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885.転売屋は掃除をしにいく

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「わるいなぁ、戻ってきて早々こんなことにつき合わせて。」

「大丈夫です!」

温泉が出なくなったとジョウジさんから聞き、その足でアイルさんからも言質を取った。

なんでも先月頃からお湯が出なくなっているらしい。

いや、正確には出ているものの湯量がかなり少ないそうだ。

猿騒動で使用する人があまりおらずそこまで問題にはなっていないのだが、これから森に入りやすい時期が来るので原因を究明するべく調査を行うところだったらしい。

そんな話をしていると、森の探索に行っていたウーラさんとソラが帰還。

特に魔物の気配も無いとの事だったので、代わりに調査へ向かうことにしたわけだ。

調査料は出すとの事だったので小遣い稼ぎにはなるだろう。

せっかく森に入るので大きなかばんを貸してもらい、素材を回収しながら目的の温泉へと足を進める。

道が整備されたので比較的歩きやすいのだが、それでも人が歩かなくなるとすぐ荒れてしまうんだよなぁ。

猿がいないことも確認できたし、後は温泉が出るようになればまた人がくるようになるだろう。

ウーラさんが伸びてきた枝をさくさくと切りながら前を歩いてくれたおかげであっという間に到着。

湯量は少なくなっているが、まったく無いわけでもない。

だが、ゴミが浮かび決して綺麗とはいえない状態だった。

「うーむ、中々の惨状。」

「ゴミ、いっぱいですね。」

「お湯はそれなりの温度だが湯量が少ない。とりあえず掃除してから考えるか。」

このままじゃ調査もできない。

中央からお湯が噴出す影響かゴミはドーナッツ状になっていたのでこれなら上からでも綺麗にできるだろう。

二人に手伝ってもらってまずは水面のゴミを取り除く。

落ち葉、飛んできた枝、蟲の死骸、魔物の毛なんてのもあった。

冬場は誰も出入りしないので魔物が入っていたりするのかもしれない。

ほら、猿が温泉に浸かっている画像とかよくあるじゃない?

それと一緒だ。

ひとまず綺麗にしたものの上から見ただけでは原因は不明。

って事は中だな。

ここの温泉は中央の源泉からお湯が湧き出すタイプなので問題があるとしたらそこだろう。

単純に湯量が低下したのか、それとも別の理由なのか。

それは入ってみないと分からない。

ここに来るまでと掃除で汗をかいていたのでちょうどいいか。

「中に入って様子を見てくる、魔除けを設置したら二人とも休憩しててくれ。」

「ウ、はい。」

「お香焚いてきます!」

かばんから魔除け香を取り出し、元気一杯に走り出す。

そんなに急ぐと落ち葉踏んでこけるぞ。

女達がいないので何も気にせずその場で服を脱ぎ、ゆっくりとお湯に身を投じる。

温度は少し低め、それでも気持ちいいことに変わりない。

スイスイと中央まで泳ぎ、息をいっぱいに吸ってお湯の中へ。

ゴーグルがないのでぼやけながらの視界ではあるのだが、確かに何かがある。

落ち葉が詰まってるとかそんな感じではなく、もっと硬い何かのようだ。

「どうですかー?」

「わからんが詰まりかけているみたいだ。ナイフ取ってくれ。」

「ウ、はい。」

ウーラさんから小型ナイフを預かり再びお湯の中へ。

ここだな。

温泉の中心、少しだけへこんだ部分からいつもは滾々と湧き出ているはずなのにその感じが無い。

かわりに硬い何かがへばりついているように感じた。

『温泉蟲の糞。温泉蟲とは温泉にのみ存在する微小な蟲で、主に噴出孔付近に張り付いて生息している。硫黄や含有成分を摂取して生きているのだが、排出された分が固着して噴出口をふさいでしまう事例が多々報告されている。糞は体内で含有成分が精製され高濃度の結晶になったもので、物によっては高値で取引されている。最近の平均取引価格は銀貨1枚。最安値銅貨70枚最高値銀貨40枚。最終取引日は41日前と記録されています。』

潜りながらそこに触れると鑑定スキルが発動、なるほどこれが原因か。

カリカリのそいつをナイフで何度も削って初めて欠片が取れた。

呼吸が苦しくなりいったん浮上。

中々地味な作業だが、これを取れば湯量は元に戻るだろう。

「どうですか?」

「噴出孔がふさがっているようだ、削れば何とかなる。」

「よかったです。」

「こっちは俺はやるから二人はゆっくりしてていいぞ、かばんにクッキーが入ってるから食べとけ。」

「クッキー!」

口寂しくなったように持ってきたのだが、食べる暇が無かったんだよな。

戻る時間を考えたらだらだらするわけにもいかないし、さっさと終わらせてしまうとしよう。

それから何度も呼吸と潜水を繰り返しながら、なんとかへばりついていた糞をはがし終えた。

温泉に入っているのに疲れるのはこれいかに。

のぼせそうになるとウーラさんが代わりに潜ってくれたので非常に助かった。

「すごい量です。」

「思ったよりも多かったな。」

目の前には黄色の塊が5cmほどの高さに積みあがっている。

こりゃこれだけ蓋されたらお湯も出なくなるか。

とはいえ、これでしばらくは安泰だろう。

今後は定期的に削ってやればここまでひどくなることも無い。

糞とは言うものの見た目には小石の塊。

硬くて指の腹で押すだけではどうこうなるようなものではない。

「なにかに、使えますか?」

「わからんなぁ。戻って調べてみるが値段のハバが広すぎて価値があるかどうか見分けがつかない。そもそもここの効能って何なんだ?」

一般的には疲労回復とかだろうけど、炭酸泉とかアルカリ泉とか色々あるからなぁ。

専門家ではないのでここがどんな感じなのかは不明だ。

「お、上も掃除してくれたのか。」

「はい!」

「よくやった、これで明日からすぐに利用できる。ちゃんと周りを見てえらいぞ。」

「えへへ。」

「そういやウーラさんは?」

「あそこにいます。」

ソラが指差した先では、ウーラさんがこちらに背を向けてしゃがみこんでいた。

手は動いているので何かをしているのは間違いない。

そのままスイスイと泳いで近くまで言ってみる。

「どうかしたか?」

「ウカタルヅケフタオウチバルニメフズラウシイルモノフガツウイテルイマフシテ。」

「ん?」

「落ち葉に珍しいものがついていたそうです。」

「珍しいもの?」

ウーラさんの前にはさっき片付けてくれた落ち葉が積みあがっていた。

どうやらそれを一枚一枚確認していたようだが・・・。

現状で取り除かれたと思われる落ち葉は全部で10枚。

イチョウのような形で色は鮮やかな赤。

鮮血といっても言いぐらいの鮮やかな赤だ。

一枚手に取りくるりと回転させると、反対側にはゴマのような何かがびっしりついていた。

ぶっちゃけ気持ち悪い。

『吸血葉。葉っぱに見えるが生き物の体に張り付き血液を吸うれっきとした魔物。自分では移動できず風に乗って飛びながら移動する為張り付いても一枚か二枚だが、ごく稀に大量に張り付いて死亡する例がある。葉の黒い粒は種であり、栄養が豊富なため造血薬等に用いられることがある。また、そのまま食べることも可能。最近の平均取引価格は銅貨50枚最安値銅貨10枚最高値銅貨87枚、最終取引日は26日前と記録されています。』

マジか、これ魔物だったのか。

そしてこの黒い粒粒は全部種。

集合恐怖症の人が見たら絶対アウトな奴だよなこれ。

比較的大丈夫な俺でも腕の鳥肌がヤバイ。

まさかこんなのが転がっているとは。

俺だったら絶対にタダの落ち葉だと思って他のと一緒に捨てていたかもしれない。

「こんな素材もあるのか。アネットが喜びそうだ。」

「ウイツルモフドーラウガセルワニフナウッテルイルフオレウイガルシタフイ。」

「アネット様に、お礼がしたいそうです。」

「他にもありそうか?」

「う、ハイ。」

「なら俺も手伝おう。着替えてくるから作業を続けてくれ。」

人を見た目で判断するなはこの世界に来て随分と治ったはずだが、物を見た目で判断してしまう癖はまだ抜けない。

とか言うレベルじゃないよなこれ。

知らなかったら絶対捨ててるって。

世の中には俺の知らない素材が山ほどある。

それこそ、金になるのに捨ててるなんてものもたくさんあるんだろう。

自分から掃除をしたら百円見つけたって気分でちょっとうれしい。

見た目はちょっとあれだけどな。

いったん町に戻って状況を報告。

掃除して小遣い貰うなんていつ振りだろうなぁ。

「あ、ご主人様おかえりなさい!」

「アネットそっちはどうだ?」

「作り置きしてあったものは馬車に積み込んであります。追加分は月末までに持ってくるといってました。」

「・・・あの量を月末までに?」

「ビアンカならできますよ。」

「いや、できますよって・・・。」

自分ができるからといってビアンカもできるとは限らないんじゃないかなぁ。

過労死で死なないように定期的に様子を見てもらうようアイルさんにお願いしておこう。

それかアネットを派遣するか。

ビアンカと一緒にいると気晴らしになるしそれもアリかもしれない。

死ぬなよ、ビアンカ。

こうして、温泉の掃除を終え色々とホクホクになって屋敷へと戻るのだった。
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