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907.転売屋は嵐を迎え撃つ
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そして嵐はやってきた。
今頃地上はすさまじい風と雨に襲われているだろうけど、ここではその気配を一切感じない。
それもそのはず、俺がいるのはダンジョンの中。
休憩所の厨房で手ぬぐいを首からかけて揚げ物と格闘していた。
「コロッケあがったぞー。」
「は~い、すぐ持っていきます。」
最後のコロッケをクッキングシート的な物の上においてコップの水を一気に飲み干す。
暑い。
揚げ物は熱と匂いとの格闘とよく言ったものだが、ここに立っているだけで一キロはやせられる気がする。
額から垂れてくる汗をぬぐい次のタネをさっと油にくぐらせると、ジュワジュワといい音をたてながら油の海を泳いでいく。
外は嵐。
嵐といえばやはりコロッケだろう。
一体誰が言い出したかまでは忘れてしまったが、どこぞの誰かがネットでつぶやいたのが始まりだったはず。
冷めても美味しいし腹にたまるコロッケは確かに災害時にぴったりの食材といえるかもしれない。
「ご主人様これで全部ですか?」
「とりあえずはそれで全部だ。今次を揚げてるところだが、外はどんな感じだ?」
「皆さん自分の寝床を作り終えたようで、少しずつお弁当を受け取りに来てくださっています。あ、水筒追加しとかなきゃ。」
「それなら裏の倉庫に予備があったはずだ、使った分は後で補充するから何個使ったかどこかに控えておいてくれ。」
「わかりました。」
楽しそうに頭上の耳をピコピコ動かしながらアネットが休憩所の外に飛び出していく。
俺達は今休憩所で労働者用の食事を量産している。
嵐の襲来を前に行き場のなくなってしまった冒険者を連れてここにやってきたのが半日前。
本当は俺一人だけが来るはずだったんだが、屋敷の嵐対策が早めに終わったとの事で急遽ついてきてくれることになった。
他にも婦人会の奥様方が五人ほど、別の部屋で俺の上げたコロッケと作り置きのおかずを一生懸命に弁当箱につめている。
休憩所までやってきた俺達がまず始めたのが寝床の確保。
嵐は一日あれば街の上を通過する予定だが、その間この硬い地面の上に雑魚寝するのはさすがにきつい。
総勢50人を越える大所帯で、スペースがふんだんにある地上と違い全員分の天幕を設置するのは難しいが、持ち込んだ組み立てベッドと衝立を使って簡易の寝床を作ることにした。
最初は眠れたらいいやって感じの労働者達だったのだが、組み立て始めると何か楽しくなってきたのか皆ワイワイと話しながら寝床を作り始める。
その間に俺達は彼らの食事を量産しているというわけだ。
毎日大勢の冒険者が出入りしているとはいえ、コレだけの人数分の食事を同時に提供するのはさすがに無理がある。
それならば日々使っている弁当箱を利用して作り置きしておこうという話になったわけだ。
ただ問題もあった。
作り置きすればするほど最初の奴は冷めていき美味しくなくなってしまう。
いくら非常時とはいえこんなところに押し込まれた上に飯までマズイのはさすがに申し訳ないからな、そこでとっておきを使うことにしたわけだ。
「うわすげぇ!」
「蓋をした瞬間に湯気が出てきたぞ!」
どうやら一足先に寝床を作り終えた労働者がそのとっておきを使ったらしい。
そう、今回用意したのはこの前考案した加熱装置。
本来であれば専用の箱を使って温めるのだが、今回はさすがに時間がなさ過ぎて量産できなかったので既存の奴を流用することにした。
若干温めにムラはできるが、それでも冷たい飯を食うよりかは大分とマシなはず。
なによりギミックがあるだけでテンション上がるからな、普通に食うよりも楽しんでくれるだろう。
「なるほど、こいつで下からあっためるのか。」
「夏はいいけど、冬はこういうのあるとありがたいよなぁ。」
「皆さん、スープは別にありますから水筒と一緒に持っていってくださいね。お水のお代わりは遠慮なくどうぞー。」
「なにより可愛い子がいるのが最高だよな。」
「違いない。」
なにやら聞き捨てならない言葉が聞こえたようだが、まぁ今回は勘弁してやる。
アネットが可愛いのは事実だからな。
それから一時間ひたすらコロッケを揚げまくり、なんとかその日の食事分を作り置き出来た。
ダンジョン内は時間感覚が麻痺してしまうので三食の食事がかなり重要。
次は十時間後って所か。
本来であれば夕方になると奥様方は地上に戻るのだが、今日は嵐なのでこのまま泊り込みで手伝ってもらえることになっている。
ほんと、ありがたい話だ。
「アネット、奥様方に先に休んでもらってくれ。俺は洗い物してくる。」
「手伝いますよ。」
「いや、そろそろキキたちが戻ってくるはずだからそっちの分を用意しておいてくれ。」
「そっか、わかりました。」
ダンジョンの最上階なら気にしないのだが、ここはダンジョンの中。
比較的安全な場所ではあるが魔物が絶対に出ない場所ではない。
普段は冒険者がたむろしているのだが、今日は非戦闘員の労働者ばかり。
なので有志を募って周囲の巡回を強化してもらっている。
そのうちの一人にキキが名乗りを上げてくれたというわけだ。
屋敷はアニエスさんやハワード達がいるのでもしもが有っても大丈夫だろう。
窓にはしっかり養生してあるし、窓辺には近づかないように言ってあるしな。
「さーて、もうひと頑張りするかなっと。」
腕まくりをして積み上がった弁当箱を洗おうとしたそのときだった。
「うわ、何か来た!」
「魔物だ!逃げろ逃げろ!」
「逃げるってどこに!」
「とりあえずベッドの下にもぐりこめ!」
外から悲鳴と怒号が聞こえてくる。
手も拭かず慌てて外に飛び出すと、そこには目を疑うような光景が広がっていた。
頭上を飛び交う巨大な鳥。
深い緑色をした巨大な羽をはためかせてそいつらは休憩所の上を旋回していた。
全部で三羽。
見たこと無いやつだが魔物であることに変わりはないだろう。
とにかく何とかしないと。
「アネット!奥様方を頼む、他の皆はどこかに隠れろ!」
「隠れるってどこにだよ!ここには魔物が出ないって話じゃなかったのかよ!」
「どこでもいいから!」
天井スレスレをぐるぐると旋回するだけで襲ってくる様子はないのだが、このまま放置するわけにも行かない。
休憩所に至る道は全て冒険者が警護しているのだが、天井付近は防ぎようがない。
カバンから腕輪を取り出し、すばやく左手に装着。
そして腰にぶら下げたスリングを構え、天井に狙いを定める。
それと同時に入り口から冒険者が走ってくる音が聞こえてきた。
「シロウ様!」
「キキか。」
「すみません、魔法の効かない魔物でとり逃しました。」
「魔法が効かないんならしょうがない。見たことの無いやつだが大丈夫なのか?」
「恐らくはストームバードだと思います。嵐の日に現れて空に上るといわれている珍しい魔物で、人を襲ったという記録はありませんが魔物は魔物ですので・・・。」
天井付近をぐるぐる回っているのは空に上る為なんだろうか。
そんな事を聞くと倒すのをためらってしまいそうになるが、向こうは魔物で俺は人。
それに珍しい魔物って事は素材もめったに手に入らないはず。
ここで俺に見つかったのを恨んでくれ。
他の冒険者が労働者の近くで武器を構える。
これで当て損ねて襲ってきても被害はないはず。
くるくるとゆっくりと回る一匹に狙いを定め、力いっぱい引いた手を静かに離した。
弾はスリングと腕輪の効果で鳥の右羽を打ち抜き、甲高い悲鳴と共に一羽が落ちてくる。
「お見事です。」
「これでも襲ってくる気配は無し、か。」
「ここはダンジョンですから。」
「もちろん分かってる、とどめは任せたぞ。」
どのような理由があっても労働者を驚かせているのは事実であり、次に襲ってこない保証もない。
静かに狙いを定め残りの二匹もすばやく射落とすことが出来た。
うーん、練習しているとはいえ動く獲物をこうも容易く撃ち落とせるなんて、装備の恩恵ってのはすさまじいな。
そりゃ冒険者が背伸びしてまで強い武器や装備品を買うわけだ。
「さすがですご主人様。」
「すごいのは俺じゃなくて装備だぞ。」
「ストームバードですか、嵐の日にしか出てこないなんて魔物もいるんですね。」
「世の中にはまだまだ知らない魔物がいるんだろうなぁ。そして、そういう奴が大抵金になる。」
「ふふ、そうですね。」
武器を構えたキキが小走りで駆け寄ってくる。
ひとまず魔物が駆除されたことで冒険者労働者共に緊張はほぐれたようだ。
これ以上は出てきて欲しくないんだが・・・。
「シロウ様、こちらを。」
「デカイな。」
「立派な羽ですねぇ、でも綺麗です。」
止めを刺されたストームバードが休憩所の前に並べられる。
羽を広げた大きさは約2mはあるだろうか。
くちばしは小さいが爪は鋭い。
なにより目を引くのは深緑色の光沢のある羽だろう。
『ストームバード。嵐の日にどこからともなく現れ、稲妻と暴風の吹き荒れる空に上っていく不思議な鳥。暴風の中を飛べるのは羽に強い耐風の加護が与えられているからといわれている。また、その爪は雷を寄せ付けない。最近の平均取引価格は銀貨50枚。最安値銀貨27枚、最高値金貨1枚、最終取引日は3日前と記録されています。』
なるほどな、あの爪や羽は雷や風を寄せ付けないのか。
取引価格が高いのも希少性ゆえだろうが、もしかすると羽は何かに使えるかもしれない。
風の影響を受けないということは矢を飛ばす時に余計な影響を受けないということだ。
もしかするとそういう用途で使われている可能性もある。
個人的にはこのまま剥製のようにしてもかっこいいかなとも思ってしまうなぁ。
珍しいだけに貴族が好んで買いそうだ。
「羽は何かに使えそうだな。一羽は剥製にするのもいいかもしれない。」
「確かに綺麗ですしね。」
「とにかく何事もなくてよかった。キキ、休憩所に飯の準備をしてあるからゆっくり休んでくれ。」
「ありがとうございます。」
「今日のコロッケは特に美味いぞ、期待してくれ。」
とりあえず何事もなくてよかった。
冒険者が戻ってきたことで労働者も落ち着きを取り戻している。
外はまだまだ嵐の真っ只中だろう。
それが過ぎたからといってすぐに日常が戻ってくるわけではない。
まずは破損状況を確認して、それから優先順位をつけて修復作業に入らないと。
それに、修復素材も色々必要だろうから素材の在庫リストを預かっておいたほうがいいかもしれない。
やることは盛りだくさん、そして金儲けもたっぷりと出来る。
まだまだ忙しくなりそうだ。
今頃地上はすさまじい風と雨に襲われているだろうけど、ここではその気配を一切感じない。
それもそのはず、俺がいるのはダンジョンの中。
休憩所の厨房で手ぬぐいを首からかけて揚げ物と格闘していた。
「コロッケあがったぞー。」
「は~い、すぐ持っていきます。」
最後のコロッケをクッキングシート的な物の上においてコップの水を一気に飲み干す。
暑い。
揚げ物は熱と匂いとの格闘とよく言ったものだが、ここに立っているだけで一キロはやせられる気がする。
額から垂れてくる汗をぬぐい次のタネをさっと油にくぐらせると、ジュワジュワといい音をたてながら油の海を泳いでいく。
外は嵐。
嵐といえばやはりコロッケだろう。
一体誰が言い出したかまでは忘れてしまったが、どこぞの誰かがネットでつぶやいたのが始まりだったはず。
冷めても美味しいし腹にたまるコロッケは確かに災害時にぴったりの食材といえるかもしれない。
「ご主人様これで全部ですか?」
「とりあえずはそれで全部だ。今次を揚げてるところだが、外はどんな感じだ?」
「皆さん自分の寝床を作り終えたようで、少しずつお弁当を受け取りに来てくださっています。あ、水筒追加しとかなきゃ。」
「それなら裏の倉庫に予備があったはずだ、使った分は後で補充するから何個使ったかどこかに控えておいてくれ。」
「わかりました。」
楽しそうに頭上の耳をピコピコ動かしながらアネットが休憩所の外に飛び出していく。
俺達は今休憩所で労働者用の食事を量産している。
嵐の襲来を前に行き場のなくなってしまった冒険者を連れてここにやってきたのが半日前。
本当は俺一人だけが来るはずだったんだが、屋敷の嵐対策が早めに終わったとの事で急遽ついてきてくれることになった。
他にも婦人会の奥様方が五人ほど、別の部屋で俺の上げたコロッケと作り置きのおかずを一生懸命に弁当箱につめている。
休憩所までやってきた俺達がまず始めたのが寝床の確保。
嵐は一日あれば街の上を通過する予定だが、その間この硬い地面の上に雑魚寝するのはさすがにきつい。
総勢50人を越える大所帯で、スペースがふんだんにある地上と違い全員分の天幕を設置するのは難しいが、持ち込んだ組み立てベッドと衝立を使って簡易の寝床を作ることにした。
最初は眠れたらいいやって感じの労働者達だったのだが、組み立て始めると何か楽しくなってきたのか皆ワイワイと話しながら寝床を作り始める。
その間に俺達は彼らの食事を量産しているというわけだ。
毎日大勢の冒険者が出入りしているとはいえ、コレだけの人数分の食事を同時に提供するのはさすがに無理がある。
それならば日々使っている弁当箱を利用して作り置きしておこうという話になったわけだ。
ただ問題もあった。
作り置きすればするほど最初の奴は冷めていき美味しくなくなってしまう。
いくら非常時とはいえこんなところに押し込まれた上に飯までマズイのはさすがに申し訳ないからな、そこでとっておきを使うことにしたわけだ。
「うわすげぇ!」
「蓋をした瞬間に湯気が出てきたぞ!」
どうやら一足先に寝床を作り終えた労働者がそのとっておきを使ったらしい。
そう、今回用意したのはこの前考案した加熱装置。
本来であれば専用の箱を使って温めるのだが、今回はさすがに時間がなさ過ぎて量産できなかったので既存の奴を流用することにした。
若干温めにムラはできるが、それでも冷たい飯を食うよりかは大分とマシなはず。
なによりギミックがあるだけでテンション上がるからな、普通に食うよりも楽しんでくれるだろう。
「なるほど、こいつで下からあっためるのか。」
「夏はいいけど、冬はこういうのあるとありがたいよなぁ。」
「皆さん、スープは別にありますから水筒と一緒に持っていってくださいね。お水のお代わりは遠慮なくどうぞー。」
「なにより可愛い子がいるのが最高だよな。」
「違いない。」
なにやら聞き捨てならない言葉が聞こえたようだが、まぁ今回は勘弁してやる。
アネットが可愛いのは事実だからな。
それから一時間ひたすらコロッケを揚げまくり、なんとかその日の食事分を作り置き出来た。
ダンジョン内は時間感覚が麻痺してしまうので三食の食事がかなり重要。
次は十時間後って所か。
本来であれば夕方になると奥様方は地上に戻るのだが、今日は嵐なのでこのまま泊り込みで手伝ってもらえることになっている。
ほんと、ありがたい話だ。
「アネット、奥様方に先に休んでもらってくれ。俺は洗い物してくる。」
「手伝いますよ。」
「いや、そろそろキキたちが戻ってくるはずだからそっちの分を用意しておいてくれ。」
「そっか、わかりました。」
ダンジョンの最上階なら気にしないのだが、ここはダンジョンの中。
比較的安全な場所ではあるが魔物が絶対に出ない場所ではない。
普段は冒険者がたむろしているのだが、今日は非戦闘員の労働者ばかり。
なので有志を募って周囲の巡回を強化してもらっている。
そのうちの一人にキキが名乗りを上げてくれたというわけだ。
屋敷はアニエスさんやハワード達がいるのでもしもが有っても大丈夫だろう。
窓にはしっかり養生してあるし、窓辺には近づかないように言ってあるしな。
「さーて、もうひと頑張りするかなっと。」
腕まくりをして積み上がった弁当箱を洗おうとしたそのときだった。
「うわ、何か来た!」
「魔物だ!逃げろ逃げろ!」
「逃げるってどこに!」
「とりあえずベッドの下にもぐりこめ!」
外から悲鳴と怒号が聞こえてくる。
手も拭かず慌てて外に飛び出すと、そこには目を疑うような光景が広がっていた。
頭上を飛び交う巨大な鳥。
深い緑色をした巨大な羽をはためかせてそいつらは休憩所の上を旋回していた。
全部で三羽。
見たこと無いやつだが魔物であることに変わりはないだろう。
とにかく何とかしないと。
「アネット!奥様方を頼む、他の皆はどこかに隠れろ!」
「隠れるってどこにだよ!ここには魔物が出ないって話じゃなかったのかよ!」
「どこでもいいから!」
天井スレスレをぐるぐると旋回するだけで襲ってくる様子はないのだが、このまま放置するわけにも行かない。
休憩所に至る道は全て冒険者が警護しているのだが、天井付近は防ぎようがない。
カバンから腕輪を取り出し、すばやく左手に装着。
そして腰にぶら下げたスリングを構え、天井に狙いを定める。
それと同時に入り口から冒険者が走ってくる音が聞こえてきた。
「シロウ様!」
「キキか。」
「すみません、魔法の効かない魔物でとり逃しました。」
「魔法が効かないんならしょうがない。見たことの無いやつだが大丈夫なのか?」
「恐らくはストームバードだと思います。嵐の日に現れて空に上るといわれている珍しい魔物で、人を襲ったという記録はありませんが魔物は魔物ですので・・・。」
天井付近をぐるぐる回っているのは空に上る為なんだろうか。
そんな事を聞くと倒すのをためらってしまいそうになるが、向こうは魔物で俺は人。
それに珍しい魔物って事は素材もめったに手に入らないはず。
ここで俺に見つかったのを恨んでくれ。
他の冒険者が労働者の近くで武器を構える。
これで当て損ねて襲ってきても被害はないはず。
くるくるとゆっくりと回る一匹に狙いを定め、力いっぱい引いた手を静かに離した。
弾はスリングと腕輪の効果で鳥の右羽を打ち抜き、甲高い悲鳴と共に一羽が落ちてくる。
「お見事です。」
「これでも襲ってくる気配は無し、か。」
「ここはダンジョンですから。」
「もちろん分かってる、とどめは任せたぞ。」
どのような理由があっても労働者を驚かせているのは事実であり、次に襲ってこない保証もない。
静かに狙いを定め残りの二匹もすばやく射落とすことが出来た。
うーん、練習しているとはいえ動く獲物をこうも容易く撃ち落とせるなんて、装備の恩恵ってのはすさまじいな。
そりゃ冒険者が背伸びしてまで強い武器や装備品を買うわけだ。
「さすがですご主人様。」
「すごいのは俺じゃなくて装備だぞ。」
「ストームバードですか、嵐の日にしか出てこないなんて魔物もいるんですね。」
「世の中にはまだまだ知らない魔物がいるんだろうなぁ。そして、そういう奴が大抵金になる。」
「ふふ、そうですね。」
武器を構えたキキが小走りで駆け寄ってくる。
ひとまず魔物が駆除されたことで冒険者労働者共に緊張はほぐれたようだ。
これ以上は出てきて欲しくないんだが・・・。
「シロウ様、こちらを。」
「デカイな。」
「立派な羽ですねぇ、でも綺麗です。」
止めを刺されたストームバードが休憩所の前に並べられる。
羽を広げた大きさは約2mはあるだろうか。
くちばしは小さいが爪は鋭い。
なにより目を引くのは深緑色の光沢のある羽だろう。
『ストームバード。嵐の日にどこからともなく現れ、稲妻と暴風の吹き荒れる空に上っていく不思議な鳥。暴風の中を飛べるのは羽に強い耐風の加護が与えられているからといわれている。また、その爪は雷を寄せ付けない。最近の平均取引価格は銀貨50枚。最安値銀貨27枚、最高値金貨1枚、最終取引日は3日前と記録されています。』
なるほどな、あの爪や羽は雷や風を寄せ付けないのか。
取引価格が高いのも希少性ゆえだろうが、もしかすると羽は何かに使えるかもしれない。
風の影響を受けないということは矢を飛ばす時に余計な影響を受けないということだ。
もしかするとそういう用途で使われている可能性もある。
個人的にはこのまま剥製のようにしてもかっこいいかなとも思ってしまうなぁ。
珍しいだけに貴族が好んで買いそうだ。
「羽は何かに使えそうだな。一羽は剥製にするのもいいかもしれない。」
「確かに綺麗ですしね。」
「とにかく何事もなくてよかった。キキ、休憩所に飯の準備をしてあるからゆっくり休んでくれ。」
「ありがとうございます。」
「今日のコロッケは特に美味いぞ、期待してくれ。」
とりあえず何事もなくてよかった。
冒険者が戻ってきたことで労働者も落ち着きを取り戻している。
外はまだまだ嵐の真っ只中だろう。
それが過ぎたからといってすぐに日常が戻ってくるわけではない。
まずは破損状況を確認して、それから優先順位をつけて修復作業に入らないと。
それに、修復素材も色々必要だろうから素材の在庫リストを預かっておいたほうがいいかもしれない。
やることは盛りだくさん、そして金儲けもたっぷりと出来る。
まだまだ忙しくなりそうだ。
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