが降ってきたにも関わらず、ポーラさんは平常運行だ。
いや、普通は驚くなり悲鳴を上げるなりするだろうになんでそんな普通に出来るんだよ。
俺ならびびってるぞ。
「買い付けた品をすぐに持ち帰りたいからな。積み込みはガレイがやるから素材を運んでやってくれ。」
「宜しくお願いします。」
「はぁ、シロウさんは忙しいですし仕方ないかぁ。あ!でもデートの約束は忘れないでくださいね!」
「それはさっき多めに払ったんでチャラだぞ。」
「えぇ!じゃあ返します!」
慌てて金貨を突き出すポーラさんの手を華麗に避け、バーンと共に船着場の広いところへ移動する。
さぁ、目的は果たしたしさっさとおさらばするとしよう。
バーンに合図をして元の姿に戻ってもらい、すばやくその背中に飛び乗る。
さすがのポーラさんもワイバーン姿には驚きを隠せないようだ。
そりゃそうだよな、普通こんな至近距離でお目にかかることなんてないだろうし。
騒ぎが大きくなる前に一気に速度を上げ上空へと飛び立つ。
それから荷物の置いてある場所まで移動して、俺達の街に帰るとしよう。
早く戻らないと羊男からどんなめんどくさいことを頼まれるかわからないからなぁ。
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