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875.転売屋はスライムを探しにいく

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「それじゃあよろしく頼む。」

「おまかせください。」

「まかせておくし!私が一緒なら問題ないし!」

「あはは、ベッキーちゃんがいるのに何で私も呼ばれたんでしょう。」

やる気十分のベッキーの横で、猫の亜人が体を小さくしてうずくまっている。

その反応が面白かったのか同行していたキキが笑みを浮かべる。

トトリャーナ。

昔悪い奴らにそそのかされ屋敷に侵入したところを捕縛された過去はあるが、今はベッキーやミケと一緒にダンジョン中層の休憩所まで荷物を運搬する仕事に従事している。

身のこなしはすばやく索敵能力に長けているが、戦闘能力は俺と同等。

いや、スリングを使えば俺の方が上なんじゃないだろうか。

そんな彼女が魔物の討伐に呼ばれたらそんな反応もするだろう。

大丈夫だって、ちゃんと役目があるから呼んだんだし。

「気にするなし、トトリも一緒に守ってやるし!」

「ミャウ!」

「まぁミケもキキも一緒だ、大丈夫だって。」

「何で私の名前が無いし!」

「あー、そうだなベッキーも一緒だしな。」

「おまけみたいに言われたし!」

いや、お前に戦えって言ったってガンガンいくタイプじゃないだろうが。

そりゃあ透明化して魔物に気づかれずに近づけるとか、突然実体化して急所を一突きにするとかできるけど、それでも対単体に限る。

複数匹との戦闘になった時に頼りになるのは範囲魔法の使えるキキとミケだろう。

本当はアニエスさんも来る予定だったのだが、マリーさん関係でどうしても手が離せなかったらしい。

他の冒険者にも声をかけたのだが残念ながら実力者は集まらなかった。

まぁ今回行く場所はダンジョン内でもそれほど危なくないので、このメンバーでも問題ないと思うけどな。

今回の狙いはウォータースライム。

綺麗な水辺にごく稀に生息している魔物で、好評だった簡易ベッドに導入したい素材の供給源だ。

スライムとは言うけれど、ビープルニールと同じく巨大な皮を持つくらげみたいな生物。

物理攻撃にも魔法攻撃にも弱いが、穴を開けると元も子もないので倒すのが難しい分冒険者にはあまり好まれていない魔物といえるだろう。

かといって買い取り価格が高いわけでもないって言うね。

もちろん店でも買い取り依頼は出しているので、通常の三倍の値段をつけて冒険者の持込を待っている。

三倍とはいえ元値が安いのでせいぜい銀貨1枚程度。

それでも危険の少ない魔物なので初心者冒険者には狙い目だと思うんだが・・・。

ま、集まらないのなら自分で取りに行くしかない。

「まぁまぁ、早く行かないと魔物が逃げてしまいます。」

「おっと、そうだったな。」

「出てくる時間が決まってるし?」

「ウォータースライムは綺麗な水辺にしか生息しない魔物だ。で、今回向かうのは湧き水の出ている場所なんだが、決まった時間にしか水が出ないからそれを逃すと魔物が出てこないんだよ。」

「なるほどわかったし!」

「索敵はトトリ、罠と警戒はミケとベッキーな、キキは全体を把握してくれ。必要であれば俺も後ろから援護する。」

前衛のいないパーティーなのでできれば魔物との戦闘は避けたいところ。

だからこそトトリを呼んだわけなんだけど。

ダンジョンの上層をいつものように進み、メイン通りの途中で分かれ道を曲がり岩場へと向かう。

岩場を抜け、岸壁にそって進むこと一時間ほど。

予定通り魔物に教われることなく目的のポイントへと到着した。

湧き水の出る場所と思われるくぼみには水の気配は無く、もちろん魔物の姿も見当たらない。

少し早かったようだ。

「とりあえず小休止だな、今湯を沸かすからちょっと待て。」

「あ!今話題のティタムセット!」

「そんな名前で呼ばれてるのか。」

「いいないいなー、湯沸しポットかっこいいですよね。カップも軽くて丈夫だし、でも高いんですよね。」

「トトリだったらすぐ買えるだろ。」

「買えるんですけど~、でもほら甘いお菓子とか気になるじゃないですか。」

つまり道具より団子ってことだな。

トトリの反応を見てベッキーも興味深そうに用意を覗き込んでくる。

こら、道具に顔を突っ込むんじゃない。

怖いだろ。

手際よくポットに水の魔道具で水を注ぎ、コンロに火をつける。

重ねてあったカップをバラして取っ手をつけ、小さな香茶のパックを入れている間にお湯が沸いた。

それにお湯を注ぎ、茶葉が踊っている間に小腹を満たせそうな菓子やら干し肉を取り出せば準備完了だ。

「わ、ちょっとしたお茶会ですね。」

「パックはスプーンで取り出してそこの袋に捨ててくれ。」

「え、持って帰るんですか?」

「畑にまくといい肥料になるんだとさ。」

アグリ曰く茶葉を撒いた土壌を試してみたいんだとか。

そうそう、ミケには肉だよなやっぱり。

かばんの中から紙で包まれた肉の塊を取り出し、ミケの前に置いてやる。

自分の分は無いのかと寂しそうに下がっていたひげがピンと真横を向いたのが面白かった。

キキ曰く水が出るまで30分ほどあるらしい。

お湯を沸かしている間に周辺の確認をしてくれたようだ。

談笑しながらしばし待つと、泉のほうからなにやらゴボゴボと音が聞こえてきた。

「湧き出したか。」

「水がたまればすぐに出てくるはずです、各自準備をお願いします。」

「叩かない切らない、中から核を潰す。わかってるな?」

「言われなくても分かってるし。」

「トトリは周囲の索敵を頼む、水を飲みに来る奴がいるはずだ。見つけたらミケに報告、後は任せとけ。」

「みゃ~う!」

任せろといわんばかりに巨大な尻尾がブンと左右に揺れる。

本来は逃げられないように岩などで囲んでから外部から熱を加えて水分を蒸発させ、中身が減ったところで小さな針などで核を刺すという非常にめんどくさい倒し方をしなければならないウォータースライムなのだが、ベッキーの実体化を使えばそれをしなくていいから非常にありがたい。

とはいえ、すぐに絶命するわけではないのでキキの魔法で逃げられないようにしておく必要がある。

俺?

俺はほら、司令塔だから。

各自持ち場に着き獲物の出現を待つ。

泉に清らかな水がたまり、溢れた水が小川となって岩場の下へと流れていく。

しかし、待てども待てども狙った獲物が出てくる気配は無かった。

「キキ。」

「おかしいですね、普通は水に引き寄せられるように出てくるはずなんですけど。」

「はず、なのか。」

うーむ、さすがに手ぶらで帰るのはちょっとなぁ。

収穫が無いことも当たり前ではあるんだが、ここまで着たからには何か持って帰りたい。

そんな甘いことを考えていたときだった。

「何か来ます。」

「何かってなんだ?」

「わかりません、這うように何かがこっちに向かってきます。」

やってきた通路を見張っていたトトリの緊張した声が俺達の所に届いた。

すぐにミケが通路の奥に消えるも戦うような音は聞こえない。

どういうことだろうか。

「トトリこっちに下がれ。」

「どうしたんだろう、ミケちゃんが来ない。」

「わからん。わからんが死ぬようなことは無い、死んでるしな。」

「あははは・・・。」

いいんだよ、こいつらはそれで。

ずるずるという音はここまで聞こえてくるぐらいに大きくなってきた。

鬼が出るか蛇が出るか。

そしてついに音の招待が通路の置くから姿を現し・・・。

「でっかいし!」

「ウォータースライム、でも大きすぎますよね!」

通路の置くから姿を現したのは巨大なウォータースライム。

高さは優に3mを越え、通路一杯に広がる体はさながら歩く巨大プール。

歩く?這う?

ともかくずるずるとその巨体と質量を引っ張りながらそいつは姿を表した。

聞いていたのとまったく大きさが違う。

せいぜい1m程度って話じゃなかったっけ!

そんな俺達を見つけたからか、そいつはゆっくりとこちらに向かって近づいてくる。

「下がってください!あの大きさは・・・。」

キキの忠告が先か、それとも巨大な水の塊がはじけたのが先か。

後ろから現れたこれまた巨大な何かによってその巨体はバラバラにはじけ、こちらに向かって飛んでくる。

その破片を必死によけていると、通路の奥から『やっちゃった!』みたいな顔をしたミケが姿を現した。

そうか、こいつを吹き飛ばしたのはミケだったか。

本来は傷つけちゃいけないんだけど、さすがにあの巨体を持ち帰るのは不可能だ。

ならば襲われる前に殲滅するのは基本中の基本。

なのでミケの判断は正しかった、はずだ。

「えぇぇぇ!動いてる、動いてるんだけど!」

「トトリこっちに来るし!」

「シロウ様、早くこちらへ!」

巨体は確かにバラバラになった。

にも関わらずバラバラになったそれは地面に落ちた後、その場で起き上がり小さな水の塊に変わった。

まさか、分裂したのか?

いや、これが本来あるべき姿に戻ったが正しいかもしれない。

1mに満たないその水の固まりは全部で10個。

それが最初同様ゆっくりとしたペースでこちらに近づいてくる。

後ろは泉。

前は大量の魔物。

「どうなってるんだ!?」

「おそらく複数匹の固体がくっついて徘徊していたんだとおもいます。巨大であればあるほど他の魔物や我々に襲われる心配がありませんから。」

「そんなのありかよ。」

「どどど、どうするし!?」

「こっちに来ますよ!」

「どうするって・・・。」

そんなの決まってるだろ。

俺達はこれを求めてやってきた。

一匹二匹出てきたら、と思っていたところにこれだけ大量に現れてくれたんだ。

せっかく出てきたのを逃がす手は無いよな。

「キキ、一番近い奴から確保。ベッキー、手はずどおりに行くぞ。」

「え!これ全部やるんですか!」

「無理です!死んじゃいます!」

「死なないっての。ミケはトトリに近づいたのをしっぽではじけ。やさしく、やさしくだからな。」

「みゃう!」

「ってことで、俺はとりあえず逃げまわる。」

どうやら一番近くにいる獲物に向かって近づいてくるようだ。

奴らも魔物、獲物がいたらそりゃ襲ってくるだろう。

幸いにも動きはさほど早くない。

後ろにさえ気をつけて動けば引き寄せることぐらいはできる。

手前の奴を三人と一匹に任せ、残りを俺が逃げ回りながら処理していく。

あれだ、鬼ごっこと同じだ。

どれだけ鬼をひきつけられるか。

処理が済めば近くの奴を引っ張っていき、また逃げる。

相手の動きが早ければ無理だったが、幸いにも徒歩ぐらいの速さなので逃げるのはさほど苦じゃなかった。

もっとも、何とか最後の一匹に止めを刺したときにはさすがに足がガタガタだったけど。

「終わったし!全部倒したし!」

「でかした。あとは皮を回収するだけだが・・・、休憩してからでいいか?」

気づけば泉の水は枯れ、来たときと同じ状態に戻っていた。

ってことは魔物が来る心配は無いということだ。

素材を確保できた喜びよりも今は疲労感の方が強い。

はぁ、素材を集めるのって大変だ。

次からは冒険者に依頼しよう。

買い取り金額を倍にしてでも取りに行ってもらおう。

その場にへたり込みながらそう誓うのだった。
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